第3話 魅惑に遊ばれる日々(1)
夏休みが近い時期になった。生徒達の制服も半袖のワイシャツやポロシャツにノーネクタイといった夏仕様である。
多目的教室では6人がのんびりと会話をしていた。『いろどりいいとこどり』という名前がついたものの、未だに仲良しでグループのままである。やることも相変わらず決まっていない。
各々、団扇や扇子を使って暑さをしのいでいる。
「昔より確実に熱くなっているよな」
みつばがバテながら、水筒に入ったキンキンに冷えている緑茶を飲み、頭がキーンとした反動で叫ぶ。
「うぅ~! 氷入れすぎた―っ」
「大丈夫?」
まりながみつばを心配そうに見つめる。
「ここはすみれに冷やしてもらったほうがいいんじゃないか?」
「かえでと逆の作用ってことね。凍てついて動けなくなるよ」
久哉の言葉に、涼しげにリアクションするすみれ。
「暑いのも寒いのもどっちも嫌」
みつば、拒否するようにリアクションする。
「ペットボトル凍らせたいけど、最初だけ味濃くて後薄くなるんだよね」
たまき、別の話題を持ち出す。
「そういえば、B組って文化祭何やるの?」
「縁日。クラスTシャツにハッピを羽織ってね」
まりなが、愉快げに答える。
「無難が一番いいんだよね。因みにD組は何やるの?」
「お化け屋敷~!」
「盛り上がりながら言わないでしょ」
みつばの問いに、かえでがテンションアゲアゲで答える。みつばは、かえでのおかしなテンションにツッコミを入れる。
「すみれ、お化け役だろ」
すみれ、図星のため、久哉の耳元で不気味に囁く。
「そうだけど…」
「ギャーッ!」
ビビって叫んだのは久哉ではなく、みつばだった。
「みっちゃんがビビって、どうするんだよ…」
たまきとまりなも若干怖そうだった。
「ほら、すみれ。まりちゃんが泣いちゃうぞ」
「お化けじゃなくても、いつも泣いているでしょ」
「お化けで泣くのはたまちゃん。昔肝試しで泣きながらまりなの背中に隠れちゃって」
たまきが、恥ずかしそうにムキになって反論し始める。
「まりちゃんだって大泣きして、逆にお化けに慰めてもらっていたでしょ」
まりなも顔を赤らめてしまう。
「お化けから慰めるってどんな感じだった?」
「そもそも、お化けに扮した人でしょ」
みつばとすみれが、ボケとツッコミをしあいながら、空気が和む。
「かえでちゃん、お化け役に立候補したんだけど、却下された」
「暑苦しくて脳天気なお化けは、別に意味で怖過ぎる」
かえでが語ると、みつばはぞわぞわした表情をする。
「それよりさ、他の部活から文化祭のヘルプが来てないよな」
久哉は退屈していた。異なる個性を持つメンバー6人の集団で何も活動が出来ていないため、意義を感じていない。ただ、秋の文化祭が控えているため、6人で何が出来るかを考えていた。
「今のままだと仲良しグループのままだけど?」
「私は別にそのままでもいいと思うんだけどね」
みつばは、みんなで仲良くできれば現状維持でも構わないと思っていた。ただ、すみれと久哉のようなまとめ上手タイプからすると、意義を感じない。
「せめて有志で何かやらないとな。みんな何やりたい? 体動かすやつ? それとも芸術系?」
久哉が質問をすると、かえでが挙手する。
「はい! 動画撮影ってどうかな?」
たまきが、「なるほど」といったリアクションをしながら会話を膨らませようとする。
「6人でドラマとか映画を作るのはどう? それか、各クラスや団体の出し物を紹介する動画や写真をぼく達で撮るのはどう?」
「流石たまちゃん!」
「かえでちゃんの方が、ナイスアイデアだよ」
かえでとたまきの案に、みんな賛成の様子だ。ここで久哉がアイデアを思いつく。
「てことは、すみれの雪女姿を撮れば、それがまたたく間に広まるってことだな」
軽く笑う久哉に対し、すみれが彼の左肩を叩き、目を大きく開きながら不気味な表情で威圧する。
「調子に乗るのも程々にしないと、あなたを冥界に連れて行ってあ・げ・る」
「ぎゃーっ!」
怯えて教室を出ていく久哉を見て4人が爆笑する。
「じゃぁ、まずはこの6人で和風の装いで撮ってみようよ。縁日とお化け屋敷のイメージに合うから」
まりなが提案し始めるとみんな賛成する。
「OK~! 今度クラスのみんなにも提案してみる!」
「縁日といえば浴衣。着物となると茶道もやってみたい~」
「いいんじゃない。私だけ不気味路線になっちゃうけど」
