↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フランソワとワタルー二つの魂の宿る家系 第三部 ~なさねばならぬ~  作者: リレイ飛鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

第11章 選択の儀式

 俺は助手席に乗り込む。ドアが閉まると、車内の空気がわずかに沈んだ。

 運転手は何も言わず、車は静かに発進した。エンジン音が低く響き、街の喧騒が遠ざかっていく。


 丸の内の巨大なビルの地下へと車は滑り込んだ。コンクリートの壁が迫り、ひんやりとした空気が窓越しに伝わってくる。

 地下駐車場に車が停まると、運転手はやはり無言のまま車椅子と拓郎を下ろし、彼を車椅子に乗せて押し始めた。

 俺も助手席から降りて後に続く。

 静かだ。地下特有の湿った冷気が肌にまとわりつく。


 エレベーターに乗り、階上へ。

 数字がひとつずつ光り、13階で止まった。

 男は車椅子を押して廊下を進む。俺はその後ろを歩く。

 廊下は驚くほど静かで、空気が張り詰めているようだった。

 なにも記されていないドアの前で男が止まった。


 コンコン、とノックする。

 返事はない。

 だが、ドアは内側から静かに開いた。

 紺色のスーツを着た清潔そうな青年が現れ、男に代わって車椅子を押し始めた。

 青年はトレイを持っていて、拓郎からスマホを預かり、その上に乗せる。

 次に俺へと視線を向け、入ってくれと示した。

 入る前にトレイを差し出されたのでスマホを置こうとした瞬間、画面にメッセージがいくつか届いてい るのが見えた。父からだ。

 青年の顔を見ると、彼はうなずいた。

 俺はメッセージを確認する。「何時に帰ってくるか」と記されていた。

「今日も泊まるかもしれない」と返信し、スマホをトレイに載せた。


 室内に入る。

ごく普通の部屋だ。一般的な事務室なのだろうが、長テーブルと数客の椅子があるだけで殺風景。

 窓には厚いカーテンがかかり、室内は薄暗い。床にはカーペットが敷かれ、音が吸い込まれていく。


 俺はスティール椅子に座らされた。

 隣には車椅子の拓郎。若干緊張しているように見える。

 俺たちの向かい、少し離れた場所に長テーブルが置かれ、スティール椅子が一脚添えられている。だが、誰も座っていない。

 長テーブルの向こうにはもう一つドアがある。

 青年はトレイを長テーブルに置き、奥のドアを開けて中へ消えた。


「なんの面接、ですか?」

 俺は拓郎に訊いてみる。

 彼は頭を振った。黙ったまま。

 どうやら、誰も何も話してはいけないらしい。

 俺も黙ることにした。


 拓郎は手持無沙汰なのか、両手の指を絡ませて動かしている。

 俺は今までのことを思い返した。

 昨夜9時に家を出て棚橋の事務所へ行き、11時過ぎに救急車で病院へ。

 昏睡状態のフランソワをストレッチャーに乗せたまま脱出し、救急車で羽咋へ。

 朝7時に梅渡の本家へ到着。

 滝の部屋でマリーと遭遇し、彼女も救急車に乗せて東京へとんぼ返り。

 午後3時に拓郎の家に着き、薬を取り出し、フランソワとマリーとマオを残し、棚橋たちと別れ、今ここへ。

 移動、移動の一日。

 睡眠は救急車の中だけ。

 慌ただしい一日だったが、最後に何か試されようとしている――そんな予感があった。


 奥のドアが開き、先ほどの青年がトレイに箱を三つ乗せて現れた。

 それを長テーブルの上に置く。

 大、中、小。

 無地の蓋付きの四角い木箱。

 大は一辺60センチほど、中は40センチ、小は20センチほど。

 青年は箱を置くと奥へ消えた。


 代わりに、中年の婦人が現れた。

 白髪で清潔感があり、すっきりした身なり。

 顔立ちは特徴がなく目立たないのに、なぜか周囲を和ませる雰囲気がある。

 威厳とは違うが、誰も逆らわないだろうと思わせる空気をまとっていた。

 女性は長テーブルの向こうの椅子に腰かけた。

 中型の箱が置いてあるため、座ると顔が隠れてしまう。


「ごめんなさい」

 一言ことわって箱を横へ移動させた。

「私は、キャロライン・洋子です」

 女性は言った。

 え? 一瞬戸惑う。

「というのは冗談です」

 オホホ、と笑う。

『冗談かい!』

 心の中で突っ込む。


「本名を名乗るのは控えさせてもらいます。ウメドタクロウさん、、ハクライワタルさん」

 笑顔で言う。

『こっちは本名ですけどね』

 また心の中でつぶやく。


「それでは、選んでもらいます」

 女性はテーブルの上の箱を示した。

 ……?

