第8話 赤が入って乱れ始める(3)
たまきとすみれ、柏の葉アクアテラスのベンチに隣り合って座る。
「良かった。たまちゃんが私の味方で」
たまき、嬉しい表情をする。とは言え、内心は複雑。まりなに言われた言葉が耳に残っているためだった。
「どうしてかわからないけど、なぜかぼくものんちゃんのことを良く思っていなくて。でも、まりちゃんと真裕くんに言われたんだ。思い込みが激し過ぎるって」
「たまちゃん、優柔不断なところがあるのよね。でも、今の私をわかってくれるのはたまちゃんだけだから」
「因みにだけど、のんちゃんってクラスのみんなから嫌われているの?」
「基本的に、女子はみんなウザいって思っているのはわかる」
「確か、わたさんと玄斗くんと昂汰くんは、意外と悪くないって言っていたんだよね」
「男子受けが良いだけ。わかりやすいでしょ。男子にモテモテなキャラを装っているの」
「確かに。ぼくの周りにそういうタイプの女の子いなかったからなぁ。ぼくはあのようなタイプ初めてだから」
「のんって、原宿の私立高校に通っていたみたい。でも、どうしてここに転校してきたかなんとなく察しが付くの」
「もしかして、原宿だと自分よりモテるライバルが多いから?」
「多分、競争に負けた落ちこぼれで、柏まで逃げてきたってことじゃない?」
「ちょっと、それは違うよ」
まりなが、突如現れる。
たまきとすみれ、目を丸くする。
「まりちゃん!?」
「まりな? どうしてここに?」
「2人とも、のんちゃんのこと話していそうだから、気になって…」
「まりちゃん。かえでちゃんとみっちゃんもなんだけど。そこまで、のんちゃんに対して、快く受け入れられる理由って?」
「のんちゃんにとって、まりなとかえでちゃんとみっちゃんは恩人みたい」
「恩人?」
たまきとすみれ、経緯を知りたがっている。
「去年の文化祭の時、元カレと一緒に来る予定だったけど、サイレントでドタキャンされちゃったみたいで…」
「あのキャラだから、仕方ないでしょ?」
「そう言いたいのはわかるけど…」
遡ること1年。かえでが廊下を歩いていると、かのんの姿が見える。その時は、夏の制服姿で、ツーサイドアップのヘアスタイル、赤いスクールバッグを背負っており、どこか浮かない表情をしていた。
「どうしたの?」
文化祭という楽しいイベントであり、そのような顔をしていたかのんを見て、かえではためらわず声をかける。
「誰かと一緒に来てたの?」
「彼氏と来る予定だったけど、バックレられちゃって…」
「酷いね。そしたら、かえでちゃんが暫く付き合ってあげるね。あ、名前聞いても良いかな?」
「あずさわかのん。昔から、のんって呼ばれているんだよね」
「じゃ、のんちゃん! 今日は色々と楽しんでいって!」
「かえでちゃん…。ありがとう」
1-B組の教室で、まりなとみつばが店番をしているところに、かえでとかのんがやって来る。
「1名、来店!」
「縁日?」
かのんは、教室を見渡していた。さり気なく、クーラーボックスに目が行く。
「あれは、かき氷のアイス」
「いちごってある?」
かのんが答えると、まりなはいちご味を取り出し、かのんに渡す。その傍らで、みつばが常温のお茶を持ってきた。
「こういう時は、冷たい飲み物より、常温の方が良さそう。体が冷え過ぎると良くないしね」
かのん、急に機嫌が良くなり満面の笑みになる。
「ありがとー!」
「今日はかえでちゃんが、のんちゃんにおごってあげるね!」
「のんちゃんって言うのね。私はみつば。よく、みっちゃんって呼ばれるの」
「私はまりな。まりちゃんってよく呼ばれるかなぁ。よろしくね、のんちゃん」
かのん、まりなとみつばに名刺のようなカードを渡す。
「この苗字、あずさわ読むんだね」
かえでが、興味津々に口に出す。
「私、初めて聞いた苗字」
「まりなも。のんちゃんって、まるで不思議で面白い子」
「良かったぁ! のん、青葉高に入りたくなってきたかも」
