# 第六話 鱗
洞窟蜥蜴の姿はもう見えない。
振動も感じない。
それでも俺は慎重に進んだ。
相手は洞窟甲虫とは違う。
一瞬で獲物を仕留める力がある。
もし近くにいたら。
俺などひとたまりもない。
ゆっくりと。
少しずつ。
鱗へ近付く。
やがて目の前まで辿り着いた。
思ったより大きい。
俺の身体の一部ほどの大きさがある。
灰色。
硬そうな表面。
傷も付いていない。
俺はそっと触れた。
冷たい。
そして硬い。
洞窟甲虫の外殻とはまた違う感触だった。
少し迷う。
だが結局取り込むことにした。
知るためには。
試すしかない。
俺は身体を広げる。
鱗を包み込む。
ゆっくりと。
少しずつ。
時間をかけて取り込んでいく。
硬い。
今まで取り込んだ物の中で一番硬かった。
だが吸収できないわけではない。
やがて鱗は完全に俺の中へ沈んだ。
その瞬間。
頭の奥に違和感が生まれる。
今までとは少し違う。
外殻。
防御。
硬質化。
断片的な情報が流れ込む。
だが少ない。
洞窟甲虫を取り込んだ時ほど多くない。
鱗一枚しかないのだから当然かもしれない。
しばらくして感覚は消えた。
残るのはぼんやりとした印象だけ。
俺は試しに身体の一部を変形させる。
細く伸ばす。
それは今まで通りできた。
さらに。
今度は硬さを意識してみる。
洞窟蜥蜴の鱗を思い浮かべながら。
強く。
硬く。
そんなイメージを持つ。
すると。
身体の表面に違和感が生まれた。
一部だけ。
ほんの少しだけ。
動きが鈍くなる。
まるで固くなったような感覚。
(できた……?)
確信はない。
だが何かが変わった。
俺は近くの岩へ身体をぶつけてみる。
こつ。
衝撃はあった。
だが。
いつもより潰れ方が小さい気がした。
気のせいかもしれない。
それでも。
今までとは違う。
洞窟甲虫の触角らしきもの。
そして洞窟蜥蜴の鱗らしきもの。
少しずつだが。
俺は取り込んだ生物の特徴を真似できるようになっている。
その事実に気付いた時だった。
空腹が襲ってきた。
今までで一番強い空腹だった。
身体の一部が削れていくような感覚。
変形を繰り返したせいか。
それとも鱗の吸収に力を使ったのか。
理由は分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
食べなければならない。
俺は周囲へ意識を向けた。
発光茸では足りない。
そんな予感がしていた。
もっと栄養のあるもの。
もっと価値のあるもの。
生き物だ。
そう考えた瞬間。
遠くで小さな振動が伝わった。
一つ。
そしてもう一つ。
洞窟甲虫だ。
しかも二匹。
俺はゆっくりと身体を動かした。
空腹を満たすために。
そして。
少しでも生き残る力を得るために。




