第1話 六人六色の出会い(2)
入学式から数日後。
廊下を歩くまりなとたまき。この日のたまきの制服コーデはネクタイではなく、リボン。この学校はジェンダーフリーなため、男女問わず、ネクタイ、リボンともに着用可能。勿論スラックスとスカートも。
「たまちゃんがリボン。かわいい」
「試しにつけてみたけど。変な目で見られないかな」
たまきの表情は、若干不安そうだった。
「たまちゃんなら大丈夫」
まりなの髪型は、耳上から編んだおさげだった。昔から比較的この髪型が多く、周りからも少し幼く見られていた。この日は、水玉ボールのアクセがついた薄いピンクのヘアゴムで結んでいる。
「そうかな? それより、まりちゃんの髪型、小さい頃とほとんど変わってない。ヘアゴムも小さい子用だよね」
「奇抜はハードルが高いし、無難だと個性がないから。だから、昔から好きな結び方のままなの。結ぶものはカラフルなものでかわいく」
2人のほんわかな会話が続き、たまきの脇から通過していくすみれの姿が見える。たまきは、さり気なくすみれに「おはよう」と声をかける。
すみれは一瞬振り向き、淡々と「おはよう」と挨拶を返して前へ進んでいく。すみれのオーラに魅了されたかのように呆然とした表情のたまき。
「あの子、たまちゃんの隣の席の子だよね?」
まりなは既に、たまきのクラスを覗いていたみたいで、ある程度わかっていた。
「寺本すみれさん。基本的に笑わない」
「なんとなく、あの子ってやさしい気がする」
この時、まりなが抱いていたすみれの印象は、"ツンとしているけど普通の子"だった。たまきに挨拶を交わしていたことが大きい。
「おはよー!」
後ろから、かえでが声をかけながら、2人に隣り合って歩く。
「あ、かえでちゃん。おはよー!」
かえで、たまきがリボンをつけている姿を興味津々に見ている。
「たまちゃん、リボンつけてる。かえでちゃんはネクタイ派だけどね」
かえで、まりなに視線を移し、声をかける。この時点で既に知っていた。
「もしかして、まりちゃん? たまちゃんと仲良しの」
まりな、少し動揺しながら首を縦に振る。でも内心嬉しい。
「もう名前覚えられているなんて。かえでちゃん飲み込み凄い」
「何事も前向きに取り込まないとね!」
「それにしても、たまちゃん、女の子と仲良くなるの早いね」
「かえでちゃんがコミュ力高過ぎるから」
3人の笑い声が響く。
1-B組。このクラスにはまりな、久哉、みつばが所属している。まりなの隣に座るのはみつば。みつばの後ろに座るのは久哉。
入学式の日に仲良くなったまりなとみつば。あれからよく会話をしている。この日のみつばは、髪を結んでいない。彼女は気分屋なので、ヘアスタイルもその日の気分によるのだ。
「そういえば、まりちゃんと仲良しな子。ジェンダーレスな感じの」
「たまちゃん。名前は星野たまき。まりなと合わせてまりたまって昔から呼ばれていたの」
「まりたま。なんか丸っこくてかわいいね」
「みっちゃんって、同じ中学の子とかいないの?」
みつばの愛称は"みっちゃん"である。
「いるけど、私以外みんな男子だし。かといってそこまで絡み無いし」
「自分から話しかけたり、かけられたりもなかった感じ?」
「というかそもそも私、男子苦手。パパや身内は除くけど」
「どうして?」
まりな、みつばがなぜ男子が苦手なのかが気になっていた。
「男子は、イタズラばかりするし。私も被害にあったから。レベル低過ぎてウンザリ」
「そんなことがあったなんて…」
「本当は共学じゃなくて、女子校行きたかった。でもパパとママは公立じゃないとダメって言うから」
みつばとしては、女子校でマイペースにスクールライフを送りたかった。そんな話を聞いてまりなは目を潤ませてしまう。
「この辺り、共学しかないよね」
みつば、まりなの顔を見て動揺する。
「ちょっと、まりちゃん。私の話なのに、どうして泣くの?」
「まりなも同じ立場だったときのことを考えてつい」
「まりちゃんには、たまちゃんがいるからそれだけで恵まれてるじゃん」
「楽しそうで羨ましいな」
久哉、クールに2人の会話にさり気なく入ってくる。
みつば、男子への苦手意識があるが故、久哉に動揺する。
「ちょ、ちょっと! 急に入ってこないでって!」
「ビビるなって。俺だってまだクラスに馴染めてないんだよ」
まりな、真剣かつ興味を示しながら久哉を見る。
「もしかして、同じ中学から来た子ってみんな女の子?」
久哉。まりなに見つめられて若干動揺する。
「いや、男子もいるけど、仲いい奴がいない。強いて言えば1人、小学校からの付き合いの無愛想な女子ならいるけど」
つまり、すみれだのこと。
みつば、ダル絡みな感じで久哉をからかう。
