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いざ、お屋敷見学!

※2020/05/09 本文修正、表記ゆれの修正(なにしろ→何しろ)

 屋敷の見学当日。

 俺は朝早くから北方に渡り、ダアチとミコを連れて交差点に戻っていた。目的地は組合の前、セワとの待ち合わせ場所だ。


「セワ!」


「あ、来た来た」


 俺がセワに声をかけ、手を上げる。それに気づいた彼女は、こちらを向いて手を振り返した。

 俺たちが近づくと、セワは俺の後ろにいるふたりに顔を向ける。


「ああ、あなた達がコトバの使用人ね。私はセワ。訪問者管理組合の相談係、兼同僚よ。よろしく」


「ダアチと申します。よろしくお願いいたします」


「み、ミコです。よろしくお願いしますです」


 セワとダアチとミコ、3人が互いに自己紹介する。

 ダアチはまったく問題ないが、ミコはちょっと緊張しているようだ。そういえば、面接の時も最初はこんな感じだった。

 そんなふたりを、セワはまじまじと見つめて、


「ふーん、男の人はいかにもって感じだけど……。女の子は、変わった子を選んだのね」


 そう感想を述べた。

……いや、実はその「いかにも」って人も変わってるんですよ。とは、さすがに言わない。


 ダアチはいつも通り、魔術で自身を手長族に見せかけている。セワも魔術師ではあるが、とくに違和感はないようだ。

 もちろん、別に『欺き』の魔術は魔術師だから見破ることができる。というわけではない。ただ、魔術を知っていれば、魔術を使っているかも? と疑うことができる可能性がある、というだけだ。

 別にセワだって、会う人全員を疑ってかかるわけではないだろう。気づかないのも当然ではある。


 そんなことを考えていると、


「……コトバって、こういう子が好みなの?」


 何かよくわからないボールが飛んできた。


「いや、そういう選び方してないから……」


「そう? かわいいじゃない。今まで周囲に居なかった感じの子でしょう」


「! か、かわいい、ですか……?」


「ええ」


 ミコの質問にそう答えて、セワは微笑みかける。


……うーん。割と、セワも常識外れではある。


 正直、俺だってミコをはじめて見たときは驚いたし、絶句した。

 だがセワは、ミコに驚きこそすれど、思考を止めたり、本質を見誤ったりすることはないようだ。


 まあ、よくよく考えてみれば、セワは組合で相談窓口の担当をしている。"この世界の非常識"の最前線みたいな場所だ。ある意味、鍛えられているのかもしれない。

 とはいえ、けっして常識が麻痺しているわけではない。訪問者がこの世界に相容れる存在かどうか、判断するのも彼女の役目だ。不思議なバランス感覚だと思う。


 しかし、ミコが周囲に居なかったタイプだ。というのは、個人的に盲点だった。


「言われてみれば、確かに」


 可愛らしい感じ、と言えるのだろうか……。相対的に見ればそうなのかもしれないが。

 身近に居る女性だとセワ、ヒョウ、リン。あと秘書の娘もそうか。セワが知らないところまで広げても、吸血鬼アカナと悪魔のミラ、元人間派の代表であるユウ、あとは東王くらいだ。

 そこにミコを並べると……、まあ、確かに違う気はする。


「旦那様」


 ちょっと考えに入った俺に、ダアチが声をかけてくる。

 そうだった、今日の日程は結構忙しいのだ。こんなところでのんびりしている時間はない。


「おっと。セワ、そろそろ行こう。今日はこれ以外にも回る予定だから」


「そう。じゃあ行きましょうか、ついて来て」


 そう言って、セワは俺たちを先導するため歩きだした。



 今回見て回る物件は、どれも組合から徒歩圏内のものだ。

 もちろん多少は歩くが、馬車を使うほどでもない距離である。ただ、とくに密集しているものを選んだわけではないので、見て回るとなるとそれ相応の距離を歩くことになる。少なくとも、午前中はこれにかかりきりだろう。


