# 第九話 巨大な影
振動が近付いてくる。
速い。
重い。
今まで感じたことのない規模だった。
俺は咄嗟に岩陰へ滑り込む。
身体を薄く広げる。
動かない。
ただ待つ。
地面が震える。
一歩。
また一歩。
近付いてくる。
(なんだ……?)
洞窟甲虫ではない。
洞窟蜥蜴でもない。
もっと大きい。
もっと重い。
やがて。
暗闇の向こうに影が現れた。
最初は岩だと思った。
それほど大きかった。
だが違う。
動いている。
脚がある。
四本。
太い脚。
硬そうな外殻。
そして。
頭部から伸びる巨大な角。
(でかい……)
洞窟甲虫の何倍あるのか分からない。
少なくとも。
今まで見た生き物の中では最大だった。
巨体はゆっくりと進む。
そのたびに地面が揺れる。
だが不思議だった。
動きは遅い。
洞窟蜥蜴のような素早さはない。
ただ圧倒的な質量がある。
その時。
頭の奥に違和感が走った。
今まで感じたことのない強い反応。
そして。
情報が浮かぶ。
洞窟大角甲虫
解析不能
俺は動きを止めた。
(解析……不能?)
初めて見る言葉だった。
洞窟甲虫では進行度が見えた。
発光茸では何も起きなかった。
だが。
目の前の生き物には違う反応が出た。
解析不能。
つまり。
今の俺では理解できないということなのか。
考えている間にも。
洞窟大角甲虫は近付いてくる。
幸い。
こちらには気付いていない。
発光茸の群生地へ向かっているらしい。
やがて巨体が目の前を通過する。
近い。
あまりにも近い。
角だけで俺の身体より大きい。
もし踏まれたら。
間違いなく終わる。
俺は息を潜める。
じっと耐える。
長い時間だった。
実際には数分もなかったかもしれない。
だが永遠のように感じた。
やがて。
振動が遠ざかっていく。
洞窟大角甲虫は去った。
俺はようやく身体の力を抜く。
生きている。
見つからなかった。
それだけで十分だった。
その時。
地面に何かが落ちていることに気付く。
洞窟大角甲虫が通った場所。
そこに。
拳ほどもある外殻の欠片が落ちていた。
欠けた破片。
脱皮の名残か。
戦った傷跡か。
理由は分からない。
だが。
俺の視線は自然とその欠片へ向いていた。
今まで見たどの外殻よりも硬そうだった。
そして。
頭の奥が僅かにざわつく。
まるで。
近付けと囁くように。




