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無敵陰陽士Dタイザン  作者: 岸辺 嗣雄@IKフィルコム
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第20話 推すに止まれぬ事情かな……①

 放課後、部活動も終わり晴明たちが帰途についていると後ろの方でサキと康作がコソコソと話している。


「康作先輩……! 今夜、新曲配信ですね!」

「じゃな、無論視聴予約もしてあるぞ!」

「こういう時ってどんな風に待ってたらいいんでしょうか?」

「無論、スマホの前に正座で待機じゃな!」

「分かりました! ふふふ、楽しみです!」


 珍しい組み合わせに晴明は首を傾げながらめぐるに問いかける。


「なんか最近、康作とサキちゃん仲がいいけど何かあったのか?」

「あぁ、なんか推し活してんだって。ほら、この間の文化祭で赤羽佳織のライブ一緒に見てたでしょ? それ以降サキがハマっちゃってね」

「あー、あの時の……」


 文化祭のライブといえば、ヘルガイストに体育館の会場を襲われた時のことだ。ステージはめちゃくちゃになったものの、赤羽佳織こと薫子が機転を利かし急遽《きゅうきょ》校庭で開催、かなりの盛り上がりを見せた。

 確かにアレを見ればファンになってしまうのも頷ける。


「それに、時々二人で『ファンミーティング』なるものを開いてるんだって」

「オタク仲間が増えたってことか。サキちゃんのことだから康作みたいな厄介ファンにはならんとは思うが……」


 晴明の言葉にめぐるは苦笑する。


「ばんちょーみたいなのが二人も増えたらメンドウだもんね〜」


 そんな憂いに反してサキが赤羽佳織に相当沼っていたことを、二人はまだ知る由もない。



 ☆☆☆☆☆



 あくる日の朝、サキたち一年生の教室にドタドタと響く足音が近づいてくる。スパーン! と勢いよく開けられた引戸を誰もが心配する中、張本人の康作は周りが見えていないかのように視線を気にすることなく興奮しながらサキを呼ぶ。

 呼ばれたサキは恥ずかしそうに康作のもとへ寄ると、彼はスマホをずいとかざして雄叫びを上げる。


「さ、サキちゃん! 今度のかおりんのライブ抽選が当たったんじゃ!」


 その言葉にサキは目を白黒させながら、恥ずかしさは何処《いずこ》に康作の手をとりピョンと跳ねる。


「本当ですか!? すごいです!!」

「ハッハッハッ! どうじゃ! このチケットペアじゃからサキちゃんも一緒にどうかと思ってのう!」

「行きます、行きます! 行きたいです!」


 二人の笑い声が教室中を包む中、一人の少女が割って入る。


「サキ、それに田端先輩! もう少し静かにしてください! 他のクラスメートが怯えているでしょうが!」


 いかにも真面目然とした生徒、風紀委員の薫子が教室で騒ぐ二人を注意する。公衆の面前で、自身の世を忍ぶ仮の姿の話をされるのが恥ずかしいというのも半分あるが。


「「すみませんでした……」」


 打って変わってしおらしくなったサキたちに、薫子は鼻息をフンと鳴らし、席へ戻ろうとしたが一つ気になって振り返りサキに訊ねる。


「サキ、貴方そんなに赤羽佳織のファンだっけ?」


 サキは目を輝かせて薫子に語る。


「そうなの! 文化祭ライブですっかりハマっちゃって! 本当に格好いいんだよ、佳織ちゃんは!」

「そ、そう。好きなことに夢中なのはいいけれど、どこかの誰かさんみたいに度はすぎないようにね……」


 正体を隠しているせいもあるが、真正面からラブコールされたような薫子は恥ずかしそうに赤面しつつサキから目を逸らし、対して康作にはキッと睨みつける。

 康作はさらに申し訳なさそうに縮こまる。


「気をつけます!」


 舌をペロっと出して、どこかおどけた様子の彼女に(大丈夫かしら……)と、薫子は一抹の不安を覚える。

 と、同時に熱心なファンがまた一人増えた事実もまた彼女を喜ばせ、つい浮かれて赤羽佳織の曲を鼻唄で、――しかもあろうことか先日配信されたばかりの新曲を口ずさんでしまっていた。

