事の顛末
私がオーナーだと告げれば、ダリア様は固まってしまった。
「えっと、奥に入らせてもらうわね」
「あ、はい!どうぞどうぞ。あとで今の季節のものを持っていきますね!」
私はされるがままのダリア様の腕を引いて店の奥に入った。ダリア様を椅子に座らせることに成功したところで、ディシーが紅茶とケーキをいくつか持ってきてくれた。
「少し休憩をとってきたのでお話しできるのですが……」
そう言いながらディシーはダリア様へ視線を送る。うん、時間も限られているわけだし、いい加減正気に戻ってもらわないと。
「ダリア様、ダリア様!」
そう数回名前を呼びながら肩を揺らせば、案外簡単にダリア様は正気に戻ってくれた。
「突然、驚かせてしまい申し訳ないです。これから、ゆっくり事の顛末を話そうと思うのですが聞いてくださいますか?」
「え、えぇ。ごめんなさい、見苦しい姿を。それで、リュシエンヌがこの店のオーナーって?」
そう聞かれた私は、ダリア様にケーキと紅茶を勧めながら話し始めた。
「オーナーになったと言ってもつい最近、一年前のことなんです。私が来た当初、この店は酷い有様でした」
「すごく耳が痛いですね」
ディシーはそう言って、顔を顰める。私は本当のことでしょと軽くいなして話を続けた。
「ですが、この店の腕は確かなものでした。きっとダリア様も食べたらわかると思います」
ダリア様は、丁度出されていたケーキを口に運んだ。静かな空間でディシーが息を呑む音が聞こえた。
「えぇ、リュシエンヌの言う通りかなり美味しいわね」
よかった、とディシーはホッとした表情でつぶやいた。
「はい。ディシーのこの味はきっとディシーにしか出せない味です。公爵家の料理人ですらここまでの味は出せません」
「リュシエンヌはそこに目をつけて、この店を?」
「はい。ディシーの腕は他の一流の店とやっていけます。ですので当初少ない額の負債を抱えていたこの店を買取り、ディシーに資金を提供しました」
ダリア様は顎に手を当てて、考え込む姿勢を見せた。これ以上、私が話せることはないのだけれど。勝手にこういったことをしてしまって怒られてしまうだろうか。経営というものがそう簡単ではないのはわかっているけれど、きっとこの店は経営の仕方次第では大きく変われると思ったのだ。それに、ディシーの腕はこのまま埋もれてしまっていいものでもない。そう思えば、体が勝手に動いていたのだ。でも、これは言い訳に過ぎないけれど。どう言われても、この店を投げ出すことはしない。
「リュシエンヌ、店舗経営っていうのは遊びじゃない。それはちゃんとわかっているのよね」
ダリア様は静かに私の方を見る。
「はい。もちろんです。私の経営方針によってディシーや他スタッフの生活が脅かされることは重々承知しております」
「リュシエンヌはもう直ぐ王都に戻るわ。それからの経営はどうするの」
「最初からそのことはディシーにも他のスタッフにも伝えています。そして、既にディシーには私から経営に関してはみっちり叩き込んでいます。本当に重大問題以外は、ディシーが対応できるように教育が済んでいる状態です」
私もダリア様の質問に対し、できる限りの返答をした。ダリア様はまた考え込む様子を見せたかと思えば、パッと顔を明るくした。
「そこまで覚悟が決まっているのなら大丈夫そうね。これからの見通しがしっかりと立っていないようだったら私が引き継ぐつもりだったのだけれど」
さっきの雰囲気とは打って変わったダリア様に、ディシーは驚いて目を見開いている。ダリア様はそんなことお構いなしと言ったような感じでケーキを食べ進める。
「うーん、本当に美味しいわね」




