第1話 六人六色の出会い(3)
翌日の1-D組は、前日と異なり荒れる兆しが漂いつつあった。
たまき、前日と同じように手鏡に映る自分を見る。男子2人がたまきに近づきならがら、からかってくる。男子の名前はそれぞれ、根橋玄斗と、陣野昂汰。
「たまちゃん、今日も色気づいてるね」
「今日もママに髪セットしてもらったんだろ?」
「ちょっと、いきなりどうしたの!?」
たまき、彼らから急に絡まれて、困惑した表情。
「たまちゃんって、明らかマザコンでしょ」
「まだ、男子の友達出来てないみたいだし」
玄斗と昂汰の笑い声。一部の女子達が、明らかに不機嫌そうな顔で彼らを見つめる。たまきに同情しているようだった。
たまき、ソワソワしながら目が潤んでくる。自分が否定されていると感じると、涙腺が緩んでしまうのだ。
「髪のセットとメイクは、ぼくがやってるから」
「そうガチになるなって」
2人は、たまきをいじり続ける。廊下を歩くまりなとみつばが偶然、たまき達の姿を目の当たりにする。まりなは急いで、教室に入ってくる。同じタイミングで、すみれが舌打ちをして男子達を睨みつける。
まりな、怒りながら玄斗と昂汰に接近する。
「たまちゃんをイジメないで!」
2人からすれば、野次馬が入ってきたように見えた。
「誰?」
「あのさ、近いんだけど…」
まりな、物理的な距離感に難あり。かなり接近するからだ。
「たまちゃん、何か悪いことしたの!?」
2人は面倒臭そうにまりなをあしらおうとする。
「いやいや、いじっていただけだって」
「まりちゃん、大丈夫だから」
たまきは、まりなの手を煩わせないように気を使おうとしている。
「大丈夫じゃないって!」
昔からまりなは、たまきに何かあるとすぐ駆けつけるくらい、心配してしまう。
「ねぇ、たまちゃんに謝って!」
2人は、まりなを見て爆笑する。耳の少し上から編んでおさげにした髪型を見ながらからかう。
「何、マジになってんの? 小学1年生みたいだな。」
「髪もママに結んでもらっているんだろ?」
まりな、泣きわめいて出ていく。
「まりちゃん!」
たまきの顔には涙が垂れて、少し怒った表情になっていく。自分だけでなく、まりながからかわれているのを見て許せないという思いが強いからだ。
玄斗と昂汰、まりなの振る舞いを見た後に、呆れ顔で舌打ちをする。
「何あいつ、キモ。冗談通じないなぁ」
「保護者みたいで、痛い」
たまきは、悔しさあまりに声が震える。
「どうして、まりちゃんをそこまで…」
すみれ、机を強く叩き、立ち上がり怒りを露わにする。
「いい加減にしなさいよ! あんた達恥ずかしくないの!?」
周囲は、すみれの凍てつくような大きな声に、圧倒される。玄斗と昂汰は寒そうに体を震わせる。
「あの子に言われて懲りないなんて。マジ終わってる」
「すみれちゃん、ぼくもう大丈夫だから」
「その顔で大丈夫って、おかしいでしょ!」
かえで、愉快げに割り込んでくる。
「ほらほらみんな仲良く」
すみれ、ため息を付きながら、少し落ち着く。
「空気読みなって」
たまき、ホッとする。
かえで、玄斗と昂汰に愉快げにボディタッチ。
「からかうなら、がさつなかえでちゃんが相手してあげるよ」
「たまちゃん、ごめんごめん」
すみれの凍てつく怒りと、かえでの快活さに2人は負けを認めたかのような顔をして、たまき達から離れる。ヒソヒソとすみれとかえでの愚痴をこぼし合う。
「やっぱ寺本って怖いよな」
「寒気というか吹雪浴びた気分だわ」
「逆に滝川は、蒸し暑くて面倒臭え」
かえで、慰めながらたまきの頭を軽く撫でる。
久哉、廊下からさり気なく、たまき達を眺めている。教室から出てくるすみれと会う。
「あれがたまちゃんねぇ。案外かわいいじゃん」
「随分、気楽でいいわね。こっちがどれだけ荒れてたかわかる?」
「見てたぜ。すみれがあそこまでムキになってたのを」
「胸糞悪かったから」
「すみれのいいところだと思うぜ」
久哉、B組の方向へ歩いていく。
「何あれ? 褒めてるつもり?」
みつばは渡り廊下で、まりなの背中を擦って慰めていた。まりなは相変わらず泣きっぱなし。
「まりなが余計なこと言ったせいで、たまちゃんが」
「悪いのは、バカな男子達だって。まりちゃんはちゃんと立ち向かっていたから偉いよ」
「でも、どうしよう…」
「もう、さすがに自分責め過ぎだって」
