表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/49

合同訓練

 食事を挟んで、午後。俺は訓練場で、ダアチたちの戦いの様子を見ることにした。面接のときにヒョウが言っていた、北の戦士団との合同訓練だ。

 ヒョウはあいにく、別の用事があると言って先に帰っている。カセも勤務中だ。というわけで、


「よう、コトバ。久しぶりだな」


「お久し振りです、イットウさん」


 偶然、今日の教官の代表だったイットウに許可を取り、見学させてもらう。

 組織のトップが、こんなところの訓練を見ている、というのも不思議なものだが……。ひとりでもないし、毎回でもないようだ。そういうこともあるのかもしれない。


「旦那様、どうなされたので……?」


 俺に気づいたのか、ダアチとミコが近づいてくる。

……まあ、疑問にも思うだろう。さっきいったん別れたばかりの主人が、いきなりこんなところに現れたのだ。あんまり気にされても困るし、さらっと話しておこう。


「さっき、合同訓練の予定が入っているって聞いたから。ふたりがどんな戦い方をするのか見ておきたくて」


「なるほど……、承知いたしました」


「おおー! ちゃんと見ていてくださいね!」


 予想に反して、ふたりとも、俺が見ているということで張り切ってくれているようだ。

 どちらかと言うと、いつも通りの姿を見たかったのだが……。まあ、これはこれで良いか。早くも慕われているようで少し嬉しい。


 ミコはわかりやすいが、ダアチもあれで感情豊かなんだな、と思う。表情はあまり変わらないのだが、声に心が現れやすい感じがする。

 もちろん、それは俺の異能があってこその感覚だとは思うが。


「おっと、俺も行く。まあ、ゆっくり見ていけ」


 イットウも俺から離れ、皆の前に出る。訓練がはじまるようだ。


 まずはじまったのは準備運動だった。体を伸ばしたり、関節を入念にほぐしたり……。元の世界におけるストレッチにも似ている。

 北方戦士団は、北の氷雪の国の戦士たち、いわゆる軍人だ。その訓練も激しいものだろうな、と思っていたので、ちょっと驚いた。

 寒い地域だし、ウォームアップの重要性が認知されているのかもしれない。体を温めないと動きづらいし、怪我もする。


 次は行軍だ。本物の装備を身に着け、歩きと走りを繰り返す。

 練習用とは言え、鎧兜に武器と盾を持っての行軍だ。準備中に装備を置いているところを見たが、結構えげつない音がしていた。多分、俺は持てないだろうな……。

 体力づくりも兼ねているのだろうが、フォームの指導も入っている。別に背筋を伸ばせ、とかそういうたぐいのものではなく、体の使い方の話だ。疲れにくく、体を傷めないような動かし方の話である。


 そしてようやく、各々の武器を使っての訓練がはじまる。

 全体的に見ると、剣一本、または剣と盾を使う者が多いようだ。あとは長い棒を取る人が数名……、これは槍の代わりだろう。二刀流はともかく、武器を持たないのはミコくらいのものだ。


 ふたりで組み、打ち込み、受け流すことを繰り返す。

 どうやら型の稽古らしい動きだ。流派とかあったりするのだろうか……。とはいえ、さすがに一種の流派ということはないだろう。扱う武器種が多すぎる。

 もしかしたら、流派の型というほど厳密なものではないのかもしれない。北方戦士団で基本的な動きをまとめたもの、とか。そう考えると、割とシンプルな動きなのも納得がいく。


「どうだい、感想は」


 手が空いたらしいイットウが近づいてくる。


「失礼かもしれないですけど……、結構、合理的なんですね。びっくりしました」


 俺がそう感想を述べると、イットウは豪快に笑って、


「なんの、お前さんが不合理と思いそうなところも残しておるよ。結局のところ、体は追い詰めんと伸びん。今日の訓練は運用の色が濃いが、体を鍛えるとなればそういうことも要る」


「なるほど」


 その口ぶりからして、それを含めてもなお合理的だと思うが……。こういうのは経験則なのだろうか。若干、元の世界の現代的な匂いを感じる。もしかしたら、異界の術が一部入っているのかもしれない。

