8.門松は走った、仲間のために。門松は走った、…走っていたら走る理由を忘れた。
池袋は一部歩行者天国となり、車は除き、人がたくさん集まる。
人が集まるからお店もたくさんあり、色とりどりの広告が歩行者達に様々な誘惑を仕掛ける。
まさにその様々な広告こそ、飲食店が生き残る戦術と言っても過言ではない。
もちろんこの毎度喫茶にも広告というか、客寄せの手段はある。その鍵となるのが、門松くんなのである。
門松くんは率直にずっと単純明快、言い換えると頭が悪い。
だからこそ小さい頃から部活ではスポーツのほとんどのルールが覚えられず、文化部では使用する器具の使い方が覚えられず、陸上部でしかその才能を発揮できなかった。
ただ、単純明快な彼は本当にずっと走っていた。
練習の時も。
休み時間も。
犬の散歩の時も。
そんなこんなで鍛えられた足、まさにアキレスの神とも一部では讃えられるほどまで成長していく。
話を元に戻すが、そんな門松くんが客寄せの要なのである。
ではどういった方法なのか。
着る服は陸上部で着用するランニングウェア。
その服の上に
「池袋毎度喫茶開店中!♡」
と書かれた看板を掲げて
ひたすらに池袋中を走る。
まさに単純明快な客寄せである。
本日もランチの客寄せのため、門松くんは準備運動、ウォームアップを済ませた後、すぐさま風となる。
風がビュンビュンなる。
人が右から左へ、前から後ろへ。
彼はスロースターター、これからまた加速する。
ビュンからヒュンと音が変わっていく。
…読者の方、勘のいい方はわかるかもしれないが、この門松くんの速さ、全く方歩行者の目に止まらない。
全くと言って良いほど客寄せの意味をなしていないのだ。
…と思っていたのだろう?
「なんだいまの!?まじでなんも見えなかったんだけど…」
「おい、いま東京観光で撮っていたビデオ、スローモーションで再生できるか?」
「スローモーション??で、できるかな…」
とある歩行者2人があの速さの物体に疑問を持つ。
携帯を細かくスクロールし、確認すると、
「恐ろしく速い客寄せ…俺でなきゃ見逃しちゃうね」
どこかで聞いた殺し屋のセリフを吐くと、2人はそのお店を検索し足を運ぶ。
彼らはまんまと私たちの作戦にハマったのだ。
客寄せとは本来堂々と見せ、目立ち、人を惑わせて行うものである。
だが、私達のお屋敷は違う。
逆に広告を見せづらくするのだ。
…さすが読者様。
そう、サブリミナル効果だ。
一瞬のうちに門松くんが歩行者からの視線から消えることで、瞬間的に毎度喫茶の記憶が残る。
そうなってしまえば無意識にその広告が気になり、歩行者がご主人様となっていくのだ。
この「門松、往け」作戦、
「池袋に昼夜問わず出現するターボ人間」
という池袋の都市伝説となるのは、時間の問題だ。




