第3話 魅惑に遊ばれる日々(5)
文化祭当日。この学校の文化祭は2日間に分けて開催され、1日目は校内発表で2日目は一般公開。因みにその日は1日目だった。
まりなは朝早く来て、まりなは多目的室で椅子に座って、机に置いた手鏡を見ていた。髪を2つに分け、それぞれ耳の少し上から三つ編みを輪っか状にして、赤いヘアゴムで結んでいる。机にはピンクのハート型のケースに髪を結ぶための、色とりどりのヘアゴムやリボンが収納されている。
「やっぱり、迷っちゃう…」
悩み続けているうちに、みつばが入ってくる。髪を耳より少し下の位置で2つに分けて、お団子のようにして白いヘアゴムで結んでいた。
「おはよう、まりちゃん」
「あ、みっちゃん。おはよう。お団子ヘアかわいい~」
みつば、机に置かれているまりなの小物を見て、少し驚く。
「もしかして、何で結ぶか迷っている感じ?」
まりな、首を縦に振る。
「なんとなく、まりちゃんならやりそうって思っていたんだよね」
みつばとしては、案外想定内だった。
「家で結んでいても、色とかアクセとか悩んじゃって」
「和風コーデだから、髪を飾るものもそれにに合わせないとね」
「それそれ。だから悩んじゃって」
「みんなが来るまで一緒に選んで考えよっか」
たまきとかえでが、駐輪場に自転車を止める。たまきはゆるふわパーマの髪を右耳にかけてヘアピンで留め、カエデは髪を左耳にかけ、メイクも少し濃いめに仕上がっている。お互いのビジュアルを褒め合っている。
「たまちゃん、かわいいね~。ヘアピンまでつけちゃって。明るい子のイメージが強くなっているかも」
「かえでちゃんのほうが、アクティブな女の子って感じが更に強くなっっているよ」
すみれと久哉が自転車を押して歩いてくる。たまきとかえでと違い、特段アレンジをしていない。久哉はたまきのビジュアルを評価する。
「おたまちゃん、かわいいじゃん。攻めたね」
「そうかな。ぼくとしては普通だと思っていたんだ」
「こりゃ、注目浴びると思うぜ」
たまきは、そのように言われて少し恥ずかしくて照れてしまう。
「久哉くんは、そのまま?」
「シンプル・イズザ・ベストだって」
一方ですみれはかえでのビジュアルを評価する。
「かえで、今日は攻めたね」
「すみれちゃんに、そう言われるなんて。てへ」
「褒めているけど」
すみれは相変わらず、評価するも口下手さが目立つ。とはいえ、かえでは純粋にすみれにお礼を言う。
「でも、ありがとう。すみれちゃんはあまり変わらないけど?」
「雪女だから、髪はストレートのままじゃないと。ま、メイクは後でやるから」
4人の会話が続き、まりなとみつばの話題が出る。たまきがまりなについて語りだす。
「まりちゃん、早く来て教室で髪をセットしていそう」
「流石、幼馴染は言うことわかってるな」
久哉が茶化すも、若干内心はドキドキしている。
「みっちゃん、どんな髪型かな~。まりちゃんとおそろだったりして」
「そこまで楽しみにするなんて、相変わらずかえでは物好きな子」
「いや、すみれに言われたくはねえだろ」
「ぼくとしては、半々の割合な気がするけどね」
多目的室に入ってくるたまき達4人。まりなは相変わらず髪を何で結ぶか悩んでいた。勿論、たまきは想定内だった。
「ほら、ぼくの予想通り」
「正直、どれでもいいでしょ?」
すみれには、なぜまりなが髪を結ぶもので迷っているかが理解できていない。まりな、否定された気分で若干落ち込む。まりなの表情を見て、久哉が反論してくる。
「すみれにとってはどうでも良くても、まりちゃんからすれば、深刻な悩みなんだよ」
「久哉くん…」
まりなには、久哉が自分を守ってくれているように感じている感覚が、不思議に思えていた。すみれ、素直に謝る。
「ごめん。でも、時間がないから早く決めないと」
みつばが提案する。
「それなら、1日で何回か変えてみるのが良いかも」
「ぼくも、それはありだと思う」
「ありあり、だからまりちゃん悩まないで大丈夫」
たまきとかえでも賛成した。
「ありがとう、みっちゃん。まりな、全然その考えがなかったから」
まりなは、みつばの意見を聞いて気持ちが軽くなり、文化祭を楽しめる自身がついた。そのように他の5人にも映っていた。
みつばが話題をグループでの出し物に変える。
「ねぇ。それより、本当にぶっつけ本番のアドリブでやるつもり?」
「そのほうが、リアルで楽しいじゃん」
「本音ベースでいけるからさ。一応事故る覚悟は必要だな」
本音やリアルの方が楽しいと久哉もかえでも思っている。
「楽しそうだけど、台本ないから緊張する」
「まりなも。失敗しちゃったらどうしよう」
