# 第十三話 襲撃
白い影が飛び出した。
速い。
洞窟甲虫より速い。
洞窟蜥蜴ほどではない。
だが十分すぎるほど速かった。
(やばっ――!)
俺は反射的に身体を横へ滑らせる。
直後。
さっきまでいた場所を何かが通り過ぎた。
岩にぶつかる。
その振動が伝わる。
俺は距離を取った。
白い影が振り返る。
やはりさっき見た生き物だった。
白い巨大ムカデ。
全身が節に覆われている。
長い。
思った以上に長い。
洞窟甲虫の数倍はある。
(戻ってきたのかよ……)
落ちた脚を回収しに来たのか。
それとも最初から気付いていたのか。
分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
こいつは俺を獲物として見ている。
白いムカデが動く。
一気に距離を詰めてくる。
速い。
俺は逃げる。
全力で。
洞窟の地面を滑るように進む。
後ろから振動が迫る。
近い。
近すぎる。
(まずいまずいまずい!)
頭の中がそれで埋まる。
今までの敵とは違う。
洞窟甲虫は勝てた。
洞窟蜥蜴は隠れればよかった。
でもこいつは違う。
見つかった状態から始まっている。
逃げ切れなければ終わりだ。
白いムカデが迫る。
その時。
前方に岩の裂け目が見えた。
狭い。
洞窟甲虫でも入りづらそうな隙間。
俺は迷わず飛び込む。
身体を細くする。
潰れるように押し込む。
岩肌に擦れる。
それでも進む。
後ろから白いムカデが追ってくる。
だが。
途中で止まった。
隙間が狭すぎるのだ。
白いムカデの身体では入れない。
俺はさらに奥へ進む。
ようやく安全圏まで辿り着いた。
白いムカデは外でうろついている。
しばらく隙間を探る。
だが諦めたのか。
やがて振動が遠ざかっていった。
俺はその場に崩れ落ちた。
もちろん実際には液体の塊だ。
それでもそんな気分だった。
(死ぬかと思った……)
本当に。
あと少しで終わっていた。
しばらく動けない。
心臓があれば間違いなくバクバクだった。
やがて落ち着いてくる。
その時。
ふと周囲に意識が向いた。
今まで逃げることしか考えていなかった。
だが。
ここはどこだ?
俺は周囲を見回す。
いや。
正確には感じ取る。
狭い通路。
湿った岩肌。
そして――
奥から流れてくる微かな水。
(ん?)
今まで聞いたことのない振動。
いや。
振動というより流れ。
水だ。
しかもかなりの量がある。
俺はゆっくりと奥へ進んだ。
逃げ込んだ先は行き止まりではなかった。
細い通路のさらに先。
そこには。
今まで見たことのない空間が広がっていた。




