# 第二十話 水底の影
(今、なんか出たよな?)
気のせいじゃない。
確かに。
俺の身体から水が出た。
少しだけ。
本当に少しだけ。
俺は慌ててもう一度試してみる。
身体の一部を水面から出す。
そして意識する。
すると。
ぽたり。
透明な水滴が落ちた。
(おぉ?)
もう一度。
ぽたり。
やっぱり出る。
しかも。
なんとなく分かる。
これ。
地底湖の水だ。
(え、いつ入った?)
俺は考える。
さっきからずっと水の中にいた。
もしかして。
身体の中へ自然に取り込んでいたのか?
試しに水面へ身体を沈める。
すると。
不思議な感覚。
身体の奥に少しずつ何かが満ちていく。
お腹がいっぱいになる感じとは違う。
もっと軽い。
水そのものが身体に染み込んでくるような。
(うわ、本当に入ってる)
何だこれ。
便利じゃないか。
いや。
便利なのか?
自分でもよく分からない。
その時だった。
さっきの小魚たちが戻ってきた。
五匹。
いや。
六匹か。
俺の周りをくるくる泳ぐ。
どうやら警戒心が薄いらしい。
一匹減ったことには気付いているのかいないのか。
なんだか呑気な連中だった。
(お前ら、大丈夫か?)
その中の一匹がまた身体をつつく。
こつ。
こつ。
いや。
音は聞こえないけど。
そんな感じ。
俺は少し悪戯心が湧いた。
身体の一部から。
さっき吸収した水を少しだけ出してみる。
すると。
ふわりと水流が生まれた。
小魚たちが一斉に逃げる。
(おっ)
逃げた。
面白い。
しばらくして。
また戻ってくる。
そしてつつく。
俺はまた水を出す。
逃げる。
戻ってくる。
逃げる。
(お前ら遊んでるのか?)
なんだか妙に和む。
地底湖に来てから初めてかもしれない。
危険を忘れていたのは。
その時。
一匹の小魚が俺の身体へ突っ込んできた。
(あっ)
するり。
沈む。
小魚。
硬直。
俺。
硬直。
数秒後。
小魚は動かなくなった。
(いやいやいや!)
(また事故!?)
さすがに二回目だ。
偶然ではない。
こいつら。
警戒心がなさすぎる。
いや。
俺が危険すぎるのか。
洞窟遊魚
解析進行度:6%
水棲適応
解析進行度:5%
数字が増える。
そして。
頭の奥にまた新しい感覚が流れ込む。
泳ぐ。
群れる。
水流を読む。
流れに逆らわない。
そんな感覚。
さらに。
身体の中の水が。
さっきより増えていることに気付く。
(……もしかして)
(俺、水を貯められるのか?)
その時。
触角のような突起が微かな反応を捉えた。
遠く。
地底湖の中央ではない。
もっと近く。
浅瀬の岩陰。
そこに。
小魚たちとは比べものにならない大きな反応があった。
しかも。
動いている。
ゆっくり。
こちらへ。
近付いてきていた。
(……なんだ?)
俺は遊んでいた気分を吹き飛ばし、ゆっくりと岩陰へ身を隠した。
そして。
暗い水の中から。
長い二本の触角が姿を現した。