「ねぇ」
さりげなく、まりなとみつばの隣に神出鬼没のように現れたのはすみれ。
ついでに、かえでもいる。
「かえでちゃんもいまーす!」
オーバーリアクションをするみつばと、動揺するまりな。
「うわぁ! びっくりした!」
「すみれちゃん!? かえでちゃんも!?」
かえで、笑顔でまりなを慰める。
「まりちゃん、大丈夫? スマイルスマイル」
まりな、すみれの顔を至近距離で凝視する。
「近い」
「ごめん。よく言われちゃうけどなかなか治らなくて」
「あなたとたまちゃん。まるで双子みたい。繊細ですぐ泣いちゃうし」
すみれ、真剣な眼差しでまりなを見つめる。
「どうしたの?」
「たまちゃんのために、なんであそこまで泣けるの?」
「だって、幼稚園の時からの友達だから」
まりなとすみれが真剣な話をしている脇で、みつばはかえでに絡まれている。
「みっちゃん、元気だった?」
「ここまで能天気な子、初めて。不真面目に見えてくる」
「まりちゃんと友達だなんて早く言ってよ~」
「1人は涙もろい、1人は暑苦しい、1人は何というか肌寒い」
みつばは、まりな、かえで、すみれをそれぞれ形容詞に例えた。すみれ、みつばとかえでの声が少し鬱陶しく感じていた。
「そこの2人うるさい」
みつば、かえでから一方的に絡まれていたので、すみれに指摘されて若干不服に感じる。
「えっ! 私も?」
賑やかさがあったことで、まりなも徐々に泣き止んでいく。
「それより、ありがとう。まりなの代わりに、男の子達からたまちゃんを守ってくれて」
「あれは、我慢できなかったからブチ切れただけ。流石にたまちゃんのママが聞いたら悲しくなりそうだと思って」
「それでも、ありがとう」
すみれ、まりな達に背中を向けて帰っていく。お礼を言われ慣れていないせいか、どう思っていいのかわからなかった。まりなもすみれをの姿を見て、憧れを抱きつつ、もっと距離を縮めたいとも思うようになる。
その傍らで、すみれが若干いけ好かないと感じるみつば。
「何あの子。もしかして?」
まりなとみつば、顔を合わせる。
「剣崎くんが言ってた無愛想な子って、すみれちゃんかも」
外のベンチで、情けなさそうにシャボン玉を吹くたまきの姿があった。シャボン玉遊びはたまきの昔からの趣味であり、息抜きとしてもよくやっている。1人で遊ぶこともあれば、まりなと一緒に遊ぶこともあった。
「すみれちゃんって、格好いいなぁ。それに比べてぼくは…」
シャボン玉が、たまたま通りかかる久哉に当たる。
たまき、久哉に近づいて謝る。
「ごめんごめん」
久哉は、薄ら笑顔で返す。やはり、たまきに興味津々だ。
「楽しそうじゃん」
「そんなことないって」
「それより、すみれに守られてどうだった?」
「自分が情けないなぁって」
「俺はそう思わないな。すみれはもともと我が強いから、あれが普通」
たまきは、久哉の言葉を聞いて、彼とすみれについて強く興味を示している。
「もしかして、すみれちゃんと」
「小学校からの付き合い。あ、俺。剣崎久哉」
「久哉くんとすみれちゃん。ぼくとまりちゃんみたい」
「羨ましいな。高校生になっても、ちびっ子みたいにじゃれ合う仲ってのも」
久哉に映るまりたまの印象は、幼気が依然として残る純真無垢な子どものようだ。
「流石に、すみれちゃんはそういう子じゃないもんね」
「あいつは愛想悪いし。群れるの苦手で、口下手だからな」
「確かにそうだけど、まとめ役は向いているって思うんだよね」
「ま、頼りにはなるというか、勝手にみんながついてくるタイプだな」
「久哉くんも、まとめ役って感じがする。自分で動くより、誰かを動かすようなタイプかな」
「たまちゃんって、面白いね。意外と人を見ているからさ」
「からかっている訳じゃないよね…」
「そういう純粋なところ俺はいいと思うよ。逆にそこをからかうなんて俺には出来ないな」
「久哉くんとかすみれちゃんみたいに堂々とできればなぁ」
「もしかして、すみれのこと気になる?」
たまき、軽く首を振る。
「モノ好きだな」
たまき、久哉の言葉に一瞬疑問を抱くも、表情は少し和らぐ。
「たまちゃんは、俺にとっては癒し系キャラだな。そのうちみんなも同じように思う」
「癒し系か。あまり考えたことがなかったかも」
たまきは、久哉との会話を通じ、高校で初めての男子友達を得た。




