表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者の街で、今日もパンを焼いています 〜小さな魔獣との静かな暮らし〜  作者: 白波 いつき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/42

豆パンと、ちょっと重たい相棒

 パン屋をオープンしてから、少し経った頃のことだ。


 オモチは、毎日のようにパンを食べていた。


 魔獣だからなのか、オモチは基本的に何でも食べられる。

 お腹を壊すことも、ほとんどない。


 中でも特に好きなのが、甘く煮た豆を入れた豆パンだった。


 焼き立てを少し冷まして、端をちぎって渡す。

 すると、両手で受け取って、嬉しそうに頬張る。


 その姿が、まあ、かわいい。


 しかも食べ終わったあと、もっとないの、みたいな顔で見上げてくる。


 そんなことをされると、つい甘くなってしまう自覚はあった。


 そんなある日。


 森で、ふと違和感を覚えた。


 いつもなら、森に入ってすぐにオモチを見失う。


 速い。

 静か。

 気配が薄い。


 それが、この日は何故か目で追えた。


 たまたま、そういう気分なのかと思った。

 けれど、二度、三度と続くうちに、さすがに気づき始める。


 いや。


 最近、肩こりがひどいせいで、余計に気になったのかもしれない。


 店にいるとき、オモチは、いつものように私の肩に乗った。


 その瞬間。


 今まで感じたことのない、ずしりとした衝撃があった。


「オモチ……」


 そっとオモチを掴み、目の前の机に下ろす。


「きゅっ?」


 不思議そうに鳴くオモチ。

 首をかしげた、そのお腹に、そっと指を埋めた。


 むに。


 ……うん。


「オモチ、太ったよね」


 次の瞬間。


 がーん、という効果音が見えるほど、分かりやすい動揺。


「きゅきゅー! きゅきゅきゅー!」


 必死に否定しているようだ。


「いや、太ったよ。確実に」


 私は、淡々と続ける。


「だって最近、動きが目で追えるし。何より、肩に乗られると、なんというか……肩が重い」


「きゅうっ」


 傷ついた、みたいな顔をされた。


 いやでも、事実なんだよな。


 オモチはぷいっとそっぽを向いた。

 認めるつもりはないらしい。


 机の上で丸くなろうとして、ちょっと丸くなりきれていない。


 ……うん、前より面積がある。


「豆パン、ちょっと控えようか」


 ぴたり、と動きが止まる。

 それから、ものすごくゆっくり振り返った。


 そんなに嫌なのか。


「きゅ……」


「そんな声出してもだめです」


 とりあえず、少しでも危機感を持ってもらおうと思い、泣き落としを試みる。


「もし、オモチが病気になったら……リラ、悲しい」


 すると、オモチから、かなり冷めた視線が返ってきた。


 ……うん。ごめん。

 今のは、自分でもちょっと違うと思った。


 しょうがない。

 ダイエット等は基本、本人のやる気次第だ。


 とりあえず、様子を見ることにしよう。


 それから一週間。


 オモチの食生活は、まったく変わらなかった。


 豆パン。

 ベリーパン。

 豆パン。


 たまにクッキー。


 そして、日に日に増していく、私の肩こり。

 どうしたものかと、本気で頭を悩ませることになった。


 ある日など、店の奥でこっそり体重を量ろうとしてみた。


 オモチを抱っこして量って、次に自分だけ量ってから引き算をすればいい。


 完璧である。


 と思ったのだけれど。


 途中で察したオモチが、ものすごい速さで逃げた。

 逃げ足だけは、まだ速かった。


「そこは速いんだ……」


 少しだけ安心してしまった自分が悔しい。


 次の木の日。


 今日は、午後から森でキノコ採りだ。

 旬のキノコと樹の実を使って、キノコたっぷりのスープを作る予定だった。


 足元を見ながら、傘の開いたキノコをひとつずつ採っていく。


 そのとき。


 近くから、気配を感じた。


 カサカサと葉が揺れる音。

 四本足。


 魔獣か。


 そっと武器に手をかける。

 オモチも、すぐに臨戦態勢に入った。


 姿を現したのは、ドリル状にねじれた角を持つ、鹿型の魔獣だった。


 スクリューホーンディア。


 姿を現した瞬間、私をめがけて突進してくる。

 初撃を、二本の剣で受け流した。


「オモチ!」


 方向転換した魔獣を捕らえるため、オモチが頭上の木へ飛び移ろうとした。


 ……が。


 届かない。


 ほんのわずか、飛距離が足りなかった。


 体重のせいだと気づくには、十分な失敗だった。


 オモチは、魔獣の背へと真っ逆さまに落ちる。


「うきゅうぅ?!」


「っ……!」


 私は飛び出した。


 身体強化をし、全力で踏み込む。

 そのまま魔獣の首元を蹴り飛ばした。


 同時に、オモチを伸ばした手で掴み取る。


 横に転がり、体勢を立て直す。


 間髪入れずこちらへ向かってくる魔獣に、両手剣へ電気魔法を纏わせて斬りつけるが、


 浅い。


 角が腕をかすめ、長い傷が走る。


「うきゅうぅー!!」


 オモチの粘糸が、今度こそしっかりと魔獣を捕らえる。


 魔獣が足を取られ、体勢を崩した瞬間。


 止めを刺した。


「ふぅ……」


「うきゅ……うきゅきゅ」


 オモチは、私の腕を気にしながら、ぐるぐると周りを回る。

 耳もしっぽも、しょんぼりしている。


 そんな姿に、私は思わず笑ってしまった。


「ダイエット、がんばろうね」


「うきゅー……」




 今日は、太陽の日。


 森に来ている。


 あの日以降、オモチが太ることはなくなった。

 今では、木から木へと軽やかに飛び移っている。


 ぴょん、と跳ねて。

 ひらりと枝を移って。

 何事もなかったみたいな顔をしている。


 ……まあ、それはそれとして。


 太っていた頃のオモチも、正直、かなり可愛かったな、と思ってしまうのだけれど。


 あの、ちょっと丸くて。

 肩にずしっときて。

 机の上で丸まりきらなかった頃の。


 そう思って見上げると、オモチが枝の上から、じとっとした目を向けてきた。


「きゅ」


「ごめんごめん」


 謝りながら笑う。


 風が葉を揺らし、木漏れ日が足元で揺れた。


 森の中を走る白い影は、今日もちゃんと軽やかだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