第9話 もどかしさが塵積って(1)
文化祭が終わってから数日後、多目的教室には久哉、航琉、真裕の3人で会話をしていた。3人とも、どこかやる気が起きないような感じであった。
「すみれどころか他の5人も気まずいんだろうなぁ。俺としても何だかやりづらいっていうか」
「他の5人って。のんちゃんは?」
「あいつ、クラスでは意外とボッチじゃないぜ。すみれや一部の女子は口を聞きたがらないけど、玄斗と昂汰とは何気に絡んでいるな」
航琉が話していると、うららが若干浮かない様子で入ってくる。
「うららちゃん、大丈夫? こんな状況で」
「確かに複雑。すみれが抜けた状態でも、のんちゃんが入りたいって言うから、私も頑張らないといけない気がして…」
「幸田さん。無理はするな」
「勿論、あなた達3人に嫌な思いをさせていないかが心配」
しっかり者なうららにとっては、他のみんながとにかく心配だった。
「僕らは大丈夫。あとは…」
まりな、みつば、かのんが入ってくる。まりなとみつばは真顔で、のんは明るく振る舞っている。
「あれ? たまちゃんは?」
まりな、かなり心配そうな表情をしながら教室を見渡した。久哉が若干元気なさそうに答える。
「見ての通り、来ていないぜ」
「どうしたのかなぁ。もしかして、すみれちゃんが抜けるって言ったから」
「まりちゃん、心配しないで。たまちゃんは別に抜けると入っていないから。でも、今日はすみれと一緒に帰っちゃったみたい」
心配の表情が顔に出ているうららを見て、まりなも余計不安になる。
航琉、かえでが来ていないことに気づく。
「それより、かえでは?」
久哉、うらら、真裕も改めて気づく。みつばが答えた。
「学校には来ているけど、すみれちゃんにキツく当たられて、抜けられちゃったことがかなり辛くてしばらく出られないみたい」
「のんがかえでちゃんの代わりに頑張るから! みんなよろしくね!」
かのんは、至ってポジティブだった。まりな達は、あまりにもポジティブなかのんを見て不思議に思う。
「のんちゃん。すみれちゃんに声かけても、冷たい態度のままだけど、本当に大丈夫?」
まりなが心配すると、かのんは真顔に変わる。
「本当はもっと、お喋りしたいのに。だって、みんなと上手くいけるのに、どうしてのんだけって思っちゃって」
久哉と航琉、のんを気の毒に思う。
「すみれ。本当はちゃんと人を見ようとするところがあるけど、のんちゃんの振る舞いが気に入らなくて、あのような態度のままなんだろうな」
「のんが頑張っていることは、わかっている」
「久哉くん、わたさん。ありがとう。のん、かえでちゃんが復活するの待っているから。勿論たまちゃんとすみれちゃんにも戻ってきて欲しい」
女子3人、かのんの言葉に胸を打たれる。
「多分、かえでちゃんのことだから、きっと戻ってくるって。かえでちゃんだって、すみれのことを心配しているはずだから」
うららは、かえでとすみれを信じていた。
「私、すみれちゃんにウンザリしていたけど、のんちゃんを見ていたら、冷静さを失っていた自分がバカになってくるね」
みつば、かのんの純粋さが伝わり、すみれへの怒りが和らぐ。
「かえでちゃんは大丈夫だってまりなも信じる。でも、たまちゃんとすみれちゃん、大丈夫かな?」
まりなには大体想像がついている。たまきがかのんと距離が縮まりそうだったので、それを快く思わないすみれからの嫌われるのを恐れている可能性があるからだ。
たまきはすみれと、柏駅東口にある"柏二番街商店会"というアーケード街でデートをしている。たまきは明るく振る舞いながら、すみれに接している。
「たまには、ぼく達2人で、好きなことやりたい放題っていうのもありかも」
すみれは、虚無感が募っている。
「よくわからないけど、何もやる気が起きない。と言うか、何も面白く感じない。なんで今日は私を選んだの? グループを捨てて」
「ぼく、すみれちゃんが抜けると、グループにメリハリが無くなる気がして。いる意味が無くなると思うんだよね」
「私がいなきゃ何も出来ないみたいな言い方されると困るんだけど」
「本当はすみれちゃんにいて欲しいと思っているんだ。みんなも同じ考えだから」
「でも、みんな私じゃなくてのんの肩を持っていたけど?」
「それは、のんちゃんのことは迎え入れたいって思っていたから。すみれちゃんにもそれをわかって欲しくて」
「同じクラスだからわかる。のんの振る舞いは私が一番知っているから。鬱陶しいし、空気読めないし、自分勝手でムードブレイカーなのよ」
「わたさんは、そんな風に思っていないみたいだよ。結構頑張っているって。まりちゃん達もそう言っていた」
「たまちゃん、私とのんだったらどっちを取る? 私だからここに来たんじゃないの?」
たまきは回答に詰まる。
「ねぇ、のんちゃんと2人きりでお喋りする機会を作ったほうが良いと思うんだけど、どう?」
「だから、私がのんと会話が弾む訳がないって。見てわかるでしょ。たまちゃんだって、最初は私の味方してくれたじゃない」
何故かすみれは頑なに意地を張る。それに、優柔不断気味なたまきを内心、懸念している。
「みんな心配しているよ。のんちゃんも」
「えっ? まさか、のんも?」
「まりちゃんとうららちゃん。すみれちゃんが、かえでちゃんとみっちゃんと気まずい関係になってから、かなり落ち込んじゃったくらいだし」
「うららとまりなのことだから、きっとそうなるでしょ。みつばはどうせ、もともと私の態度が気に入らないって感じることがあったし。でも…」
すみれ、かえでのショックな顔を思い出す。
「かえでがあそこまで落ち込んじゃうのは、初めて見たかも」
内心、かえでには悪いことをしちゃったと思っている。みつばに対してもだった。
「それは、みんなそう。かえでちゃん、文化祭終わってから、会っていないんだよね」
「考えてみれば、うららとも話していなかった。まずはうららと話す。その後に他の3人。のんは他の子達が終わってから」
「ありがとう。10人揃えば十人十色になるから、みんなで距離を縮められると良いかも」
「一応勘違いしないで欲しいんだけど、のんと距離を縮めたいからじゃないから。のんと関わって本当に問題ないか確かめるためにやるの。お願い、私の味方になって。そして、のんのことは常に疑って」
たまきは、中立な立場を取ろうとしていた。すみれとみんなが分かち合うために。しかしすみれとしては、自分にとってのメリットとみんなにとってのメリットを知るためである。




