第77話 注目の的
日曜日丸一日休んだおかげで身体は回復し、無事学校に登校する。
いつものように朝ごはんを食べて支度をし、学校に向かうと、教室周辺がなにやら騒がしかった。
教室の外に人集りが出来ており、合間を縫って中に入ると、他クラスの生徒たちがイブキくんやシュウヤくんたちの席に列を成しており、何かイベントでもやるのかと思いながら着席する。
イブキくんは普段ならこの時間には教室で座って読書でもしているのに、今日はまだ来ていないようだ。
早く来たら大変になると分かっていたのか、それとも今日だけ遅いのか謎ではあったが、私はとりあえずカバンを机の横にかけた。
すると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、イブキくんの席に並んでいた子であった。
「あの、あなたがVishを作った方ですか?」
すると近くに並んでいる人たちは一斉にこちらを見た。
何故私が企画したことを知っているのか気になったが、とりあえず肯定すると大変なことになりそうなので一度否定しよう。
「いい……」
「そうだよ!ヒマリが企画とプロデュースしてくれたんだ!」
ナルミさんは私の言葉を遮る形で説明した。
「やはりそうですよね!!ヒマリさん、あなたは素晴らしい御方です!!
あの5人をアイドルにしてくれたことに大変感謝しております。
ーーちなみに今後この5人での活動などは考えていないんでしょうか?」
熱量の高いオタク口調に馴染みを感じながらも、私が思っていた以上にライブは成功していたようだ。
「申し訳ないんですが、今のところアイドル活動は考えていません。
まだ彼らと話し合いもしていないので、これからのことは分かりません」
正直に伝えると、周りは落胆の声が上がった。
「今後何か決まったら、私に伝えてくれると嬉しいです。
私Vish応援隊のリーダーをしています。
3-Aのマキ・イイダと申します。今後お見知り置きを」
ファンクラブのようなものが出来上がっていることに驚いた。
どんだけ人気なんだよと心の声が零れそうになる。
近くで黄色の歓声が上がり、誰がやってくるのかとドアを見ていると、イブキくんやシュウヤくんたちが登校してきた。
歓声を浴びながら登場されると、芸能人みたいでミーハーな私も思わず感嘆してしまう。
でもこんだけ色々な生徒が1-Bに集まっているのは流石に迷惑になるので、私はマキさんにみんな自分のクラスに戻るようにお願いをした。
「分かりました。今後、何かしら進展があることをお待ちしております。
ーー皆さん、そろそろ戻りましょう」
マキさんの一声でみんな一斉に解散し、あの人は力がある人なんだと理解した。
5人の後ろからやってきたのはユアさんは顔を歪ませながらこちらにやってきた。
「朝から大変でしたわ。こんなに騒ぎになるなんて驚いてしまいました」
「そうですよね。私も驚きました。ユアさんの方は何かあったんですか?」
そう尋ねると彼女は何か言いたい顔をしていた。
「こちらはいつも通り、シュウヤたちと外を歩いていたら、私たちの後ろを追われたり、歩いているだけなのに歓声が聞こえてお祭りなのかしら?と思っていましたわ」
「それは朝から大変でしたね。ファンクラブみたいなものも出来ていたので、思ったよりも大事になっているので、シュウヤくんたちと放課後話し合いをした方がいいと思います」
「ファンクラブってなんですか?」
「応援隊みたいなものです」
「なるほど。とりあえず、放課後はワタクシのカフェで話し合いしましょう?」
ユアさんの提案に頷き、あっという間に放課後を迎える。
私はカバンを持ち、ユアさんの席に真っ先にいった。
「たぶん、早く行かないとまたみんな囲まれちゃうと思います」
「そうですわね!みんな早く移動しましょう?」
いつものように準備していると、ドアが開く音がした。
隣のクラスの生徒がドアから近い席のイブキくんに話しかけていた。
オタクの行動力の高さと早さに脱帽であった。
「もう捕まってる」
「まるで鬼ごっこみたいですわね」
「俺たちも早く出ないとイブキみたいになるな」
残りのメンバーで急いで教室を出るがもう外には待っていましたと言わんばかりにみんなのことを出迎えた。
これは長くなりそうだと思い、みんなを犠牲にする形にはなるがユアさんとここを離脱しようと思う。
「みんなごめん!私とユアさんは先にカフェで待ってるね」
「待ってくれ」
「そのアイデア良いですわね。先に行って待ってるわ」
ユアさんは私の手を握って昇降口へと向かい、あの人混みから脱出に成功をした。
「みんな大丈夫かな」
「きっと大丈夫ですわ。でも疲れた顔でこちらにやってきそうですわね」
「そうですね。とりあえず今後の対策を2人で練っておかないとですね」
「まずはカフェでゆっくりお茶してから、色々なことを決めましょうか?」
校門をくぐり抜けてカフェへと向かって歩きだそうとすると、ユアさんに手を引かれて、こっちと指を指した方向を見ると車が待機していた。
「車で向かいましょう」
学校からカフェまでは歩いて10分ほどなので散歩がてらちょうど良いが、今日は有難く乗らせてもらう。
車では5分もかからず、カフェの近くまで着いた。
カフェに入るといつも2階に案内されて、ユアさんがスムーズに注文してくれた。
先に紅茶が運ばれてきて、乾杯をし一息つく。この空間と紅茶の香りがとても癒される。
そして、メインのケーキがやってきた。今日は生クリームにイチゴが乗ったショートケーキのようだ。
