第8話 赤が入って乱れ始める(6)
一方の多目的教室では、男子3人が雪女衣装のすみれを見ながら気まずい表情をしている。すみれは、3人に接近するように詰める。
「あんた達! これじゃ、のんに乗っ取られているようなものでしょ!?」
「そう言うなって。もう少し、のんちゃんのことわかってやってやれよ」
「俺にはわかる。のんは無邪気だ。おふざけじゃなくて、ドッキリやサプライズとして受け取れば問題ないはず」
「久哉もわたさんも、のんの肩を持つなんて」
「僕の考えを言うと、のんちゃんが入れば今まで以上に、鮮やかというか華やかな感じが出る気がするんだ」
「真裕くんまで…」
「すみれ。今日は文化祭なんだから、みんなで楽しくしようぜ」
「私は、全然楽しくないんだけど。まるで、みんなに裏切られたみたい…」
「そもそも、無愛想なすみれが、楽しく感じる時ってあるのか?」
「うるさい! わたさんには言われたくないんだけど!」
たまきとうららが、教室に入ってくる。すみれは怒り気味に2人を問い詰める。
「2人とも、楽しかった?」
たまき、若干怖そうだった。うららと2人で頭を下げる。
「ごめんなさい。ぼくの心が弱いせいで」
「ごめんなさい。私もたまちゃんも知らなかった。でも、楽しかったわ。のんちゃんと親睦を深められて」
「それより、のんを含めたあの4人。私を弄ぶなんていい度胸じゃない」
「すみれ、いい加減にしろって。大人げないぞ」
「久哉、あんたは悔しくないの? 転校してきて間もない子に好き放題やられて」
「すみれ。向こうの意見もちゃんと聞こうぜ」
航琉も諭そうとする。そのタイミングでまりな、みつば、かえでが入ってくる。すみれは依然として怒ったまま、3人を睨みつける。
まりな達3人はすみれの表情を怖そうに見ている。
「あんた達も、のんの共犯だなんて…」
まりな達は声を揃えて謝る。
「ごめんなさい」
「どうやらみんな、私よりものんが良いみたいね」
怯えるまりな達。かのんが後から入ってくる。
「すみれちゃん? 怒っているの?」
「見ればわかるでしょ。あんた、どういう神経しているの?」
かのんが、真剣な表情になる。
「すみれちゃん、ごめんなさい。のん、去年の文化祭の時から、楽しそうだと思って、かえでちゃん達とエンジョイしたくて。でも、すみれちゃんが怖くてなかなか言えなかったの」
まりなとたまき、各々描いていたかのんの似顔絵を取り出す。2人とも、赤いオーラを纏ったかのんを描いている。
「まりな、この前描いてみて、のんちゃんやみんなに見せたかったから」
「ぼくもさっき、描いてみたんだ。すみれちゃん、ぼくからもお願い」
2人とも、絵をみんなに見せた後に、すみれに向ける。しかし、すみれは絵を振り払う。
「みんな、私の考えは無視なの? のんみたいな自分勝手に振る舞う子がグループにいて悪い影響与えないか考えたことある?」
2人とも、悲しい表情。とくにまりなは泣きそうだ。久哉、すみれに鋭くツッコむ。
「すみれ、人のこと言えないだろ。変わり者の集まりなんだから、俺としては
のんちゃんはありだ」
かのん、すみれ以外から受け入れられそうで安心している。
うららとみつば、お願いする。
「すみれ。時間をかければ、打ち解けるかもしれないから。無理はしないで」
「確かに、のんちゃんはやんちゃでやかましいって思うかもしれないけど、愛嬌はあるから」
「私は、全くそんなこと感じないんだけど…」
更に重々しい空気になる。そんな中で、かえでとかのんは、お互い顔を合わせて、頷く。かえで、すみれとかのんの手をつなぎ合わせ、その上に自分の手を置く。
「何の真似?」
「ねね。のんちゃんの手。温かいでしょ! だからみんなで温かく迎え入れようよ!」
「のんが入れば、かえでちゃんと2人でもーっと、盛り上げるから!」
すみれ、2人の手を振り払うように、強く弾く。みんな、すみれの逆鱗に触れたかのような反動で、唖然とした表情。
