第5話 いろどってものくる(4)
「はじめまして。…と言っていいのか?」
久哉が、呼びかけて入ってきた生徒は、航琉だった。
「えっ、ゾンビー!?」
みつばは思わず驚いてオーバーリアクションをしながら、教室後方へ下がっていく。
「てかみっちゃん、ビビるタイミングじゃないだろ」
まりな、驚きつつゆっくり近づく。
「寒河江くんだよね。わたさんって呼んでも大丈夫かな?」
逆に航琉も少し動揺してしまう。
「そのロリな髪型で近付くのは…」
「えっ、ごめん。でもまりなの髪型、これじゃダメ?」
「いや、何でもない。気にしなくていいから」
かえでは、楽しそうな表情で航琉に近づく。
「わたさんだー」
この際、たまきとすみれとうららは既に久哉から話を聞いていたため、全く動じていない。うららが、軽く微笑ましくわたさんに声をかける。
「まさか、元F組同士で声がかかるなんてね。わたさんが久哉くんから誘われているのは、去年から知っていたから」
「ぼくも。久哉くん、ぼくよりわたさんと絡んでいることのほうが多かったと思うけど」
「やっぱり、たまちゃん嫉妬してるだろ」
航琉、まりなとかえでに接近され、困惑した表情で久哉に助けを求める。
「久哉、どうすればいいんだ? 俺ってそんなに有名なのか?」
「俺に聞くなよー。なぁすみれ」
「あんたが誘ったんだから、助けてあげなよ」
すみれの意見に対し、たまきとうららが同意するように首を縦に振る。
「じゃあ、まずは自己紹介からだ」
みんな、席に座る。航琉、教卓の前に立ちながらみんなの視線を浴びる。
「そんなにじろじろ見るなって」
航琉、バッグからノートPCを取り出し、プレゼン資料のようなものを出して、自己紹介を始める。
「寒河江航琉だ。あだ名はわたさんってことになっている。誕生日は4月2日だから、もう既に17になった」
かえでが、お祝いイベントの提案をし始める。
「それじゃ、今日は誕生日のお祝いと歓迎会だね」
「流石に、誕生日会だと遅いから、歓迎会だけにして欲しい」
久哉、自己紹介を続ける。
「好きな色は黒だ。陰キャなで一匹狼な俺にはピッタリだろ」
まりなとたまきは、さりげなく航琉の絵を描いている。航琉、視線を移す。
「まりなとたまき、もしかして俺を描いているのか?」
他の5人が、2人が描いた航琉の絵を見にやってくる。すみれが2人について説明する。
「この子達、絵を描くのが好きで、このサークルができたのもこの子達がみんなの似顔絵を描いたのがきっかけなの」
航琉が似顔絵を見る。ただし、少し疑問を持ったような表情だ。
「かわいいというか、美男子と言うか、俺の不気味さがないな」
「それって、ぼく達の絵が下手ってことなの?」
「いや、そのそういう訳じゃ…」
「まりな、逆に不気味に描くのがちょっと…」
航琉、すみれと久哉に助けを求めようとジェスチャーをする。
「この2人、俺とテンポが合わない…」
かえでが、気分転換に航琉へ質問をする。
「ねぇねぇ、わたさんって普段何やっているのー?」
航琉、かえでの問いかけに、動揺しつつ回答する。
「大体、漫画を読むか、ゲームだな。後は創作関係」
みつばが、感想を言いながら追って質問をする。
「パッと見て、サブカル系なのはわかる。ジャンルは何が好き?」
航琉、回答するか否か迷って黙り込む。実は、妄想好きな彼には、女子高生を主人公にした作品か、男子高校生を主人公にした恋愛シミュレーション作品の構想がある。
黙り込む航琉をフォローする形ですみえが回答しようとする。
「確か、妄想が好きだからでしょ」
航琉が、すみれの回答を遮る。
「まぁ全てにおいて考え中だ。まだ伏せさせて欲しい」
うらら、若干航琉を気にかける。
「少しムキになっているように見えるけど大丈夫?」
「別に、問題ない」
航琉、久哉を廊下に連れ出し、2人で会話をする。
「久哉、お前とすみれとなら大丈夫だけど、他のメンバーがちょっと…」
「心配するなって。みんな良い奴だから」
「そりゃわかるけど、みんなと噛み合わない気がする。同じ男子でもたまきとおれとじゃ全然キャラが違う。まりなも距離がバグっていてお節介な感じがする。かえでは俺とテンションに差があるし、みつばもビビり」
「つまり、みんな個性があって面白いってことだ。まぁ、入るかどうかは任せるよ」
久哉、教室に戻っていく。
久哉と航琉が自転車で下校している。
「久哉、やはり俺はキャラを変えた方が良さそうだと思えてきた」
「別にそのままで十分だって。みんな、わたさんのこと歓迎しているからさ」
「俺を?」
たまきとすみれが、後ろから自転車でやって来る。
「困ったら久哉が助けてくれるから、そこは心配しないで」
久哉と航琉、すみれの声に気づき、振り向く。
「すみれ、それにたまちゃん。2人揃ってやって来るなんて」
4人で、大堀川のベンチ付近でお喋りをする。
「ぼくも、わたさんと色々話してみたいと思っていたんだ。まりちゃん達だって同じように思っているから」
「他の3人もか。正直女子と話すのはあまり得意じゃない」
「私とは上手く話せているじゃん」
「それはだな…」
「すみれが女子だと思っていないからだろ」
「久哉、あまり調子に乗らないでね」
「はいはい。逆にみっちゃんなんて、俺やたまちゃんがいなかったら男子嫌いのままだったらしいぜ」
「だからか、俺を見てビビったのは」
「それは、みつばのキャラというか、リアクションがオーバーなだけ」
航琉、たまきを見つめる。
「わたさん?」
「たまき。何というか、そのジェンダーフリーで幼さが残る雰囲気。少年のような純粋さと、少女のような可憐さを兼ねている。俺が見てきた中でも、タイプだ」
「それって、褒めているの?」
「たまきが大人になるとどうなるか、想像がつかない。たまき、余計なイメチェンはしないで欲しい」
「なるほどね。多分ぼくは大人になれいかも」
たまきとしては、ちょっと珍しくあざとい感じのリアクションで航琉の妄想に乗っている。
すみれと久哉がひそひそ話をする。
「凄いなたまちゃん。あそこまであざといなんて」
「私には、結構甘えっきりだから。あれくらい普通」
「そっか。じゃ、後はよろしく」
久哉、自転車に乗って1人で帰っていく。久哉の後ろ姿を見て3人が口を揃える。
「逃げた」
すみれ、自転車に乗ろうとする。
「せっかくだし、2人でお喋りしながら仲良くなるのはどう?」
「えっ、すみれちゃんはいいの?」
「私とわたさんは同じクラスだし。それに似た者同士だから。たまちゃんと2人きりの方が良いかも」
「すみれ。付き合い相手を簡単に見捨てるなんて。ドSというか、人として…」
「2人とも私に頼り過ぎちゃダメ。多分、すぐ仲良くなれそう」
すみれ、自転車に乗って帰っていく。たまき、置いてけぼりにされて悲しい表情をする。
「すみれちゃん、頼りになるのに。面倒臭いことになると、冷たく突き放すんだよね」
「それなら、恋愛関係を解消すれば良さそうだけどな」
「でも、ぼくみたいな弱虫にはあれくらい強気な方が…」




