2.疲労を感じたら、とりあえずアドレナリンを出した方が良い
自分が新たな従業員の自己紹介に唖然としている中、7.3に髪を分けたたかしが紹介を続けた。
「こちらは求人サイトから募集をかけた際に声をかけてくれた遠藤周作くんです。紹介の通り大手ホテルの厨房経験者なので即戦力になってくれると思いますので、仲良くしてあげてください。」
髪が7.3なだけになんか真面目な言い方。イメージ通り過ぎて落ち着く。
いや、落ち着いている場合ではない。即戦力だと?こんなこじんまりとしたメイド喫茶に絶対いらない人材だ。もっと良い求人があっただろう。金銭的にも、働き方的にも。それがなぜこんな得体の知れない店に働きたいのか…
目をぱちぱちさせているとこちらの存在にたかしが気づいた。
「遠藤くん、そちらのドア前に立ち尽くしている男が現在の厨房担当西郷隆盛です。」
「誰が薩摩藩だよ。」
自分が某薩摩藩の偉い人に似ていることは自覚しており、またこの手の振りはもう何千回とあったので反射的にこのセリフを返した。
「田中楽です。よろしく。」
自分の自己紹介、というか名をしっかり名乗ることができた。
「田中角栄さん!どうぞよろしくお願いいたします!」
「誰が漢の中の漢やねん。」
名前を伝えるとこのような振りも何千回と間違えられたのでこちらのセリフも反射だった。
本当に聞き間違いだったみたいだったので周作くんも「すみません!」と謝罪が早かった。
「西郷どん、厨房1人じゃなくなったねぇ。いつもちょっと寂しくて泣いてたからよかったねぇ。」
と自分の気持ちを全く捉えていない発言をしていたのはメイドのみーちゃんである。みーちゃんは大学生ながら身長は中学生に見えるくらい小さく、また髪はキンッキンの色合い。ヘルメットをかぶってしまうともうどこぞの吸血鬼にそっくりな見た目をしている。
「別に1人で悲しくはない。人間強度が上がっていたところだったから修行と思えば別に大したことはない。」
と主人に対して従僕のように冷徹に返した。
「ふうん」と意味ありげな笑みをしながら吐息を吐いた。ちょっといい匂いがした気がする。男どもの嫌な空気が浄化したところでオーナーが口を開いた。
「本日入ってくれた周作くん、また田中くんと厨房が2人になり調理の作業的には非常に楽になってくると思うので、今後はランチ、ディナーどちらもやっていきたいと思っているから、よろしくね^_^」
やはりそうきたか。どっちもやっていくのはきついんだよなあ…と思う前に、
「僕と田中さんがいれば絶対余裕で回せますよお!田中さんは長年の経験を、僕はホテルで培った技術を思う存分発揮していきましょう!!」
僕の手をガシッと掴むと周りの従業員もおおお!!とか口笛吹いたりとかで僕の思考はかき消された。そして僕は死に目でその脅迫にうん、とうなづいた。




