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氷の三傑

※2019/11/11 本文修正、単語の誤り(長耳→耳長)

※2020/04/23 本文修正、表記ゆれの修正(たぶん→多分)

 北の氷雪の国。その名の通り、一年の大半を雪と、氷で覆われた国だ。北方とも呼ばれ、ヒョウの……、北王の治める国である。

 とはいえ、街の中は比較的暖かい。なにやら地熱を魔術で利用して、寒さを抑えているとかなんとか……。この街自体が、とても大きな布陣なのだそうだ。魔術大国らしい備えである。


 この街に来るのは、実ははじめてではない。布陣の研究のために所属した、北方魔術研究室へ挨拶に行ったり、ヒョウへの定期報告に顔を出したりと、何度か行き来している。

 そんな頻繁な行き来を可能とするのが、手紙に書かれていた『転移門』だ。いわゆるワープゲートや、猫型ロボットの扉のようなものである。

 定点間の瞬間移動を可能にする魔法の設備で、こちらも伝言と同じく遺失魔法だ。未稼働の破損品すら、厳重な管理下に置かれている。



 王城の一室で、俺は席についていた。同席しているのはヒョウと、男女3名。

 まずはヒョウが口を開く。


「さて、話をはじめる前に……。コトバの前に三傑が全員揃うのははじめてだな? 互いに紹介をしてもらおうか」


 そう、彼らが氷の三傑。ヒョウ直属の配下にして、彼女がもっとも信頼する者たちだ。


「じゃあ、俺からだな。氷の三傑の1人、"力の"イットウだ。よろしくな」


 まだ若い小樽族の男、イットウがそう名乗った。傍らには、俺の体よりも大きな剣が立てかけられている。……いや、アレ普段から持ち歩いてるのか? おかしいだろ。

 まあ、それは置いておいて。その顔には見覚えがある。確か、交差点でヒョウのお供をしていた人だ。

 力の、というのは役職名か何かだろうか。小樽族は小柄だが力に優れると聞くし、何より剣がアレだ。すごい戦士なのだろう。


「私はヘキト。"守りの"ヘキトと呼ばれることもある。魔術を生業にしている。お見知り置きを」


 2人目、耳長族の男性はヘキトと名乗った。淡々と喋る人だ。耳長族は長命だし、年齢は見た目ではわからない。が、若くは見える。

 そう言えば、セワが前に言っていた。三傑の魔術師はヒョウの魔術の師匠だと。それだけでもう、なんか……、すごいな。ヒョウにものを教える、というのが想像できない。

 しかし守りの、というのは不思議だ。耳長族は比較的華奢だし、魔術師だから誰かをかばったりするわけでもあるまい。他人を守る魔術を身につけているのだろうか。


「私は"心の"リン。一応、初対面じゃないけど……、お話するのははじめてかな。法術とか、薬草とか……、そういうのに詳しいわ。よろしくね」


 三傑の中で唯一の女性は、リン、という名前だ。……とはいえ凛、って感じじゃないな。もっと柔らかい感じがする。

 初対面じゃない、と言われた通り、リンもヒョウのお供として会っている。ヒョウが俺に敬語をやめるよう求めた時、後ろで吹き出した人だ。

 心の、というのは……、多分ポジション的に医療関係者なのだろう。法術は治療系もあるし、薬草も恐らく病気を治すとか、そういう用途だ。


「コトバです。訪問者管理組合に所属している他、翻訳のお仕事も請け負っています」


 こちらも自己紹介する。なんか、俺も肩書きが欲しいな。一言で自己紹介できるようなやつ。

……いや、言うとまた変なことになる気がする。止めておこう。


「よし、では話をはじめよう。ヘキト師、仔細を頼む」


「はっ」


 ヒョウから声をかけられたヘキトが、皆を見回し口を開く。


「今回の件、発端は我が配下の研究員が、コトバ殿へ書類を送付したことに始まります」


 そう言って、ヘキトは1枚の羊皮紙を掲げた。


「この書類に記載されている遺跡は、大規模である割に、確認できた内容が少なすぎる。そう話に上がっておりました。そこで、さまざまな研究者の目をお借りしたい、といくつか送付したのですが……」


 掲げていた資料をおろし、ヘキトは俺の方へ顔を向ける。


「その結果、何かがコトバ殿の目に留まった、と。……コトバ殿、こちらでよろしいか?」


 そう言ってヘキトが差し出したのは、絵画の写しだった。まさに、俺が文字を見出したものである。


「はい、それです。資料では絵画、とされていたのですが、文字に見えました。既存の言語だと魔族語に近いようです。ただ、記述に欠けている部分が多くて。欠損があるのか、写した際に省略したのか、それとも方言なのか……。理由はわかりません」


