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フランソワとワタルー二つの魂の宿る家系 第三部 ~なさねばならぬ~  作者: リレイ飛鳥


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第12章 つながりにつながる……?

 俺たちはスマホを返してもらい、部屋を出た。

 廊下には運転手の男が待っていて、拓郎の車椅子を押して移動し始めた。俺はその後ろをついていく。

 先ほども感じたことなのだが、丸の内にある大きなビルなのに、この階には誰もいない。

 人の気配がまるで消えてしまったような静けさが、逆に不気味だった。

 空調の低い唸りだけが、廊下の白い壁に吸い込まれていく。


 エレベーターで地下まで下りて、車に乗る。

 車は地下から滑り出し、都内を走り始めた。

 聞きたいことは山ほどあるのに、喉が固まって言葉にならない。

 運転手も拓郎も黙ったまま、車内には沈黙だけが積もっていく。


 道に詳しいわけではないが、早稲田の方面に向かっていないのはわかる。

 車は静かな高級住宅街に入ってきた。

 ここは――! そうだ、と気がつく。前にも来たことがある。

 というか、俺はフランソワとして走っていた道だ。

 ということは……

 車が停まった場所は、まさかの、屋敷の門の前だった。


 居合師範、種倉誠(たねくらまこと)の家の前なのだ。

 夕日が街を黄昏色に染め始め、門の鉄格子が赤銅色に光っている。

 拓郎は運転手によって下ろされ、車いすに乗せられる。

 俺も車から降りて門の前に立つ。

 車は俺たちを下ろすと、何も言わず、影のように去っていった。


 拓郎は車椅子から立ち上がり、門を見上げた。

 そして、大きなため息を一つついた。


「これは……」と俺が言ったら、

 何も言うな、とでもいうように彼は俺に向かって軽くうなずいた。

 そして、おもむろに抱えている鍵のレプリカを見る。

 それには、4桁の番号が彫ってある。


 拓郎は、門のナンバーキーにその番号を打った。

 金属製の門は擦れる音を発しながら開いた。


「入って」と、彼はめんどうくさそうに俺に言う。

 俺の頭の中は少しパニックになりかけている。

「どうして!」という言葉が巡り巡っている。


 拓郎と俺はアプローチを渡り、玄関前に立つ。

 同じ4桁のナンバーを打つ。

 ドアの鍵が開く音が響いた。

 俺たちは玄関に入った。靴を脱ぎホールに上がる。


 拓郎は廊下をウロウロしながらも食卓を見つけ、入る。

 俺も続く。


「お腹へったよね」と言いつつ、冷蔵庫を開ける。

「おお、色々入っているよ」と、ビールと総菜になりそうなものを出した。

「何でも飲んで、なんなら、これも飲む」と俺にビールを差し出す。

 俺は首を振って、冷蔵庫からウーロン茶を出した。


 二人、食卓の椅子に向かい合って腰かける。

 ふと映像が閃く。

 ここに師範が座っていたと。お酒を飲んでくつろいでいたのだ。

 そこへ、フランソワから電話が入り、急展開となった――あの瞬間が、まるで残像のように蘇る。

 訊きたいことは山ほどある。

 拓郎はビールをまずそうに飲みながら、キチンサラダをつまんでいる。


「この家は……」と俺が言うと、

「大きい箱にしとけば良かったよ」

 と、嘆くような口調で拓郎は言った。純金の馬の彫像のことだ。

「欲に任せればよかった」と、続けた。

「いくらくらいですか?」

 と、俺はどうでもいいような口調で訊いてしまった。

「5キロはあっただろうから……20000×5000……ああ、計算できない」

 と、彼は嘆くように答えた。

「1億万か……」と俺は自分で答えてしまった。


「僕もそっちの方が良かったかな」 と、ぽつりと言ったら、

「なに言ってるの。君はつながりを得たのだよ」 と、拓郎は言った。

「つながりにつながった、てことですか?」

 と、シャレにならない訊き方をした。

「そう。困ったときに、そのメダルを見せると何とかしてもらえる」

「そうなんですか……」

「そう。そのことは一億でも買えない」

 と、俺を見つめた。


 俺はポケットからメダルを出して、改めて見つめてみた。

 銅製だ、光り輝いている。

 だが、金額的にはたいしたことない。

 だけど、計り知れない価値があるということだ。


「先ほどのおばさんは、どういう人ですか?」

 と、一番気になっていたことを質問した。

「その前に、君は箱の中は見られなかったの?」と、拓郎は俺に訊く。

「はい。見れません。というか、そんな力はないです」 と、素直に答える。

「じゃあ、見えるのは、どういうもの?」と、訊いてくる。

「見ようと思って見ることはできないようです。突然、パッと映像が飛来します。目の前の人の過去の出来事だとか、一瞬の場面ですが……自分ではどうすることもできないようです」

「そうなんだ……ということは、小さい箱を選んだのは偶然なんだよね。何も考えなかった、って言ったから」

「そうです。立ち上がったら、自然とそっちへ足が向かい、気がついたら手に取っていました」

 と、俺は応えた。

「必然の偶然ってやつだね」


 なんです、それ? とは訊かなかった。

 なるようになってしまっているから。


「あのご婦人は……といって、僕の想像だけど……会ったこと、見たことないからね。普段絶対人前に現れないし、僕のような、つながりがあるといっても、末端にいる人間は会えないし……そういう点では、君のおかげで会うことができたともいえるわけだし……僕の名前も覚えてもらえたかもしれないし……」

