第12話
今回の結果にそれでも納得出来ないスゥは
「でも!スゥは..,」
確かに途中までの勢いを見るに
戦闘力だけならスゥはメイベルより強いが
冒険者は総合力で評価される事が多い
それを鑑みるにスゥよりメイベルの方が
冒険者に近いように感じるとブレイクが
スゥに伝えた、それにも納得出来ないスゥが
「じゃあ、今度は主とメイベルが戦え!
スゥはそれを見学して強くなる!」
えぇ...とメイベルがブレイクとの実力差に
どうしようと考えていたが
ブレイクの側に居たスイレンが
「御主人様は時間魔法と水の鎧禁止で
私も時間魔法は使わないその状態で
メイベルに付けばいいんじゃない?」
時間魔法禁止で水魔法しか使えないブレイクは
スイレンと互角の力だが
対人経験が少ないブレイクの事を考えると
メイベルにも十分勝機がある
「私はメイベルのサポートをするわ
攻撃には参加しないけど防御は積極的にする
勝敗は同じで背中が地面についたら負け」
(時間魔法が使えないとなると
武器はいるし水の鎧が使えないから
ちゃんと攻撃を避けないといけないなぁ)
武器庫に行き
メイベルは新しいバックラー
ブレイクはロングソードとバックラーを手に取った
そしてメイベルと対峙し開始の合図を待つ
そこに見学兼審判のスゥが開始の合図を出す
「始め!」
開始と同時にブレイクがメイベルに突っ込んで行き
更に水魔法を展開して水の刃を無数に放つ
しかしスイレンがそれを阻む
メイベルは距離を取りながら
コショウの瓶を投げる
しかしブレイクにキャッチされ投げ返される
バックラーでそれを受け
粉が舞い散るがスイレンが水魔法を使い
コショウを濡らし地面に落とす
(スイレンが魔法で守っているから
攻撃が入らないなぁ)
そんな事を考えるブレイクはある事を閃き
ロングソードを地面に突き刺し
それを足場にして空中に飛び上がると
そのまま空中で回転しロングソードの柄に
手をかけその勢いのままメイベルに投げる
それを見たメイベルとスイレンは
慌てて防御を展開する
水魔法の壁を突き抜け
メイベルのバックラーに剣先が刺さる
どうにか防御は間に合ったが
目の前に居たブレイクがいない
しかも周りは砂埃に包まれていた
ブレイクが走りながら
土を蹴り上げて砂埃を発生させていたのだ
そんな状況にメイベルは
(さっきまでそこにいたのに!
この砂埃じゃ周りが見えない!
...でも足音は...する!)
背後に来る足音に合わせて
ブレイクを迎え撃つように
ロングソードを内から外に切り上げるが
ブレイクは身体をそらし避ける
伸び切ったメイベルの腕を掴み
ブレイクは足をメイベルの肩に引っ掛け
身体を捻りメイベルを地面に叩きつけた
「カハっ!」
ブレイクの動きにメイベルは対応出来ず
メイベルの背中はしっかり地面についていた
「ケホケホ...」
メイベルの息が整うまでブレイク達は
今回の模擬戦の反省点を話し合っていた
「やっぱり魔法頼りの所があるから
もう少し体術も学んでおかないとなぁ
母さんに習えばいいかな?」
「御主人様の魔法を封じれば
勝機があると思っていたんだけど
これからヴィクトリアに体術も学ぶとなると
御主人様が油断しない限り
御主人様が負ける事はないでしょうね」
「うーん、スゥはよくわからなかった!」
と各々感想を言い合っていた
「私はブレイクの攻撃に反応できなかった
瓶も投げ返されたしなぁ...」
それなんですけど、と
ブレイクはメイベルに攻撃が単調になっていると
先程のブレイクが背後に回った時も
メイベルの攻撃は次の攻撃を
意識してない様に感じると
ブレイクは言う
ロングソードを内から外に振った時に
腕が伸び切ってしまったのが隙になり
伸び切ったのなら身体を捻り反転させる勢いで
2撃目を放った方が良いと指摘されて
メイベルはなるほど、と
先程の模擬戦でメイベルに周りを見る余裕はなく
防御はスイレンに頼りだし
コショウ以外にも道具を使って撹乱したり
火薬を使う手もあった筈だと
そんな反省点を皆で話しているうちに
朝日が差し込んできた
そんな話し声を聞いてか
ヴィクトリアが欠伸をしながら
「...なんだお前達まだやっていたのか」
と屋敷から出てきて
少し私も参加するか!と
ヴィクトリアがメイベルとスゥに稽古をつける
それをブレイクは2対1の戦闘を見学していた
ヴィクトリアの動きは踊る様に華麗で
スゥが突っ込んで来ても
最小限の動きで避けてしまう
避けたヴィクトリアに合わせ
メイベルが死角から攻撃を仕掛けるが
ヴィクトリアは気配を察知して空中に回避し
メイベルの頭に手を置く
「まずは1回、攻撃の代わりに頭を触る
10回超える前に一撃当てるんだ」
はい!と返事をしメイベルはスゥの元に走り
スゥと作戦会議をする
「わかった!」
メイベルが出した指示は2つ
1つは全力でヴィクトリアを追いかける事
もう1つは砂埃を巻き上げ視界を悪くする事
スゥは指示通り砂埃を巻き上げながら
ヴィクトリアを追いかける
ヴィクトリアはスゥを避けながら考える
(...さて、どう来る?)
