第8話 赤が入って乱れ始める(1)
まりな、みつば、かえでがD組の教室に入ってくる。3人は声を揃えて、名前を呼ぶ。
「のんちゃん!」
「かえでちゃん、みっちゃん、まりちゃん」
かのんは、まりな達に駆け寄ってくる。
「すみれちゃん、何かあったの?」
みつばに問われるすみれ。
「この子、文化祭の準備手伝う気がなくて注意したら、転校してきたばかりだから楽しむ専門で良いでしょって言い出したの! おふざけにも程がある」
かえで、かのんを優しく指摘する。
「のんちゃんね。文化祭はみんなで準備して、みんなで仕事をするから楽しいって感じるんだよ」
「ごめんなさい。のんが間違っていたかも」
かのんは素直に謝る。
「のんちゃんが悪い子じゃないって、まりなは信じているよ」
「確かにのんちゃんの言い方だと、人によっては怒るかもしれないから注意してね」
まりなとみつばにも諭され、その場は丸く収まる。と思いきや、すみれとしてはまだ、腹の虫がおさまらない。
「それだけじゃない。始業式の日から調子に乗っているし」
日は遡り、2学期始まりの日のD組の教室。担任の沖浦豪太が、赤いスクールバッグをリュックのように背負ったかのんを連れて教室に入ってくる。
「はい、皆さん。このクラスに新しい仲間が加わります。じゃ、小豆沢さん。自己紹介をお願い」
かのん、黒板に自分の名前をふりがなをつけながら書く。補足で、「のんか、のんちゃんって呼んでね♡」の文字。そして、ほっぺに指を当てながら自己紹介をする。
「はじめましてー! 小豆沢かのんこと、のんちゃんでーす! のんの呼び方はちゃん付けても、付けなくても大丈夫だよん!」
一部の女子達はドン引きした表情をしながら、ひそひそ話す。
「何あの子。自分大好き人間丸出し」
「痛いんだけど」
一部の男子達は少し興味がある。その中には玄斗と昂汰もいる。
「おい、昂汰。のんちゃん、結構かわいくね?」
「わかる。クラスに華があるやついなかったらから丁度良かった。な、わたさん」
昂汰が、かのんを真剣に見ている航琉に問いかける。
「そうだな。見た目はOKだ。ただ、中身はかえでのようにやかましいな」
玄斗、航琉の表現に思わず笑ってしまう。
「わたさん、今の表現マジで受ける」
釣られて、昂汰と他の男子も笑ってしまう。
「色に例えるなら、赤かもな」
一方のすみれは、窓から外の景色を眺めている。航琉がすみれに声をかける。
「外が気になるのか?」
「別に」
「新しいクラスメイトが増えたから、少しは興味を持ったらどうだ?」
航琉はわかっていた。すみれが、かのんのことを、幼くてやかましいキャラだと思い、顔を背けていたことを。
「ま、私に絡んで来るとは思えないけど。無愛想だし」
「ねね、さっきから外向いていたけど? のんのこと嫌い?」
すみれが、振り向くとかのんの姿。航琉、ボーッと興味津々に2人を眺めている。
「何? あなた、初対面の相手にも、そんな感じで絡むの?」
かのん、首を縦に振る。
「そうだよ。のんは、人見知りしないもーん」
すみれ、立ち上がり、教室を出ていく。
「ごめん。私、ちょっとお腹痛いからトイレ行ってくる」
かのん、真顔になる。
「のんのこと嫌いなのかも?」
「心配するな。もともとすみれは、あんな奴だ」
「すみれちゃんって名前だったね。確か去年の文化祭で、雪女みたいな格好していた子だよね」
「のんは、去年の文化祭に来ていたのか?」
「うん。そこで3人の女の子と仲良くなって。ステージのお笑い見て」
「もしかして。かえでとみつばとまりなだったりして?」
「ピンポーン!」
「そっか。あいつらはF組だから、後で会いに行ってきな」
「もしかして、3人と仲良いの?」
「まあな。同じサークルだ。一応俺は2年になって入った」
「それより、名前教えて」
かのんは航琉に名前を聞く。
「俺か。寒河江航琉。みんなからは"わたさん"って呼ばれている」
「わたさんね。無表情だけど、なんか面白いかも」
こうしてかのんは、すみれと航琉と知り合っていくのであった。
真裕が、様子を見に来る。D組での8人揃い踏みの光景を見て、少し新鮮に売っている。
「みんな、どうしたの?」
真裕とかのん。お互い顔を眺め合う。
「やっぱり。のんちゃんだったんだ」
「あれ? のんの知っている子?」
