第4話 恋がふくれる(3)
多目的教室に久哉以外の5人が集まる。みつばとかえでが、まりなとすみれにお茶会の説明をしている。
「本当は、文化祭でやってみたかったけど、涼しくなってからのほうが良いかなって」
「そんな訳で、全校生徒向けにお茶会を開催しまーす!」
「楽しそう。まりなもお菓子担当やってもいい?」
「勿論OK。みっちゃんはお茶担当、まりちゃんとかえでちゃんでお菓子を作るって感じで」
「この時期だし、さつまいももどうかな?」
たまきも、ちゃっかりと提案する。
「いいね!」
すみれ以外の3人が口を揃えた。
「すみれちゃんは?」
「私? でも全校生徒向けって?」
まりなが、すみれの意見を聞く。すみれとしては、やることは賛成であるものの、グループ内ではなく、全校生徒向けという大掛かりなイベントにすることに疑問を持つ。
「多目的だからこそ、意味があると思うんだよね。因みに全校生徒向けっていうのはかえでちゃんのアイデアだよ」
みつば、いつも以上に前向きなスタンスだった。
「なんか、みつば。半年前より明るくなった気がする」
「そうかな。意外と普通かも」
「普通でも明るくてもみっちゃんはみっちゃん」
まりなは、みつばを励ますように答える。
「私、頑張ってみようかな」
「みっちゃんって、自分で思っている以上に、キャラが濃いと思うよ」
たまきも励ます。
「でも、みんなに比べれば全然」
久哉が教室に入ってくる。
「おやおや、楽しそうに何の話をしていたんだ?」
「お茶会」
5人が口を揃えて答える。
「お茶は私が用意するから、お菓子の材料は久哉くんに買ってきてもらのはどう?」
「おいおい。うちは茶道部じゃないだろ」
「一応、多目的サークルなんだし。面白いと思ったらやってみる。ぼくは、そうだと思ってたんだけど」
「まりなも、久哉くんは?」
久哉、笑い出す。
「たまちゃん、まりちゃん。その通りだ」
かえで、久哉の脇をくすぐる。
「本当に、そう思っていたの~? お茶会に賛成なら久哉くんも協力してもらわないとね~」
「とりあえず、私とたまちゃんでポスターづくり。久哉は宣伝ね」
「ぼくとすみれちゃんでポスター…」
たまき、呆然とする。とはいえ、内心嬉しそうだ。
「たまちゃん、絵を描くの好きなんでしょ?」
「うん。よろしくね」
「それよりすみれ。俺のポジション勝手に決めるなって」
「一番サボりそうだし、ちょうど良いと思って。意外と得意でしょ」
「まぁ。普通以上ってところだな。よし、イベント頑張りますか!」
こうしてみつばとかえでのアイデアが採用され、グループの活動として、お茶会の開催が決まった。
とある日、たまきとすみれがお茶会のポスターに向けた絵の案を作っている。たまきは、お菓子のデザインで悩んでいる。
「お菓子は何を描こうかなぁ?」
「そんなに悩むことでもないんじゃない?」
「当日、何が出るのかにもよるじゃん」
「意外と、そういうところ細かいね」
「お祭りとかイベントって、期待外れじゃ悲しくなると思って」
「なんか私の周りって、自分よりも相手のことを考える子ばかり」
「もしかして変?」
「別に。そういうの嫌いじゃないから」
「つまり、好きってことでいいんだよね」
「私をからかってる? まぁ久哉と違ってかわいげがあるからいいけど」
「かわいいかぁ。」
たまき、若干呆然として嬉しそうな表情。
「どうしたの?」
「すみれちゃんには初めて言われたかも」
「そんなに珍しい?」
「だって、すみれちゃんって人のこと滅多に褒めないから」
「私だって褒める時は褒める。口が悪いみたいだから、みんな褒められているって思わないだけ」
微笑ましそうそうなたまきは、すみれを励ます。
「すみれちゃんって、素直じゃないよね」
すみれは、ムッとしながら軽く反論する。
「私が素直じゃないっていうより、みんな感情をさらけ出し過ぎているだけでしょ。あなたもまりちゃんもすぐ泣くし、みつばはオーバーリアクションするくらい天然だし、かえでは極めて明るいから」
たまき、お菓子の色を濃く塗っていたため、すみれに指摘される。
「そのお菓子、もう少し色を薄くしないと。緑のお茶を濃く塗るなら、もう少し優しい色合いの方がいいよ」
