# 第三話 初めての狩り
洞窟甲虫は発光茸を齧り続けていた。
まだ俺には気付いていない。
触角を揺らしながら。
夢中で食べている。
(どうする……)
逃げるなら今だ。
だが。
身体は動かなかった。
目の前に食料がある。
そして。
あの不思議な感覚を得る機会でもある。
俺はゆっくりと身体を広げた。
音は出ない。
振動も最小限。
少しずつ。
少しずつ距離を詰める。
洞窟甲虫は気付かない。
発光茸を食べ続けている。
あと少し。
あと少しで届く。
その時だった。
甲虫の触角が動く。
ぴくりと。
俺は反射的に止まった。
気付かれたか。
そう思った。
だが違う。
甲虫は再び茸を食べ始める。
(危なかった……)
俺はさらに近付く。
そして。
身体の一部を伸ばした。
細く。
長く。
今できる限界まで。
触角の真似をした突起。
それを甲虫の脚へ絡ませる。
当然、本物の触角のような性能はない。
ただ細く伸ばしただけだ。
だが。
甲虫の動きが止まった。
突然脚に何かが絡みついたのだ。
驚いたのだろう。
その隙だった。
俺は身体全体を押し出した。
甲虫へ覆い被さる。
甲虫が暴れた。
脚が動く。
触角が振られる。
だが離さない。
前回と違う。
今度は俺から掴んでいる。
暴れる。
押し込む。
暴れる。
押し込む。
何度も繰り返す。
やがて甲虫の頭部が身体の中へ沈んだ。
脚の動きが弱くなる。
さらに沈める。
動きが鈍る。
そして。
完全に止まった。
俺はしばらく動かなかった。
本当に終わったのか確認するためだ。
数分。
いやもっとかもしれない。
だが甲虫は動かない。
(勝った……)
前回は偶然だった。
襲われて。
たまたま生き残った。
だが今回は違う。
自分で考え。
自分で行動し。
そして勝った。
それが少しだけ嬉しかった。
甲虫の身体が少しずつ崩れていく。
溶けるように。
俺の中へ吸収されていく。
空腹が満たされる。
身体が満ちていく。
そして。
頭の奥にあの感覚が生まれた。
触角。
脚。
外殻。
構造。
断片的な情報が流れ込む。
以前より鮮明だった。
俺はじっとそれを受け入れる。
理解できるわけではない。
だが。
何かが積み重なっている気がした。
しばらくして感覚は消えた。
残ったのは僅かな余韻だけ。
俺は試しに身体の一部を変形させる。
細く。
長く。
すると。
今までより自然に伸びた。
維持できる時間も長い。
(やっぱり……)
関係がある。
そう確信した。
同じ生物を取り込むほど。
何かが変わる。
まだ仕組みは分からない。
だが確かに変化している。
その時。
地面に微かな振動が伝わった。
ぴたりと動きを止める。
遠い。
だが何かいる。
一つではない。
複数。
俺はすぐに発光茸の陰へ身を隠した。
振動は徐々に近付いてくる。
そして。
暗闇の向こうに小さな影が現れた。
洞窟甲虫。
一匹ではない。
二匹。
三匹。
四匹。
群れだった。
俺は思わず身を縮める。
一匹なら勝てるかもしれない。
だが四匹は無理だ。
今の俺では。
まだ。