 完全に油断した薫子の行動、これを聞き逃すサキではなかった。



 ☆☆☆☆☆



 放課後、終礼を終えてすぐにサキは薫子のもとへ駆け寄り話しかける。


「今日私部活お休みなんだけれど、薫子ちゃんはどう? 暇だったら遊びに行かない?」

「貴方から誘ってくるなんて珍しいこともあるわね」

「まぁ、朝の謝罪も兼ねてと言いますか……」


 両手の人差し指をつんつんと合わせながら、申し訳なさげに上目遣いで見て来る彼女に一瞬キュン……、とときめいてしまいそうになる。しかし首を横に振り、(存外アイドルよりも魔性の女ね、この娘《こ》……)と考えながら、わざとらしくしぶしぶといった表情を見せて答える。


「……ふふ、そういうことにしておいてあげる。ところでどこへいくの?」

「まだ秘密だよ〜」

「なーに、それ……」


 呆れまじりの微笑みを見せる。

 風紀委員としては寄り道せずにまっすぐ帰るように言うべきだろう。だが普段から仕事と学業で忙しく、学友とまとも遊ぶ機会も少ない彼女にとってこの提案は実に魅力的でかつ、断る理由もなかった。

 だがこの時の選択が、薫子最大の後悔を招く原因となった。



 ☆☆☆☆



 しばらく二人が町中を歩く。人通りの多い商店街は夕方にかけて帰宅中の学生や主婦層で賑わっていた。

 薫子はアイドル時とは打って変わって地味な格好をしているものの、万が一にも正体がバレてしまわないように常日頃人通りの多い場所は避けているので、なんだかその光景の中に存在すること自体が新鮮に思えた。

 だからなのか、道の端に寄る癖がでたり、ショウウィンドウに映る自身の姿が町に馴染んでいるかを気にしたり、自然とサキの陰にコソコソと隠れて行動してしまう。

 怪しげな動きをする薫子にサキは小首をかしげる。


「さっきからどうしてそんなに挙動不審なの?」


 当然の疑問なのに、薫子には鋭い指摘に感じられ、体をこわばらせる。


「いやっ、その……! ほら、私風紀委員でしょ!? こんなところで寄り道してるのがバレたらほかの生徒に示しがつかないかなー……って」


 とっさに出たウソにしては良く出来た方だ。

 サキは「ふぅ~ん……」と、じっと真顔で見つめたまま数秒間黙り込む。それが疑惑の眼差しに見えたのは薫子の思い込みが生んだ錯覚だろうか。

 程なくして何かを確信したようにサキはにっこりと不自然なほど整った笑みを浮かべ、目的地を指さす。


「着いたよ! 今日はここで思う存分ストレスを発散しよっ!」

「ストレス発散……って。ゲェッ!!」


 彼女が指さす先には「カラオケ」の四文字が刻まれていた。


(カラオケってことは歌を!? 歌うってわけ!? 今のオタクブースト全開のサキの前で!?)


 唖然として固まる薫子の手を引き、入店を促す。


「さ、行こ行こ!」


 天使のように微笑むサキ顔が今の薫子には地獄へといざなう悪魔のように思えた。

 受付を行い、通された部屋は少人数用のためこじんまりとしていた。薫子にとってここはまさに逃げ場のない密室である。

 サキは部屋に入るなりさっそくタッチパネル式のリモコン端末をスイスイと操作し、二人分の飲み物の注文と一曲目を予約し、薫子に受け渡す。

 画面に表示されていた曲は薫子が文化祭で歌った「ウラオモテワタシ」だった。

 その選曲にこそ裏がありそうと感じつつも、あくまで平静を保ちながら端末越しにサキを覗く。

 ばっちりと目が合った。

 両手でマイクを握る彼女は「最近練習してたんだ~」とはにかみながら語る。

 イントロが流れ出し小さく息を吸うと、薫子に少しいたずらっぽい表情を見せて歌い始めた。

 自分の曲を人に歌われることがこれほどむず痒いとは思わなかった。だが想像以上にサキは上手だった。相当聞き込んで練習してくれたのだろう。

 音程、呼吸の置き方、しまいには振り付けまで、普段おとなしい彼女からはおよそ想像がつかないほど堂に入った歌い方だ。

 歌い終わりと同時に薫子は自然と拍手する。

 少し間をおいて素直に「上手ね……、すごく……」、とこぼしてしまう。歌唱最中とは打って変わって照れくさそうにするサキ。

 聴き浸っていたせいか。目の前に烏龍《ウーロン》茶が置かれていたことにすら気が付かなかった。乾いた喉を湿らすためにストローに口をつけると、間髪入れずにマイクを差し出された。