「魔族語……? すごい、はじめて見たわ。そんなものまで読めるの?」


「あ、はい、少しですけど」


 リンが少し驚いたように割り込んできた。

 セワと訓練を行った時に見た言語は、今ではすべて、ある程度読み書き会話ができるようにはなった。……一部体質的に厳しいものもあるが。

 ヘキトは咳払いをして、


「よろしいか? この絵画は、実際には彫刻壁画を写したものであることが確認できました。ただ、欠損の有無については記録がありません。そして、安置されているのは遺跡の最奥です」


 そう続けた。……つまり、現状完全な状態を見るためには、現地に行くしかないということだ。


「ふむ……。さて、どうするか……」


「ヒョウが悩むなんて珍しい。見に行けば良いんじゃない? 何か問題があるとか?」


 ヒョウが考え込んでいるのが意外だったので、思わず、間髪入れずに口を挟んでしまった。

 それを聞いた途端、イットウが吹き出す。そして、豪快に笑い出した。


「こりゃ、ヒョウが笑うはずだわ。頭が同類だな」


「イットウ。失礼だぞ」


「そうよ。私たちが普段、北王にどれだけ振り回されてると思ってるの? それを同類だなんて」


 イットウの一言に、ヘキト、リンと続く。俺は思わず苦笑した。

 そうだぞ。俺とヒョウが同類にされるのは……、ちょっとアレだ。いろいろ困る。

 さすがに口には出せないが、心で思うくらいならバチは当たるまい。


「君らな……、私を何だと思っているんだ」


「それはもう、大事な大事な王様ですよ。体のために、少しお仕事をこちらに回してくださいね」


 苦笑するヒョウに、リンが言い聞かせるように反論した。この娘、煽りおる。

 ヒョウは「はいはい」と気のない返事を返すと、


「ヘキト師。確認するが、遺跡の危険度は?」


「低、ですね。獣が巣にしていたようですが、前回探索時に掃討済みです。周囲に不穏なものもありません、街もほど近いですから。ただ……」


「ただ?」


「領地としては交差点に近い。『中立地帯』ではありますが、大規模な派兵は難しいでしょう。前回も、遺跡を探索する冒険者を装って調査しています」


「なるほど」


 中立地帯、というのは、いわゆる空き地だ。この世界は、すべてがどこかの国の領土、という状態になるまで開拓が進んでいない。

 RPGのフィールドマップみたいな感じだ。街や村が点在し、それぞれが所属する国を決めている。無論、保護を受ける国だ。近いものを選ぶのが普通である。


 目的の遺跡は交差点が近い。なら、北方として兵をワラワラ出して探索するわけにもいかない、ということだ。

 それははたから見れば、とても不穏だ。たとえ戦争をする気がなくても、勘違いされれば起きる可能性はあるのだ。


 そのまま黙り込んだヒョウをよそに、イットウがこちらに声をかける。


「コトバ、お前さん、戦いは?」


「一般人より弱い自信があります」


 真顔で即答する。イットウは一瞬びっくりしたようだが、ニヤリと笑って、


「そうかい。現実が見えとる分、まだマシか。……どうするね? ヒョウ。こっちからは出せんぞ。今は兵の交代時期だ。移動中のが多すぎる」


 その言葉に答えたのは、ヒョウではなくへキトだ。


「そもそも派兵はしない、という話です。うちから出しましょう。……とはいえ急な話、こちらも人手不足です。『戦士』と『探索者』は欲しいですね。最悪、冒険者を現地調達しますが」


 戦士と探索者は、冒険者の種類だ。剣や槍などの武器で戦うのが戦士。罠や宝の調査、斥候などを行うのが探索者である。

 現地調達、というのは、恐らく冒険者組合で雇うのだろう。交差点だろうか?