「想像できる。その子からも煙たがられているでしょ?」
段々、久哉のクールさが薄れてきた。
「俺をレベルの低い野郎達と同列扱いするなって。暗い話とか重い話とか俺は
苦手だからさ」
みつば、少し表情が和らぐ。
「こういうタイプの男子って、なんか珍しいね」
「うるさいのも苦手だけど、しんみりも苦手。緩く静かに楽しくが俺のモットー」
まりな、くすりと笑う。
「剣崎くんって、意外と紳士的かも」
「わかる人にはわかるってことか。安心した」
久哉、背伸びあくびをして教室を出ていく。
まりなの視野に、廊下をあるくたまき。お互い目が合う。まりな、たまきにおいでポーズ。
たまき、まりなとみつばのそばにやってくる。たまきとみつばはお互い、はじめましてムード。
「もしかして、まりちゃんが話してくれてたみっちゃん?」
「そう。入学式の日に即仲良くなったからね」
「ぼくとかえでちゃんみたい」
「あの子能天気過ぎでしょ? いるだけでエネルギー消耗する」
「でも、人によっては元気が出るかも」
みつば、たまきの顔を見る。
「たまちゃん。肌キレイ。他の男子とは大違い」
「昔から男子受けは微妙だったんだけどね」
「いや。たまちゃんの良さわらないって、男子達見る目無さ過ぎ」
まりなも楽しそうに会話に入ってくる。
「ちょっと言い過ぎ。でも、まりなも同意見」
「たまちゃんっていい意味で不思議。男女関係なく絡みやすくて」
「これで、みっちゃんの男子嫌いも克服できるかも」
「もしかして、みっちゃん。ぼくのこと警戒してたの?」
「全然。たまちゃんは、ジェンダーフリーだからちょっと特殊かな」
「どういう意味?」
「たまちゃんはたまちゃんってこと」
3人の談笑は朗らかで温かみが漂っていた。
1-D組。このクラスにはたまき、すみれ、かえでが所属している。たまきの隣に座るのはすみれ。すみれの3つ前に座るのはかえで。
たまき、手鏡を見ながら髪とメイクを見直している。もともと美容やオシャレに関心があり、中学時代の厳しめの校則から解放されて堂々と、見た目磨きに走っているのだ。
隣のすみれも同じようにメイクをしている。そばを通りかかる女子達は、少しすみれを怖そうに見ながら通り過ぎる。やはり、すみれはクラスメイト達から敬遠されがちだ。たまきがすみれを軽くじっと見ている。
「ねぇ、言いたいことあるの?」
「えっと。たまたまぼくと同じことしているから気になって」
たまきは基本的には明るくオープンなので、怖気づかずにすみれと会話が出来ている。すみれも、とっつきにくいタイプではあるけど、話しかければ普通に接してくれる。見た目と口調で損をしてはいるが…。
「珍しいね。男子が教室でメイクと髪いじるなんて」
「ぼくからすれば普通かなぁ。それより、よく1人でいるけど、このクラスあまり馴染めない感じ?」
「あまり、馴れ合うの好きじゃないから」
「ごめん。ぼく余計なこといっちゃったかも」
すみれ、たまきに視線を移し変え、制服のリボンを見つめる。
「男子でリボン。はじめて見た」
「すみれちゃんはネクタイ派なんだね」
「私のタイプ的には、そっちのほうがしっくり来るから」
「ぼくって、ネクタイのほうが似合う?」
「私に聞く意味ある?」
たまき、申し訳なさそうな表情で前を向く。
「そういえば、よく一緒にいる女の子とはどんな関係?」
「まりちゃんね。幼稚園からの幼馴染。2人揃ってまりたまって呼ばれてたんだ」
「もしかして、2人揃って幼稚園からずっとあんな感じ」
「そうだね」
「なんかね、2人とも雰囲気が幼いというか」
すみれ、軽く頷く。たまきはちょっぴりショックを受けた表情。
「そんな顔されても。別にバカにしている訳じゃないし」
彼女にとって、まりたまの仕草はどこか幼さがにじみ出ていて不思議に思えていた。
かえで、たまきとすみれの会話に入ってくる。
「ひんやりなすみれちゃんと、ほんわかなたまちゃん。なんか面白い組み合わせだね」
「急に何?」
すみれ、塩対応でかえでにリアクションする。
「タイプ違うのに意外と会話が弾んでいるから、気になっちゃって」
「私が冷たいなら、あなたは暑苦しい」
「意外とノリいいね」
たまきとかえでの笑い声。
すみれ、たまきの髪に視線を移す。
「なんか、たまちゃん。フェミニンな雰囲気あるよね」
「そう? 髪はママにパーマをかけてもらったんだ」
かえで、たまきの髪に軽く触れる。
「たまちゃんママって、もしかして美容師?」
たまき、首を縦に振る。たまきの母・麻紀絵は美容室を営んでいる。たまきはママっ子で、美容やファッションに関心があるのも母譲り。
近くにいる男子達が、たまきを見て嘲笑している。気づいたすみれが、男子達を薄っすらと睨みつける。




