# 第十四話 地底湖
思わず足を止めた。
いや。
足なんてないんだけど。
そんなことを考えてしまうくらいには驚いていた。
広い。
とにかく広かった。
細い通路を抜けた先には巨大な空間が広がっていた。
天井は見えない。
壁も遠い。
そして中央には。
大量の水。
地底湖だった。
静かな水面が発光茸の光を反射している。
ぼんやりと青白い。
今まで見てきた洞窟とは別世界だった。
(すげぇ……)
転生してから初めて。
純粋に景色へ見入った。
もちろん目はない。
それでもそう感じるほどだった。
しばらく地底湖を眺める。
水は豊富そうだ。
発光茸も多い。
生き物もいるらしい。
遠くから微かな振動が伝わってくる。
洞窟甲虫ではない。
何か別の生き物だ。
俺は慎重に湖畔を進む。
今までより警戒していた。
さっき死にかけたばかりだ。
知らない生き物を見つけても飛び付く気はない。
たぶん。
できれば。
その時だった。
水面が揺れた。
小さい。
だが確かに。
俺は動きを止める。
しばらく待つ。
再び。
波紋が広がる。
何かいる。
水の中だ。
(魚……?)
異世界だけど。
魚くらいいるだろう。
そう思った瞬間。
水面から何かが飛び出した。
細長い影。
銀色の身体。
すぐに水中へ戻る。
ほんの一瞬だった。
だが見えた。
生き物だ。
しかも。
結構大きい。
洞窟甲虫より大きいかもしれない。
(食べたらうまそうだな)
考える。
そして。
すぐに首を振る。
いや。
首ないけど。
とにかく振った気分になった。
無理だ。
水の中へ入る方法も分からない。
そもそも捕まえられない。
今の俺には関係ない話だった。
そのまま湖畔を進む。
すると。
岩陰に何かが落ちていることに気付く。
近付く。
細長い。
銀色。
鱗だ。
さっきの生き物のものだろう。
脱落したらしい。
俺は少し考えた。
そして。
笑うような気分になった。
(最近こういうの多いな)
本体は無理。
でも落とし物は手に入る。
洞窟蜥蜴の鱗。
洞窟大角甲虫の欠片。
そして今度は魚らしき生き物の鱗。
運がいいのか悪いのか。
自分でも分からない。
俺はその鱗へ身体を伸ばした。
ゆっくり取り込む。
すると。
今までとは少し違う感覚が頭の奥へ流れ込んできた。
流れる。
進む。
水を掻く。
身体を預ける。
そんな感覚だった。
洞窟甲虫のような構造ではない。
洞窟蜥蜴の鱗のような硬さでもない。
全く別の何か。
しばらくして感覚は消える。
だが。
その余韻だけは残った。
俺は試しに地底湖の水へ身体の先端を伸ばした。
冷たい。
そして不思議だった。
今までより少しだけ。
水の流れが分かる気がした。
もちろん確信はない。
気のせいかもしれない。
でも。
今まで感じなかったものだった。
その時。
頭の奥に情報が浮かぶ。
水棲適応
解析進行度:1%
(また増えた……)
洞窟甲虫。
硬質外殻。
そして水棲適応。
少しずつ。
本当に少しずつだが。
俺の中に何かが積み重なっている。
何になるのかは分からない。
でも。
無意味ではない気がした。
俺は静かな地底湖を見つめる。
ここにはまだ知らない生き物がいる。
知らない環境がある。
そして。
知らない力も眠っているのかもしれない。
そう考えると。
少しだけ胸が高鳴った。
スライムに胸なんてないけど。
それでも。
初めてこの洞窟の探索が楽しいと思えた。




