第15話 20XX年地中の旅②
『……ッ!?』
「どうしたんだ? ジャシーン」
榎戸の手のひらに乗せられる水晶玉の中に存在するエレメント・ジャシーンは何かを直感的に感じ取り、その身を大きく揺らめかせる。
『否、何でもない……。気のせいであろう』
「? そう、それならいい。ところで――」
⦅……なんだ? この我の肝に触れる様なこの感覚、――阿倍野晴臣? いや奴は老いて引退した身……。孫の晴明が、か? だが奴はこの我を脅かすほどの力があるとは到底思えん。 まさか《《あれ》》が、《《あの場所》》が見つかったとでもいうのか?⦆
神経をピリつかせるジャシーンに榎戸が再び声をかける。
呼びかけられてハッとするその姿を珍しく思い、やはり何かあったのかと問いただそうとするが、『くどいぞ、水鏡!!』、とこれまた珍しく強い口調で怒る様子に、これ以上詮索するのを辞めにした。
⦅あそこには我の用意した無数の罠と、身を分けた強力な守護者であるヘルガイストもいる。大丈夫であるはずだ……が、念のため⦆
ジャシーンは自身の身体から一部を切り取り、緑に揺らめく一つの火の玉をつくる。そいつは怪しく光を発しながら水晶玉から滲み出し、ポトリと落ちると地面にスゥと吸い込まれるようにして消えた。
その一連の様子に榎戸は気がついた様子もない。
ジャシーンは自らの直感に若干の残心を抱きつつも、あとは分身にすべてを任せ、これ以上余計なことは考えまいとした。
☆☆☆☆☆
晴明はコンソールに突っ伏しながら、先ほど現れた悪霊について考えていた。見たことのないタイプの霊であったが、明らかにヘルガイストのそれと同じ気配を感じ取ったのである。
ただ、彼が戦ってきた多くのヘルガイストはおおよそ何かを宿り主(例えば悩みを抱える人であったり、人々により深く念が込められたモノ……など)にしているものばかりだ。
以前に自分も学校でのちょっとした諍いごと(注:第8話)のせいで、小さな怨念を抱き、ヘルガイストに心を支配されたことがあるので、よく理解っていた。
だが先ほど見た鎧武者のような骸たちは、あれだけ無数にいるにもかかわらず、人やモノを操っているようには思えなかった。あの爆弾トラップを含め、むしろ自分の意志で動き、ここにある何かを守っているようにも……。
「何かを守っている――?」
急に声を上げガバッと顔を上げだしたので、隣にいるカケルが驚く。そんな彼に目もくれずに、晴明は目の前のキーボードをいじりだし、モニタに現在地を映し出す。さらにその上に地上の地図を出し、透過させて重ね合わせる。地図の広域が見られる様に小さくし、ある程度のところで止めると今度は自身が今いる点と、とある場所を線で結びはじめる。
それを眺めて顎をさすり、驚愕ともとれるような深いため息をつく。
「ど、どうしたんだよ。にーちゃん……」
「どうしたもこうしたも、これを見ろカケル」
晴明に促されるままにカケルはモニタを覗きこみ、じいっと見つめると「あっ……」と、声を漏らす。
「この場所、《《阿倍野神社の鬼門に位置している》》んだ……!」
「そうだ、それにこれは阿倍野神社の《《鳥居が向いている方角》》でもあるんだ」
☆☆☆☆☆
――鬼門とは、方角を八つに割った場合の北東に位置する。その名の通り、鬼や邪気といった忌み嫌われるモノ共が出入りする不吉な方角のことを指し、その真反対に位置する南西の「裏鬼門」と合わせて陰陽道のみならず風水的にも避けるべきものとされている。
晴明は幼いころから、自身の住まう阿倍野神社の玄関口である大階段や鳥居が鬼門を向いているということが不思議でならなかった。神社であるにもかかわらず縁起でもない、と。ただ当時から大人たちは誰も口にはしなかったし、神社が完成した古来よりそういうものなのだろうと質問をすることもなく、いつしかそんな疑問を感じていたことさえ忘れていたのだった。
だが、それを今日思い出し、そして初めて理解した。
阿倍野神社がどこを向き、何を見つめていたのかを。
「うちの神社は、ずっと昔からこの場所に睨みをきかしていたんだ。ヘルガイストと同じ様な悪霊が住まうここを。そして町を魑魅魍魎どもが闊歩しない様に、鬼門を塞ぎ、裏鬼門へ流れ出ないための栓の役割を担っていたんだ」
カケルは息を呑む。自らの自由研究の為に赴いたこの地が、何やら大きな秘密を握っていると悟ったからだ。晴明の眼を見ても、そのことは明らかであった。
「ここを探ればヘルガイストが……、いやジャシーンを倒すヒントに繋がるかもしれない……。そんな重要な拠点の一つに間違いない!」
☆☆☆☆☆
ジャシーンの悪い予感は的中していた。
彼が地下へ送り込んだ分身は目の前に広がる光景、すなわち晴明が必死に逃げる為、破壊の限りを尽くした建屋の残骸を目の当たりにして、肝を冷やしていた。
それだけではない、自らが配置していた守護霊である骸たちまで複数体倒されているところを見るに、改めてDタイザンの脅威を実感する。
晴明の読み、つまりここがジャシーンにとっての重要なポイントであるという予測が当たっていた。いわゆるこの場所はヘルガイストを製造工場に当たるところである。即ち、ジャシーンは自身が持つ霊力を注ぎ、骸たちに世話をさせ、人やモノに憑依出来る様になるまでに育てる場所として利用している。