「交差点は賑やかと聞いていましたが、ここは比較的、穏やかですね」


「西区はお店というより、施設が多いからかな。後で行く予定だけど、東区はもっと賑やかだよ。あと南もか」


 ダアチの疑問に俺が答える。

 各区は小さな町程度の施設は揃っているが、それぞれに特色がある。西区は行政機関や各国の出張所……、いわゆる大使館のようなものがある場所だ。訪問者管理組合もこの区にある。

 その分、専門的な店などは少ない。食料品や日用品でもなければ、東区や南区まで行った方が品揃えが良いのだ。


 そんな話をしつつ、物件を見て回る。

 ダアチはいろいろと博識で、建築や建物の良し悪しに疎い俺にはありがたい存在だった。


「中庭は、換気と採光のために作られています。もちろん、必須ではありませんし、設備による代替も可能でしょう。ただ、風と陽の光は良いものです」


 とか、


「木造よりも、こういった木骨造の方が耐火に優れます。耐火のみを考えるのであれば、石造りの方がより良いのですが……。今回の目的には噛み合わせが悪い。選択肢には挙がらないのでしょう」


「そうね、どうしても平屋になりがちだし、高いのよね。交差点は木材の取り扱いも多いから、石造りの家は少ないの」


 こんな感じで、セワとも違和感ない会話が可能なようだ。


 かたやミコは、リアクションがとても素直だ。


「お庭があるんですねー。……おおー、空が四角いです」


 と、中庭から空を眺めつつ感想を漏らしたり。


「お台所、広いですね!……魔法で火や水を出すですか? すごいです!」


 と、目を輝かせてはしゃいだり。


 ただ、意外と頭の固いところもある。少し部屋割りの話をしたのだが、


「ミコたちの部屋はひとつでも大丈夫です。使用人はそういうものなのです」


 と、珍しく強い口調で話していた。


 俺個人としては、できることなら、ダアチとミコの部屋は分けたい。ダアチだって気を抜ける場所は必要だろうし、ミコは女の子だ。

 ただ、ふたりがふたりで居たい、というのであれば話は別である。

 ここらへん、俺から聞くのはなかなか難しい。どうしても立場があるから、回答が誘導されてしまう。


 あと、この世界で"個室"という概念が"高級"に属するということもあるのだろう。これも俺にはピンとこない話だ。

 何しろ、こちらの世界で"家族"というコミュニティに属したことがない。"転生"ではなく"転移"だった都合上、そういった常識は身につける機会がなかった。結果、俺の住まいはずっと個室である。

