8月19日、夜。 東京・渋谷スクランブル交差点の真上。
【ズガガガガガガアン!!!】
令和8年(2026年)8月19日、夜。
昼間の狂騒が嘘のように静まり返った、東京・渋谷スクランブル交差点の真上。
月明かりの下、俺は忠犬ハチ公像の屋根から、かつてないほどの絶望感とともに見下ろしていた。
「おい……嘘だろ……。なんで昼の竹下通りから、夜の渋谷の真ん中にワープしてんだよ……!
しかもスクランブル交差点を一望できる特等席じゃねえか!」
俺の手には、相変わらず手から離れない聖剣「ロッポンギ」が握られており、
口の中は昼間に浴びたクレープの生クリームと、
消えないターメリックのスパイスが混ざり合って最悪のハーモニーを奏でている。
「ふぅ……夜風が心地いいじゃない、バカ先輩」
涼やかな声とともに、あの形状記憶ベッドが夜空を滑るように降下してきた。
上に座るのは、もちろん最強美少女・涼風アリス。
彼女は夜の闇に映える生足の絶対領域を組み直し、冷ややかな、
しかしどこか満足げな笑みを浮かべて俺を見つめている。
「昼間の竹下通りじゃ人目が多すぎてみっちり精算できなかったからね。
この静まり返った渋谷の夜景をバックに、
あんたの『未読メッセージ』と『命令無視罪』の裁判を夜の部として再開するわよ」
「夜の部じゃねえよ! 営業時間はっくし終わってるだろ! 帰らせろ!」
俺が叫んだその瞬間、渋谷の夜空を切り裂いて、さらなる爆音が鳴り響いた。
【ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!】
「逃さぬと言ったはずですわ、大天使様ぁーーーーッ!!!
昼の借りは夜のうちに倍返しですわ!」
「ル、ルルターズ! お前らまで夜の渋谷に湧いて出てくんじゃねえ!」
スクランブル交差点のビルの屋上から、
ルガール帝国の王妃ルルターズ、ジャスミン王女、
そして聖女ラーダーが光の粒子を引きながら舞い降りる。
さらに、109の屋根からはギャル剥き出しのガラシャムチョと、
黄金のサイバー曲刀を構えたラクシュミーが華麗にダイブしてきた。
「夜の渋谷なんて、アタシたちの『終身雇用(正妻)』の誓いを立てるには最高の舞台じゃない!」
「M&Aの買収交渉は夜のほうがスムーズに進むのよ、大天使様!」
「ちゅ! 月明かりの下で吸い尽くす不老不死のエキス、
最高にナイト・ストリーミング再生されますわーっ!」
「お前ら全員、頭のネジが時空の彼方に飛んでいってやがる……!!
警察呼ぶぞ! いや、もう渋谷署のパトカーがこっち向けて赤色灯回してるからな!!
セキュリティアラートが限界突破して大爆発寸前だわ!!」
俺が聖剣「ロッポンギ」を振り回して絶叫した瞬間、
頭上の時空の亀裂から再びあの黒幕――いや、もう名前はどうでもいいジジイの笑い声が響いた。
「わはははは! 8月16日の夜、渋谷のスクランブル交差点こそ、
愛のエネルギーが収束する究極のシンギュラリティ地点じゃ!」
「お前は黙ってろボケ老人!!!
くらえ、俺のヤケクソ・ナイト・アタック!!」
俺はハチ公像の屋根から、美少女たちと黒幕のジジイが待つ真ん中のアスファルトめがけて、
人生最大の顔面スライディング特攻を敢行した。
――【ドガシャーーーン!!!】
夏の夜の渋谷の真ん中で、大爆音とともに盛大に崩れ落ちる俺と美少女たち。
夜空に舞い散るターメリックの黄色い粉と、どこからか飛んできたクレープの残骸。
冷や汗とスパイスの涙にまみれながら、俺は渋谷のアスファルトに大の字で寝転がり、
遠くに見えるスクランブル交差点をぼんやりと眺めた。
「……で、これからどうすんだよ」
アリスが俺の腹の上にちょこんと座り、ふふっと意地悪く微笑む。
「決まってるでしょ? 明日は8月17日、どこへ逃げようと、私たちが追いかけてあげるから」
「……もう勝手にしてくれ」
真夏の夜の渋谷の喧騒の中、俺の乾いた笑い声と美少女たちの楽しげな笑い声が、
夜空の彼方へと吸い込まれていった。




