第19話 にせDタイザンにご用心!①
とある朝、晴明がまだ眠たい目をこすりながら歯を磨いていると、新聞を持ってトイレから出て来た父、晴久が近づいてきた。父は晴明の頭に手を置いてグシグシとこするように撫でながら「いやぁ、関心関心! ウチの息子もついに全国デビューか!」とだけ言うと、高笑いしながらリビングの方へと歩いて行った。
褒められるいわれもない晴明は歯ブラシを握り、口の周りに歯磨き粉をつけたまま「え?」と、父の突飛な行動に寒気が走り固まってしまう。
朝食を摂ろう、とダイニングへ向かってなおも驚く。普段じゃ見たこともない厚みを誇るカツが挟まれたサンドウィッチや、ボウルに美しく盛られたシーザーサラダなど、平日の朝っぱらとは思えぬやけに豪華な支度がされていた。
流石に不審に思い、キッチンにいる母、明衣子に尋ねる。
「母さん、今日やけに朝ごはんがご機嫌じゃない?」
「えぇ〜、いつもこんなもんよぉ〜」
『嘘をつくな』と、喉の奥まで出かかったが目を瞑ってごくりと飲み込んだ。理由はどうであれせっかく旨そうな飯を目の前で下げられたらたまったもんではない。
大人しく座り、手を合わせていただきますと言ってからサンドを一つ取り、むしゃむしゃと食べ始める。
間違いなく旨い。
だが、喉につっかえる違和感は薄切りのパンでは拭えなかった。
☆☆☆☆☆
「あんれぇ、晴明ちゃんじゃない。最近すごいわねぇ、サインもらっとこかしら」
「お、阿倍野のとこの! お疲れさん、これおまけしとくよ!」
「Dタイザンのおにいちゃんだー。いつも応援してるよー」
家を出てから学校に行くまでの間、晴明は行く先々でやけに町中の人から声をかけられては、モノを頂いたり、握手を求められたりする。あまりにオカシな状況のため、(またヘルガイストの仕業か?)と、疑ってみるものの特にそういう様子は見受けられない。
「何が起こってるんだ……?」
そう呟く晴明の背中にバシンッ、と激痛にともなう衝撃が走る。
「おっはよー! 晴明~、アンタ最近色んな所で活躍してんのね!」
「つつ……、なんだそれ?」
「おやおやぁ~? すっとぼけるなんて、大した色男ね~」
めぐるに背中を叩かれた痛みよりも、身に覚えのない出来事について言われたことの方が気になった。確かにヘルガイストが出現するたび、Dタイザンで出向いて戦ってはいるが、それは普段通りの事だ。周知の事実であり別段これまでと変わらないので、いちいち誰かに褒められることも、わざわざ注目を浴びるようなこともなかった。
しかし今日に限っては異常である。朝の両親から始まり、町の住人、あまつさえめぐるまで自分の事を賛辞してくる。
めぐるに何故かと尋ねても「またまた~」とか「ご謙遜を〜」とからかうだけで真面目に取り合ってもらえない。身に覚えのないことで褒めはやされることがこれほど気味の悪いものだと思わなかった。
しかし、もしかしたら自分が覚えていないだけで大それた貢献をしたのかもしれないと考え、直近の出来事を思いだそうとする。
ふと町の電気屋を横切ろうとした時、店頭のテレビが視界に入り、晴明は思わず二度見した。すぐさま電気屋の方に引き返し、ウィンドウにへばりつくようにして画面を凝視すると、朝のニュース番組でDタイザンが取り上げられていた。
女性リポーターがマイク片手ににこやかに挨拶し、Dタイザンについての説明を始める。
『最近、全国各地で出没する悪霊を退治してまわり、ますます活躍するDタイザン。なんと今回は特別に、パイロットの方に独占インタビューをさせていただけることとなりました』
「お、早速やってるわね。晴明が取材受けるなんて珍しいこともあるもんだわ」
めぐるは晴明の横に立ち、まるで自分の手柄かのようにドヤ顔であごをさすりながら感心している。
だが当の晴明は取材を受けた覚えもなければ、全国を飛び回った覚えもない。しかし確かにVTRの中ではDタイザンが……、いや厳密に言えばDタイザンによく似たロボットが映し出されている。このDタイザン、よくよくみれば所々チープな出来で、知ってる人が見ればどう考えたってニセモノと分かりそうなものだが、リポーターも、それどころかめぐるさえも疑いを持たない。康作も「やっとる、やっとる」などと言いながら現れて、一緒になってテレビを見る。
「一体どうなってんだ、こりゃあ……」
最早置いてけぼりの晴明をよそに、チープなDタイザンのハッチがガタガタと音を立てながら開き、中から人が現れる。その人物像カメラが遠くてよく分からないが、随分と小柄に見える。リポーターもはじめは「おぉっ! 出てきました!」と興奮気味に状況を伝えるが、次第にその声が困惑に変わっていく。