 一番最初にあてがわれた、組合の寮ですら個室だったしな……。まあ、あれこそがまさに高級なのだ。と言われてしまえば、俺も同意せざるを得ないが。



 そうこうしているうちに、すべての候補を見終わった。

 セワが資料を確認しながら話しかけてくる。


「候補は以上だったと思うけど……。どう? 良いところは見つかった?」


「……うん」


 セワの問いにうなずきを返し、ダアチとミコの方を見る。


「2軒目が良いと思うんだけど、どうかな?」


「私は、旦那様の選ばれたところであれば、何の問題もございません。……あくまで個人的な感想ですが、調和の取れた屋敷で、希望も通る、良い選択と存じます」


「2軒目は……、お台所が広いところですね! はい、嬉しいです!」


 ダアチはそう言ってうなずき、ミコは笑顔でそう答えた。

 一応、ふたりの反応をうかがいつつ決めた選択だ。外してはいないという確信はあったが、それでもこう言ってもらえると嬉しい。


「良かった。できたらもう一度見直して、部屋割りとかを考えたいけど……」


 ふたりも問題なさそうだし、これで決まり。……と言いたいところではある。

 だが、良いと思った屋敷だからこそ、具体的なところまで詰めておきたい。やっぱり駄目でした、とは言えない買い物だ。


「そう? 時間がないんでしょ? 見取り図ならあるけど、ここで考えてみる?」


 そう言って、セワは手持ちの資料から一枚を取り出し、俺に差し出した。2件目の屋敷の見取り図だ。


「そっか、それでいけるかも。とりあえずやってみよう」


 俺はそれを受け取り、ダアチとミコに見えるようにしながら、具体的な部屋割りを考えていく。


 1階に居間兼食堂となる広間に調理場、使用人部屋を2つと、倉庫代わりの部屋を置く。

 使用人部屋は、やはり2つにしておいた。これは単純に用意の問題だ。あとあと問題が起きたとき、2つを1つにするのは比較的楽だが、1つを2つに増やすのは難しい。


 2階は、主に俺のスペースとした。

 部屋が余るので、寝室と書斎は分ける。できることなら、使わない部屋は極力少ない方が良い。

 それでもまだ余るので、いっそ使用人部屋を2階に上げて、1階に書斎と倉庫を2つにしようか。と聞いてみたのだが……。それは断られてしまった。


「我々は早くから働きはじめますので、あまり部屋が近いのは好ましくないかと」


「はい。ご主人さまとミコたちが同じ階に部屋は、ありえないです」


「そ、そっか。わかった」


 ふたりにそう言われてしまっては、もう引き下がるしかない。


 まあそれでも、俺の希望はほぼすべて通っている。

 建物自体もそうだが、広い庭もあるし、ふたりが体を動かすにも悪くはないはずだ。


「じゃあ、これで良いのね?」


 セワの最終確認に、俺はうなずいた。


「うん、手続きはどうなるの?」


「そうね。鍵を返すときに、持ち主に連絡を取ってみる。さすがに今日中とは行かないけど……。数日中にはできると思う」


「わかった。お願いします」


「ええ、任せて」


 セワにお願いして、今日の第一目標は完了した。

 契約後には支払いと引っ越しが待っている。あと、防犯の布陣をする魔術師が派遣されてくるんだっけ……。やることをまとめないと忘れてしまいそうだ。


 ここでセワとはお別れだ。俺たちは第二目標のため、乗合馬車の停車場へ向かった。



 東区行きの乗合馬車を降りる。

 大通りで広いとはいえ、人は多く、混み合っている。俺たちは端に寄り、少し人が散るのを待つ。


「さすがに、乗合馬車では少々視線を感じましたね」


「ああ、うん」


 ダアチの感想に、俺もうなずく。

 やっぱりミコの見た目は、交差点でも珍しい。どうしても他人の目というのは集まってしまうものだ。

 問題は、それを本人がどう思っているかなのだが……。


「でも、襲いかかられないだけ良かったです。みんな優しいです」


 かたや、ミコの感想はちょっと物騒すぎる。

……いや、もしかしたら半獣族としては当たり前なのだろうか。


「いや、優しくなかったよ。さっきの視線は」


「そうなのですか?」


「うん。他の種族は、半獣族で言う『威嚇』をしないし、半獣族に面と向かって喧嘩を売る人は滅多に居ないと思う」


「そうなのですか……」


 視線をやるだけで威嚇に発展しなかったり、そもそも殴り合いの喧嘩にならないというのは、けっして優しいからではない。不要な争いを避けたいからだ。

 ミコはこういう性格だが、それは言葉を交わしたことのない相手にはわからない。


「ああ、でも大丈夫。会う人に挨拶して、普通に触れ合っていれば。多分、お互いすぐに慣れるよ」


