三二 ゴーレム (イラスト付き)
三日目くらいには、さすがの母親も圭太の意見の正しさを認めた。
らしい。
それまでは何度も何度も外に声をかけて、鍵のことを訊きまくっていた。
初めのうちは済まなそうに言い訳していた隊長は、半日後には遠くから首を振るだけになり、昨日はあからさまに荷車を避けた。姿を見つけた母親が大声で呼んでも、聞こえないふりだ。
オバサンという生き物は、地声が異常にデカい。その調子でオッサンの野太い声を使い、遠慮なく呼ぶのだから、隊商の全員に聞こえる音量になる。わざと無視しているのは明白だ。
食事を運んでくる少年に隊長への伝言を頼んでも、めんどくさそうにうなずくだけ。
ゴムタイヤのないこの世界の木製車輪がうるさく音をたてる中、母親オッサンのはちきれそうな筋肉のついた肩が、がっくりと落ちている。奥にいる圭太の耳に届くほど大きな溜め息をついていた。
「案内人さんは、この世界では、わたし達の世界より、人々が単純だって言っていたのに……」
──おいおい、マジかよー?
母親の嘆きに、圭太は心の中でツッコむ。
パラメータールームにいた『案内人』とやらは、ホラー系怪物だ。肩が触れただけで、最低でも数万はぼったくられるのは間違いない。あれに話しかけたってだけで、母親の無謀さがわかる。
だがそれを指摘してやっても、母親には理解できないだろう。詐欺に騙されるオバサンは、こういうものなのだ。
言うかわりに鼻を鳴らし、圭太はパンの端をかじる。
ネットもスマホもアニメもマンガもライトノベルもないこの世界で閉じこめられているのは、ただただ退屈だ。鉄格子の窓の外は木と藪が流れていくだけで、変化というものがない。退屈で頭が変になりそうだ。
一日中座って考えていたせいか、距離が離れていくせいか、ニータの顔が少しずつ薄れていく気がする。
忘れることはないが。
退屈な長い一日では、粗末な食事すら貴重なアクセントだ。
移動しながらの昼食は、特に非日常感がある。臭いのきついチーズと堅いパン、こぼさないよう気をつけて飲む、ただの水。
──超ファンタジー的食いモンってカンジだよな……
栄養が偏っているとか、温かいものがないとか、母親は毎回ぶつぶつ言うが、圭太の気分的には朝晩より上だ。それがわからないのが、オッサン化してても母親は母親にすぎないというところなのだ。
そう思っていたのだが。
荷車に閉じこめられて三日もすると、さすがに飽きた。
超ファンタジー的食事も、スープがついた食事も、毎日毎日寸分も変わらない。飽食日本に生きてきた身には、相当キツかった。
──ポチりてー。コンソメポテチ、うめーぼー、きのこ、たけのこ、マーブル……アイスでもいい。
ネットで注文したら、すぐ届く、ジャンクでうまい菓子。
超ファンタジー的食べ物は、獣人村と同じで、素材の味を活かすというか、活かしすぎてて味がない。
──カラアゲでもいい。黒コショウがガツンと効いてるヤツ……
ニータとのピクニックで母親が作った唐揚げは薄味だったが、あれでもいい。ハンバーグでもコロッケでもいい。ソースとしょうゆをドバドバかけて……と想像すると唾がたまる。
四日目は一日中、ジャンクフードを一つずつ脳裏に完全再現してすごした。
母親は諦めたのか、荷車の中を掃除しまくる。
立ちあがれないほど低い天井、壁、床まで藁で掃いて、水をかけたぼろ布でふく。水だけは、頼むと持ってきてくれるのだ。トイレの周囲をよく拭いたせいか、空気が少し良くなった気がする。
──よくやるよ。自分の家でもねーのに……
他人の物を無償で掃除してやる趣味は、圭太にはない。もっといえば、自分の部屋も掃除したことはなかった。
「だって。汚いよりキレイなほうが、気持ちいいでしょ? ここにいる間、すっきりしていたいじゃない」
母親は当然の顔で言ったが、理解不能だ。すぐに出て二度と戻らない場所を綺麗にする、意味がわからない。
道が平らになったのは、五日目だ。
足を踏ん張らなくても前に滑って行かないので、少し楽になる。
昼過ぎには、人とすれ違った。隊商の男達とは違い、フード付きのマントを着て歩く人々を、圭太は鉄格子の端から食いいるように眺める。
──冒険者か? マジックキャスター? ファイター? 踊り子? やっぱ、そーゆークラスっているよな?
