京都。鴨川の納涼床や祇園の路地裏で、
「なあ光命、昨日は軽井沢で涼めたけど、
今日の京都での納涼床でのクライアント接待、
資料の最終確認は完璧だよな?」
「ああ、バッチリ用意してあるさ。……それより、
時空のバグが京都まで連チャンで来る予感がして背筋が凍るぜ」
「は? 時空のバグって何だよ、お前また暑さで頭やられたのか?
ほら、早く四条の鴨川を渡って先方の料亭に行くぞ!」
「……来るか」
「ん? なんだ今のは?」
「いや、なんでもない。ちょっと急用を思い出したから、先に行ってくれ!」
「おい、待てよ光命! どこに行く気だ――!」
同期の叫びを背に、
軽井沢から
時空転移で京都へと飛ばされた俺――会社員・光命は、
うだるような夏の暑さと
独特の雅な気配に包まれた街並みに立っていた。
しかし、
脳内に響く警告音がその静けさを打ち破る。
――『西暦二〇二五年、古都・京都。鴨川の納涼床や祇園の路地裏で、
時空の歪みから現れた魔獣が観光客を襲撃中』。
おいおい、せっかくの京都出張がまたトラブルかよ。
スーツの下の
漆黒の南蛮胴が重く軋み、純白の六翼が古都の熱気に反応して激しく発光を始める。
「クソ……せっかくの京都納涼&ハーレム計画が、これじゃ台無しだな!」
鴨川沿いの古い町屋の陰に飛び込み、純白の六翼を大きく広げる。
バサッ、
と夏の熱気を切り裂き、重力を無視して俺の肉体が京都の空へと跳ね上がった。
五重塔の相輪を背に、
悲鳴がこだまする祇園の街並みへと急降下する。
眼下では、
巨大な異形の魔獣に囲まれ、納涼床のテラスで立ち往生する女性社員たちの姿があった。
「大丈夫か!」
「きゃっ……! な、なんですかこの背中の羽は……!?」
「心配するな。俺の名前は光命、お前たちの会社の先輩だ」
「そんな……サラリーマンが背中に天使の翼を?」
「これでも喰らえ、『大天使の抱擁』!」
聖なる光の波動が古都の街を包み込み、出張中のOLたちの恐怖を瞬時に浄化する。
さらに
聖剣「浦和」をひと振り閃かせると、魔獣たちは光の粒子となって夏の夜空へと消え去った。
「す、凄い戦闘力……。光命さん、こんなに頼りになる方だったなんて……!」
「もう今日の接待なんてどうでもいいわ、私、光命さんに惚れ直したかも……!」
「ふっ、俺の仕事は人を守ることだからな。さあ、鴨川の特等席へ行こうぜ、君たちのための極上の楽園を用意してやるよ」
こうして京都の街でも瞬く間に美女たちが寄り集まり、
俺のプライベートは
極上のハーレムライフへと変貌を遂げる。
古都の風情と夏の夜風に包まれた街で無敗の会社員ライフを謳歌していたある夜、
鴨川を臨む
老舗の座敷で開かれた打ち上げの席。
床の間の近くで、
ふと手にした異国風の飾りに俺の目が留まった。
「おい、その手にあるのは……」
「光命さん、どうかしたんですか? そんな真剣な顔をされて」
「くっ……このランプの煙は……ゴホッ!」
「光命さん!? お身体が粒子になって崩れていきます……!」
「クソ、またかよ……! せっかく京都の夜を楽しんでたのに……!」
愛しい同僚たちの悲鳴が遠ざかる中、神魔の異端児である俺の肉体は粒子と化し、
さらなる
時空の彼方へと強制瞬間ワープさせられていくのだった。