何故わざわざこの場所を選んでいるのか、その大きな理由はやはり立地にある。
ちょうど真上、地上でのこの場所は溜池となっており、遥か古より事故や自死は絶えず、武士の時代には処刑場としても知られる夕柳町屈指の霊道のひとつであった。
そもそもこの夕柳という町名もこの溜池が由来とされている。元は池の周りには枝垂れ柳が生息しており、その下で幽霊を多く見かけたことから『《《幽柳池》》』と名付けられた忌み地である。(阿倍野神社自体、この地がその名の頃から存在している。)
しかし都市開発が進むにつれ、人々が移り住みやすいよう、行政によっていつしかその町名を夕柳と改められ、幾年が過ぎていた。
古来より存在していたジャシーンは日本国内にある霊力的磁場の強い場所を転々としながら、恨みを持つ森羅万象へ力を与え、災害やそれに伴う飢餓や諍いごとを引き起こさせ、それらが育てた負の感情を自らの養分として蓄えてきた。
特にこの夕柳……幽柳には彼が最も好み、かつ実力を発揮できるほどのエネルギーがある為、拠点として永く住み着き、この日本だけでなく、世界をジャシーン中心の暗黒世界へと変えようと目論んでいた。
だが一つ誤算があった。阿倍野神社の存在だ。
これまでもジャシーンを討とうと数多くの陰陽師たちが戦いを挑んできたが、彼の生み出す悪霊ヘルガイストの敵ではなかった。
赤子の手をひねるように、各地の陰陽師を返り討ちに合わせてきたのだ。
無敵。その慢心から阿倍野神社も簡単に捻り潰すことができると考えていた。しかしある時、いざ夕柳へ侵攻を開始した時、晴明の祖父、晴臣の操るDタイザンが彼の前に姿を現し、生み出したヘルガイストをいとも容易く倒してしまった。
これには流石に驚愕した。
その後次々と強力なヘルガイストを生み出すものの、Dタイザンと晴臣の前では塵に等しく、結果ジャシーンは小さな町一つ満足に征服することもままならなくなってしまった。
なぜこんなにも簡単なことに手間取るのかを無敵を誇る彼には理解し難かった。
だが、そこから彼は学び始めた。人間の持つ秘めた底力についてを。
自分自身だけでは勝てぬ秘訣があることを。
だから人間の弱さのみならず強さにも対処出来るよう、親子三世代、孫の代晴明と戦う頃には、人を知る為の人間、榎戸水鏡に協力を仰ぎはじめた。
人が何を考え、行動するのか。どんな時に結束し、困難に立ち向かうのか。これまでの戦いのデータを元に試行錯誤を凝らしてきた。
結果として彼自身にも膨大なエネルギーが蓄積されることとなった。
晴臣と戦っていた頃とは比較にならない程のヘルガイストを生み出し、戦わせる力が……。
☆☆☆☆☆
ジャシーンの分身は地下のさらに深部に向かう。その先にはさらに大きくひらけた洞窟があり、その中央にはズンと大きく立派な社が、周囲の篝火に薄く照らされながら静かにたたずんでいる。ゆらめく炎に照らされたその姿は、禍々《まがまが》しくも神々しくそびえ立ち、いかにもこの世を統べんとする邪神の居城に相応しい風格があった。
何基にも連なる鳥居をくぐり、本殿に入ると、目の前の高台の上に大きな像が座している。晴明たちが先程戦ったものよりも更に一回り大きな、ところどころに金細工をまとわせた甲冑を身につけた骸の像。
⦅いずれ阿倍野晴明はここを探し当てるはず。そうなれば否が応でも死守せねばなるまい。ならば我自らが奴と相見え、Dタイザンと決着をつけねばならぬ……⦆
分身はその身を像に近づけると、脚に手を触れる。するとズズズ……と腕が骸に沈み込むようにして入っていき、やがて完全に融合する。
分身を取り込んだ骸は漆黒だった眼を紫色に怪しく光らせ、ギシギシと音を立てながらゆっくりと立ち上がる。
これまた金がちりばめられた鞘から刀をスラリと抜き取り、一歩、また一歩と階段を降り、本殿から外に出る。柄を両手の指をカラリと絡ませるように握り、中段の構えをとる。
そして、タイミングを同じく、Dビークルが社の前に姿を現した。
「うわ、なんだここ!?」
「広い……! あ、にーちゃん。アレを見て!」
カケルの指差す方向。その圧倒的な存在に2人は唖然とする。先ほど晴明が予想していた敵の重要拠点であることには間違いないだろうが、その大きさは想像をはるかに上回っていた。
上から下へスーッと視線を移し、その際足元に何かがある事に気づく。薄暗さのせいでハッキリと分からなかったためにじっと目を凝らすと、篝火が反射してギラリと光る刀身とそれを握る鎧武者のヘルガイストがこちらに対峙していることがわかった。晴明は少し興奮気味に、乾いた唇を舐めて湿らせる。
「ここの大将のお出ましってとこだな。広さは……うん、充分だ。ディフォーム、Dタイザン! そして食らえ!」
ビークルはまるで、これまで我慢していた狭さから解き放たれるようにロボット形態へと変形し、流れるように全門を開いて相手に隙を作らぬように一斉射撃する。
放出されたミサイルやバルカンの弾はまさにヘルガイストへ向けて一直線に飛ぶ。
ダンダダダダダッ!