「戦士と探索者……、交差点で雇うんですか?」


「ああ、冒険者を装うには有効だ。やりすぎると情報が漏れるが」


 俺の疑問に、ヘキトが答える。

 なるほど。北方の兵ではなく、あくまで冒険者としらを切るなら、使える手ではある。

 それには、口が固く、指示に忠実で、腕の立つ冒険者が必要。というわけだ。


「……クロガネっていう戦士をご存知ですか?」


「いや……、知り合いか?」


「セワの報告にあったな、クロガネ……。交差点の冒険者組合で、銀板の戦士の名だ。剣を持っていたらしいな。出会ってすぐ、やたら君に執着していたようだが」


 ヘキトの疑問に答えたのはヒョウだ。

……そんなことまで報告してるのか、セワ。

……そしてそんなところまで読み込んでいるのか、ヒョウ。

 二重に恐ろしいな、この国。


「まあ、今はたまーに御飯食べるくらいだよ、ヒョウ。確かまだ、交差点で仕事を探してるはずだ。受けてくれるかはわからないけど」


 クロガネは班を組まない、とは言っていた。だが、儲け話を待ってる、とも言っていた。

 あの男だ。社交辞令はない。条件さえ合えば、可能性はある。


「……信用に足る、と?」


「ああ。悪い人じゃない。約束も守るし、腕も、多分相当立つ」


 数秒で成人男性2人を制圧するのは、相当な腕前だと思う。

 それに、そのことも報告には入っているはずだ。だからヒョウは、先にクロガネの実力ではなく、信用の方を聞いたのだろう。


「ふむ……、戦士はそれで良いかもしれんな。空振ったり、不相応と思うなら別のを雇えば良い。……探索者はソラを使うか。コトバとも親しい。初の探索なら、その方が気も楽だろう」


「ソラであれば問題ないでしょう。何度か、こちらから力を借りたこともあります」


 ヒョウとヘキトがうなずきあう。

 意外なところからソラの名前が出てきた。仕事の方は大丈夫なのだろうか。昼食のときは暇そうだったが。

 というか、ソラが探索者だったのをはじめて知ったぞ。


「で、問題はだ。私をどうするか、ということだが」


 そんな俺を置き去りに、話は先に進んでいく。

 しかし不思議な方向に話が進んでいる。ヒョウをどうするか、とはどういうことだろうか。


「さすがに『魔獣』は出ないと思うのですが……。念のため、北王は交差点に逗留ということに」


「まあ、妥当かな。少々慎重が過ぎるきらいはあるが、それに越したことはない」


 なぜか、ヒョウが交差点でとどまることになったらしい。魔獣を警戒しているようだ。


 魔獣、といえば、魔力で凶暴化した化け物だ。西の天魔の国でポンポン湧く、というアレである。

 正確には、過剰に魔力を吸いすぎた生き物全般を指すらしい。なので種族ではなく、ある種、病気の一種だ。全体として獣が多いが、人もなりうる。

 魔力を吸いすぎると魔力酔いになるが、あれはある種のストッパーだ。そう聞くと恐ろしい話だが、同時に俺には縁遠い。俺は、魔獣化するほど魔力を吸えないし、とどめておけない。


 それはともかく、どうして魔獣が出ると、ヒョウが必要になるのだろうか。


「魔獣が出ると、ヒョウが必要なのか?」


「ああ。弱いものなら良いのだがね。強い魔獣の討伐、となると、北王の力が必要なのさ」


 俺の疑問に、ヒョウはいつもの微笑をたたえ、そう答えた。

 北王の力。まだそんなものまであるのか。素のスペックに血統まであるのだ。漫画やゲームの主人公みたいだな……。


「では、探索班はこれより移動。準備を整え、交差点にて一泊し、翌朝出発。北王は明日、交差点まで移動。探索班の帰還まで待機とします。よろしいですね?」


「問題ない」


 ヘキトの問いに、ヒョウが答える。他の2人も問題なさそうだ。


「では、これにて。コトバ殿、転移門の前で合流するよう手はずを整える。よろしく頼む」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 立ち上がってそう言ったへキトに返答する。


「じゃあ、死ぬなよ。コトバ」


 いつの間にか大剣を背負って立っていたイットウは、俺にそれだけ言うと、出口に向かった。


「縁起でもないなぁ、もう。……はじめてだし、緊張すると思うけど。気をつけて、コトバ」


「ありがとうございます、リンさん。イットウさんも!」


 俺を気づかうリンにお礼を言うとともに、イットウの背中にも声をかける。彼は振り向かず、手だけ振って退室した。

# 魔族・魔物


 強く魔力の影響を受けた種族たち。複数の種族の総称。

 悪魔・吸血鬼・妖精・鬼・魔獣・竜の6種からなる。ただし、魔獣の発生は事件や事故であり、竜は絶滅したといわれているため、厳密に種族として数えるならば4種である。

 通常は魔力酔いや魔力中毒を発症するような、多量の魔力を有している。それにより長命で、強大な力を持つ。また自尊心が強く、欲深い。

 しかし人間と違い混血ができず、現状、少数民族化している。半ば絶滅しつつある種や、偶発的に発生する種もあるため、勢力として確立し辛いという難点もある。

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