「かえで。あんたもそこまでバカだとは思わなかった。しつこいのよ! そこまでして、私とのんのことを引き合わせようとするなんて、超迷惑!」
かえでとかのん、笑顔が消える。
「どうしてのんちゃんのこと、認めてくれないの?」
「みんなは、のんのこと迎え入れようとしてくれたのに」
みつば、怒りながら割り込んでくる。
「のんちゃんを見ていると。すみれちゃんと噛み合わなかった頃の私と重なっちゃう。だから、のんちゃんを悪く言うのは許せない!」
「のん、かえで、みつば。あんた達のせいで、私のムード台無し」
「ごめんなさい。まりなも知っていて…」
「どうして、のんなんかのために…。理解できない…」
すみれにとって、みんながかのんを迎え入れる理由が未だに納得がいかない。
すみれ、みんなを見渡し、答えを出す。
「わかった。それなら話は簡単。私が抜ける」
みんなは目を丸くして動揺する。
「待って、すみれちゃん! 辞めないで、そうじゃないとぼく」
「まりなも。お願いだから」
「あんた達が、わたしよりのんを選んだ結果がこれ。この学校だと一番の新入りな癖に、転校して早速、クラスやこのグループまで私物化しようとしているのが気に入らないの!」
「酷い! のんは、まりちゃんやかえでちゃん、みっちゃんとエンジョイしたくて転校してきたのに…」
「あんた、クラスで浮いてボッチになっているんだから、少しは落ち着いたら?」
「のんはボッチじゃないもん!」
かのんはすねたポーズをしながら、怒る。
「俺はのんが入るの歓迎する。クラスメトとして」
「僕も。なんだかんだ、一番自分のことを知っているはのんちゃんだから。案外助かるかも」
「わたさんと真裕くんまで、のんの肩を持つなんて。私の負けってことで」
すみれ、背を向けて教室を出ていく。
「ぼく、すみれちゃんが心配」
「まりなも」
「私も」
たまき、まりな、うららがすみれを追いかけようとするが、久哉が止める。
「今はやめとけって。あいつも頭を冷やさないとダメだな」
「でも、ぼくは付き合っているし」
「たまちゃん。心配するな」
「でも…」
教室から泣く声がする。泣いているのはかえでだった。
「かえでちゃんには、わかんない。すみれちゃんがあそこまで、のんちゃんに冷たくキツくあたるのが」
この光景はみんなにとって衝撃的だった。いつも明るく賑やかなかえでがあそこまで泣くことは想像できなった。そんな、かえで自身も、あまりのショックで立ち直るのが難しい状況である。
「私、のんちゃんに着くから。流石に今のすみれちゃん、見てられない」
みつばも泣き顔になり、すみれの態度に憤りを湧かせている。
「ごめん。私がみんなのことを、守れなくて」
うららも、微かに涙を流す。
「のんちゃんと入れ替わりで、すみれがいなかったら、私は何のためにいるのかがわからない」
「うららちゃん。すみれのことはそっとしておいてやれよ」
「ダメなのはまりな。説得できなかった…」
まりなも、激しく泣いてしまう。
「まりちゃん。ぼくも力になれなくてごめん」
たまきも、同様にすすり泣く。
「どうしよう…。 ぼく、ここにいる意味あるのかな? すみれちゃん抜けちゃって」
「たまちゃんも抜けたら…。 まりなは嫌」
かのんは、泣いている5人(まりな、たまき、みつば、かえで、うらら)を心配する。
「みんな、ごめん。もしかして、のんが悪い?」
久哉、航琉、真裕、かのんに近付く。
「のんちゃん、心配するなって。俺達はのんちゃんのおかげで楽しめた。のはずなんだけどな…」
「結局、あいつも一匹狼みたいなものだし。今はのんを迎えてやろうぜ」
「今はそれしかないかな」
航琉と真裕が言い出すと、かのんは迎え入れられて、笑顔になる。
「やったぁ。でも今の感じだと、みんな…」
かのんの笑顔は一瞬だった。みんな、すみれには抜けてほしくなかったからだ。10人揃えば、個性豊かな楽しいグループになると思っていたため、この展開は想定外であった。




