第4話 恋がふくれる(5)
久哉、うららの隣に来て、紳士的に話しかける。
「急にごめんね。みんなの楽しそうな会話に入らなくて大丈夫?」
うらら、久哉に声をかけられて塩対応をする。
「急にどうしたの? 私はこの空気を楽しんでいるんだけど」
「お喋り好きじゃないの?」
「嫌いじゃないけど、せっかくのイベントだし、みんなのことを知るために私は敢えて、語らないポジションを取っているの」
たまき、うららの言葉を聞いて、感激する。
「コメントが大人」
久哉、惚れているのか固まっているのか何とも言えない表情をする。数十秒経って、平静になる。
「なるほどね」
すみれが入ってくる。
「ごめん。久哉、昔から女子好きですぐナンパするから」
「キザなことくらい知っているよ。前にクラスの中でも話題になっていたから」
「なんでだよ!? すみれ、喋っただろ?」
「久哉のことは、F組だとうららだけにしか、話していないけど」
「私も、みんなには話していない」
「となると。まぁいいか。名前覚えてもらえるだけでも嬉しいから」
うらら、たまきに視線を移す。
「それより、たまきくんだっけ? まりなちゃんとコンビのような関係で。女子の中にいても普通に馴染んでいて不思議」
「ぼく、男の子と遊ぶことが少なかったから。まりちゃんとは小さい頃から遊んでいたから、女の子と一緒にいることは慣れているんだよね」
「この学校に来てから、無愛想な私に対して、難なく声をかけてきた男子はたまちゃんが初めてだもん」
まりなとかえで、たまき達のそばに来る。
「何、話していたの?」
まりな、無意識にうららへ至近距離で近づく。うららは、若干圧を感じる。
「ねぇ、流石に近過ぎる」
「ごめんなさい。まりな、距離感が掴めなくて」
まりな、落ち込んだ顔で少しずつ離れていく。
「大丈夫。うららちゃんも嫌気が差しているわけじゃないって」
かえでが明るくまりなをフォローする。うららは、まりなとかえでを興味深そうに見ていた。
たまき、すみれと廊下に出て、うららの話をする。
「あの子って、いつもあんな感じなの?」
「そうだけど。比較的人当たりはいいけど、群れるのは得意じゃないみたい」
「すみれちゃんと気が合うけど、まりちゃんと上手くいかないみたいだったから」
「あの子、潔癖で神経質なところがあるから。私より厄介かもね」
「わかる。真面目で頭も良さそうだけど、抜け目がなさそうな感じがする。すみれちゃんと似ているけど、どこか違うんだよね」
「それって?」
「すみれちゃんって、無愛想でも意外と話したら普通って感じじゃん。だから、みんな最初は遠慮するけど、徐々に距離が縮まっていくと思って」
「言われてみれば、私と逆なのかな。パッと見て関わりやすそうだけど、意外と面倒臭いところがある。」
久哉がクールにやってくる。
「お疲れ。うららと話してどうだった?」
「素っ気無い感じだったけど、俺としては案外面白かったなぁ」
「久哉くん、変わり者が好きだからちょうど良かったかも」
「何言ってるんだ。別に告ったわけじゃないし」
すみれ、口角を上げる。
「久哉らしい答えね。悪くない」
久哉の淡白な回答を聞き、2人は意外性を感じたと想いきや腑に落ちていた。
まりながやってくる。
「ねぇ、すみれちゃん。今日って時間ある?」
「別に、いいけど」
たまき、まりなとすみれを交互に見渡す。
まりな、すみれと2人で自転車を押しながら下校する。
「すみれちゃんと2人きりで帰るって、あまりなかったよね」
「そうね。でも、そこまで新鮮って感じはしないかな。いつも通りって言えばいいのかな」
「たまちゃんと久哉くんがいないし、みんなに言えないことがあれば、遠慮なく話していいよ」
「みんなに言えないことね。別にないかも。たまちゃんにも同じように言っているでしょ」
まりなは図星だと悟られ、黙り込む。
「たまちゃんが言う言わないは別として、他の子にもそのスタンスだと、後で辛くなるから」
「えっ?」
「無理はしないでって言いたかった。例えば、表では仲良くしているけど、実は嫌いって聞かされたらどう思う?」
答えるのが辛そうなまりな。
「そう言われても…。確かに辛くなっちゃう。でも、何か思っていたり、抱えてたりしているってまりなは思っちゃうんだよね」
「まりなのことだから、色々聞いて泣いちゃいうでしょ」
「すみれちゃん…」
すみれの配慮にまりなは、少し腑に落ちたように気が楽になる。
「それより、何か私に言いたいことがあるんじゃないの?」
まりな、一呼吸してすみれに質問する。
「たまちゃんのこと、どう思ってる?」
「たまちゃんね。純粋で愛嬌あるし、程よく甘えるとこともある。協調性があって愛されキャラ。個人的に面白い」
「ありがとう」
まりな、嬉し泣きする。
「えっ、なんでお礼?」
「すみれちゃんがたまちゃんを褒めているから、まりなも嬉しくなっちゃって」
すみれ、思わず笑ってしまう。
「何それ? まぁ私がいつも冷めた感じだからだよね」
「その笑った顔、かわいい」
すみれ、少し照れたように無表情に戻る。
「ちょっと」
2人の後ろには、さりげなく自転車で走っているたまきの姿。たまきは2人を見て気付かないように、自転車から降り、押して歩く。
「よく思うんだけど、たまちゃんって私のこと好きな気がする」
「それ、まりなもずっと感じていたんだよね。」
「試しに付き合ってあげてもいいかも」
「たまちゃんとすみれちゃんがカップル…」
まりなは呆然としてしまう。内心、たまきが自分以外の女の子とペアやコンビになることが、イマイチピンと来ない。たまきを男子として見ているのか、それとも性別関係なく、1人の人間として見ているのかがわからなかった。
「大丈夫? もしかして寂しい」
まりな、軽く頷く。
「小さい頃から一緒だと、兄弟姉妹みたいだもんね」
すみれ、まりなの心情を察する。まりなは心を悟られ、若干動揺する。
「えっ?」
「あまり抱え込んじゃダメだよ。じゃあね」
まりなはすみれは別れた。次第に後ろからたまきが自転車でやってくる。
「たまちゃん」
「すみれちゃんと一緒に変えるなんて。もしかして、すみれちゃんとぼくのこと話していたでしょ?」
まりな、一瞬間を置いて頷く。
「たまちゃんのこと、褒めていたよ。まりな嬉しくて」
「えっ、すみれちゃんが?」
「もしかしたら、たまちゃんとすみれちゃん、お似合いなのかなぁ…」
「そう言われると…。いや、ぼく嬉しい」
たまき、笑顔になる。
まりなは内心複雑な気持ちで、自転車を止める。たまきの笑顔を見て気持ちを切り替え、軽く抱きしめる。
「まりちゃん」
「たまちゃん、すみれちゃんと上手く付き合えるように。まりな応援するから!」
「ありがとう。でも、ぼくのこと抱きしめる必要ある?」
「それは、まりなとたまちゃんの仲だから。困ったり辛かったら、いつでも頼って大丈夫って言っているでしょ」
たまきはふと考える。今までまりなに甘えていたのが、すみれと付き合えばその習慣がなくなってしまうと思っていた。だが、双子の姉のような存在なため、心の拠り所がなくならないことになるのは大きい。
「ありがとう。まりちゃんがいれば心強いね」




