新宿駅東口、アルタ前広場のど真ん中で
令和8年8月17日、正午。
東京・新宿駅東口、アルタ前広場のど真ん中。
深夜の喧騒と狂騒から一転し、
眩しいほどの昼下がりを迎えた新宿の
街には、
容赦ない真夏の太陽が幾重にも光の束を浴びせかけていた。
巨大な
ビジョンの色彩と喧噪が渦巻くアスファルトの路面からは、
ゆらゆらと
白い熱気が立ち上り、急ぎ足で通り過ぎる無数の通行人たちの
影を
鋭く地面に焼き付けている。
そんな炎天下の真ん中、俺はアルタ前の象徴的な広場のそばに
しっかりと立ち、
手元の聖剣「ロッポンギ」の冷たい金属の感触を確かめるように、
力を込めて
しっかりと握りしめていた。
「よし……
これだけ人が多ければ、もう誰も変な追手は追ってこないはずだ。
今のうちに、
この新宿のカオスな空間から完全に立ち去るぞ」
周囲をぐるりと見渡してみても、
昨夜まで
散々頭を悩ませてくれたカオスな追跡劇の気配は、
微塵も
残されていなかった。
空を滑るように不気味な存在感を放っていた
涼風アリスの
形状記憶ベッドも、ド派手な光の粒子をまき散らしていた
ルガール帝国の
王妃ルルターズたちの姿も、さらには原宿や渋谷、果ては
大ピラピッドの
頂上まで空間の理をねじ曲げていた時空の亀裂さえも、
今は
綺麗さっぱり消え失せている。
そこにあるのは、
ただどこにでもある真夏の新宿の昼下がりの光景だけであった。
「ふう……
やっとのことで、普通の平穏な日常に戻れたというわけか。
長かった……
本当に長かったな」
胸をなでおろし、安堵の深い息を大きく漏らしながら、
俺は
新宿駅東口から大ガードの方向へと足を踏み出し始めた。
口の中に
ずっとこびりついていた悪夢のようなターメリックの
スパイスの刺激や、
吐き気がするほど甘ったるかったクレープの後味も、
嘘のように
すっかり消え去り、脳の全システムとハードディスクは
完全に
正常な稼働を取り戻している。
思考の
ロジックエラーも解消され、これ以上不条理な出来事に巻き込まれる
心配も
ないという確信が、じわりと胸の中に広がっていった。
真夏の真っ青な空の下、行き交うビジネスパーソンや
観光客たちは、
それぞれの目的地へ向けて汗を拭いながら歩いていく。
その日常の光景は、
これ以上ないほど平和で、当たり前のものに感じられた。
もう
時空の歪みに怯える必要もなければ、
突如として頭上から美少女たちが降ってくることもない。
俺もまた、
これまでの混乱を完全に断ち切り、自らの果たすべき役割と
やるべきことに
すべての意識を集中させるため、余計な雑念を一切捨て去り、
前だけを
真っ直ぐに見据えて力強く歩き始めたのだった。
と、思っていたのだが、……。




