軽井沢への避暑兼クライアント挨拶まわり
「なあ光命、昨日は横浜でコンペだったけど、
今日の軽井沢への避暑兼クライアント挨拶まわり、
資料はちゃんと持ったよな?」
「ああ、完璧に冷やして……いや、
準備してあるさ。……それより、
時空のバグが軽井沢まで追っかけてこないことを祈るぜ」
「は? 時空のバグってなんだよ、
お前また寝不足か? ほら、
早く新幹線に乗って軽井沢に向かうぞ!」
「……来るか」
「ん? なんだ今のは?」
「いや、なんでもない。
ちょっと急用を思い出したから、先に行ってくれ!」
「おい、待てよ光命! どこに行く気だ――!」
同期の絶叫を背に、
横浜から時空転移で軽井沢へと飛ばされた俺――
会社員・光命は、
湿度の低い爽やかな風を全身に受けていた。
しかし、頭の中の警告音が軽井沢の静寂を切り裂く。
――『西暦二〇二五年、避暑地・軽井沢。
旧軽井沢銀座や白糸の滝付近で、
時空の歪みから現れた魔獣が観光客を襲撃中』。
おいおい、
せっかくの涼しい高原ライフが台無しじゃないか。
スーツの下で漆黒の南蛮胴が重く軋み、
純白の六翼が冷気に反応して青白く発光を始める。
「クソ……せっかくの高原避暑&ハーレム計画が、
これじゃ台無しだな!」
軽井沢の森の陰に飛び込み、純白の六翼を大きく広げる。
バサッ、と湿った森の空気が弾け、
重力を無視して俺の肉体が軽井沢の空へと跳ね上がった。
白糸の滝の飛沫を背に、
悲鳴がこだまする旧軽井沢銀座へと急降下する。
眼下では、巨大な異形の魔獣に囲まれ、
テラスで立ち往生する女性社員たちの姿があった。
「大丈夫か!」
「きゃっ……!
な、なんですかその背中の羽は……!?」
「心配するな。俺の名前は光命、お前たちの会社の先輩だ」
「そんな……サラリーマンが背中に天使の翼を?」
「これでも喰らえ、
『大天使の抱擁』!」
聖なる光の波動が森を包み込み、
観光中のOLたちの恐怖を瞬時に浄化する。
さらに聖剣「浦和」をひと振り閃かせると、
魔獣たちは光の粒子となって軽井沢の避暑地へと消え去った。
「す、凄い戦闘力……。
光命さん、こんなに頼りになる方だったなんて……!」
「もう今日の挨拶まわりなんてどうでもいいわ、
私、光命さんに惚れ直したかも……!」
「ふっ、俺の仕事は人を守ることだからな。
さあ、高原の特等席へ行こうぜ、
君たちのための極上の楽園を用意してやるよ」
こうして
軽井沢駅界隈でも瞬く間に美女たちが寄り集まり、
俺のプライベートは
極上のハーレムライフへと変貌を遂げる。
高原の涼風と
木漏れ日に包まれた街で
無敗の会社員ライフを謳歌していたある夜、
別荘地のレストランで開かれた打ち上げの席。
暖炉のそばで、
ふと手にした異国風の飾りに俺の目が留まった。
「おい、その手にあるのは……」
「光命さん、どうかしたんですか?
そんな真剣な顔をされて」
「くっ……このランプの煙は……ゴホッ!」
「光命さん!?
お身体が粒子になって崩れていきます……!」
「クソ、またかよ……!
せっかく避暑地を楽しんでたのに……!」
愛しい同僚たちの悲鳴が遠ざかる中、
神魔の異端児である俺の肉体は粒子と化し、
さらなる時空の彼方へと
強制瞬間ワープさせられていくのだった。