まりたま揃って、ちょっと不安に思えていた。そこで久哉が2人をフォローする。
「まりたま揃って元合唱部なんだから、人前に立つことくらいなれているっしょ?」
「何か合った時は、久哉とかえでがフォローしてくれるから大丈夫でしょ。私は適当にやるけど」
「じゃ、安心だね」
すみれ、久哉を働かせようと促しているようだ。みつばもすみれの意見に乗っている。
「楽しくできればそれでOKだから!」
かえでが、2人を和ます。その空気の中で、久哉はまりなの肩を軽く叩いた。
「大丈夫。失敗しても気にしないでいいよ」
「久哉くん?」
「無理するなよ」
他の4人、まりなと久哉を見つめて、即座に後ろを向く。みつば、早速答える。
「久哉くん、まりちゃんに好意ありかも」
「まりちゃんの、かよわくて面倒見が良いところに惹かれちゃっているね」
脳天気なかえでにも、はっきりと久哉の好意が見えている。
「いいよね、久哉くん。賢いし落ち着いていて安心感あるからさ。ぼくは真逆だしね」
「たまちゃんが久哉をそこまで褒めるなんてね」
「まりちゃんと久哉くん。意外と良いカップルになりそうな…」
B組の縁日では、小さなプールに飲み物や水風船を浮かべながら販売したり、輪投げや射的で景品を当てるコーナーを行っていた。装飾には和をイメージした柄の折り紙を使っていて受付には、浴衣姿のまりなとみつばがいる。そばにいるクラスTシャツにハッピを羽織った女子達が2人を褒める。
「まりちゃんとみっちゃん、かわいい。」
「私も着てくればよかったぁ」
「ごめんね。まりな達だけ浴衣着ちゃって」
まりなが、誤りながら気遣う。みつばが、女子達に浴衣を着てくるように促す。
「楽しみたいならみんなで、浴衣着たほうが良いって! というか遠慮は要らないでしょ」
「なんか、かえでちゃんみたいなこと言うね」
まりなが、みつばにツッコミを入れたタイミングで、女子達が笑う。そのように言われてみつばは若干恥ずかしかったが、どこか楽しさが募っているようである。
「いや、あの子と私じゃタイプぜんぜん違うでしょー」
みつば、笑いを交えて言い返す。
「そうかな、だいぶ似ていると思うのにー!」
「ぼくも同じくー」
たまき、かえでがリアクションしながらやってくる。すみれもさり気なくいる。3人ともクラスTシャツにハッピ姿。
「なんか、そっちのほうが縁日っぽい気がするんだけどー」
みつばが、3人を見て若干羨ましそうにコメントする。
「かえでがうるさいから、着てあげただけ」
すみれが、素っ気なくコメントする。表情は薄ら笑いである。
「もう、すみれちゃんったら酷い」
かえでが笑いながら言い返し、周りも和むように笑う。たまきが、楽しそうな表情で教室の装飾を眺める。
「装飾にこだわっているのっていいよね。なんとなく、まりちゃんのアイデアが混じっているような気がするかも」
たまきの言葉に、まりなが少し嬉しく照れる。
廊下から久哉が駆け足で入ってくる。
「F組のお化け屋敷。クオリティ半端ないぜ」
「本当に!? でも、D組にはリアル雪女がいるし」
かえでは、若干闘争心を燃やしていた。
「みんな一度は行ったほうが良いって。勿論D組のお化け屋敷もだけど」
「久哉、覚悟して入ってきてね」
すみれ、軽く脅しをかけるように久哉を茶化す。お化け屋敷の話題になり、まりなとたまきは好奇心と怖さが入り混じってドキドキしている。一方のみつばは完全に怖さが先行していて既に震えている。
D組のお化け屋敷で、たまりなとみつばが真っ暗闇の迷路のような教室の中を歩く。2人とも怖そう。
「やっぱり怖い」
「まりなだって」
長い前髪を顔に垂らした雪女姿のお化けに扮したすみれが、2人を大きく開いた眼差しをしながら驚かす。
「凍てつきやー…」
「きゃぁー!」
2人とも、悲鳴を上げる。ようやく教室から出た時の2人は涙目だった。
「いつも以上に怖かった」
「まりなも。でも怖くなかったら、お化け屋敷じゃないからね」
廊下でたまきが泣きながら駆け足で、まりなの肩に触れる。かえでもたまきに追いついてくる。
「え、たまちゃんまで泣いてる?」
「F組のお化け屋敷。怖かくてクオリティ高いから、互角かも。ぼく、まだ心臓バクバクだもん」
「2人も行ってみれば? 怖くて楽しいよ―」
「怖いのはすみれちゃんだけで十分」
「でも、みっちゃん。明日もあるから、行ってみようよ」
まりなは無邪気に言ったものの、みつばは背筋が凍てついて、怖さを拭えていない。
「ごめん、ごめん。別にまりな、ホラーが好きなわけじゃななくて」
たまき、思わず笑ってしまう。まりな、たまきの笑顔を見て安心したかのようにホッとする。