 ちょっと不安そうなミコに、俺は苦笑してそう言った。

……まあ、その普通というやつが存外、難しいものなのだが。



 昼食を済ませ、本屋通りへと向かう。


 今日の第二目標は、本屋通りの店への顔見せだ。

 ここは家から通うと距離があるし、こんな機会でもないと、ふたりとも連れ立って行くことはしないだろう。初対面のときくらいは、双方の顔見知りである俺が居た方が良い。


「いくつかまわる予定だけど……。多分、一番最初の店が一番とっつきにくいと思う」


「そうなんですか?」


「見た目はね。……っと、ここだよ」


 そう話しているうちに、目的の店に到着した。

 通りからは少し外れ、奥まったところにある、そのうえ民家のような建物だ。窓はカーテンが張り付いたようになっており、中はまったく伺えない。

 ただ扉の脇にぶら下がる看板だけが、ここを本屋だと認識できる要素だ。


「こんにちはー」


 扉を開けると共に、戸当たりに吊るされた鐘の音が響く。それを追いかけるように声をかけた。

 相変わらず暗い室内だ。陽の光が差さないのもそのはずで、本棚を置きすぎて窓が潰れているのである。

 その暗がりから、手に明かりを提げた老人が現れた。


「なんだ、お主か。こんな日に珍しいな。あー、あれ。頼まれてた本はまだ来んぞ」


 眼鏡をずり下げ、こちらを確認すると、そう言って首をかしげる。俺は笑って、


「ええ、覚えてますとも。今日は顔見せでして」


「顔見せ? 後ろの奴らか?」


 俺はうなずき、振り向いて、ふたりに前へ出るよう促した。

 並ぶふたりを手のひらで示しながら、


「使用人を雇うことになったんです」


「ほぉ。……また妙なのを選んだな」


「俺やあなたほどじゃないでしょう」


 軽口に対し、即座にそう返すと、彼はニヤリと口の端を歪める。


「言いよるわ」


 そう言って、くつくつと喉を鳴らした。とっさではあったが、俺の返答はご満足いただけたらしい。

 こっそり目配せすると、まずはダアチが口を開く。


「ダアチと申します。よろしくお願いいたします」


「み、ミコです。よろしくおねがいしますです」


 ふたりの自己紹介を受け、「ん」とうなずいた老人は、


「かしこまる必要はないさ。見てのとおり、しがない書店のヌシさね」


 彼はそう言って、しばらくふたりを見ていた。が、やがて鼻を鳴らして、


「まあ、歓迎しよう。お前さんらの主人とは、良い取引をさせてもらっておるでな」


「そう言ってもらえると助かります」


 目を向けられた俺は笑って答える。

 正直、ホッとしたのは確かだ。


 先の乗合馬車の件もあって、あまり立て続けに拒絶されるような経験はさせたくなかった。実際、"妙なの"という言葉に、ふたりは反応していた。

 俺が過敏になっているせいもあるだろう。普通は気づかない、微々たる違和感。


 軽口を挟んだのも、そのまま話が進んでしまうと、あまり良い結果にはならないなと思ってのことだ。

……自己評価では、こういう役割は向いていないのだが、頼れるものがないのだから仕方がない。


 とはいえ、この場に関しては打算もあった。彼も商売人だ。

 仮にふたりが厄介者ならば、排除される可能性はあっただろう。だが、彼女の見た目だけで既存の利益を手放すことはなかった。


 そしてそれは、後に巡るすべての本屋でそうだった。



 その後、再び西区に戻り、組合に顔を出す。

 セワには紹介し終わっていたので、ソラを探したのだが、今日は外出していた。仕方がないので秘書にだけ紹介をしておく。


 その後は、ふたりを北方に送り届けて、今日のお出かけはおしまいだ。


「お疲れ様、ふたりとも。いろいろ言ってもらえて助かったよ」


「旦那様のお役に立てましたら、それ以上のことはありません」


「お引越し、楽しみですね! ご主人さま!」


 ダアチもミコも、俺の言葉に笑顔で答えてくれた。

 今日一日で、だいぶふたりと話すのも慣れてきた気がする。旦那様やご主人さま、と呼ばれるのはいまだにくすぐったいが、それもそのうち慣れるのだろう。


「じゃあ、次は引っ越しの日程が決まったら連絡する」


「承知いたしました。お待ちしております」


「はい!」


# 本屋通り


 四方国の交差点における通りのひとつ。

 東区に存在する小さな通りで、書店が密集しているためそう呼ばれる。


 元々は上客であった図書館と、その設立者に近い場所に店を構えたもの。

 取り扱われているのは主に写本だが、それでも一点物が多く、実用品というよりは嗜好品に近い扱いを受けている。

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