第21話
ヴィクトリア邸に向かう道中
グレイシアがブレイクの
契約精霊であるスイレンに確認をとる
「私も坊やと契約したいんだけど...ダメかしら?」
「いいわよ」
と、あっさりスイレンは答えたがブレイクが
「契約はスイレンとだけって決めてるんで
申し訳ないんですけどごめんなさい」
そう...と残念そうなグレイシアだった
「御主人様?
“初めての契約”は私とは言ったけど
契約で強くなれるんだから
本来ならどんどん契約していった方がいいのよ?
てか、スゥとはもうしてるじゃない...」
それはそうなんだけど...と
ブレイクは何か思うところがあるらしく
それを見たグレイシアが
「そうね、無理強いは良くないから
契約しても良いってなったら
契約してくれるかしら?」
ブレイクはどこかグレイシアを
自身の母であるカルラを重ねていた為
無理に断る事はできなかった
そこでヴィクトリアが疑問に思ったのか
「なぁ、スイレン
ブレイクはあとどれくらいの“枠”があるんだ?」
「10や20じゃないわね
100以上はあるんじゃない?」
契約出来る数が100以上となると
ブレイクはまだまだ強くなれる
そんな中、2枠しか契約していないのを考えると
契約が可能なのに勿体無いとスイレンがブレイクに
「だからね、御主人様」
「絶対に嫌だ」
もう頑固ね、とスイレンは言うが
ブレイクの言葉は内心とても嬉しかった
互いに繋がっている為
言いたい事はお互いわかっていた
ブレイクはスイレンを大切にしているし
スイレンはブレイクに強くなってほしい
そんな2人の間にスゥが割って入る
「なぁ、なんでスゥは
頭の中で話せない?」
確かにスゥと契約しているのだから
話せないとおかしいのだがスイレンが
「精霊と人なら頭の中で話せるのよ
居場所もわかるしね
でも人族同士だとどうなのかしら?
御主人様と繋がりが切れた時に
1番最初に御主人様を見つけたのは
スゥだったし...」
う〜ん、とスイレンが悩んでいるが
「まぁ、主が強くなるのはスゥは良いと思う」
周りの皆もそう言うが
ブレイクは頑なに断っていた
「話の途中で悪いんだけど
マリアが待っているから私は先に帰るね
アークはどうする?」
とユージーンがアークに聞くと
ヴィクトリアが
「たまには2人で
夫婦水入らずの時間を作れ
アークは私が預かる」
それじゃあ、よろしくと
ユージーンが皆に挨拶をしその場を去る
そして皆でヴィクトリア邸に向かい
時間もいい頃なので夕飯にする事にし
皆で食卓を囲んだ
グレイシアはこんな大勢での
食事は慣れていない様子で
少し不安そうだったが
次第に慣れ始め楽しそうにしていた
食事も終わりヴィクトリアがグレイシアに
「でも今回は急にどうしたんだ?
ミランドには王座を譲って来たと言ってたが」
するとグレイシアは
「さっきも言ったのだけれど
坊やの成長を見てみたくなって
ついでに力になれたらと思ったのだけれど」
と、ブレイクを見るが
ブレイクは相変わらず契約の話は
断る姿勢を見せていた
グレイシアはブレイクの手の甲に目がいった
それって、とグレイシアがブレイクに聞く
「コレですか?
僕、光の勇者なんです
闇の巫女も知り合いにいて
2人とも強くならないといけなくて」
グレイシアが
それなら尚更、契約した方がいいんじゃ?と思うが
そっと胸の内にしまっておく事にした
「でも、強くなると言っても
坊やは具体的にどうするつもりなの?」
そこなんですよねぇ、と
ブレイクが頭を悩ませているとアークが
「契約したくないなら
あとは冒険者として強くなるしかないよな
今はBランクだろ?
