第3話 魅惑に遊ばれる日々(2)
文化祭の打ち合わせ中のまりなは、少し気が落ち着いたため、久哉と共に再び裕花に説明する。
「実は私達、まだ大した活動ができていないんです」
「だから、文化祭で何かやらないとって思って」
まりな、緊張しながら裕花にお願いする。
「私達で、動画撮影と宣伝のお手伝いをやりたいです。お願いします…」
久哉、緊張しているまりなの肩を軽く叩く。
「まりちゃん、大丈夫だって。そんな緊張するような場面じゃないよ」
「彼の言う通り。文化祭でやりたいことがあるなら、うちの委員会も協力するよ」
2人の懸命な依頼を汲み取った裕花は、とあるアイデアも思いつく。
「多目的なら、私達の仕事のサポートも色々お願いしちゃてもいい?」
まりなと久哉、嬉しそうな表情をしながら声を揃える。
「ありがとうございます!」
「恐らく大丈夫だと思うけど、度が過ぎるおふざけ動画の撮影はダメよ。あと、あなた達のグループでオリジナルの出し物をお願い」
まりな、安心したと思ってほっと一息つく。久哉は緩やかにガッツポーズをする。
「それにしても、他にどんな子達がいるのか気になる」
裕花、まりなと久哉の話を聞いたことで、グループに対して気になっていた。
「1人はジェンダーフリーなかわいい系男子、1人は天然なマイペース女子、1人は元気ハツラツ女子、もう1人は愛想がイマイチで…」
まりな、久哉の言葉を遮るように、すみれの印象をポジティブに言い換える。
「しっかりしたまとめ役の子です」
「まりちゃんの言う通り、言いたいことははっきりと言う奴なんで」
「楽しそうね。じゃあみんなにもよろしくね」
まりなと久哉、裕花が笑顔で他の4人を期待しているように見えていたため、安心した。
たまき達4人のスマホにLINEの通知音が鳴る。いろどりいいとこどりグループのトークに、まりなと久哉からのメッセージ。
「話し合った結果、OKだったぜ」
「委員会からお願いが2つ受けています。1つは6人で出し物をすること。もう1つは動画撮影以外にも委員会のお手伝い。みんな、協力してくれるよね?」
たまきとかえで、嬉しそうな表情で飛び上がる。
「やったぁ! やっと仕事がもらえたー!」
「これで私達、暇から解放されたー!」
すみれが、軽くツッコミを入れる。
「文化祭委員のお手伝いってことは、ほとんど雑用みたいなものでしょ?」
みつばは、穏やかにすみれを諭す。
「多目的とか何でも屋ってそんな感じだよ。私は思い切り目立つより、雑用とか地味な仕事の方が性に合うから別にいいんだけどね」
「賢そうにアピールしちゃって。でも、みんながやる気なら私も協力する。一応私、まとめるのが得意みたいだし」
すみれ、比較的軽やかかつ快く引き受けた。
「すみれちゃん。文化祭委員の人達とトラブル起こしちゃダメだよん」
かえで、愉快げにすみれに注意喚起をする。
4人は各々、グループLINEに「OK」の意味を示すスタンプで返信した。
まりなと久哉は昇降口まで歩いた。4人からグループLINEにスタンプが送られてきたのを確認し、2人とも安心した表情。まりなが久哉にお礼を言う。
「ありがとう、久哉くん。まりなあまりにも緊張しちゃて…」
「まりちゃんで良かった。みっちゃんだとビビって騒ぎ出すし、かえでだとマシンガントークになるし、すみれじゃ口下手で相手を誤解させそうだからさ」
「たまちゃんだったらどう?」
「たまちゃんか…。緊張する場面だと上手く話しづらそうな気がしてさ」
「まりなで良かった理由は?」
「それは、優しくて人当たり良くて相手のことを考えようとしてくれるからかな」
「まりなとたまちゃんで、行っていたら2人揃って心臓バクバクしていたかもね」
「やっぱ俺は目立つ動きをするより、頭で考えるタイプってことだな」
「久哉くん、みんなのことしっかり見ているもんね」
「だな。実際俺が裏でグループを牛耳っちゃっているし」
「まりな凄いと思って。たまちゃんと対称的なのに仲良くできているのが」
「たまちゃん、女の子っぽくて純粋だからつい気になっちゃって。ほら、俺って変わり者に興味がある変わり者だから、なんとなくわかるっしょ?」
「まりなって、変わり者なの? そんな風に感じたことがなくて…」
まりなは、自分が変わり者と言われるのに違和感を抱いてた。目立った個性があると思っていないためである。
「個性があるってことだよ。5人ともみんな個性豊かだから」
久哉の言葉に、半分安心したものの、もう半分はたまきのことを考えていた。
「たまちゃん、みんなに憧れているような気がして」
「どうしてそう思う?」
「まりな以外の4人をボーッと見ているのを何回か見ているから」
「考え過ぎだって。ほら、みんなが待ってるから早く帰ろう」
まりなは自宅のソファで、ボーッとしながら体育座りをしていた。頭の中では自分もたまきも、4人が魅力的に見えていることがどうしても気になっていた。愛美梨が隣に座り、まりなに話しかける。
「何かあったの? もしかして学校やクラスが楽しくなくなってきた?」
まりなは首を横に振り、笑顔になる。
「学校は楽しいよ。たまちゃんとか友達もいるし。文化祭関係の仕事もやることになったから」
「色々楽しくて忙しいのはわかるけど、勉強や進路のことも忘れずにね」
まりな、軽やかに首を縦に振った後、悩みを話す。と言っても、愛美梨にはまりなが何かを抱えていることは、見ただけでわかっていた。
「ねぇママ。最近ずっと、みんなが素敵に見えちゃうことがあるの」
「化粧とかファッションが? それともキャラクター?」
「どちらかと言えばキャラクター。みんなと比べたら、まりなってモブみたいに見えるの」
「それは、まりちゃんが友達に恵まれているってことじゃない?」
「多分、まりなだけじゃなくて、たまちゃんにも同じように映っている気がして」
「たまちゃんも?」
「みんなのこと、見ながらボーッとしていたの何回か見ていて」
「人って、自分にないものに惹かれるから。その感覚って至って普通だと思うのよね」
愛美梨の言葉を聞いて、半分は腑に落ちた。
一方もう半分、自分が他者から見て素敵に見える、とはなかなか思えていない。
「まりな、考え過ぎなのかな?」
「そうかも」
「やっぱり、まりなってダメダメなのかも」
「自分を卑下し過ぎちゃダメ。そうなると、ママも困っちゃうから」
「ごめんなさい。どうしていいかわからなくちゃっちゃって」
「自分らしさを大切にしないと。まりちゃんとたまちゃんだけじゃなくて、みんな、きっと見えないところで悩んでいるはず」
「みんなから見たら、まりなって魅力的に見えるのかな?」
愛美梨、まりなの肩を優しく擦って、もやっとした気持ちをほぐしてあげた。
「きっとそう感じるって。だから、そんなことで深く悩まないで、ほら元気出さないと!」
「別に元気がないわけじゃないよ。ちょっと気になっていただけ。ママ、ありがとう」
まりな、微笑みつつ、愛美梨の言葉で少し気が楽になってきた。
(たまちゃんが、同じように悩んでいるなら、まりなが助けてあげないと。勿論、他のみんなも)