「多分僕、パッとしない感じになっちゃったからわからないかも。工藤真裕だけど覚えている?」
のん、真裕に接近して、思い出す。
「まーひーっ!? まさか、この学校だったなんて!?」
「まーひー?」
みんなは、真裕にあだ名があることを初めて知る。
「ちょっと、その呼び方。こんなところで…」
真裕は、顔を赤らめてしまう。まりな、2人の間に入る。
「もしかして、2人とも同じ学校だったの?」
「そう。のんちゃんとは小中一緒だったんだ」
「小学校の頃は、目立っていたのにね」
すみれ以外、かのんの言葉に反応する。
「嘘っ!?」
まりな、たまき、みつば、かえで、うららが思わず動揺する。
「マジ!?」
久哉と航琉も、釣られて動揺する。
「まーひーの話、聞きたい?」
「聞きたい聞きたい」
かのんが真裕の話をしようとすると、かえでは興味津々。
「でも、真裕くんが嫌がらない程度にしないとダメだよ」
みつば、かのんの自由気ままな振る舞いを懸念している。
「はーい。じゃ、行こう行こう」
かのん、まりな、みつば、かえでと一緒にその場を離れる。
「あれ? 真裕くんも来たほうが良いんじゃない?」
まりなに問われ、真裕も移動する。
すみれ、イラつきながら自分の席に座る。
「何よ、あの小娘!? 生意気だし精神年齢幼いし。まさか、あの3人と知り合っていたなんて」
「もっと以外なのは、真裕くんと小中学校一緒だったことかも。それにしても、厄介な子が現れたね」
うらら、冷静に振る舞うものの、若干今後を危ぶむような素振りをしている。
「それにしても、まーひーって呼び方は面白いな」
久哉、真裕のあだ名"まーひー"がツボで笑ってしまっている。
「久哉、笑い過ぎだ。ん? どうした、たまき?」
航琉、たまきが真顔かつ機嫌が良くないことを察知している。
「ぼく、なんか好きになれないかも。のんちゃんのこと」
「どうして?」
「だって、すみれちゃんのこと、モテないって言っていたもん!」
うららが問う。
「まぁ、たまちゃん。カリカリするなって!」
久哉、たまきを落ち着かせようとする。
「まりちゃん達が、あんな子と仲が良いなんて。信じられない」
「流石に、うちのサークルに入りたいって言い出したらどうする?」
うらら、4人に問いかける。
「俺は別に良いけど。のんちゃん次第だな」
「俺も。かえでみたいなのが1人増えるくらいだしな」
久哉と航琉にとっては、そこまで大したことではない。
うらら、かのんを少し高く評価する。
「そうね。かえでちゃんみたいににぎやかそうで、みっちゃんみたいにオーバーリアクション、まりちゃんみたいにどこか幼げがあって、すみれみたいに我が強い感じ。面白いと言えば面白かも」
すみれ、うららを軽く睨む。
「うらら。私の前でそんなことよく言えるわね」
うらら、少し怖気づいて謝る。
「ごめん。悪気はないの。でも、みんなにとって良い方向になれば良いと思って」
「すみれ、よせ。うららちゃんを責めるなって」
「ごめん。少しムキになりすぎちゃった…」
すみれ、うららに謝る。
「別にうららちゃんは悪くないよ。でも、ぼくはのんちゃんと関わりたくないかも」
「それは、すみれをバカにされたからか?」
「すみれちゃんだけじゃないよ。真裕くんのこともからかっていて、困らせていたもん」
航琉に問われると、すみれだけでなく真裕の件も含めて、気分が悪くなっている。
「良かった。たまちゃんが、比較的まともで助かった」
すみれ、たまきに感謝する。たまきはデレデレになる。
「そう? なんか嬉しいかも」
久哉、うらら、航琉、2人から少し離れ、ひそひそと話す。
「俺の勘だけどさ。多分仲間割れしそうな気がする。かえで達がのんちゃんと仲良いから」
「私も心配。あの感じだと、まりたまコンビも終わっちゃいそうだし」
「俺達は中立で行こう。何か合った時は幸田さん、みんなのフォローを頼む」
うらら、航琉にフォローを委ねられて圧を感じる。だが、心を決める。
「勿論。すみれ、のんちゃん、かえでちゃん、みっちゃん、まりちゃん、たまちゃん。みんな私が支えられるように頑張ってみる」
「まーひー忘れてない?」
久哉に、真裕の名前が抜けていたことを突っ込まれる。
「そうね」
そして、3人の予想していた懸念点が徐々にまりなやたまき達を襲うことになる。