それも無理はない、Dタイザン(?)から出て来た人物は顔をお面で覆っているせいで謎の人物には変わりなかったからだ。その瞬間、やっとめぐるも康作もなにか様子がおかしいと気づく。
仮面の人物は取材スタッフたちたちの所まで降りてくるとペコリ、と頭を下げる。どうやら最初の見立て通り体は大きくない、女性のリポーターと見比べてみてもずいぶん小柄である。
そんな異様な光景にリポーターは顔を若干引きつらせるもそこはプロ、笑顔を作ってインタビューを始める。
『あなたがあのDタイザンを操縦する阿倍野晴明さんでしょうか……?』
仮面の人物は首を横に振りながら答える。
『違うっス……あ、ます! 自分は師匠……じゃなかった、晴明さんではなくて、えと、その……これもホントのDタイザンじゃないっス! ……あ、ます!』
『え、え? ホンモノ、じゃ……ないんですか?』
『はいっス!』
明らかに動揺しだすリポーターと、言葉が見つからずしどろもどろにに答えるインチキDタイザンのパイロット。晴明は片手で顔を覆う。この声、独特な喋り方、そして彼を”師匠”と特殊な呼び方をする人物には覚えがあった。
『自分はワケ合って顔出しできないんスけど、晴明さんの弟子として女子高生陰陽師を生業としてるっス! ……ます!』
「ミツルの野郎ーッ!!」
店頭で叫ぶ晴明。めぐるもテレビに出ている人物が誰か理解し、おでこを手で押さえて苦笑いする。
その名は芦屋ミツル。何を隠そう、晴明の知り合いの女子高生陰陽師だ。以前晴明に勝負を挑み、その後ともにヘルガイストを退治した後、何を思ったか晴明を師匠と呼び慕うようになった。
晴明はスマホを取り出して、画面を叩きつけるようにタップしながら、ミツルにメッセージを送りつける。
『阿倍野晴明:テレビ見たぞ。一体どうなってるのか、一度説明に来い』既読
『芦屋ミツル:師匠! まさか今朝のテレビ見てしまわれたっスか!? すみません、学校が終わればすぐに伺います!』既読
ゆるキャラが敬礼しながら、『了解!』と返事する呑気なスタンプが送られて来て、晴明はさらに頭を抱える。
☆☆☆☆☆
放課後になって指定した空き地で晴明たち三人がしばらく待っていると、遠くからがちょーん、がちょーん……と妙に間の抜けたような滑稽なリズムを刻んだ機械音が聞こえてくる。ミツルが例のDタイザン(?)に搭乗してやって来たのだ。あまりにもぎこちなく歩いてくる様に晴明は顔を伏せたかったが、その反面ミツルは彼との再会を心待ちにしていたのか、嬉しそうに大きく手を振る。
ところどころ塗装のはみ出しがあるなど仕上がりが甘く、駆動部がこすれているのかギギギ……ギギギ……と情けない悲鳴を上げ、本来カメラアイがある場所には安っぽいLEDライトの光がチカチカと明滅している。
改めて見ても本物と比べ物にならないほどこのしょぼくれた出来だ。こんな見た目のものを一瞬でもDタイザンと認識されたことがショックな晴明は、逆にいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
めぐると康作は小学生の工作のような寸胴体系がツボにはまったのか、腹を抱えながら笑い転げている。
晴明たちの前で停止すると、ミツルがコクピットから顔をのぞかせる。
「師匠! おひさしぶりっス! 高いところから失礼するっス!」
「前にも言ったが、恥ずかしいからその師匠てのやめろ! 俺はお前みたいな弟子をとった覚えはない!」
「いえ、自分にとっては晴明師匠は師匠っスから! 今降りるっスね!」
ミツルはサル梯子を投げおろし、よじよじと降りてくる。
にぱーッ、と向けて来る笑顔に晴明はとりあえずムカついたので、チョップをくらわす。
「いだーッ! なにするんスか!」
「なにするんスか、じゃねえだろ! なんだこれ!」
Dタイザン(にせ)を指さし、怒鳴る晴明。だが、ミツルは悪びれるどころか自慢げに鼻を鳴らして説明する。
どうもこのDタイザン(にせ)は彼女の地元商工会が勝手に作ったらしい。
かわいいかわいい町のアイドルであるミツルが「Dタイザンを超えるような陰陽師になりたいっス!」、という言葉を曲解した結果、クラウドファンディングで資金をかき集め、昼夜問わず開発に臨み作り上げたそうだ。
完成したときミツルも最初はうろたえたものの、憧れの晴明と肩を並べられる、と大はしゃぎし喜んだ。飛び跳ねて歓喜する彼女の姿を、まるで孫娘を眺めるように暖かい視線を送る年寄り連中や町の人々。