「薫子ちゃんも歌ってよ。佳織ちゃんの歌」


(――やはり来たか!)と、当然来るであろう流れに備えていた回答で回避を試みる。歌わない為の口実を――。


「ダメよ、私オンチだもの」


 そんな彼女の返答にサキはキョトンとした表情を向ける。


「え? でも薫子ちゃん、音楽の授業でも先生に褒められてたよね? すごく歌、上手だよ」

「……いや、私。赤羽佳織の歌そんなに知らないのよね……」

「……ウソ。だって今朝の薫子ちゃん、佳織ちゃんの新曲を口ずさんでたもん」

「!?」


 そんな油断をしていたのかと自らを責める。

 口実がことごとく潰され、もはや逃げ場などない。こうなるとサキはもはや単なる友人との楽しい遊び時間ではない。

 カラオケルームは一変、取調室へと早変わりしていた。尋問する側、される側。猫に壁際に追い詰められたネズミのように逃げ場を封じられた。やっと観念した薫子はマイクを受け取り、せめてもの抵抗か世間的にメジャーな曲を入力し、かつ極力《《彼女らしさ》》を抑えて歌い始める。

 その最中、チラリとサキを見ると手拍子しながらあこがれの人と出会ったかのようなキラキラした目線を送ってくる。

 悪い気はしないが、同時に生きた心地がしなかった。



 ☆☆☆☆☆



 終了を告げるインターフォンの呼び出し音。それはまさに刑期満了を告げる救いの鐘だった。

 薫子はその後、何とかサキのおねだりをかわしつつカラオケを無事終えた。

 ストレス発散どころか、逆に心に過負荷のかかる約二時間を乗り切った時、ライブにも勝るとも劣らない疲労感が押し寄せる。

 打って変わってつやつやとした表情を見せるサキ。支払いを終え、アーケードを歩くときも満足気に後ろで腕を組みながら足取りも軽い。


「楽しかったね!」

「……そうね」


 半分は本音だ。

 今日の出来事の全てを否定したくなかったから、サキには友人としての言葉を投げかける。


「ライブ、楽しんでね」

「うん! 《《薫子ちゃんも》》ね」


 サキのあっけらかんとした、しかし探りを入れるような意味深発言はもはや無視することにした。これ以上余計なことを突っ込んでもボロを出しかねない。

 何も言わずにただ微笑み返す薫子にサキは弾けるような笑顔で「それじゃ! また明日ね!」と、大きく手を振り走り去っていく。

 薫子は腰の横まで手を挙げて答え、安堵のため息をつきながらずれ落ちかけていたカバンの紐に指をかけて肩に戻す。



 ☆☆☆☆☆



 サキの疑念はもはや確信に変わりつつあった。それを裏付けるべく、翌日の昼休み、重要参考人を校舎裏庭に召喚していた。


「で、教室で話せないような内容って?」


 晴明である。

 こう言う形で彼が人に呼び出される時は大抵何かがあるため、かなり警戒してはいた。

 開口一番、サキはストレートに尋ねる。


「晴明先輩は佳織ちゃん……、赤羽佳織の知り合いなんですか?」


(そら来た!)と、晴明は心臓を高く鳴らしていたが、表情は崩さない。

 サキが赤羽佳織にお熱な時点ですでに想像はできていたからだ。ただわからないのは、なぜその質問を最初にしてきたか、だ。

 サキは何かを考えるように目を伏せ、「そうですか……」と声を低くして言う。再び晴明の目をまっすぐ見ながら質問する。


「ではなぜあの時、佳織ちゃんは晴明先輩の名を呼んだんでしょうか?」


 あの時とはつまり文化祭の日だ。ヘルガイストに襲われる会場にいた晴明は形代を用いてそれを防いだ。

 確かにあの日、薫子が赤羽佳織として避難を促す際に叫んだ言葉を彼もハッキリと覚えている。

『皆さん、落ち着いて聞いてください! 《《阿倍野先輩》》がヘルガイストを引き付けてくれています!』、と。

 だが、それだけでは証拠不十分だとシラをきる。


「聞き間違えだろ多分」


 サキは「ふふ、まあそう言いますよね」などと不敵に笑ってみせる。そんな余裕の表情は晴明に不安を呼ぶ。

 彼女はスカートのポケットから紙切れを一枚取り出して広げると、晴明に見せつけた。


「図書館で新聞のバックナンバーを漁って調べていたんですが出てきたんですよ……、ほらここ! 佳織ちゃんが体調不良を訴えていた頃、テレビ局に現れたヘルガイストを先輩が倒してるんです! そこから調子も戻してますよね?」