メイベルの動向に意識を向ける
「...これは」
メイベルには誰にも言っていない秘密があった
それは精霊をその身に宿している事である
その精霊は普通の精霊と違い完全体ではない為
姿を表せない事からメイベルが使える魔法は1つ
加速という未完成の身体強化魔法
筋力に負荷をかけ限界のその先へ到達する
試験の時にブレイクが使用していた
時間魔法とは別物で
メイベルの加速は身体中の血流を速くし
筋肉に負荷をかける魔法だった
当然リスクもありメイベルの鼻からは血が垂れ
目からは血涙をしており視界も定まらないが
この状態ならヴィクトリアのスピードを“超える”
「いきます!」
ロングソードを担ぎ外から内に斬り込む
「うわっ!」
ギリギリでヴィクトリアが避けるが
体制が崩れてよろける
その隙を見逃さないメイベルは
すぐさま2撃目を放つ
「当たれぇぇえ!!!」
だが、まだ届かない
ヴィクトリアはまたもや空中に回避した
(コレでも駄目?
私、本当に冒険者になれるのかな...)
「ごめんスゥ...ブレイク」
意識が遠くなるそんな時だった
「スゥ!両手を広げて突っ込め!」
ブレイクがスゥに指示を出し
スゥは待ってました!と言わんばかりに
空中のヴィクトリアに突っ込んでいく
先程の戦闘でブレイクはヴィクトリアの
空中で避けれる範囲を見ていた
スゥが両手を広げて突っ込めば
必ず当たると判断した
「メイベル!」
スゥの呼びかけにメイベルは
(スゥ...私は何をしているんだ!
あと少しじゃないか!諦めるもんか!)
その声に応える様に
(そうだよな、諦めたくねぇよな!)
(!?)
(そしたらオイラの名前を呼ぶといい
お嬢、アンタの精霊の名前は...)
メイベルは息を吸い込み
その精霊を呼ぶ
「応えて!グレン!」
「あぁ任せろ!お嬢!」
メイベルがグレンと呼んだ精霊は
今ここで誕生した炎の精霊だが
しっかりとした身体の形成は
しておらず炎の塊だった
「お嬢!大丈夫だオイラがついてる
いいか!一緒にだ!」
「「今ここに!血の契約を!」」
メイベルとグレンの間に強い繋がりが出来て
メイベルの身体への負担は無くなった
「我の炎は灯を絶やさず
汝の敵を焼き尽くす事を此処に誓う!」
するとグレンも段々と人型に近付いていった
赤い髪がウルフカットになっており
身体はふくよかでスイレンと
色違いの赤い着物を着ており
羽衣もオレンジ色で
スイレンと違うのは
ちゃんと地面に立っており
下駄を履いておりカランコロンと音が鳴る
「コレが私の精霊...」
「おぉ!お嬢大丈夫か?血出てっけど?
仕方ねぇオイラの着物で拭け拭け!」
メイベルの血をグレンが拭くと
血は止まっており
「ありがとうグレン」
グレンにお礼を言うとグレンは
「おいおい、これからだせ!
お嬢!こっから“アレ”をやるぞ!」
グレンがメイベルに耳打ちし
“アレ”を実行する
「「精霊融合!」」
銀の髪に赤いメッシュが入り
本来の白目の部分が黒く
金の瞳で中心が緑に輝いていた
この精霊融合は未完成で
両腕に赤い籠手を纏った
少女がそこに立っていた
それを見てスゥを避けたヴィクトリアも
ウカウカしていられない状況になってきた
空中から降りてくるヴィクトリアに
精霊融合したメイベルが
拳に炎を纏いヴィクトリアの腹を殴った
「うおっ!」
咄嗟に腹筋に力を入れるが奥の壁に吹き飛ばされる
あ!と精霊融合を解いたメイベルが
ヴィクトリアに駆け寄る
「母上!大丈夫ですか!?」
先程の攻撃で舞い散る砂埃のせいで
ヴィクトリアの様子が見えないが
瓦礫の中からヴィクトリアが姿を現す
そしてメイベルの頭を撫でる
「良い攻撃だったぞ!」
特にダメージは負っていないが
服が焦げているので確かに当たってはいる
そのあとヴィクトリアがメイベルを抱きしめて
「これなら何にでもなれる
お前は好きに生きていいんだ
何に縛られているのかは知らんがな」
メイベルは涙を溜めながら抱きしめ返した
そこへスゥが近付いて
「やったな!メイベル!一撃当たった!」
うん、ちょっと待ってとスゥに待ってもらい
「よかったなぁ、お嬢」
あ!そうだ!とグレンが何なのか
わからないスゥがスイレンに聞くが
今回の事は珍しいことの様で
スイレンも驚いていた
「私も久々に見たわよ
精霊が生まれる所なんて
しかも火...いや炎の精霊ね
水と同等に便利な属性ね」
スイレン曰く精霊は自然から発生する事が多く
こうして人の中から生まれるのは
非常に稀であるとの事
「よう、お嬢!
