第6話 微かに感じる影と刺激(3)
多目的教室内の前方のドアにすみれ、後方のドアに航琉が、外から見えないように軽く膝を曲げて立っている。他の6人は、2人を少しおかしく見ている。
「すみれちゃんも、わたさんも、その姿勢無理があるんじゃ?」
たまきの大きめな声に対し、すみれが「シィーッ」と人差し指で、静かにするよう合図する。
「ごめん、ごめん」
「せっかくだし、追尾くんと仮定して、みんなで妄想でもしてみようぜ」
久哉、会話をしながら、例の生徒を誘き寄せる作戦を思いつく。
「いいね! そうすれば、この中に入ってくるかもしれないね!」
「そもそも、性別も、学年もわからないのに大丈夫なの?」
みつば、それだけで相手が釣られてくるとは限らないと考えている。
「大丈夫だって。みんなでそいつを妄想しながら話し合えばいいだけだ」
「ただ、愚痴を言うのはNGにしないと。逆に、避けられちゃうから」
うららの忠告をもとに、みんなで例の生徒の妄想が始まる。
「ぼく、その子のことずっと気になっていて眠れなくて」
たまき、あくびをしながら若干眠そうな様子。
「たまちゃん、無理しちゃダメ」
たまきを心配するまりな。
「もう、まりちゃんはたまちゃんのこと心配しすぎだって」
みつば、まりなの過保護にツッコむ。
「けど、たまちゃん、相当気にしているんだろうな」
「ぼくも、こう見えてシャイだし」
廊下を偶然通りかかる、例の生徒が教室前方から覗き込む。
「今日は6人か…」
例の生徒には、すみれと航琉が見えていない。
6人の会話が続く。
「まりなが思っているのは、その子って話すのが苦手なだけだと思うんだよね」
「かえでちゃんと一緒に特訓すれば、話すのが得意になるかも!」
「かえでちゃん。それは、流石に無理があるかも」
うららが、かえでにツッコむ。
「まりちゃんとたまちゃんなら、その子と上手く話せる気がする」
「もし不安なら、俺もついていこうか。でも、3人じゃ多い気がするなぁ」
例の生徒、一歩踏み出して教室に入ろうとする。みんな、彼の足音に気づき、振り向く。
「わっ!」
彼は一目散に廊下の教室後方に向かって走り去っていく。すみれと航琉が小走りで追尾していく。
「みんな。顔見えていたか?」
久哉が聞くと、他5人は首を横に振る。
「一瞬だったから、わからなかった。ぼくも追いかける」
「まりなも」
「わかった、頼む」
まりなとたまき、教室を出ていく。
「よし、俺ら4人は会話の続きだ」
残った久哉、うらら、みつば、かえでの4人で会話を続ける。
「少なくとも、男子ってことはわかった。果たして俺らとタメなのかどうかがわからない」
「あとは、あの4人に任せましょう。ちゃんと話し合えると良いけど」
うらら、少し心配そうに4人を案じる。
例の生徒、2-A組の教室の中へ入り、廊下側の壁によりかかり、ため息を付く。少し時間を置いて、教室から廊下を覗くと、まりなとたまきが、各クラスの教室の中を覗いている。
(多分、普通に歩いていれば気付かないかも)
彼は、リュックを背負い、下校する前提で教室から出ていく。そして、まりなとたまきと気付かれないようにすれ違う。まりなとたまき、数秒してから、彼が向かっていった方向を向く。
「ねぇ、たまちゃん。今誰か通らなかった?」
「やっぱり。そんな気がする」
例の生徒、周囲をキョロキョロと見渡しながら、昇降口まで歩いてきた。
すみれと航琉が、背後から声をかける。
「もしかして、最近私達のことが気になって、クラス覗いているのってあなた?」
彼は振り向き、2人の姿に激しく動揺する。
「僕のこと、気にかけるなんて…」
「それより、あなたは1年? それとも2年?」
「俺らとタメだ。確か1年の時はE組だろ? 何度か見たことがある。名前は"スドウ"か"クドウ"だった気がするな」
「名前は、工藤真裕。1年の時も、今もクラスじゃ影薄くて。でも、寒河江くんが僕のことを知っているのは意外だね」
「ごめん、私はあなたを始めて見た」
真裕、若干悲しい表情をする。
「すみれ、もう少し空気を読め。彼は悲しんでいるぞ」
「わたさんに言われるなんてね」
「なんか、初めて誰かに興味を持たれたような気がするなぁ」
真裕としては、新鮮な気分だった。
まりなとたまきが、やってくる。
「すみれちゃん、わたさん! もしかしてこの子が?」
真裕、まりたまを見て、動揺する。まりな、驚かせてしまったと思い、申し訳ない表情。
「ごめんなさい。まりな、驚かせるつもりはなくて」
たまき、真裕の顔を見る。
「あれ? 去年の文化祭でお化け屋敷に来てくれたよね」
「えっ、僕のこと覚えているの?」
「勿論。たしか工藤くんだった気がする」
「良かった。星野くんに覚えてもらえて」
真裕、たまきに認知されていて表面上はクールなリアクションをするが、内心嬉しい様子。
「あの、もしかして。うちのサークルに入りたくて、ずっと見ていたのかな?」
真裕、まりなに聞かれると、首をぎこちなく縦に振る。
「それなら、ぼくに声をかけてくれると嬉しかったなぁ」
「どうせ、僕は口下手だから言えなくて」
真裕は、話すのが苦手なせいか、一歩踏み出せなかっった。というのも、彼には自己卑下してしまう癖がある。
「それは逃げでしょ。口下手なのは私も一緒」
「俺もだ。安心しな」
すみれと航琉、真裕をフォローする。
「賑やかだと思ったけど、暗そうな子もいるんだね」
まりなとたまき、くすりと笑う。
少し経って、他の4人がやってくる。かえでが、先陣を切って真裕に近づいてくる。
「もしかして。確かE組だった工藤真裕くんって子じゃない!?」
「工藤真裕くん?」
久哉、うらら、みつばは口を揃える。3人は真裕の顔を始めて見て、名前も初めて聞いた様子。
「工藤真裕。ストーカーっぽいことをして、すみません」
真裕、頭を下げる。
「私もドキッとしたけど、なかなか入りづらかったのも無理はないってことだよね」
みつば、真裕を気の毒に感じている。
「元E組か。それだと、俺の知っている奴、ほとんどいない気がする」
「隣のクラスだったってこと? わたさん彼のこと知っていた?」
「まぁな。つまり知っていたのは俺とたまき、かえでの3人だけだな」
「私、一度見た顔や聞いた名前は基本的には覚えているタイプだけど、なぜか工藤くんは初めて」
うらら、なぜ自分が彼の存在を認知していなかったのか、勝手に疑問を抱いてしまう。
「うらら、別に悩むことじゃないでしょ。高校に入れば、学年の半分以上は知らない人になるのは、当然だし」
すみれ、うららに鋭くツッコむ。
「というか、真裕くん、俺ら8人のこと知っていたんだよね?」
真裕、首を縦に振る。