 とはいえ、今回はそちらの見学ではない。あくまでダアチとミコの戦闘力を見たいのだ。


「そういえば、大会とか開くって聞いたんですけど……。今日はやらないんですか?」


「ん? 何だ、お前さんそれが目当てか?」


「あ、はい。実は、さっきのふたりを購入することになりまして……」


 ここに来た理由と、その顛末をイットウに話す。すると、


「なるほどな。実戦に近いものを見たいと。……まあちょっと待て。大会はやらんが、簡単な試合ならば後でやる。それを見ていけ」



 イットウの話の通り、型の稽古のあとは試合を行うことになった。

 二人一組、一対一の試合で、組み合わせも教官側で決めているようだ。対戦相手が発表されると盛り上がったり、うなだれたりとなかなかに賑やかである。

 すべての組み合わせが伝えられた後、各々が木製の武器を持ち、厚めの革の上着を着込む。プロテクター代わりなのだろう。


「旦那様」


「ご主人さまー!」


 ダアチとミコがこちらに来た。ふたりとも汗ばみ、呼吸がやや大きいが、疲れた様子ではない。

 こっちに来て大丈夫なのか? と辺りを見回したが、問題はないようだ。試合をする者以外は、皆、観戦モードである。座っている者こそ居ないものの、やや娯楽色が強い。

 安心して、ふたりに声をかける。


「ダアチとミコは誰と戦うの?」


「私は戦士団の剣使いですね。新兵というほどではないですが、比較的新しい方のようです」


「ミコは新兵さんと戦うです。剣と盾を持ってたです」


 俺の問いに、ふたりはそう答えた。

 ダアチはともかくとして、ミコは剣士と格闘で戦うのか?


「……あ、武器種とかで分けられてないんだ」


「はい! ミコは大体、剣を使う人と当たるです。数が違うので……、仕方がないです」


 俺は結構驚いていたが、ミコにとっては特別なことではないらしい。

 元の世界だと、剣と薙刀では三倍の技量が必要。とか聞いたことがある。拳と剣でもそれくらいの差はあるのではないだろうか。

 要はリーチの差と、ゲーム的にいえば"当たり判定の強さ"だ。拳より剣の方が長く、遠くに届く。それに双方が打ち合えば、拳は切れるが剣を振るう側は無傷。剣が一方的に打ち勝つのだ。


 そんなことを話している間に、試合ははじまっていた。

 実力の拮抗した、白熱する試合が多い。もちろん、一方的な試合もあるにはあるが、実力が同等の者を組ませているのだろう。

 そう考えると、教官側もきちんと個々の技量を測っているということだ。戦士団の方はともかく、紹介所の方もしっかり把握しているとなると、割と力を入れている訓練なのかもしれない。