 サキが印刷してきた新聞記事には確かに薫子をヘルガイストから守るDタイザンの写真がばっちりと収められていた。

 ファンの執念を垣間見た、と思う。

 確かにあの時テレビ局という場所が場所だけに報道されるであろうことは容易に想像できるが、なんたって数か月も前の出来事だ。しかし、少しでもほかのファンとの歴を埋めようとしているサキの正気の沙汰でないリサーチ力には、さすがの晴明もお手上げだった。


「偶然がここまで揃うってことは、見過ごせないんじゃないですか?」

「お、俺ぁ何も知らんぞ!」


 仕上げとばかりに詰められる彼が返せる言葉はめいいっぱいの否定だけだったが、かえってこれが良くない。

 名探偵《サキ》の眼がギラっと光る。


「その動揺の仕方、何より雄弁に語ってますねぇ……」

「お前、そんなキャラだったか!?」

「ふふふ……、人は変わるものですよ。先輩」

(……これはまずバレたと考えるべきだな。薫子ちゃん……、すまん)


 晴明がフラッシュバックする薫子との思い出。しかしその大半が、彼女から脅されて協力させられた思い出ばかりなので(まあ、いいか)と、すまし顔で居直る。


「ま、先輩をいぢめてもしょうがないですよね~。ご協力感謝します!」


 これ以上申し分ないといわんばかりにサキははつらつとした表情で教室に戻っていく。晴明はその背中に向けて、「俺は知らんからなーッ!!」と、一応体裁上は認めていないという姿勢と、事実を照合した際に起こりうることを想像しながら投げかける。

 もはやその耳には届いていないだろうが、それでも言わずにはいられなかった。



 ☆☆☆☆☆



『人間は誰しも嘘をつく』


 ジャシーンは榎戸に説く。言われた本人は赤羽佳織の動画を見るのに必死で、その言葉を特に気にも留めていなかった。

 水晶の中のエレメントジャシーンはそんな彼を一瞥《いちべつ》し、『ふぅ……』とため息をつく。


『例えば貴公が懇意にしているその赤羽佳織とやら。あれも偶像という表皮、すなわち嘘を塗り固めたものだ』

「嘘、ねぇ……」


 動画を閉じ、イヤホンを取り外してジャシーンに向きなおる榎戸。


「そういう意味では、人間を欺《あざむ》いてヘルガイストをけしかける僕もなかなか性質《たち》嘘つきになるってワケだ」


 おどけたような言い方をする彼に対し、ジャシーンはメラメラと揺れながら『ククッ……、違いなかろうな』と、低い笑い声を漏らす。


『だが、嘘とはすべからく他者を欺くためだけでにあるものではない――。己を守るためにこそ、人はそれを纏《まと》うこともある。そこに悪意はなくとも後ろめたさはあるだろう……』

「でもなんでそんな話を急に……」


 榎戸の疑問にジャシーンはほくそ笑み、何かを思い浮かべるように人差し指を宙でくるくるとまわしながら言を発する。


『近々大きな催し物があるではないか……。貴公も行くのだろう?』

「……ッ!? ま、まさか赤羽佳織のライブを利用するつもりか!?」

『左様。多くの人間どもが集まりヘルガイストの養分となりうる嘘を集める。たやすく成長したそれは膨大な力をもって奴らに恐怖を与えることができる』


 せっかくのライブを台無しにされたくない榎戸は「し、しかし――」と反論を試みるが、ジャシーンはそれを一蹴。


『目先の娯楽のために迷っている場合ではないぞ水鏡……。これを時機と捉えないではDタイザンに対する勝ち筋はなかろう?』


 ジャシーンの言葉の圧にねじ伏せられた榎戸はしぶしぶ承諾。水晶から発せられた高笑いが天にこだまする。

引き続き第 話後半もお楽しみに!!


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