たまきは、ぼーっとしながらまりな以外の3人の着物姿を妄想していた。雪女を彷彿とさせるすみれ、茶道教室で茶を点てているようなみつば、明るく盆踊りを踊るようなかえでの姿が浮かぶ。因みに、まりなの浴衣姿は見慣れているから妄想するまでもなかった。
「たまちゃん? 大丈夫?」
まりなの声を聞いて、妄想から覚める。同じタイミングで久哉が戻ってくる。
「たまちゃん、みんなの着物を妄想していたただろ~」
すみれは鼻息で、まりなとみつばとかえでがくすりと笑う。たまき、恥ずかしそうに久哉に反論する。
「そんなことないって!」
「別に妄想したって、かえでちゃん怒らないから大丈夫!」
「ねぇ、どんな私を想像していたの?」
「みっちゃんは、お茶を点てている姿」
みつばがひらめきながら、文化祭で茶道教室をやろうと考え始めた。とはいえ、グループかクラスかで悩んでいた。
「どうしようかな、クラスとこの6人、どっちがいいかな?」
「迷うなら、両方でやっちゃえば?」
かえでが提案する。
「とりあえず、考えとくね」
「となると、文化祭実行委員会と打ち合わせしないとな。誰が行く?」
5人が久哉に視線を移す。
「俺か? わかったよ。けど、もう1人必要だな」
「まりなはどう?」
「ぼくもいいと思う」
「まりなが?」
まりなは、たまきとすみれの意見を聞いて心配だった。久哉と2人での組み合わせが自分の中ではピンと来ない。
まりなと久哉は、2年A組の教室で文化祭実行委員会の2年生・稲木裕花と会話をしている。
「何の撮影をするの?」
「クラスや団体の出し物を紹介する動画です」
「それって、あなた達が自分のクラスでやれると思うけど…」
「確かにそうなんすど、他のクラスとか団体の出し物紹介の撮影をサポートしたいんすよね」
「サポートって、あなた達の目的は一体?」
「自分達、6人で『いろどりいいとこどり』っていう多目的サークルやってます」
「多目的? それって何でも屋ってこと?」
多目的という単語がなかなかしっくり来ないので裕花が聞き返す。
「そんな感じっす」
「みんな性格も趣味も特技もバラバラでも仲良しなんです。共通しているのは…」
まりなが、自分達のグループをアピールするように説明するが、途中で言葉が詰まり、少し目が潤んでしまう。そんなまりなを、久哉がフォローする
「好奇心旺盛なところかな。個性もバラバラだけど、色んなことに興味を示すってとことが、いいところだと思ってます」
裕花、目を潤ませているまりなを見て、軽く目を丸くする。
「目が潤んでいるけど、大丈夫?」
「彼女、涙脆くて。まりちゃん、少し深呼吸しなよ」
まりな、深呼吸をしながら、気を落ち着かせる。
一方、たまき、すみれ、みつば、かえでの4人は、ショッピングモールのベンチに座りながらくつろいでいた。
「まりちゃんと久哉くんの2人で大丈夫かな?」
「みつばは、久哉がまりなと2人きりだからナンパするかもって思っているんでしょ?」
「概ね当たり。この4人のうちの誰かなら2人きりでも自然だけど、久哉くんじゃ…」
「昔から、女子に対してはクール気取っているから。私が見慣れちゃっただけかもね」
みつばとしては、まりなが久哉に遊ばれていないかを心配していた。すみれは、大したことじゃないと伝えたいが口下手なため、上手く伝わっていない。そこで、たまきとかえでが、みつばに対して前向きにフォローする。
「ぼくが見ている限り、久哉くんって何も考えていないようで真面目に考えていると思うかな」
「そうだよね、遊び半分だったら、このグループにいないし。みんなで何かやろうって言い出さないもん」
「2人の言う通り。だから久哉のこと深く考える必要ないから」
少しホッとしたみつばは、話題を服装に変えながら、自分の意見を言い出す。
「それより、私、ハッピじゃなくて浴衣か着物がいい。クラスでもこのグループでも」
「かえでちゃんは、ハッピ派かな。お化け屋敷とはミスマッチだけどそんなの関係なーい」
「私は雪女だから着物確定。たまちゃんは?」
たまき、半笑いしながら再び妄想に浸ってしまう。
「なんか、3人ともいい感じ」
みつば、たまきの表情を見て、大げさに驚きながら困惑する。
「どうしよう…また、たまちゃんが妄想しちゃったじゃん」
たまき、みつばの声につられて顔を赤らめる。周囲がたまきとみつばのリアクションに反応し、4人に視線を移す。たまきとみつばは、恥ずかしそうに顔を隠す。