「そう? すみれちゃんって、色の使い方が細かいね」
「たまちゃんやまりなが描く絵は、芸術っていうより大衆向けなんだよね。だから、明るい色や原色がベースになるってこと」
「コメントが専門家みたい」
「ママが美術の先生やってて、昔から徹底的に教え込まれた」
「今度、全校生徒向けに絵画教室開いてよ」
「それなら、美術部がやればいいじゃん」
たまきとの会話で、すみれの口角がいつもより上がっている。たまきはすみれとの会話が楽しくてたまらない。
「そういう意味では、久哉くんとずっと気が合う仲だったのもわかるよ」
「久哉ね。確かに、昔から感情の波はないけど、笑う時は笑って怒る時は怒る。あの安定した感じが羨ましいなぁ」
「ずっと思っていたんだけど、すみれちゃんって、どうして思い切り笑ったり、泣いたりしないの? 怒る時はかなり怖いのに」
「それが、自分でもよくわかんない。クラスのみんなから見ても、私はどちらかといえば怖いイメージがあるし」
すみれとしては、珍しく悩んでいた。たまきにもそのように映っている。というのも、彼女が色々と抱え込んでいることを、周りは認知していない。
「そうかな? ぼくはしっかりした子だと思っているけど。それに怖いイメージって、ぼくが玄斗くんと昂汰くんにからかわれて、ブチギレた時くらいでしょ?」
グループのメンバーやクラスメイト達からすると、すみれは無愛想で冷たい雰囲気が漂っている以外、未だに謎が多い印象を抱かれている。
「みつばと上手く噛み合わなかくて、あの子を泣かせちゃったこともあったでしょ? それに、今だと玄斗と昂汰と案外仲良くしているじゃん。久哉とかえで含めて」
「あの2人、かえでちゃんにグループに入るの薦められても、久哉くん以外の5人は癖強くて面倒臭そうって遠慮したんだよね」
「あの2人には言われたくないよね」
すみれの笑い声が、少しずつ大きくなっていく。それがたまきには嬉しかった。
「すみれちゃん、もっと自分をさらけ出したほうがいいと思うよ」
「そう? まぁできるだけ頑張ってみる」
こうして、2人だけの楽しい一時を過ごした。
しばらくすると、まりなの声が聞こえる。
「たまちゃーん」
たまき、声が聞こえたのでそろそろ帰るタイミングだと気づく。
まりな、かえで、みつばが入ってくる。
「久哉は?」
「後から来るって。それより、2人のポスターができないと宣伝ができないって言ってるよ」
みつばが回答する。
「じゃ、久哉にもポスター手伝ってもらわないと」
「そうだね」
久哉が入ってくる。
「お待たせ」
「結局。久哉くん。私の点てたお茶を飲んでいただけでしょ?」
「だって、みっちゃんがそう言うからさ」
みんなで、くすりと笑う。
まりな、たまき、すみれ、久哉の4人で自転車に乗りながら帰っている。たまきは微笑んでいる。
「何笑っているんだ、たまちゃん」
「えっと、お茶会が楽しみだなぁって」
「すみれと一緒に、楽しく絵を描けたか?」
「おかげさまで」
すみれは、肯定的に返答する。その返答に対して、まりなが一瞬動揺する。すみれの回答が意外だったからだ。
「ぼく、すみれちゃんに色の使い方について教えてもらえた」
「今度は、まりなも教わりたい」
「私が絵画講座開いていいの? 美術部に申し訳ないと思って」
「すみれ、謙虚にならなくてもいいだろ?」
「もし、気になるなら美術部の人達と話してみれば?」
まりなが、提案する。
「あのね、わかっているでしょ? 私が第一印象悪いってことを」
「だったら、ぼくと久哉くんが一緒につくから」
「え、俺?」
「久哉くんが嫌なら、まりなが代わりにつく」
「もう、みんな小さなことを大きくさせ過ぎ」
「そうじゃないと"いろどりいいとこどり"は務まらないと思うぜ」
「久哉だって、茶道部云々って言っていたでしょ」
まりなとたまきが、間に入る。
「色々と大変だけど、みんながやりたいことがあれば、まりなは協力するから」
「ぼくも。頼りなくて色々甘えちゃうけど、頑張りたいもん」
県道の交差点まで来た。まりなとたまきは、すみれと久哉と別れる。