大変な事は多いけどSランクを
目指すしかないんじゃねないか?」
そうかもしれないと、ブレイクはまた考え込む
スゥが昼間の冒険者達との騒動を思い出し
グレイシアに聞いた
「なぁ、グレイシアと主はどっちが強いんだ?」
グレイシアは魔法がほぼ効かないし
鱗で物理攻撃も通らないとなると
ブレイクに残された選択肢は
精霊融合ぐらいだろう
「精霊融合がどこまで
通じるかによるんだよね
グレイシアさんの昼間の騒動を考えると
僕が魔法を使っても効かないだろうし
基本、僕は魔法攻撃が多いからなぁ」
スゥの疑問にブレイクがそう言い
スイレンが更に答えを教えてくれた
「決着つかないわよ
互いの攻撃が通用しないから」
そうなるのかと
グレイシアとブレイクは互いを見る
ヴィクトリアが気になりグレイシアに
「今は人の姿をしているが
その姿だと物理攻撃は効くのか?」
「効かないと思うのよね
擬態してるだけで触るとわかるけど
腕とか身体は鱗で覆われているから」
そうか、とヴィクトリアがスゥを見る
「どうした?ヴィクトリア?」
スゥは戦闘民族メソポリアだ
スゥならグレイシアの鱗を割る事が出来るのか
ヴィクトリアは気になったが
流石に大人になるまで成長しないと難しいだろう
「まあ、一回やってみる?」
と、スイレンが模擬戦を提案した
翌日、天気は快晴
迷いの森までは行かないが
街から離れた開けた場所で模擬戦をする事になった
「...えっと、私はどこまでやればいいのかしら?」
グレイシアが困った様子でスイレンとブレイクに
対峙していた
「全力でお願いします」
「御主人様もそう言ってるし
そうしてもらえるかしら?」
えぇ...とグレイシアは困ってしまうが
仕方ないと龍の姿に戻る
その体躯は15メートルはあり
身体は硬い鱗で覆われ魔法と武器などの攻撃を
通さず咆哮は氷龍王の名の通り
氷属性のブレスを放つ
爪や尻尾も強力な武器になるが
果たしてブレイクはどうするつもりなのか
「私が審判をするぞ」
とヴィクトリアが皆を離れるよう促し
ブレイクとグレイシアは少し離れた場所で
模擬戦の準備して待っていた
「では、始め!」
早々にブレイクは精霊融合をした
するとグレイシアはブレスの体制に入り
氷属性のブレスがブレイクを襲うが
ブレイクは時間魔法でブレスを止める
(このブレス...以前見たモノより威力が弱い?)
と、疑問に思うブレイクだったが
そんな事を考えている場合ではない
戦闘に集中しブレイクは
水魔法で刃を無数にグレイシアに当てる
が、グレイシアには水浴びと変わらないのか
気持ちよさそうにも見える
グレイシアがもう一度ブレスを放つ
ブレイクはブレスを利用して
氷の大剣を作り出し
その大剣でグレイシアに斬りかかる
グレイシアは尻尾で応戦し
勢いよく薙ぎ払われた尻尾に
ブレイクが吹き飛ばされたが
自身の後ろに時間魔法で作り出す
空気の壁に背中を預け
ブレイクはどうにか耐えてみせた
すかさずグレイシアの爪が下から襲いかかるも
大剣で防ぎ空へとブレイクは飛ばされてしまった
グレイシアは羽ばたき空へと向かう
ブレイクは抵抗する事も出来ず落下していく
上昇していくグレイシアに対峙し
空中では時間魔法で足場を作るくらいしか
出来ない為、自由に空を舞うグレイシアと
相性が悪かった
(どうしようスイレン!
グレイシアさん思った以上に強いんだけど!?)