「はあ……」

 回りくどい、と思いつつ、話の続きを待つ。

「たぶん、あのご婦人は……お局(つぼね)さんだ」

「お局さん?」

 と、声が裏返ってしまった。意外な答えだったから。

「そう。想像するに。そういう方がおられる、というのは聞いたことがあるのよ。今のつながりのトップだよね。……実は、現在、本当の意味のトップはいないんだ。そのトップだった人の……そういう人だよ」

 と、最後は言葉を濁して答えた。


 歴史好きの俺から言わせれば、皇帝の後ろの簾(すだれ)の間に控えている皇太后(こうたいごう)のようなものだろう。

 組織の人間は皆ご機嫌取りに走る……。

 そうだ! と大事なことを聞かなければ、と。


「この家はタネクラさんの家でしたが……反社の組織が借金の形(かた)に取ったものですよね」と、俺は言う。

「そうなの?」と拓郎は驚いた。

 そうか、彼は内情を知らない。俺に見えただけだから、ということに気がつく。

「そうですが……ハズキちゃんを拉致したのも組織だったじゃないですか。その組織からつながりは家を得たのだから……」

 と、少し混乱しながら話す。

 しばらく黙ってうつむいていたが、拓郎は顔を上げて俺を見つめる。

「その辺の事情は探らないほうが……というか見ない方が良いと思う。危険だから」と言った。

「わかりますけど……僕が言いたいのは、それならハズキちゃんも救い出すことができるんじゃないですか」と言った。


 拓郎は何も応えず冷蔵庫へ行って、新たなビール缶を持ってくる。

 プルトップを開けて一口飲むと、

「反社がどこから依頼されたのか、というのが問題だよね」

「反社が依頼を受けたということですか?」

「そう。人身売買が儲かるとしても、日本の反社はまだ手を出していないでしょう。どこか大きな組織から依頼されて拉致したと考えた方が自然だね」

 と、言った。

「どこです?」

「それは僕も知らないけど。つながりでも手の出せないところはあるでしょう」と彼は答えた。

「そうか……世界的な組織でしょうね……」


 一瞬、公園で俺の、というか、フランソワの顔を撮った中国人のジャーナリスト風の若い男の顔が蘇った。

 彼の所属する組織が依頼元なのか……?

 いったい筈妃(はずき)はどこへ連れていかれたのかと、何をさせられるのだろうかと、心配が大きくなっていく。

 その気持ちには、フランソワの感じる気持ちも含まれている。

 現在俺はフランソワと分離しているが、気持ちは共有しているようでもある。


 考えていると疑問が湧いてきた。

 その組織は、執拗にフランソワも拉致しようとした。

 ハズキなら以前からマークすることができたが、フランソワは三日前にこの世界に現れたばかりだ。

 それなのに、以前からマークしていたみたいに関わってきた。

 どういうことだろう……。


 拓郎は立ち上がり、周りを見回している。

「アッ」と呟き、キッチンへ向かう。

 キッチン台の上にノートパソコンが乗せてあるのに気がついたのだ。


 見えた。ハズキがパソコン画面に映っているレシピを見ながら料理を作っている場面が。

 休日にでも訪れてきたのだろう。

 大好きな祖父のために作っていたのだ。


 拓郎はパソコンを食卓へ持ってきて、ビールを飲みながら操作し始めた。

 先ほどまでと違って、目が生き生きとしてきた。

 何と言ったっけ……猫に鰹節、ということでしょう。


「そうだ」

 と、質問しようとしたら、

「君は帰る、それともここに泊っていく」と、訊いてきた。

「それよりも……フランソワさんのところへ行かなければ、と思っているんですが」と答えた。


 拓郎はパソコンに何か打ってから、画面を俺に向けた。

 パソコンの画面には、庭の中の救急車が映っている。

 この映像は? と訊こうとして止めた。

 そもそも彼の家だったのだから、そこら中にカメラがあるだろう。

 ここに居て様子が見られる、ということだ。


 フランソワが目覚めるには丸一日かかるということだから、早くても明日の昼ということだ。

 もし、そこでフランソワが目覚めると、同時に俺は、というか俺の肉体は仮死状態に陥ってしまう。

 その時、救急車の中に居れば都合が良いだろう、ということだ。


「泊っていきます」

 と、俺は答えた。

 聞かなければならないことはまだたくさんあるけれど、拓郎は夢中でパソコンに向かっているため邪魔するのも悪いので、明日聞けばいいと考え直す。


 カップ麺があったので、湯を沸かして、カップ麺を食べる。


「僕はここにいるから、遠慮なく寝床を探して、寝てくれ」

 と、拓郎は食べ終えた俺に言った。

 さすがに寝室では寝られないので、ブランケットを探してきて、広い居間に入りソファーに横になった。

 ズボンのポケットに入れてあるメダルが邪魔なので、出してテーブルの上に置く。

 これを使うときがくるのだろうかと思いながら。

 眠る前に部屋を眺めると、賞状やら、トロフィーが沢山飾ってある。

 棚の上に、師範と剣道着姿のハズキが並んで映っている写真が飾ってあった。


「大丈夫だから」と、写真に向かってつぶやき、俺は眠りに入った。



   第13章 につづく

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