話を聞く分には実にほほえましい光景だなと感じためぐるが、まじまじと機体を見る。すると足元の目立たないところに小さく「ミツルLOVE」と書かれたラクガキを見つけてしまい、グッと言葉を飲んで見て見ぬふりをした。
晴明の怒りは依然収まらない。
「たく、勝手に偽物……《《にせDタイザン》》なんか作りやがってこのバータレ! こいつで妙なことされたら、真っ先に俺ンところに話が来るんだぞ!」
「な、何を言っているんスか! ニセモノなんかじゃないっス。これは……そう、ジェネリック。ジェネリックDタイザンっス!」
「意味はき違えてるだろお前……」
「じゃあ廉価版!」
「人の商売道具を断りもなく密造した上、お安く売ろうとするな。訴えるぞ、特許庁に! そもそも営業妨害じゃねぇか!」
「いえ、完全リスペクトでやっているので師匠のお名前にも泥は塗らないし、ご迷惑はおかけしないっス! マジDタイザンサイコーっス!」
ミツルは拳を握りしめ、キラキラとした目で言い切る。その圧があまりにも強く、また彼女の目が嘘をついてるようにも思えないので晴明はだんだんか細くなる声で、「だったらいいんだけどよ……」と視線を外し、態度を軟化させる。そんな彼の姿を見ためぐると康作の二人は、
「うおっ、チョロい」
「単純じゃのう……」
挑発するような視線を浴びせながら笑う。
康作にいたっては、何かを納得したかのように腕組みしながらウンウン、と頷く。
耳まで真っ赤にして照れる晴明はそれを隠すように「う、うるせぇ……!」、とだけ吐き捨てる。
「チィッ! どっちにしろこのにせDタイザンは禁止! 金輪際乗っちゃダメだ! いいな」
晴明が両手で大きくバツを作り言い聞かせる。ミツルは怯えた子犬のような顔で、目をウルウルとさせながら「そ、そんなぁ~。後生っスから~」と、縋りつく。
晴明が、頑として認めない態度でいると、どこからか、
「ヘ、ヘルガイストだーッ!」
と叫ぶ声が聞こえる。
「こんな時に! ええい、ミツル邪魔だ! 召喚、Dタイザン!」
腰に腕を回して、エンエン泣きつくミツルを邪険に扱い、ポケットの中からお札を取り出しDタイザン(本家)を呼び出す。
ミツルを押し飛ばし、颯爽と現れたDフライヤーに飛び乗るとすぐさまDタイザンに変形させて現場へ急行する。
転がるミツルもケロッと泣き止み、「こうしちゃいられないっス!」と、立ち上がって再びサル梯子を登ってにせDタイザンに乗り込み、がちょん、がちょんと走り出す。
残されためぐると康作は互いに顔を見合わせ肩をすくめると、晴明たちを追いかける。
☆☆☆☆☆
少し時はさかのぼって――、
「なにやら最近、Dタイザンは全国を駆け回って悪霊退治に勤しんでいるらしい」
『……』
榎戸は眼鏡を怪しげにキラりと光らせつつ、スマホでネットニュースの記事を読みながら不敵な笑顔を浮かべる。何も答えないジャシーンのことは気にせず彼は続ける。
「という事は、だ。奴はいま必要以上に体力を使って疲れ切っているはず! ここ最近奴には煮え湯を飲まされ続けているからな……。今度こそ、これをチャンスと見切った」
『いや、水鏡よ……奴は…』
ジャシーン何か言いたげだったが、彼の言葉には一切耳を貸さない。
「この超高速型ヘルガイストでことごとく攻撃をかわし、奴を翻弄してやる……。そして霊力も体力も消耗しきった時こそ、Dタイザンの……阿倍野時晴明の終わりだ! ハッハッハッ」
『水鏡、あのDタイザンは……。……いや、よい。高速移動するヘルガイストであったな』
ジャシーンはそれ以上語らず、榎戸の要望に応える。右手に念を込めてヘルガイストの卵を生み出し、近くに駐車されている大型のオートバイに向けて発射する。
オートバイはみるみるうちに巨大化し、あっという間に二輪を有するヘルガイストへと変貌する。
「よし、こいつを町で暴れさせてやる。そしてノコノコ現れたDタイザンを一気にたたんでやるんだ。ククッ、うまくいくぞぉ~……」
榎戸は指をうごめかせながら不気味に笑う。
一方で、冷静なジャシーンはネット記事に掲載されている写真をまじまじと見つつ疑問を抱いていた。
⦅この姿、Dタイザンと似ても似つかないが一体何なのだ……。水鏡は勝ちを確信しているようだが、いささか嫌な予感がする……⦆
そんなジャシーンの思いに反するように、オートバイ型ヘルガイストは榎戸の命令により、エンジンをふかして疾風のごとく激走する。
引き続き第 話後半もお楽しみに!!
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