 いきなり言われても困惑する。

「はい」

 拓郎が返事をした。

「それでは、ウメドタクロウさんから、どうぞ」

「はい」

 拓郎は返事をし、なんと! 車椅子から立ち上がった。ぎくしゃくしているが、確かに立っている。

「えっ?」

 立てるの?とは訊かなかったが、驚いた。

 拓郎はゆっくりテーブルへ向かい、真ん中の中型の箱を手に取って戻ってきた。

 箱を抱えたまま車椅子に座る。


「まだ開けないでね」

 夫人は笑顔で言う。

「はい」

 拓郎は答える。


「ハクライワタルさん」

 俺の名前が呼ばれた。

「はい」

 俺は立ち上がり、迷いなく小さな箱を手に取って戻った。

 椅子に座り、小型の箱を膝に置く。


「まだ開けてはいけませんよ」

 夫人は笑顔で注意し、

「選ばれなかった大きな箱には何が入っているでしょう」

 嬉しそうに言って、大きな箱の蓋を開けた。

「まあ……」

 夫人は立ち上がり、箱の中に手を入れ、重たそうに取り出した。


 箱から出てきたのはーー金色に光る馬の彫像。

 台座に乗り、ガラスケースに収められている。

 テーブルの上に置かれると、室内の薄暗さの中で金色に妖しく輝いている。

「今年って……午年……。だからですね。たぶん、純金でしょう」

 俺は目をパチパチさせた。

 純金製の彫像なんて見たことがない。

 値段の想像もつかない。

 拓郎を見ると、震えているように見えた。惜しかったというより、怖がっているようだ。


「それでは、ウメドタクロウさんから、お願いします」

「はい」

 拓郎は唾を飲み込んだ。

「その前に」

 夫人が言った。

「はい?」

 拓郎は箱を開ける手を止める。

「なぜ、その箱を選ばれたの?」

 夫人が質問する。

 拓郎は震える声で答えはじめた。

「それは……分相応であると思いました。大きいのを選ぶなど自分にはできません。かといって、小さいのを選ぶほどの謙虚さも身に着けておりません。無難なところで、真ん中を選びました」

「そう。それでは、開けてください」

 夫人は機嫌よく促した。


 拓郎は震える手で箱の蓋を開け、中を覗き込んだ。

 えっ? という顔をして、前を見る。

 夫人は、どうぞ、と手で示した。

 拓郎は銀色に輝く30センチほどの鍵を取り出した。家の鍵のレプリカ、だ。

 しばらく見つめていたが、

「ありがとうございます」

 と、深々と頭を下げた。


 俺の頭の中に映像が飛来する。

 拓郎が大きな家の門の前に立ち、見上げている姿。

 俺は唾を飲み込み、細く長く息を吐いた。


「ハクライワタルさんは、一番小さな箱を選ばれましたね。なぜなの?」

 夫人はおかしさを堪えるように訊いてきた。

「何も考えませんでした」

 俺は答えた。

「考えなしに?」

「はい。自然と、手が、選んだようです」

「……手が選んでしまったと?」 

 婦人は口に手を当てて、オホホ、と笑った。

 別にウケを狙ったわけではない。本当のことだ。


「開けてください」

 笑い終えると、今度は真顔で言った。

 背中に戦慄が走る。

 たぶん、夫人もこの箱の中身を知らない。


 俺はさっと蓋を開けた。

 中を見る。

 手に取って取り出す。

 材質は予想できた。

 大きな箱には金、中型には銀。

 ならば、小さな箱には――銅だ。


 箱から取り出したものはーー掌にちょうど乗る大きさの、銅色に光るメダル。オリンピックで贈られる銅メダルのようだ。

 ただし、こちらのメダルには” 徴 ”が彫られている。桐の花の紋章、だ。


「見せて」

 夫人は真顔で促した。

 俺はメダルを向ける。

「まあ……」

 驚きとも呆れともつかない声を出し、立ち上がった。

「ごくろうさま」

 そう言って、後ろのドアから出ていった。


 俺は拓郎にもメダルを見せた。

 彼は驚いた顔をしたが、何も言わず、ただうなずいた。



    第12章 つながりにつながる……? に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。