# 第七話 狩る理由
二つ。
振動が伝わってくる。
洞窟甲虫だ。
しかも二匹。
俺は岩陰に身を隠した。
空腹はある。
だが飛び出すほどではない。
前回の失敗で学んだ。
焦ると失敗する。
待つ方がいい。
しばらくして甲虫たちが姿を現した。
一匹は大きい。
もう一匹は少し小さい。
どちらも発光茸を探しているらしい。
触角を揺らしながら進んでいる。
(どうする)
一匹なら勝てる。
おそらく。
だが二匹同時は危険だ。
俺は観察を続ける。
すると甲虫たちは別々の方向へ動き始めた。
発光茸を見つけたのだろう。
距離が離れる。
さらに離れる。
やがて一匹が完全に孤立した。
(今だ)
俺は動く。
岩陰から這い出る。
ゆっくり。
慎重に。
甲虫は気付かない。
発光茸に夢中だった。
俺は近付く。
あと少し。
届く距離。
そして身体を広げた。
一気に覆い被さる。
甲虫が暴れた。
脚を動かす。
触角を振る。
だが前より落ち着いていた。
慌てない。
逃がさない。
身体を押し付ける。
包み込む。
甲虫の動きが徐々に弱くなる。
そして。
止まった。
(勝った)
前回より早かった。
俺は甲虫を取り込む。
ゆっくりと。
確実に。
空腹が薄れていく。
身体が満たされる。
頭の奥にあの感覚が生まれた。
触角。
外殻。
脚。
何度も取り込んだからだろうか。
以前より鮮明だった。
特に触角。
その構造が少しだけ理解できる気がする。
感覚が消える。
俺は試しに身体を変形させた。
細く。
長く。
すると今までより自然な突起が生まれる。
長さも増していた。
そして。
ほんの僅かだが。
周囲の振動が分かりやすくなった。
(……お?)
俺は動きを止める。
気のせいではない。
地面を伝う振動。
遠くの動き。
以前より捉えやすい。
本当に少しだけだが。
変化している。
俺は何度か突起を動かした。
その時。
もう一匹の洞窟甲虫が近付いていることに気付く。
前より早く察知できた。
だが。
問題はそこではない。
俺はふと違和感を覚える。
空腹が消えていない。
甲虫を一匹取り込んだ。
それなのに。
まだ足りない。
前なら満たされていたはずだ。
(なんでだ……?)
少し考える。
そして答えに辿り着く。
身体が大きくなっている。
前より食べる量が必要になったのだ。
成長している。
その証拠だった。
喜ぶべきか。
困るべきか。
判断はつかない。
だが一つだけ分かる。
今まで以上に食べなければならない。
生き残るために。
成長するために。
俺は近付いてくる二匹目の洞窟甲虫へ意識を向けた。
空腹は。
まだ終わっていなかった。