「次、セトラとダアチ! 前へ!」


「では、行ってまいります」


 ダアチは俺の方を向き、はっきりとそう言って出て行った。


「ダアチ、張り切ってるです」


「……あ、ミコにはわかるんだ」


「はい」


 ミコは笑ってうなずく。

 彼女の言う通り、ダアチの言葉には気合が入っていた。表情や声色はいつもの通りだったが、それでも気づくとは。やはり、それなりに付き合いは長いのだろう。


 ダアチの相手は剣一本で戦う戦士のようだ。木製の剣を両手で持ち、正面に構える。剣道で言うと正眼の構え、というやつだ。

 ダアチは、同じ木製の剣を両手に一本ずつ持つ。左手の剣を正面に向け、右手の剣は自然に下げた形だ。体をやや斜に構え、左半身を前に出している。


「はじめ!」


 教官の声で試合がはじまる。彼がこの試合の審判だ。

 だが、開始の合図を聞いても、ふたりとも動かない。ダアチは微動だにしないし、相手も少し踏み込んでは、間合いを離すことを繰り返している。


「……ふたりとも、動かないな」


「剣を正面に向けるのは、対応の構えです。今はふたりとも様子見の時です」


「なるほど」


 ミコが隣で解説してくれた。正直、こういう知識はあまりないので助かる。


 そんな中、先に動いたのは相手の方だった。

 前と同じように少し踏み込んだ後、そのまま加速して上段に構えた。剣を振り下ろし、ダアチの左肩を狙う。

 さすがに脳天を狙うことはないのだろう。頭には防具をつけていないし、踏み込みがやや甘いように見える。


 それにダアチは、左手の剣を上げることで応えた。


……受けるのだろうか? それはちょっと無謀に思える。

 仮にダアチの利き手が左であっても、相手は両手持ちだ。しかも上と下ならば、荷重のかけ方で上が有利である。どう考えてもその受けは成立しない。


 しかし、ダアチはその剣を受け止めなかった。

 上段からの剣に合わせたそれを、外に払うよう、僅かに横の力をかける。剣に剣を添わせて、くるりと円を描くような剣閃に、相手の剣は絡め取られるように左へ流れていく。

 その間に、ダアチは自身の体を右側に滑り込ませた。左足を軸に、右足を前に出し、そのままの勢いで右手の剣で切り上げたのだ。

 相手も必死にそれへ対応する。腕を引き戻しながら、振り下ろした剣の勢いを殺す。そうして体を反らしながら後ずさった。左脇腹を狙ったダアチの剣が空を切る。


 だが、そこまでだった。

 相手の剣を受け流した後に引いていた、ダアチの左手の剣。相手が後ずさったスペースに左足で踏み込むと、それで相手の脇腹に鋭い突きを叩き込む。

 訓練用の木製剣で、厚手の革をまとっているとはいえ、不自然な体勢で突きを食らえばひとたまりもない。相手は剣を取り落し、倒れて腹を抱えた。


「ダアチの勝利!」


 審判が宣言すると、ダアチは両手の剣を下げ、一礼した。

 うずくまった相手は、術衣を着た人たちが運んでいくのが見えた。おそらく法術師だろう。さすがにこういった訓練をするのであれば、備えはしてあるということか。

 左手に木剣をひとまとめに持ったダアチが戻ってくる。


「おかえり、ダアチ」


「少々、もたついてしまいました。普段の戦いをお見せすることを意識したのですが、それが叶わず……。面目次第もございません」


 声をかけた俺に、ダアチはそう言って頭を垂れる。驚くことに、声は至って真面目である。

 ええ……、あれでもたついたと言うのか。最初の様子見がなかったら一瞬だったし、打ち合いの部分だけなら十秒もなかったと思うのだが。


「いや、十分だと思うけど……。何か、普段と違うの?」


「はい。私が普段、左手に持つのは『三叉剣』ですので、それに合った戦い方をしております」


「三叉剣……?」


 はじめて聞く名だ。三叉槍ならよく聞くが……。モリのような三叉の槍で、元の世界では海の神様が持っていることで有名だ。


「刀身と鍔が三叉になった突き用の剣です。相手の武器を絡め取ることを目的としています」


「なるほど」


 話を聞く限り、十手みたいなものだろうか。あとで見せてもらおう。

 それを聞いて納得したこともある。若干、左手を傷つけそうになっていたのはそのためか。剣を剣で受けながら、受け止めず流していたときだ。三叉剣とやらを使っているのなら、あそこは鍔で止まるのだろう。そしてその状態で手首を捻れば、相手の武器が折れるか、落ちるというわけだ。


「次、ミコとトーカ! 前へ!」


「あっ、呼ばれた。行ってきます!」


 そう言って、ミコはこちらに向かって手を振りながら駆けて行った。


 ミコの相手は、右手に剣を、左手に小さな盾を持った戦士だった。小さいとはいえ、人の顔くらいなら隠れてしまうくらいのサイズだ。盾をミコに突き出すように構え、剣は肩に担ぐように構えている。


「あの担ぐようなのも構えなの?」


「はい。剣の重みを逃がす構えですね。素早く縦横に振るうことができますし、柄での殴打も可能です」


 相手の構えを見て、何の気なしに聞いてみたが、ダアチは細かく解説してくれた。そう言われてみると、見慣れない構え方だが理由はあるのだと思える。

 かたやミコの方は、斜に構え、左半身を前に出しているがそれだけだ。手は開き、肘を軽く曲げ、腰のあたりで留めている。

 格闘の構えというと拳を上げるイメージがあるが、ミコの構えはそれとはまったく違う。……そもそも彼女は半獣族だ。元の世界の知識では判断がつかない。


「はじめ!」


 掛け声とともに、ミコが左右にステップを踏む。相手が身構え、盾を構え直した。

 その瞬間、快音が3つ鳴ると、


「ミコの勝利!」


 盾と剣を弾き飛ばされ、仰向けに転倒した相手が居た。


 ミコは勝利の宣言を聞いて、嬉しそうにぎゅっと手を握ったあと、ハッとしたように相手に一礼する。そしてそのまま、勢いよくこちらに戻ってきた。


「どうですか? ご主人さま!」


「あ、ああ。今の、何?」


 何かものすごいスピードで、試合が終わっていた。


「猫の突きなのです。本当は鼻を打ち抜くか、顎を狙って頭を揺らすのです。ただ、試合なので急所は駄目です。武器を落とすのです」


 なるほど、かなりえげつない。というか、ニコニコと笑顔でそれを解説するのはちょっと怖い。


 まず、ミコは相手が盾を構え直したのを見ると、一瞬の死角に右足で踏み込んだ。そしてそのまま、右の手のひらで相手の盾を打ち上げたのだ。思わぬ方向からの力で対処しきれなかったのだろう。盾は手から離れ、すっ飛んでいった。