これからの展開を考えると、ドキドキしてきた。
今までは長いプロローグ。ようやく本編に入るのだ。
そのとき隊長の声が聞こえた。
隊商をどこかに誘導しているようだ。声が明るい。山を無事に抜けたせいか。
夕刻前に隊商は広場に入った。
広場には、似たような荷車や馬車がいくつも停まっている。
街道沿いの宿泊場所らしい。隊商の男達もリラックスして、賑やかに喋ったり他の隊に声をかけたりしつつ、焚き火や食事の準備、馬の世話にと走りまわる。
もちろん、圭太と母親は、荷車の中に隔離されていた。鉄格子越しに活気のある広場を眺めるだけだ。
他の隊の者が圭太の荷車を指さしても、隊長の一言で納得し、圭太達を助けるそぶりはみせない。
──思った通りだぜ……
暗い荷車の中でニヒルに笑う。
隣で母親が息を吐いた。
「誰か、鍵をどうにかできる人、いないかなあ……」
まだどこかで隊長を信じているらしい。
──いるだろーな。その手の技能を持ってるヤツは……この隊商の奴にも、きっといる。
わかっていても、それは言わない。
「いたって、助けちゃくれねーよ」
「どうして? 圭ちゃんがなにを知っているの?」
母親の野太い声が少し尖っている。
さすがに五日も閉じ込められると、精神的にヤバいかもしれない。
圭太は鼻を鳴らして肩を竦める。
「こーゆー世界の定番だ」
「……圭ちゃんてば、そればっかり……あら? ねえ、ちょっと見て。あそこ!」
急に高くなった声に振り向くと、母親が外を指さしていた。鉄格子の間から手をのばし大きく振る。
「ねえねえ、そこの人! ……えーと、灰色の人―!」
──灰色の人?
目を向けると、ちょうど一人の男がこちらを向くところだった。
「え……?」
目を疑う。
夕焼けの広場で、男の肌は確かに灰色に見える。髪は緑色だ。
だが獣人の村で過ごした圭太は、それくらいでは驚かない。
ぎょっとしたのは、男が一瞬二人に見えたからだ。
一人はすらりとした灰色の男。
もう一人は灰色の胸までの背丈で身体全体がねじ曲がっている。頭は傾き、腕が麻痺しているのか胸元に引きつけていた。
ほんの十秒ほどで、曲ったほうの身体は灰色のほうへ吸い込まれるように消える。
灰色の男は緑の眉を片方上げ、流れるような物腰で近づいてきた。もの慣れた態度で鉄格子に寄りかかる。
「やあ、マレビトさん達。どうしたんだい? こんな荷車の中で。トラブルかな?」
圭太は再度ぎょっとした。
男の口から出た二重音声が、明らかにこの世界のものではなかったからだ。
地球の外国語だ。ハローとかなんとか聞こえたから、英語だろう。
たぶん。
「はじめまして。もしかして、あなたもマレビトですか? わたし達以外のマレビトに、初めて会いました!」
物怖じなどの高度な人間的感情を持たないらしい母親が、オバサン全開で手をだす。灰色の男と握手し、すっとんきょうな声をあげる。
「わあ! 冷たい!」
「僕は、ゴーレムになっているんですよ。人工生命体なので、体温が低いんです」
影の中で圭太は独りうなずいた。灰色の肌も緑色の髪も、ゴーレムなら納得だ。見れば、男の目は白目の部分が赤く、瞳は黄色い。人間離れしているが、全体的には整った容姿である。
──こんなカンジなら、ゴーレムも悪くねーかも……
ぴっちりした細い七分丈パンツと布靴しか身につけていないゴーレムのマレビトは、爽やかに微笑む。圭太が初めて見る笑いかただ。
「僕はジェイ。キミ達は?」
「あら、ごめんなさい。びっくりしちゃって……わたしは杏子、こっちは息子の圭太です」
オバサン臭い自己紹介だと思ったが、口は出さない。
「隊商の人達と一緒に町へ行くんですけれど、隊長さんが、この荷車の鍵を失くしてしまって、町の鍵屋さんに行くまで、でられなくなってしまって……」
「……へえ?」
ゴーレムのジェイがくすくすと笑う。
これも初めて見た。
こんな笑いかたをマスターしたら『話す』のコマンドが、自由自在に使えそうだ。それくらい高度な技術である。
