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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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銀髪侯爵が、聖女に跪く日

「ナエル、話を続けて」

「わかりました」

 聖女の小国。


 かつて追放された領主が周辺諸国を唆し、彼女の国へ侵略が始まった。

 それも一国ではない。国境を接するすべての国が、ほぼ同時に兵を進めてきたのだ。


「……どういたしましょう」

 警備隊長は地図を前に、唇を噛みしめた。

「我々が時間を稼ぎます。その間に、どうか聖女様だけでも――」

 マリアは、静かに首を振った。


「その必要はないわ」

 隊長が言葉を失うのを見て、彼女は問いを重ねる。

「ところで、今回の侵略……采配を振るっている国はどこかしら?」

「南の国です。追放された元領主の親戚が治めています」

「そう……」


 マリアは少し考えたあと、柔らかく微笑んだ。

「では、そこへ向かいましょう」

「――聖女様!?」

 制止する間もなく、彼女は警備隊長の馬に跨がり、南へと走り出した。


「えせ聖女だ! 殺してでも捕らえろ!」

「妖術を使うぞ、気をつけろ!」

 城門前で兵が叫び、矢が放たれる。


 しかし――

 矢は彼女に届く前に力を失い、音もなく地に落ちた。

 剣を構えた兵は、見えない何かに縫い止められたかのように、その場から一歩も動けない。


「……あら」

 マリアは不思議そうに、足元の矢を見下ろした。

 真の聖女に与えられた加護は、害意そのものを拒絶する。

 いつの間にか、周囲の建物の影から人影が現れる。


「こちらです、マリア様」

 それは彼女の信徒だった。

 すでに南の国――いや、周辺諸国にまで潜んでいた者たち。


 広間には、南の国の領主と、追放された元領主が並んでいた。

「お前が……偽聖女か」

 震える声で吐き捨てる元領主を、マリアはじっと見つめる。


「偽、だなんて。酷い言い方ね」

 一歩、前に出る。

「――跪きなさい」

 その声に、抗える者はいなかった。


 床に膝を打ちつけ、額を擦り付ける音が重なる。

「こ、こいつに騙されていたのです!」

 南の国の領主は、元領主を睨みつけながら叫んだ。


「どうかお許しを! 私は聖女様を崇拝しております」

「そうなの?」

 マリアは首を傾げる。


「それで、どうするつもり?」

「兵は、すべて引き上げます! すぐに!」

 彼女は少し考え、視線を側近たちへ向けた。

「あなたたちは、どうしたらいいと思う?」

 側近の一人が、喉を鳴らして答える。

「……聖女様に刃を向けました。処罰を下すのが、当然かと思います」


「そう」

 マリアは淡々と告げた。

「それは、あなた方で決めなさい。軍をどうするかも、同じよ」


 結果は、早かった。

 圧政を敷いていた南の国の領主は、身内に背かれ、民衆によって処刑された。

「……私の判断ではないわ」

 マリアは、その報せを聞いて小さく呟く。


「民衆の怒りよ」

 南の国の軍は解体されず、名を変えた。

 聖女軍として。

 そして彼らは、共に聖女の国を侵攻していた周辺諸国の軍を奇襲し、壊滅させた。

 諸国にとっては酷い裏切り行為だ。

 だが力を失った国々は、次々と恭順を示すしか無かった。


「それならば従ってもらいます」

 他国の領主たちは地位こそ保たれたが、それ以外の権限はすべて剥奪された。

 気づけば、聖女の国の周囲には、いくつもの衛星国が並んでいた。一つのまとまった成長する経済圏を作り上げた。


 聖女は、領主たちが独占していた利益をすべて経済発展や貧困対策に使った。

「それでは聖女様の資産が残りませんよ!」

 警備隊長をはじめとする配下は心配した。

「そんなものいらないわ」


 だが、寄付という形で、戻ってくる。圧政で虐げられて、ではなく、信仰として喜んで。

「ね、無くても大丈夫でしょ?」


 マリアは笑った。


 知恵と力のある真聖女の存在。


 そこに目をつけたのが、共和国の西部を治めるグラバー侯爵だった。彼は、背の高い体躯と整った容貌を備えた、銀髪の若き侯爵。知略と胆力を兼ね備えた男。


「共和国の政治体制、民主政治は腐敗と無知によって、一度崩壊する」

 彼の予測どおり、王政が打倒されて、数年で国都パリスを中心に内乱が勃発していた。


「我がグラバー軍も、参戦しますか?」

「馬鹿野郎。南部の連中と同じじゃないか! 民衆を殺すなんて、そんなことは出来ない。だが、このままにしておくことも。真の聖女様に会いに行こう」


 西部グラバー侯爵領主のさらに、数ある小国はそれまで注目されたことは無い。

 彼は、正式に訪問の約束をして、マリアに会いに行った。


「お待ちしておりました」

 爽やかな彼女の微笑みに、グラバーは心を射抜かれた。

「聖女様、貴女を守ります」

 思わず、彼女の手を取り口付けした。


 それは彼の性格からはありえない衝動だった。グラバーの献身に、聖女も彼を認めていった。

「わかりました。グラバー、共和国を救うために動きましょう」

 そこまで話すと、ナイルは再び水を飲み干した。


「それで?」

 クルミが尋ねた。

「この本に書かれていた内容は、これでお終いです」


「わかったわ。ツッコミどころ満載な内容ね。ナイル、本は借りていい?」

 彼から本を受け取った。

「グラバーって野郎は、有名な奴だよ」

 ドノバンが、ボソリと言った。


「どう有名なの?」

「……まあ顔が良くて、女にモテるいけ好かない奴だ。まあ、剣の腕は俺には敵わないだろうがな……」

「ふうん。そんなに色んな女にモテたいの? だってリリカ!」


 クルミが揶揄う。

「いや、俺はリリカ様一筋だから……」

 私は、そんな軽口よりも、真聖女マリアのことを考えていた。


 本をペラペラとめくると、枠外に言葉が書いてある。この世界では普通使われない諺だ。

「豚に真珠」とか「花より団子」とか「五十歩百歩」とか。


「マリアと対決する前にソフィアと会う必要があるな」

 私は、深く息を吐いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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