# 第十五話 水辺の狩人
地底湖で見つけた鱗を取り込んでから。
俺はしばらく湖畔で過ごしていた。
理由は単純だ。
食べ物が多い。
発光茸も豊富だし、生き物の気配も多い。
今までいた場所より明らかに環境がいい。
もちろん。
その分だけ危険も多そうだけど。
(まあ、今さらか)
洞窟蜥蜴。
白いムカデ。
洞窟大角甲虫。
既に十分危険な目には遭っている。
今さら一匹増えたところで驚かない。
たぶん。
その時だった。
水面が揺れた。
俺は反射的に意識を向ける。
また魚だろうか。
しかし違った。
水際だった。
浅瀬。
岩陰から何かが現れる。
四本脚。
細長い身体。
だが洞窟蜥蜴ではない。
もっと小さい。
そして。
妙に丸っこかった。
(なんだあれ)
その生き物は慎重に湖畔へ近付く。
警戒しているらしい。
何度も立ち止まる。
周囲を確認する。
やがて水辺へ辿り着くと、水を飲み始めた。
俺はじっと観察する。
小さい。
洞窟甲虫より少し大きい程度。
洞窟蜥蜴ほどの脅威には見えなかった。
その時。
頭の奥に違和感が走る。
だが情報は浮かばない。
名前も分からない。
解析不能でもない。
何も出ない。
(まだ知らない生き物ってことか)
少し残念だった。
最近は何か出ることに慣れてしまっている。
そのまま観察を続ける。
生き物は水を飲み終える。
そして振り返った。
その瞬間。
地底湖が爆ぜた。
水柱が上がる。
何かが飛び出した。
速い。
俺が理解するより先だった。
銀色の影。
魚だ。
巨大な魚が水中から飛び出した。
丸っこい生き物へ噛み付く。
獲物が悲鳴を上げた――気がした。
もちろん俺には聞こえない。
だがそんな風に見えた。
魚はそのまま獲物を咥え、水中へ引きずり込む。
水飛沫。
波紋。
そして静寂。
全てが一瞬だった。
俺は固まる。
(えぇ……)
思わずそう思った。
魚だと思っていた。
泳いでいるだけの生き物だと。
違った。
狩る側だった。
しかもかなり強い。
しばらくして波紋も消える。
まるで何もなかったように。
地底湖は静かだった。
(怖すぎるだろ)
水辺は安全だと思っていた。
違う。
この世界に安全な場所なんてない。
洞窟でも。
陸でも。
水の中でも。
みんな何かを食べて生きている。
そして。
食べられる側にもなる。
その時。
俺はあることに気付いた。
さっき獲物がいた場所。
そこに何か落ちている。
小さな毛の塊だった。
魚に襲われた時に抜けたらしい。
俺は近付く。
少しだけ迷う。
そして。
苦笑するような気分になった。
(また落とし物かよ)
本当に運がいいのか悪いのか。
分からない。
でも。
今の俺には貴重な情報源だった。
俺は毛の塊へ身体を伸ばした。