「キョーコ、キミは女の子だから気がついていないかもしれないけれど、今のキミなら、体当たりを何度かすれば、ドアを壊せるんじゃないかな?」
鉄格子の前にぺたんと座って、母親は小さく首を傾げる。
ジェイか吹きだしそうになり、手で口を押さえた。
圭太は密かに共感する。
「でも……壊したら、隊長さんが困るでしょう?」
こらえきれずにジェイが声をあげて笑う。
「凄い! キョーコって、優しいんだね! 自分を捕えている人の財産の心配までしてあげるなんて!」
誰が見ても、自分達は隊商に捕らえられている。
それがわからないのは母親だけだ。異世界と、安全大国日本との区別がついていない。
「良かったら、僕が助けてあげようか? 僕なら簡単だよ。その檻なんか、すぐ燃やせる」
──てことは、コイツ、《特殊能力》持ちってことか!
しかも〈火〉の能力だ。〈鏡〉なんかよりずっとカッコいいではないか。
圭太は歯噛みする。ジェイがいなかったら怒鳴り散らすところだ。
すらっとして背は一八○センチ、エキゾチックな灰色の肌に緑の髪に紅と黄の眼。異世界感満載の容姿に加え、〈火〉の能力。
こんなムカツク奴はいない。
外見だけでも取り換えてほしいくらいだ。
ジェイは親指で、とある馬車の一団を示した。
「あれが、僕が入れてもらってる旅芸人の一座。あちこち旅をして、芸を見せて、楽しく暮らしている。良かったら、紹介してあげるけど?」
「うぅーーーん……」
母親が問うように圭太を見る。圭太は思いきり首を横に振った。
冗談ではない。こちらにはこちらの考えがあるのだ。
第一、こんなハリウッド映画の主人公みたいな笑顔の男と一緒にいたら、女の子はみんな、そっちに行く。ゴーレムのハーレムの一員にされるのは、願い下げだ。
母親は曖昧な笑みでジェイへ顔を戻す。
「少し考えさせてもらえる? まだ捕まったと決まったわけじゃないし……」
「OK! わかった。時々寄ってあげるよ」
「そうしてもらえると助かるけど……いいの? 大変でしょう?」
母親は少しだけ遠慮っぽいカンジで訊く。
ジェイは快活に親指をたて、ウインクした。
「もちろん。ここから町まで一日半。たぶんキミらと一緒に行くことになるよ。隊は大きいほうが、盗賊に狙われにくいからね」
向こうの馬車からジェイを呼ぶ声が響いた。ジェイは鉄格子から身を離す。
「じゃ、キョーコ、ケータ、またあとで!」
弾むような足音が遠ざかると、入れかわりに、珍しく隊長が現れた。
「よう。キョーコーさん。あのゴーレムの主人と知り合いかい? あんた達、現れたばかりだって聞いてたんだが」
「知り合いっていうか……ええと……」
母親がちらりとこちらを見たので、圭太はまた大きく首をふり、駄目押しで唇に人差し指をあててみせる。これだけやれば母親にも伝わるはずだ。あのゴーレムがマレビトだと教えたくない。計画に不必要だ。
「あの……珍しい色をしていたから、よく見たくて……声をかけたら、ここに来てくれたので……」
こういうときはオバサンの厚いツラの皮が役に立つ。百パーのウソではないから、真実味もある。
隊長はふふんと鼻で笑った。
「ただのゴーレムじゃないか。主人の命令をきくしか能のない木偶人形。つまんねえもんだったろ?」
もちろんジェイは地球から来たマレビトだから木偶人形ではない。
つまらないどころか、何種類もの笑顔を使い分け、圭太の主人公の地位を危うくしそうな、実に厄介なゴーレムだ。
「あ、そっ、そうですね。わたし、ゴーレムって、初めて見たから……」
母親の愛想笑いを隊長は怪しまなかった。内緒話でもするかのように、鉄格子へ身を屈める。
「ゴーレムなんざ、魔法使いの屋敷なら、いくらでもいるぜ……そうだ、いっそのこと、この荷車の鍵を、魔法使いに開けてもらうってのは、どうだ? 実は、これから行く町は、かなりデカい。国一番の魔法使いも住んでる。そいつはたまたま俺の知り合いなんだ。うまい酒を持っていく約束してんだよ」
──キターーーーーーーーーーーーッ!