 だが相手もそれに気づくと、反撃を試みた。剣の持ち手、柄の先端を叩きつけようとしたのだ。おそらくは、あの構えで最速の攻撃。盾を持つ腕を伸ばしていた分、リーチの利もまだ相手にある。

 しかしミコは、そこからさらに左足で踏み込み、左の手のひらで相手の右手首を打ち据えた。手首を叩かれ保持できなくなった剣は、手からすっぽ抜けて後ろへ転がった。

 この時点で、相手は左手を叩き上げられ、右手を打ち抜かれ、完全に無防備になっている。その相手の胴に、最後に右の掌底が叩き込まれた。為すすべもなくそれを食らった相手は、あえなく仰向けに転倒した。


 そして、あの勝利シーンに繋がるというわけである。


「そ、そっか。すごかったよ……。ミコは手のひらを使うんだね」


 見ていて思ったが、掌底というのは半獣族のミコにはとても合理的だ。

 拳を握り込めば、ミコの武器である爪が扱えない。逆に、抜き手は爪を有効に使えるかもしれないが、練習試合にはそぐわない。怪我をしやすく、させやすいように思える。

 その点、掌底は突き、打ち上げ、薙ぎの他、振り下ろす動作もある。そしてそのすべてで、実戦においては猫の爪が有効活用できるのだ。


 ミコの戦闘の鮮やかさに感心していると、彼女が驚いて、


「ご主人さま、ミコの掌底が見えるですか?」


「え、うん。ちょっとだけど」


 俺たちのやり取りを聞いて、ダアチも何かに気づいたようだ。


「……旦那様は、戦士のような能力をお持ちですか? ぶしつけですが、そのようには見えませんでしたので」


 ダアチの聞きたいことは、多分、異能を含めてのことだろう。俺が訪問者であることは、ふたりには話してある。


「いや、全然。武器どころか、魔法も駄目だよ。戦闘能力がないから、護衛をお願いしてるくらいだ」


「左様でしたか。申し訳ございません」


「あ、いや、大丈夫だけど……。何で?」


「はい。ミコの突きは半獣のものです。初見で完全に見切ることは、まず不可能な速さですので……」


「あ……、なるほど」


 そういえば、半獣族は速さに秀でた種族だった。ミコの相手も対応しきれていなかったように見えたのは、つまりは彼女の速さに体がついて行かなかったからだ。

 しかし、だとしたらなぜ、俺がそんな速度の戦いを解説できるのか……。


「……目が、良くなったのかな? 戦術を学んで意識するようになったから、かもしれない」


 それくらいしか思い当たる節がない。

 思えば戦術を学び始めてから、練習とはいえ実戦を見たのははじめてだ。もしかしたら、俺にもちょっとは戦場のテンポが……、拍が見えてきたのかもしれない。そうであれば嬉しいが。


「戦術……、西で盛んな集団戦の術ですね。なるほど、"言"の方の術師であらせられるのであれば、そのようなこともあるやもしれません」


 そして、ダアチは戦術を知っていた。さらっと言っているが、戦士であっても戦術に疎い人は多い。

 そもそも集団戦の知見なので、冒険者や一介の戦士が知っていてもあまり得はない。単語自体は知っていてもおかしくはないが、「"言"の方」という言及の仕方からして、それなりに学んでいそうな雰囲気がある。

 もし何か知っているなら、教えてもらおう。……さすがにこの場では難しいから、また今度だが。


 その後も何度か試合が組まれたが、ふたりは危なげなく勝利した。

 価格はべらぼうに高かったが、このふたりは掘り出し物なのかもしれない。


# 三叉剣


湾曲した鈎状の鍔と刀身を三叉に見立てた剣。


棒状の刀身に刃はつけられておらず、代わりに先端が鋭くなっている。

その特徴的な鍔と刀身を使い、相手の武器を絡め落とすことを目的とする。

防御の用途が主ではあるが、突き用の剣として攻撃にも使われる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