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パーティー編成と準備

※2019/11/12 本文修正、表記ゆれの修正(シャレにならない→洒落にならない)

 俺は1人、転移門の前で待ちぼうけていた。ヘキトが手配するという、遺跡の探索要員を待っているのだ。

 布陣が刻まれた石畳の上に、縦長い、楕円の何かが宙に浮いている。この何か、が転移門だ。その中は、ずっとゆらゆらとゆらめいている。真っ黒だが、まるで水面のようである。向こうには何も見えないが、のぞいていると、何とも不思議な感覚になる。

 ぼーっと転移門を見ている俺は、見張りの兵士たちからはどんなふうに見えているのだろうか……。


「やあ、おまたせした」


「……ヘキトさん?」


 声をかけられ、振り向いたところに居たのはへキトだった。驚く俺に、


「どうかしたのか?」


「あ、いえ、わざわざ見送りに? 要員はどちらで……、す?」


 そこまで言って、すごくすごく嫌な予感がした。

……いや、この人、さっき持ってなかった杖持ってる。

 それに明らかに旅支度をしている……!


「私だ」


 彼は、そう、告げた。

 やっぱり。


「コトバ殿、今『ああ、師弟だな』と思っただろう?」


「あ、今ので確信しました」


 やはり、そういうのは似るのだろうか?

 ヘキトには朴訥なイメージがあったのだが、今のであっさり覆ってしまった。


「……いや、それよりも大丈夫なんですか? ここ。かなり上の人が少なくなるんじゃ……」


 ヒョウは交差点に待機するというが、北方を立つのは明日だ。俺たちとは別行動である。

 彼女にだって、三傑のお供が付くのだ。一時的に、北方の頭脳がとても少なくなるのでは……?


「あのあと、きちんと北王には話を通した。留守はリンが務める。無論、他の配下も無能ではない。何も問題はない」


 問題ないそうだ。……まあ、問題ないと言うなら問題ないのだろう。俺が心配してどうこうなるお話でもない。


「それより、君は私の実力の方を心配するべきだ。君の身を守る術なのだぞ?」


「いや、そっちは疑ってないです。ヒョウが三傑に据えた人だ。すごくないはずがない」


 ヘキトの疑問に即答する。


 セワが言うには、先代北王の頃から続けて三傑を務める人物である。

 ヒョウの師匠であり、前任者ではある。だがだからといって、あのヒョウがそのまま据え置き、なんて人事をやるはずがない。

 使えるものは骨の髄まで使い尽くすやつだ。逆に、使えない、ということにも敏感なはずである。


 だから俺の遺跡派遣も、最初は渋っていたのだ。俺が身を守る術を持たないことは、ヒョウもよく知っている。

 現に、北方には必ず、兵士か他の組合職員と共に来るよう厳命されているほどである。


 ん……? そうなると、ここにヘキトを仕向けたのも、実はヒョウの差し金なのでは?