「ねね。後から体育館で、お笑いコントやるから、見に来て!」
「うん、いくいく!」
まりなとみつばも、微笑ましく、かのんを見守っている。
すみれ、まりなからの話を聞くも、表面上あまり動じていなかった。ただ、たまきは少し動じてしまう。
「そっか。のんちゃんにも色々合ったんだね」
「つまり、同情や共感をして欲しいってこと?」
すみれ、未だに認められない。
「えっと。すみれちゃんはクラスメイトだから、のんちゃんのこと知っていると、少しずつ距離を縮めるチャンスだと思って」
「仲良くなれって言いたいの?」
「だって、まりなにとって、すみれちゃんものんちゃんも大事だもん。かえでちゃんとみっちゃんだって同じ考えだもん」
「去年の文化祭で1回会ったきりで、仲良くなって友達だと思い込むなんて。あんた達、頭悪過ぎるんだけど」
「すみれちゃん。流石に言い過ぎだと思うよ。確かに、のんちゃんの振る舞いはぼくも良くないと思うけど…」
「たまちゃん。私の味方じゃないの?」
「味方だよ。でも、のんちゃんのことを敵だって思うのは違うと思って」
「もう、取り敢えず。のんの話題を出さないで!」
すみれ、自転車に乗って帰っていく。
まりなもたまきも、すみれを怒らせたと思い落ち込んでしまう。まりな、たまきの隣りに座る。
「まりちゃんって、そこまで往生際が悪かったっけ?」
「まりなもみっちゃんもかえでちゃんも。のんちゃんのことを温かく迎えたくて、みんなに協力して欲しいと思っていたの」
「気持ちはわかるよ。まりちゃんもわかると思うけど、のんちゃんの振る舞いって、わがままで迷惑をかけているような気がして」
「のんちゃん、好奇心旺盛なところがあって。始業式の日にまりなとみっちゃんとかえでちゃんとのんちゃんの4人で、校内を回ったり、ショッピングセンターで遊んだりしたから」
たまき、雁字搦めにされたような気分で空を見上げる。
「どうしよう。これだと、まりちゃん達だけじゃなくて、ぼくまで板挟みになっちゃう」
「ちょっと、すみれちゃんのことで気になったことがあるの」
「何?」
「さっき、たまちゃんが迷ったり悩んだりしている時に、すみれちゃんは自分の考えを押して、詰めていたでしょ?」
「それは、そうなるでしょ。すみれちゃんからしたら、のんちゃんのことを良く思っていないから」
「たまちゃんは辛くないの?」
「辛いけど。すみれちゃんと付き合っている以上、見捨てられなくて…」
「そう言う時は、まりなを頼って」
「流石に無理だって。まりちゃんも辛そうだし」
まりな、辛くて泣きそうになる。たまきも、もらい泣きしそうだった。
「そこの2人。落ち込んでいちゃダメだぞ」
久哉の声がした。
2人は、久哉、うらら、航琉、真裕の姿を目にする。
「多分、すみれとのんちゃんのことで悩んでいたと思うけど。そんなに落ち込まないで」
「みんな…」
うららから慰めの言葉を受け、まりなとたまきは、口を揃える。
「今みっちゃんとかえでちゃんが、のんちゃんと一緒に文化祭に向けて色々と考えているみたい」
「のんちゃん、やんちゃでわがままなところはあるけど、悪い子じゃないから。正直、僕のこと覚えてくれていたのは嬉しかった」
「真裕から嬉しいって言葉が出るとは意外だな」
航琉が言うと、みんな、くすりと笑う。たまきは、あることを思いつく。
「そう言えば、ちょっと前にみんなで、イメージカラーが赤の子がいると良いよねって話をしていたの覚えている?」
真裕は初耳だった。というのも、いろどりいいとこどりに入る前の話だったためである。
「僕は多分初めて聞いたかも。もしかして、赤のイメージがする子を探していたってことだよね」
6人揃って首を縦に振る。
「因みに、まりなも、みっちゃんとかえでちゃんとはこの前、同じ話をしたんだけど、2人とも同じように思っていたよ」
「つまり、赤はのんちゃんってことだな」
久哉、ポロッと答えを出す。
「あらま。言っちゃった」
うららのリアクションで、場は少し和む。