(そうね尻尾に爪、そしてブレスが厄介ね)
ブレイクとスイレンが次の作戦を考える為に
念話をしていると
「もうおしまいにしない?」
とグレイシアが空中で人の姿に戻り
終わりにしようと提案して来た
「私はまだ戦えるけど
坊やはもう時間切れみたいだし」
と、ここで精霊融合が強制解除された
魔力切れだった、ブレイクの魔力量でも
ほんの数分が限度で更に魔法の展開をし続けた結果
わずか1分半で精霊融合が切れてしまった
グレイシアがブレイクを抱え
ゆっくりと地上に降りて来た
「ダメかぁ...グレイシアさん
明らかに本気じゃなかったもんなぁ
ブルガと戦った時は高速飛行に
ブレスの威力も桁違いだったしなぁ」
バレちゃった?とグレイシアは苦笑する
「御主人様より強いのは予想外だったわ
グレイシアは全盛期に戻った事で敵になる存在が
もういないんじゃない?」
そんな事ないわよ?と
今回の模擬戦でグレイシアとブレイクの相性は
圧倒的にグレイシア優先に見える
今までの魔力量でのゴリ押しが出来なくなった事で
新たな課題が生まれ目標が見つかったブレイク
ヴィクトリア達が
ブレイクとグレイシアの元に集まり
「凄かったな
グレイシアもそうだが
息子の魔法の展開も速くなっていた
グレイシア以外の龍でも同じ結果になるのか?」
いいえ、とグレイシアが答えると腕の鱗を見せた
「ここ、よく見るとヒビが入っているでしょ?
水魔法を受けた時にわざと余裕ぶったのは
これ以上されたら困るからなのよ
効かないと思わせた方が坊やは利口だから
別の手段に移ると思ったの」
グレイシアの作戦にまんまと乗せられてしまった
ブレイクだった
「御主人様と私の課題は
観察力と魔力量の調整あとは物理での攻撃手段ね」
スイレンがブレイクと相談していると
ザッザッ
ブレイクがこちらに近付いて来る人影を
索敵魔法で確認した
(ん?誰だろう?)
そこに現れたのはフードを深く被った女
「お!あれが光の勇者だな
あら?グレイシアもいる!それに銀の舞姫!
なんだなんだ!闘りてぇ奴らだらけだな」
(あの人、僕の事を知っている?)
女はフードを脱ぎ捨て一気に
ブレイクの目の前まで踏み込んで来た
「まず光の勇者からだな!」
まずい!と思いブレイクが
腕を目の前で交差させ防御体制をとる
女の踏み込んだ足は大地を割り
拳は交差させた腕を弾きブレイクの腹部にめり込む
グチャと音を立ててブレイクが吹き飛ばされる
「息子!」
「坊や!」
「ん?なんだ?時間魔法は?
なんでこんな弱ぇんだ?」
(...息が出来ない
あの人...!?
スゥと同じ髪と肌の色)
「息子に何をする!」
ヴィクトリアが女に斬りかかる
接近戦でヴィクトリアは
トップクラスの戦闘力を誇るが
先日の利き腕の喪失もあり
女に対して与える攻撃は届かず
受ける攻撃は確実に急所を狙ってくる
斬りかかっていたヴィクトリアだったが
防戦一方になり始めた
「ブレイク大丈夫か!?
今、治癒魔法で回復させてやるからな」
アークが治癒魔法で回復させ
息は出来るようになったブレイク
「御主人様アレはまずいわ
ヴィクトリアが押されてる」
女はヴィクトリアの腹部に蹴りを加えて吹き飛ばし
今度はグレイシアに標的を変え襲いかかる
地上ではまずいとグレイシアは空へと避難した
だが女は地面が抉れるほど足場を蹴り空へと向かう
上空にいたグレイシアの目の前まで飛び
踵落としで地面に叩きつける
ドーン!と地面が揺れる音と共にグレイシアは
地面に叩きつけられ動かない
「...くっ、アーク!母さんをお願い!
僕はグレイシアさんを」
ブレイクは幾らか回復した為
ヴィクトリアのことをアークに頼み
グレイシアの元に向かう
「坊や...」
幸いグレイシアの意識はあった
「んだよ、どいつもこいつも脆いなぁ
光の勇者は期待外れだし
銀の舞姫は万全じゃないみたいだしな
グレイシアに関しては
全盛期に戻ったって聞いたけど
本当に氷龍王グレイシアの全盛期か?」
女がブレイク達を蹂躙し暇そうに背伸びをしていた
(どうする?アイツの強さは今の僕じゃ
どうにも出来ない...)