 まあ、それならそれで良いのかもしれない。


「素晴らしい回答だ。私も君の北王への信頼を汚さぬよう、全力を尽くそう」


 はじめて薄く笑ったヘキトは、そう言って強くうなずいた。



 俺とヘキトは、いったん組合に戻った。

 明日の朝に出発予定なので、ソラと打ち合わせをしておかなければならないからだ。


「よう、コトバ。話は聞いたぜ」


「ソラ」


 受付前で、ソラは待っていてくれた。どうやら、すでに話は通っているようだ。


「遺跡探索は久しぶりだけど、まあ任せてくれよ。探索者としての腕は、まだまだ錆びちゃいないつもりだ」


「うん、頼りにしてる」


 そこまで話すと、ソラは俺の後ろの人物に顔を向けて、


「で、あんたが北から派遣されてきた人か。俺はソラ。よろしくな」


「ああ。魔術師のヘキトだ。よろしく頼む」


 その挨拶に、ヘキトが返答する。

 ソラはヘキトの返答を聞き、じっくりと頭の中で精査したのだろう。唐突に俺の方を向き、


「おい、コトバ」


「何?」


「マジか」


「マジだよ」


「……マジかー……」


 そう言ったまま、頭を抱えてしまった。彼はしばらくそうしていたが、


「まあいっか……」


 おっ、考えることを放棄したな。……そりゃそうだ。さすがに北方から人が来るよ、と言われて、氷の三傑が来るとは誰も思わないだろう。

 俺もヒョウと会っていなかったら、ここまで耐性はできていない。


「気を取り直して……。俺は今のうちに、雑貨の買い出しに出るよ。2人はどうする?」


 気を取り直したソラが、俺たちに提案する。

 俺は……、クロガネを探して、話をしておかないといけないな。断られる可能性もある。明日朝に尋ねるのはまずい。

 まあ、今日の明日、というのもなかなかだが。


「俺は冒険者組合に行こうかなと思ってる。クロガネに打診しないと。駄目でも戦士1人は確保しなきゃ」


「であれば私もそちらへ行こう。クロガネがどの程度か、見極めねばな。給金の話もある」


「わかった。予定では日帰りできるんだったよな?」


「うむ」


 ソラの質問に、ヘキトが簡潔にうなずく。


「よし、雑貨は4人の1日分で揃えておく。何か特別な装備は要るか?」


「私は不要だ」


「俺は……。ねえ、これで良いと思う?」


 俺はそう言って、外出用に着ていた術衣の裾を広げる。襟が高く、丈の長い、ゆったりとしたオーバーコートのようなものだ。魔法使いのローブ、と言えば通りが良いだろう。


「まあ……、良いんじゃないか? 丈夫だし。お前、鎧着込んでもバテるだろ。……ああ、短刀くらいは持っておいたほうが良いな。俺のお下がりで良ければやるよ。後で渡す」


「ありがとう」


 相変わらず、ソラは面倒見が良い。遠足の準備する母親みたいだな……。

 とりあえず、俺とヘキトはソラと別れ、冒険者組合へ向かう。



 はじめての冒険者組合は、想像とは少し違った。

 イメージとしては荒くれ者の巣窟、という感じだったのだが、居るのは意外と普通の若者たちだ。中にはおっさんも居るし、もちろん女性も居る。ただまあ、皆ガタイは良い。


 受付の男性に声をかけた。


「クロガネ? お前さんら、クロガネを探しているのか?」


「はい。仕事を依頼したくて」


「ほう、あいつに指名とは珍しいな。まあ、しばらくしたら戻ってくるだろうよ。少しそこらで待ってな」


 そう言われたので、かたわらの椅子に座ってしばし待つ。

 暇だな……。本持ってくれば良かったかも。……いや、駄目か。こんなところで本を読むのは、札束数えるのと同じようなものだ。


「お、来たな。おいクロガネ! お前さんに指名だ!」


「は? 俺に指名って……」


 しばらく待つと、見慣れた顔が現れた。クロガネだ。俺を認識したのだろう。こっちに向かってくる。


「ニィさんじゃねぇか。こっちで会うのははじめてだな。何やってんだ、こんなとこで」


「良かった、会えて。クロガネに仕事を依頼したいんだ。多分、それなりの儲け話だと思う」


 儲け話、という単語に、すっと目が細くなる。かたわらの椅子を引っ掴み、それに腰を下ろした。


「ほう……、詳しく聞かせてもらおうか」


 そう告げるクロガネに、概要を伝える。日程や依頼内容など。ただし、遺跡の詳細は依頼を受けてくれると決まってからだ。

 とくに、班を組むことはぼかさず伝えた。その時、少し眉が寄ったが、一瞬だ。