この展開を待っていたのだ。
荷車の隅で、圭太は拳を握る。
「ええっ? でも、偉い人なんでしょう? そんな人に、ドアの鍵を開けろなんて頼んだら、怒るんじゃありませんか?」
わかっていない母親が遠慮するのを、後ろから蹴るべきか迷う。その間に隊長が笑い声をあげた。
「いやいや、奴は気にしないさ。喜んでやってくれるんじゃないかな」
「まあ。そんなに仲がいいんですか。凄いですね!」
そんなこんなしているうちに日が暮れて、夕食も届く。忙しい隊長はどこかへ去り、母親と圭太が残される。
母顔は深めのボウルとパンなどを持って奥へ来た。
指示されているわけではないが、トイレから一番遠い隅が、食事の定位置となっている。排泄物が地面に落ちる構造でも、気分的に気になるのだ。特に母親が。
荷車が止まっているときは、トイレの下に浅く穴を掘ってくれるのだが、母親も圭太もできるだけ使わないようにしていた。
テーブル代わりの木箱に並べた夕食は、いつもより品数が多い。ほかの人々と一緒に作ったのだろう。
母親が圭太の顔色を窺うように、口を開く。
「ねえ、圭ちゃん。どうする? やっぱり圭ちゃんが言っていたみたいに、ママ達、捕まってて売られちゃうのかな……ゴーレムさんに頼んで、逃げたほうがいいかな……?」
「はあ?」
竹の皮もどきの包みを開きつつ、圭太は声に非難と軽蔑をこめる。
「だって……魔法使いなんて、怖くない? この世界では、圭ちゃんみたいに不思議なことができる人がいるし、きっと魔法使いも手品じゃなくて本物なのよ。怒らせたら、本当に蛙にされちゃうかも……」
「んなワケねーだろ」
竹皮包みには、肉まんに似たものが入っていた。絶対に隊の連中が作れる料理ではない。
圭太は肉まんにかぶりついた。薄甘く煮たリンゴが入っている。あんまんより少し酸味が強いが、悪くはない。
母親はいつものスープを木の匙でつついている。
「……でも、圭ちゃん。もしかすると……」
「もしかしなくても、その魔法使いが、オレらを捕まえてくるよう、依頼したんだよ」
圭太には明白な流れが、母親には理解不能らしい。ぽかんとする母親オッサンのまぬけ面の前で、圭太は焦らすようにゆっくりとリンゴまんを食べた。
──ちっと考えれば、わかるじゃんか。
この荷車は明らかに、人を閉じ込め、生きたまま運ぶために特化された作りである。外鍵のついた頑丈な扉、鉄格子のはまった窓、トイレ。この世界の文明レベルなら、オーダーメイドとしても高価に決まっている。
つまりこれだけのモノを特注できる財力や権力を持つ者が、圭太達の捕獲を依頼したのだ。
そいつに会うことは、このクソゲーを神ゲーに変えるチャンスにほかならない。
荷車に閉じこめられて割とすぐに、圭太はそう結論づけていた。
国一番の偉い魔法使い。
これが大本命でなくて、なんだというのだ。魔法使いこそ、圭太と母親を召喚し、為すべき使命を依頼してくるNPCにふさわしい。
そうなればもうこっちのもの。
依頼を受けるか、それとも魔法使いを敵に回すかは、状況によるが、判断するのはこっちだ。
それさえ決まれば、チートで敵を全滅、ちょいちょいと世界を滅亡から救う。そしてその過程で、ニータよりずっと可愛い美少女達がぞろぞろ現れ、取り合いとかハーレム展開とか、心浮き立つストーリーがやってくるのだ。
──魔法使い出てくんの、おせーよ!