「...坊や」
「御主人様しのごの言ってらんないわ
グレイシアと契約しましょう!」
「...」
ブレイクはこの期に及んでまだ迷っていた
「本当は違う理由で嫌なのよね坊やは」
「...どうして!?わかったんですか?」
驚きを隠せないブレイク
「どうしてでしょうね
なんとなくわかるのよね
坊やは、私に何処か近しい人を重ねているんでしょ
そんな私を危険に晒したくないから
契約を断っていたんじゃない?
でもね坊や、私は坊やに恩返しをしたくて
此処に来たの
坊やは私の大切なものを護らせてくれた
だから私は坊やの大切なものを護りたい」
そこまで聞いたブレイクはグレイシアの手を取り
(スイレン、ごめんまた重ねがけする)
(仕方ないじゃない
私は御主人様がする事にケチ付けないわよ
ただ事前に言って欲しかっただけ)
そして契約が始まる
「「今ここに魂の契約を
切っても切れぬ繋がりを
どちらかの命尽きるまで」」
その頃スゥが女の前に立つ
「お前スゥと同じ?」
「ん?あぁ、なんだよ
お前もメソポリアかお前はいいや
弱ぇし...強くなった相手してやるよ」
その言葉にスゥはブレイクがやられた事と
何も出来なかった自分に腹が立ち
そして悔しくてなり女に襲いかかる
「あ?見逃してやるって言ってんだろ?
やめとけって...つい殺しちまうだろ」
片手でスゥの攻撃を捌きつつ
スゥを投げ飛ばす
スゥは投げ飛ばされても
すぐ戻って来て女に襲いかかる
「だからやめとけって
...本当に殺すぞ」
女の殺気に一瞬、身体が硬直したが
スゥはそれでも飛びかかった
今までの加減していた攻撃ではなく
殺気の籠った拳がスゥに向けられる
ドン!と何かとぶつかる音がして
女は一旦後ろへ下がる
「んだオメェ?
さっきとは違ぇな」
そこに居たのはブレイクだった
ただ明らかに違うその外見
肌は鱗が現れ尻尾もあった
「もう...誰も傷付けさせない」
ブレイクは女の懐に潜り込んで下から腹に一撃
その勢いで吹き飛ぶ女だったが
すぐさまブレイクの目の前まで迫る
「いいな!オメェ!」
ブレイクは身体を翻し尻尾で攻撃する
地面が削れるほどの威力に女は空中に回避した
それを見たブレイクが口から氷龍のブレスを出した
女は空中で身体を捻り回避しようとするが
足にブレスが当たってしまい両足氷漬けになった
「おいおいマジか
さっきまでとは別人だな
てか、あんま時間魔法見てねぇな」
「お前の目的は?」
女の目的はただ闘う事が好きだから此処に来た
それだけだったその言葉を聞き
ブレイクは怒りの沸点を迎える
「そんな事の為に俺の大切なものを?
フザケやがって...」
グレイシアの同化も解け精霊融合も
解除されたブレイクだったが彼は止まらない
時間魔法で自身の拳を固め女を殴る
両腕を折り馬乗りになって女を殴り続けた
ドン!ドン!ドン!
と低く鈍い音が響く
「息子...」
ヴィクトリアがブレイクを止める
「やめろ、もう大丈夫だ」
ドン!グチャ!ドン!グチャ!
「...坊や!」
悲しい表情でグレイシアも止めに入る
それでもブレイクが止まる事はなかった
「御主人様もう死んでるわ」
「ああ...知ってる、だからな」
と時間魔法で死んだはずの女が死ぬ前に
時間が巻き戻る
「ハハ、マジかこれが時間魔法かよ...」
女は死んでも死に切れないと悟ると
諦めたかのように身体の力を抜いた
ドン!グチャ!ドン!グチャ!
そして巻き戻す
ドン!グチャ!ドン!グチャ!
そして巻き戻す
次第にブレイクは考えるのをやめて
その作業に没頭した




