第75話 充電切れ
急いで教室に行こうと走り出すと、先程まで外にいたのに教室の近くの階段にいる。空間が切り取られたように移動していた。
一瞬のことで何が起こったのか分からず動揺するが、まずはマイクを回収することが最優先のため教室の中に入り、ダンボールなどが置いてあるところを見てみるがグッズなどしか入っていないようだった。
他にどこにあるか考えながら、時計を見ると2分経っている。
時間に追われながら焦っていると、ユアさんが「どうされたの?」と救世主の如く現れた。
「ユアさんは予備のマイクの場所を知っていたりしますか?」
「ヒマリさんが朝に自分のロッカーに入れてませんでしたか?
昨日ワタクシが預かっていたのですが、ヒマリさんがご自分で朝のリハーサルに持っていくからロッカーにしまっておくと言っていましたよね?」
「あ、そういえばそうでした。教えてくださりありがとうございます!」
急いでロッカーの中を見ると、マイクが入っていた。自分の馬鹿さ加減に呆れながらも反省している暇は無いので、体育館へダッシュする。
「ユアさんありがとう!!」
「いえいえ、ヒマリさん頑張ってくださいね」
私は人にぶつからないように間を縫うように通りながら、出来る限り早いペースで戻る。
体育館を目前にセットしていたタイマーが鳴ってしまうが、タイマーは止めても、足は止めず、ただひたすらに走った。
ステージの横まで着いて、インカムを付け、息を整える暇もなくイブキくんを呼ぶ。
「ヒマリ、時間通り戻ってきたね」
「ごめん、ちょっとオーバーしちゃったよ」
「大丈夫だよ。僕たちが盛り上げておいたから」
彼にマイクを渡し、「ありがとう」と言って、颯爽とステージに戻っていった。
流石に全力が走ってきたからか体の力が抜けて、その場で座り込んでしまう。
「疲れたな」
ぼそっと呟くと、最後の学校の校歌が聴こえてきた。
みんなの歌声を聴くと、疲れた体が少しずつ癒えてきて、気持ちまで軽くなってきた気がする。
近くに残っていたパイプ椅子を置き、みんなの様子を見る。校歌はお客さんの近くで歌うためこちらから見えずらいが歓声が上がっていたり、みんなが振っているペンライトが波のように見えて楽しそうだと思った。
私もペンライトを振ろうと端っこに置いておいたカバンを取ろうと立ち上がると、立ちくらみがしてパイプ椅子から動けなかった。
体調が悪いのは朝から感じていたが、今ここで動けなくなるのは嫌。少し椅子に休もうと目を瞑るとみんなの声や意識が遠くなっていった。
◇◆◇
目が覚めると、暗くて白い天井が見える。
ここは体育館ではなく、保健室のようだ。
先程の賑やかな空間から今はシーンとした静かな空間で今日がハロウィンパーティーだと思えなかった。
そういえば最後のライブはどうだったのか気になり、カーテンを開けて壁に掛けてある時計を見ると、17時。
ライブはとっくに終わっており、後夜祭のプロムの準備をする時間になっていた。
立ち上がろうとするが体は重くて、思うように動かせない。
扉が開いた方を見ると、保健室のナツキ先生がやってきた。
「体調は大丈夫かしら?」
「さっきよりはマシですけど、まだ動けません」
「そうよね。だって、あなた高熱で寝込んでいたんですもの。まだ熱があるから安静にしてなさいね?」
「熱があったんだ」
「とりあえず、ヒマリさんがゆっくり出来るように私はここから出ていくけど、何か必要なものとかある?」
「……お水が飲みたいです」
先生は保健室に置いてある小さな冷蔵庫からペットボトルを取り出し、蓋を開けて渡してもらった。
「ありがとうございます」
「他にはある?」
「何時まで居てもいいですか?」
「校長先生が22時になったら来てくれるから、それまでゆっくりしていてね?」
何故校歌先生が来るのか謎に思ったが、そんなことを考える余裕もない。
「分かりました」
「何かあればそこに置いてあるボタンを押してくれたら、私に連絡が行くから呼んでね」
「ありがとうございます」
電気が消されてドアが閉まる音がし、私は再びベッドに体を委ねる。
「今頃、みんなプロムの準備しているんだろうな」
イブキくんと一緒に行く約束をしてしまったけど、イブキくん1人になっちゃうし、申し訳ないことしたな。
熱のせいでネガティブなことを考えてしまう。
ドアが開く音がしたので、そちらを見ると「ヒマリ」と呼ぶ声でイブキくんが来たとわかった。
電気が着くと、その姿が明確に見えた。
タキシード姿の彼を見てキュンとしつつも、彼は服装とは似合わない心配そうな顔をしてこちらに寄ってきた。
「ヒマリ、熱があるんだって。僕が走らせたから疲れさせてしまったよね」
「ううん。その前からちょっと体調悪かったんだけど、休むのが足りなかった私のミスだよ」
「そんなことない。ずっと頑張ってくれていたことを知っていたのに、もっと僕たちが気にかけていれば」
「全然!みんなも頑張っていたし、そういえば最後のライブはどうだった?」
「ヒマリのおかげで大成功だったよ。ありがとう」
「みんなのおかげだよ、こちらこそありがとう」
「これ以上、ヒマリと話してしまうと休めなくなるよね。ゆっくり休んでね」
「ありがとう」
すると、彼は私の左手にキスを落とした。その姿はまるで王子様のようで、彼に見惚れてしまう。
「プロムが終わったらまた来るね」
「うん、楽しんできてね」
彼は電気を消して、ゆっくりとドアを閉めてくれる。
また静かになってしまったが、眠くなってきたので、もう一度眠りにつこうと目を閉じた。