「……そうか。班を組むのか……」


「やっぱり、駄目?」


「いやぁ……、駄目ってワケじゃねぇが……。まあいい。ニィさんの頼みだし、わざわざ儲け話を持ってきてくれたんだ。受けるぜ、この仕事」


「良かった……」


「と、コトバ、待ってくれ。すまないが確認をしたい」


 そこに割り込んできたのはヘキトだ。……そう言えば、どれくらいの力量かを確かめないといけないんだった。多分、大丈夫だとは思うのだが。


「あ、ごめんなさい。忘れてました」


「ん、誰だい、アンタ」


 クロガネは、いきなり出てきたへキトに怪訝な目を向ける。当然だ。面識がないのだから。

 ここは、俺が2人を取り持たなければならない。


「クロガネ、この人はヘキトさん。今回の班の長……、みたいな人かな?」


「へぇー、なるほどねぇ。で、何だい大将」


 どうやら、クロガネからヘキトの呼び名は大将になったらしい。一瞬、戸惑った様子のヘキトだったが、気を取り直すと、


「君がどの程度使えるのかを知っておきたい」


「ほう」


「いや、さすがにやりあうわけではない。質問にいくつか答えてくれ」


 そこではじめて、今回向かう遺跡の情報を伝える。クロガネはその遺跡を知っていたようで、


「ああ、この遺跡か。俺も行ったことはあるぜ。探索終わって罠や宝もなくなってよ。ちょっと前までは、定期的に獣が住み着いてたんだ。たまーに魔獣化までしてな。その度、駆除依頼が出てた。そいつを何度か受けたんだ」


「狩ったのか?」


「ん、おう。駆除の仕事だからな。死体も売れるから潤うぜ」


 ヘキトの質問に、ニヤリと笑って答えるクロガネ。

 今も班は組んでいないようだし、それも1人で受けて、1人で狩ったのだろうか。


「……それも1人でやったの?」


「ああ。あそこで出る魔獣はそこまで強くねぇ。魔獣となりゃ、滅多に外にも出てこないしな。よほど獣の群れのほうが大変だ」


「群れというと、狼か?」


「ああ。群れるやつはな。あとはたまに熊とか、猪とかか」


 ちょっと待ってほしい。狼の群れも大概だが、さすがに熊や猪は1人で狩るものではないだろう。仮に、猟銃を持っていても洒落にならない。

 しかもコイツ、その死体を持ち帰ってきてるんだよな? 売るために。

 ヘキトの顔をちらりとうかがったが、多分、彼も同じ感想だったと思う。


「それも1人で? 罠でも使ったのか?」


「いや、やつらは鼻が利く。罠の臭いを知ってやがるんだ。臭いを消せばいけるんだろうけどな。それに俺にゃそんな技術はねぇ。だから剣で狩った」


 最後の結論だけが、すっ飛んでおかしいんだよな……。

 俺はもう唖然としていた。


「……にわかには信じがたいが、嘘をついているふうでもない。見たところ、確かに体は鍛えられているようだ。良いだろう、こちらからもお願いしたい」


 ヘキトがうなずく。どうやら、彼のお眼鏡に適ったようだ。

 そこからは、ヘキトとクロガネで給金の話だ。……まあ、そこそこの額だが、命を張るには安い。とはいえ、これでも相場らしい。


「わかった、明日早朝、北門だな」


 待ち合わせの場所と時間を決めて、クロガネと別れた。

 外に出ると、日が落ち始めている。俺はそのまま自宅へ、ヘキトは宿を取るとのことで、いったんお別れだ。

 クロガネ以外の3人は、北門へ行く前に組合で待ち合わせをした。ソラが用意した荷物を運ぶ必要がある。



 帰宅したら、俺自信の荷物を整理して、身支度をしてすぐに眠らないと。明日は早い。

 自分で言い出しておいて何だが、緊張する。


「何かあったら、良かったのにな……」


 帰りの乗合馬車で、思わず口に出してしまった。……俺の手持ちは少なすぎる。やっぱり、翻訳の異能だけでは心もとない。

 異能でなくとも良かった。剣や槍が使えれば。魔法が行使できれば。それでなくとも、何かしらの戦える……。いや、身を守る手段があれば。

 でも、それはない。なら、


 できることを、やらなければ。

# 術衣


胴装備

主に魔法を行使する者たちが羽織る衣。

高い襟で口を、ゆったりとした袖と裾で手と足を隠す。

詠唱や結印、布陣を隠す効果があり、術発覚率が下がる。


一般的な術師は手足を隠し、口を覆う。

詠唱、結印、布陣。これらの要素を敵対者から隠すためだ。

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