俺はグレンって...まあ知ってるか
そっちの大精霊が言った通り
お嬢の中から生まれた精霊だな!」
グレンはメイベルの頭を撫でて自己紹介をする
「あの...ちょっと!」
グレンは恥ずかしがるメイベルを気にせず
ヴィクトリアに目線を移す
「にしてもアンタは凄いな
オイラ達の完全じゃないけどよ
精霊融合の一撃を防いで
更には無傷ときたもんだ
一体どんな鍛え方してんだか?」
そうか?とヴィクトリアが
グレンの元にいるメイベルを近くに呼び
またメイベルを抱きしめグレンに答える
「何だったか?...そうそう母は強しと言うだろう?
メイベルに不甲斐ないところは見せられんからな」
メイベルは改めて母は強いしカッコいいと思った
その後、スイレンがグレンに忠告していた
「アンタもわかってると思うけど
あの精霊融合は未完成だから
このままだとメイベルに負担がかかるわよ」
「やっぱりか!どうすっかなぁ
でもお嬢にも手伝ってもらうしかねぇしなぁ」
グレンとスイレンの会話に周りはついていけず
スイレンがブレイク達に説明する
「メイベルの身体から生まれた
炎の精霊グレンだけど
2人の精霊融合が不安定なのよ
御主人様と私の場合とは別物になってる
メイベルの魔力の調整が必要ね
燃料を全部使ってしまってる様なものだから
魔力が枯渇して使い物にならなくなるわよ
一時的に使うだけなら威力は凄いものになるから
それはそれでありだとおもうけど」
スイレンの話だと
メイベルとグレンを繋ぐ
魔力のパイプが安定しておらず
魔力の調整が上手く出来ていないらしい
実際に何度も精霊融合を繰り返し
魔力の繋がりを安定させるしかないとの事
今のところブレイクの様には
使える代物ではない様で
精霊融合を使うには練習が欠かせない
そんな事を話しているうちに
夜が明けてから随分と時間が経っていた
「先に風呂に入ってこい息子
メイベルにスゥは私と後で入るぞ
皆、砂埃で汚れただろう」
先にいいんですか?とブレイクが言うと
女の風呂は長いからなとヴィクトリアが言っており
サッと身体を洗ってしまおうとブレイクが急いで
風呂に入って着替えて帰ってきた
すると、スイレンとグレンが話している
「...あのね、炎と水じゃ決着つかないわよ」
「でもよぉ、大精霊がこんな近くにいるんだ
力を試したくなるのは必然だろ?」
グレンはスイレンの実力が気になっている様で
スイレンに決闘を申し込んでいた
仕方なくスイレンは了承し
スイレンが提案したのは単純な火力勝負
グレンの最大威力の魔法を
スイレンが受けるとの事だった
それを聞いたメイベルが心配そうにスイレンに聞く
「でも、大丈夫?屋敷吹き飛ばない?」
スイレンがメイベルの頭をポンポンと叩き
「大丈夫、私をなんだと思ってるのよ
大精霊よ?上手くやるわ
ってかさっさとアンタ達は
お風呂に行ってきなさいよ」
スイレンに任せメイベル達はお風呂場に向かった
よっしゃ!とグレンは両手を広げ
炎を集め大きな炎の塊を作り
両手で圧縮していく
段々と炎の色が赤から青色へと変わり
更に群青色へと変わっていき最終的に黒くなり
手のひらサイズまで小さくなった
辺りはその黒い炎の熱気で蜃気楼が出来ていた
それを見たブレイクが心配になりスイレンに念話で
(スイレン大丈夫?
思ったよりグレンの魔法、危なそうだけど)
(大丈夫よ御主人様
私は水の大精霊じゃなくて水と時の大精霊だから)
どう言う意味だろう?とブレイクは困惑する
グレンが黒い炎について説明する
「今のオイラの最大火力
黒い炎だから黒炎だな」
グレンはソレを黒炎と名付けた
グレンとスイレンの距離は10メートル程離れていた
その黒炎をグレンはスイレンに向かって放った
(直撃したら私ごと辺りは蒸発するわね
グレンには悪いけど
“無かった事にしましょう”)