ユアさんに召し上がれと言われ、早速フォークで1口すくう。
スポンジが柔らかくて生クリームが甘すぎずとても美味しかった。
美味しくて夢中になっていたら、あっという間に食べ終えてしまった。
「もう食べ終わってしまいましたの!?」
「美味しくつい」
「お口に合ったようでよかったですわ。
おかわりはみんなが来てから頼みましょう」
「ありがとうございます」
2人ともケーキを食べ終えて、小休止していると、階段を上ってくる音がして見ると、ヒナタくんとタクトくんとミズキくんがやってきた。
「2人ともひどいよ〜!!僕たちを置いていってさ!!」
ヒナタくんは拗ねた子供のような口調で言った。
「そうだ。君も僕たちと同じようなものなのに、僕たちを囮にして逃げるなんてズルいよ」
ミズキくんも少し怒り気味のようだった。
「流石に2人の対応は酷いよな」
タクトくんまで私たちを敵にする言い方をしていた。
「しょうがないですわ。とりあえずこちらに来て座ってください」
「そうそう!座ってお菓子を食べて、紅茶でも飲めば気分良くなるよ!」
「それで気分が良くなるのはヒナタぐらいだ」
「タクト酷いよ?実際そうだけど」
「ヒナタって単純で羨ましい」
タクトくんとミズキくんの言葉が疲れているせいかいつもより鋭さを感じる。
「俺たちはなんとか帰れたけど、シュウヤとイブキは本当に大変そうだったから、ヘトヘトでこっちにやってくるだろうな」
タクトくんは遠くを見て言った。
「そんなに大変そうだったの?」
「あれはやばいね。ずっと囲まれてたし、逃げる隙も与えて貰ってなかった」
ヒナタくんは彼らを憐れむように言った。
「キミはこの状況を打破するために何か思いついたの?」
ミズキくんはこちらを鋭く見た。
「まず、こんなことになっているのなルールがないからだと思うんだ。
だから、みんなのファンの子に明確な掟を作って提示するべきだと考えてる」
「具体的にはどんなルールを作るの?」
「例えば、月に1回みんなと話す時間を作るなどのイベントを設けるようにする。
でもこれをすると、今後も校内アイドル活動を続けることになってしまうから、それだと大変だと思うので、最後のライブを開催するのはどうかな?」
「最後のライブ?」
「みんなこの前のライブが最後だって認識されていないし、今後もやるものだと考えていそうだったから、次で解散しますって分かっていれば今みたいな追っかけみたいな子も減るかもしれない」
「いいですわね!それでいきましょう」
「解散するって言っても、僕たちのファンがいなくなる訳じゃないよね?」
「そうだね。定期的な供給が欲しいとは思うから、毎月1枚写真をファンクラブ向けにメンバー各々撮って送るぐらいはした方がいいのかもしれない」
「こういうのって一過性の流行だから、別に気にする必要はなくない?」
ミズキくんの意見も分かるが、どうなるのか皆目見当もつかない。
「それで終わるといいんだけどね」
「ヒマリちゃんが心配するのもわかるけどさ、まずはもう少し様子を見てから、動き出さない?」
ヒナタくんは冷静な意見を述べた。
「俺もヒナタの意見に賛同だ。またライブを開催したらこれからも活動するかもしれないと淡い期待をさせてしまうから、期間を空けることが必要だと思う」
タクトくんもそう言って、最後ミズキくんの意見を聞こうと彼の方を見る。
「僕も様子見することに賛成する」
多数決の結果は一旦動かないことになった。
よく考えれば私が言ったことはアイドル活動を続けたいように見える行動だったので、みんなの気持ちをよく聞かずに勝手な判断をしていたなと反省する。
「そうだね!1ヶ月ぐらい様子を見てから今後の方針を考えよう。
その間はみんなはアイドルみたいな対応をせず、追っかけしてくるファンの子をなるべく避けよう。
私も応援隊のリーダーのマキさんにそういうことをするのは控えてもらうように話してみるね」
ある程度話がまとまったところで、疲れた顔をしたイブキくんとシュウヤくんはやってきた。
「2人ともお疲れ様」
「アイドルって大変なんだな」
開口一番にアイドルの苦労を語るシュウヤくんに申し訳なさを感じる。
「今日1日慌ただしかったから、俺も疲れた」
イブキくんは穏やかに過ごすのが好きなことを知っているので、今後もこれが続くようなら学校に来なくなりそうだ。早急にマキさんとお話しないと。
「さっき今後の予定の話をしていたんだけど、とりあえず1ヶ月ぐらいは何もせず、その後にこのアイドル活動を続けるか否かを決めようってことになった。
そして、その間は普通の生徒のように過ごせるようにアイドル対応はしないようにという話になつてるんだけど、2人はどう?」
2人はほぼ同時に「賛成」と言って、この方針で行くことになった。
7人ようやく揃って、紅茶で乾杯をし、私は2回目のショートケーキを楽しんだ。
明日も学校があるので、早めのお開きとなったが、ハロウィンパーティーの準備で追われていたからか、こんな穏やかな時間を過ごしたのは久しぶりに感じた。
ユアさんは車で家に帰り、残りの6人で寮に戻ろうと思ったら、ヒナタくんタクトくんミズキくんの3人は寄り道してから帰ると言って、どこかに消えてしまった。
私はイブキくんとシュウヤくんと共に久しぶりに3人で帰ることになった。
この3人になるのは夏休みの別荘以来で2人の告白を断ってからは初めてとなる。
「帰るか」
シュウヤくんの掛け声で歩き出す。いつもよりやや緊張しながら、2人の後ろをついて行く。




