新たなる
Blue Lover.第2節目、始まります!
赤い髪を一束にまとめた青年と、深緑の髪を二つにまとめた少女が肩を並べて外の景色を眺めていた。2人の髪は風の流れに任せてなびく。
しばらくして赤い髪をした青年は口を開く。
「俺は一体、あいつにどう思われているんだ――?」
そんな台詞に少女はふと目を見張る。
「いつもより消極的ね。どうしたの…と聞くだけ野暮ね」
「まぁ、ここが黄の国だからなのか俺自身の心情が不安定なのか…」
「両方じゃないかしら?今いるこの場所は黄の城にすぎないんだから」
そういわれ、それもそうかと、溜め息しか出ない赤毛の青年は岩壁に体重をかける。外を見やれば元気な子供たちの声に、市場から聞こえてくる売人の掛け声。ふと視線を巡らせば自然豊かな森も見える。そんな、どこを見ても活気が溢れている景色を見て目を細めては瞼を閉じる。
しかし次には、それほど経たないうち黄の領主が彼の意識を無理やり引っ張っていったのだった。
なぜ愛羅たちが黄の国にいるのかというと、事の発端は数時間前。
「会ってほしい人物…ですか?」
「そうそう。愛羅も領主になったしね、自国だけじゃなくて他国からのお仕事依頼遂行的な感じで。その人に会ってほしいんだ」
国が3つに分け隔たれたうちの1つ、蒼の国。その蒼の城で国の領主になりたての愛羅は、目の前に座っている馴染みのある男女2人に小首を傾げる。
向かいに座っては茶飲んでを楽しんでいる愛羅の従兄妹関係にあたる士郎と、その従者の神奈。
「つまりは遊びに来いと言ってるようなものだろお前」
それに注意をするのは愛羅の従者セラ。
「半分正解~♪」
「「ほぼ(だろ)(ね)」」
ふざけた様にいう士郎に、息ぴったりな従者2人に愛羅は苦笑する。
「それで従兄さん、その人って一体…?」
「それは会ってからのお楽しみ、ということで。そうだねぇ…まぁ簡単に説明すれば、この国の《守り神》ってところかな」
「守り…神?」
*
「そして既に黄にいるのが不思議なくらいだ…」
「まぁ士郎は決めたとなればすぐに実行するタイプだから。さっきまで蒼にいたのが嘘みたいでしょ?」
「あぁ、全くだ。馬に乗っていた時間が短く思える」
溜め息が出るセラに神奈はくるり、と愛用の日傘をまわす。そして話題を振るかのようにセラは口を開く。
「それで?愛羅の観光はあとどれくらいで済みそうなんだ?」
「そうねぇ…さっき国王に挨拶するにあたって城にあるだけのドレスの中から抽選された物に着替えさせられ済ませた後、今度は士郎と城下町を散策している、ていうから…ざっと見積もってもまだ帰ってきそうにないわね」
「説明調でありがとうございます…」
「逆に傍にいなくてもいいの?」
「…士郎と同じ事聞くんだな」
「だってあなたはお嬢の従者じゃない。いつもベッタリなのに今日は士朗に任せるなんて、雪でも降るかしら?」
ずばずばと言う神奈に言葉を詰まらせるセラ。
「いやちょっと…自分に言い聞かせる時間がほしくて…」
「? お嬢は鈍感だからセラがぐいぐいっても大丈夫なんじゃないの?」
「……」
「そう。時間がほしいのね」
そういって彼女は愛用の日傘をくるりとまわす。
*
「領主さま~!どうだいこの野菜!採れたてだから栄養すごいよ~持っていき!!」
「うわぁ~、おばさん毎度ありがとね~。量凄っ!!うーん、城の者寄こすからそいつらに渡してくれないかな?僕だけじゃこんな大量の野菜持って歩けない。」
なに言ってんだい!、と元気がいい女性に背中を叩かれた士郎の元には小さな数人の子供たちがやってくる。
「しろ~!剣!剣のわざみせて、わざ!!」
「この前いってたやつ!!」
「あ~今ぇ手、離せないからまた今度な~。というか僕今手ぶらだかんな!?」
士朗さぁ~ん!と従兄の名前を絶えず呼ぶ民衆に愛羅は驚く。町は活気ずいていて、色々な事件が起こってそれどころじゃなかった蒼とは比べものにならない程。しかし驚くのはそれだけではなく、愛羅の認知度でもあった。民衆に会う度会う度、愛羅は握手を求められたり、サイン!などとねだられた始末。自分でも訳が分からなくなり困惑する。ぐるぐると自分の中で検討していて分からずとも、士郎に尋ねればすぐに答えは返ってくる。