そのせいで圭太は不当に虐げられてきた。馬男の一味に襲われたり、ニータが母親にラブしたりと、いらない展開ばかりてんこ盛りである。
──ニータだけなら出てきたって、別に構わねーけど……
モフモフの耳と尻尾の幻影を振り払って、圭太はパンをスープに投入する。
「なに? 圭ちゃん、どういうこと? ママ、よくわからないんだけど……」
目を白黒させているオッサン顔へ、圭太は鼻を鳴らしてやった。
「いーんだよ。あのゴーレム野郎のことは忘れろ。あいつは良くねーから」
魔法使いに会う前にゴーレムに助けられるわけにはいかない。
まして、圭太より主人公っぽい容姿と性別と笑顔のバリエーションを持っているゴーレムになど。
魔法使いが目移りしたらだいなしだ。遠ざけておくのが、賢いというもの。
偉大な魔法使いに会うのは、圭太だけで充分だ。
できるなら母親だっていないほうがいい。だがたぶん無理だろう。だからこちらの邪魔をしないように言いくるめなくてはならない。
ふと思いついて、圭太は服のポケットを探った。
表面は滑らかでサイコロっぽくてすこし凸凹しているモノ。それが二つ、手に触れる。
村を出るときにナゴォ夫婦が出した『感謝の水晶』とかいうモノだ。
当然ながら、ニータが初めて出したという水晶は、ポケットになど入れない。圭太だけのものだから、柔らかい布でくるんでこの世界に来たとき着ていたワンピースと一緒に、大切にしまってある。
なにげない調子を装って、圭太はナゴォ夫婦の水晶を握った。
「そういえば、母さん。感謝の水晶とかって、まだ集めてんの?」
少しわざとらしいかと思った話の変え方に、母親は怪しまずにうなずく。
「もちろん。圭ちゃんとママが、安全確実に帰るために必要だもの!」
まだあんな課金野郎を信用している母親を愚かだと笑うのは、腹の中だけに留めた。
顔は変えずに、水晶を差しだす。
「じゃ、やるよ。オレ、いらねーし」
万が一、母親が信じていることが本当だとしても、圭太には関係ない。
元の世界に戻る気なんか、これっぽっちもない身体。
超美少女の英雄として異世界で人生を謳歌できるのに、デブでブサイクな身体に戻りたいなどと願う馬鹿がいるだろうか。
母親オッサンが目を丸くして圭太を見る。オッサンの目がビミョーに潤んできてウザいから、圭太は顔をそむけた。
「ホラ。いらねーんなら、捨てっけど?」
「待って、待って。ママ、ちょっと、びっくりしただけ。圭ちゃんが、ママにプレゼントをくれるなんて……」
慌てて出てきたゴツい手のひらに、水晶をぽいと落とす。
「プレゼントじゃねーし!」
いらないものを捨てただけだ。だが母親の感動に乗じてダメ押しをしておく。
「いいか? あのゴーレム野郎とは、かかわるな」
「ええ? ……でも、一緒に行くみたいだし……また来るって言っていたし、それに、ママ達と同じマレビトなのよ? いろいろ訊きたいじゃないの」
圭太は舌打ちした。
母親ってのはどうして、こうもごちゃごちゃつまらないことばかり言うのか。
「わかった。話すのはいい。でも助けてもらうのは、ナシだ。オレらは魔法使いに会う」
「それって、この……じゃなかった、こういう世界では、会ったほうがうまくいくってこと?」
真剣に訊かれると、少々気分がいい。圭太は重々しくうなずいた。
「そうだ。ゴーレムには、魔法使いのことは言うな。それがルールなんだ」
「そうなの……わかった。圭ちゃんは、なんでも知ってるものね」
にこにこと嬉しそうに水晶を撫でる。
やはり水晶を渡すのは正解だった。
注意しておかないと、オバサンはなんでもペラペラ喋ってしまう。今でも絶対安心とは思えないから、気をつけて喋りそうになったら蹴ってやらねばなるまい。
──とにかく。ゴーレム野郎と一緒に魔法使いに会うのだけは、阻止しねーと!
圭太は拳を握りしめた。