「あぁ、愛羅の存在知らしめたの僕だもん。『僕の従妹はこんなにも可愛いんだぞ~!』、って」
「…それでこんな騒ぎに…?」
気づけば2人を取り囲む民ばかりで身動きできない状態であった。流石に状況を理解してか士郎はあちゃー、と頭をかく。活気ずいているのはいいことだが、これでは身動きもとれない。どうしたものか、と悩んだ時だった。
女神…あぁ、女神…。どこにいるの…僕の女神…。
ふと声が聞こえた。繊細で研ぎ澄まされたような綺麗な声。でも不思議なのは、愛羅の頭に直接響くように聞こえたのだ。周りは民衆たちのにぎわう声なのにこの声だけははっきりと、愛羅の頭に直接聞こえてくる。そんな声に愛羅は少し戸惑い、同時に声の主に会いたいとも思った。
しかしだ。こんな周りをがっちり固められてそうそう出口は見つからないだろうと思った矢先、見つけた。民衆たちが群がっているにも関わらず、人と人との間に出来る、少しの空間。好機と思ったか、愛羅は躊躇わずにこの空間から出ようとする。
「愛羅?ちょ、どこ行く気!?」
しかしすぐ傍にいた従兄に呼び止められ、愛羅は少し戸惑う。
「~っご、ごめんなさい従兄さん!!皆さんの相手お願いします!!」
そう言っては愛羅は輪の中から抜け出し、しばらくしてから聞こえた従兄の悲鳴に軽く耳を塞いだ。
輪をくぐり抜けてから少し走った市場通り。愛羅の顔を見た民は嬉々として声をかけてきたりする。そんな彼らに手を振りつつも愛羅は駆けていく。どこに向うのか自分でも分からないほどに。でも頭の中に直接語りかける声は先程よりもだんだんと明確になってくる。しかし今まで鳴っていたものは急に、ぴたりと止む。
それと同時にか、愛羅は森の入り口近くとも言える様な場所に倒れこんでいた1人の青年を見つけた。
駆け寄った愛羅は少し驚く。顔はすっきりと整っていて、肌は透けるように白い。白銀のような綺麗な白い髪は鎖骨まで伸びた長髪であった。そして特徴的なのが右側につけている羽根のような耳飾。そんな、なんとも神秘がたい青年に愛羅は少し見惚れては焦る。
どこから迷い込んできたのか…?そう思うような感想しか愛羅には出てこなかった。黄の民というには少し違うようであり、だからといって蒼でも紅でもない、そんな気がした。どこか遠い…他国から来た者で…巡りに巡って黄の国に迷い込んだのだろうか?…多分違うか。しかし愛羅たちの住む国は島国であるため、異国人なら海を渡ってこの国にやってきたとしか選択肢はない。
うーん、と愛羅が悩んでいるのも束の間、気を失っていた青年がゆっくりと瞼を開いた。
「あ、よかった気がつき…」
「…“アイリ”?」
「へっ?」
起きては誰かの名であろう口ずさむ青年は髪色とは真逆に輝く黄金色の瞳をぱちくりさせて愛羅を見つめる。そんな彼に愛羅は少し戸惑う。簡単にいうと従兄と同じ“匂い”がしてそうだったからだ。
しかしそんな愛羅の僅かな警戒心は一気に砕け散る事になる。青年が思いきり愛羅に抱きついたのだ。
「やっと会えた僕の女神…!何百年ぶり…いや何千年ぶり…!!遂に会えた、会えた!!僕の“女神”!!!」
「!!? え…!?ちょっ、“アイリ”!?私は“アイリ”なんかじゃ、ないッ!!」
そういって青年の胸を力いっぱい押すと、彼は少し驚いた顔をした。しかし気を取り直したかのようにまたもや愛羅に近づく。
「違う。“アイリ”は“アイリ”だ。僕が見間違えるはずがない。」
「人違いじゃ…第一私はあなたが言う“アイリ”さんじゃないっ!!見間違えないなんて…。それに私には愛羅、っていう名前が…!!」
「愛羅っ!!」
そう言いかけた時だった。突如、自分の名前を呼ばれては我に返る。
本当の名を。聞き慣れた優しい声色をした愛すべき自分の従者――。
「セラ…」
「どうしたこんな町外れで…。士郎とはどこで別れたんだ?」
「ね、ねぇセラ。今ここであの人が…」
「?…誰もいないが?」
嘘、という前に振り返ってみては愕然とする。先程まで口をきいていた青年の姿はどこにもいなかったのだった。