その全てが炸裂した瞬間、上がった爆煙を目眩しにDタイザンは突進する。向こうとの距離を詰めたと確信し、ファルクスを手にして、思い切り振りかぶる……が、抵抗はあるが手応えは全くと言っていいほどなかった。
勢いよく叩きつけたはずのファルクスの切先は、向こうの刀によって華麗に止められていたのだ。それどころか、煙が晴れた時ヘルガイストのみならず、社まで完全に無傷である。
「な、なんで? 全弾命中したはずじゃん!」
「結界だ……モノ自体はDタイザンと全く同じだが、決定的にそのポテンシャルが違いすぎる!」
ギリギリと鍔迫り合いをするが、Dタイザンがパワー負けして押し返されてしまう。
⦅ふふ……初撃で相手が動き出す前に視界を封じて攻めに回ろうとは、阿倍野晴明め。なかなか戦い慣れしている。いや、我がそうさせている、の間違いかな? だが!⦆
ジャシーンはさらに力を加えて刀でDタイザンを抑えつける。仰け反ったマシンは関節駆動部が逆折り状態になり、悲鳴を上げるように火花を発する。
「コイツ、華奢な見た目の割になんてパワーだ! 一旦、引き剥がすしかない!」
ゼロ距離でのトゥートップ・バルカンは多少効き目があるようで、Dタイザンが一定の距離を保ち、態勢を整えるのには充分であった。だが、分身とはいえジャシーンの宿るヘルガイストは一分の油断もならない程、厚いオーラを纏っているようにも思えた。
ジリジリと睨み合う両者の間に刃を交わす以上の戦いがあった。その沈黙を切ったのは意外にもジャシーンの方であった。彼は晴明の隙を視たのだ。
⦅動けぬのならこちらから参るぞ!⦆
刀を振りかぶり、地面を思い切り蹴り上げてDタイザンに迫る。
⦅最期だ、Dタイザン!⦆
晴明はとっさにファルクスを上方に構えるが……。
嗤った。
目の前のモニタ越しに映る骸骨が嗤ったのだ。
その瞬間、真っ直ぐ向かってきていたはずの刀の先がゆらりと弧を描き、ファルクスを回避すると、Dタイザンの左の脇腹をめがけて切り掛かる。その動きは素早いモノだったが、晴明にはスローモーションのように見えていた。
「バカな!」
晴明から発せられた絶叫は特別何かの意味を為すものではなかった。ただ漏れただけの声だった。カケルも観念して体を縮める。
ギャキィィィン!!
⦅やったか!?⦆
ジャシーンには確信があった。鎌を握る左腕を挙げてはその両脇は完全に無防備だ。いくらDタイザンの装甲が厚いとはいえ、この太刀筋では敵わないと。
だが、それが慢心だと気づくまでそう時間は要さなかった。
Dタイザンが右手に持ったチェーン・シャクジョウがギリギリのところで骸の刀を受け止めている。バキッと音を立てながらシャクジョウは真っ二つになり、上半分が地面に落ちる。
状況を理解できないでいるジャシーンは首元左に迫る刃の存在に気づくのが遅れた。
Dタイザンが薙ぎ払うようにファルクスを横一線に振り、メキメキメキ……と首の骨を割り砕く。
⦅ぬかった……ッ!⦆
ジャシーンが焦りを見せた時にはすでに遅く、頭蓋骨は完全に胴体と分離してしまい、回転しながら地面に叩きつけられると、砕け散る。
「テメェが嗤った瞬間に理解した! 不意を突こうってのがな! 覚悟しろよ、ペンタグラムホールドォッ!!」
⦅ぐぁぁぁっ、阿倍野晴明めぇ! ただでは済まさんぞ……ッ!⦆
Dタイザンの胸から放射された五芒星のレーザーは首なしヘルガイストをガッシリ固定する。アミュレットを取り出して、必殺の技を食らわせようとしたその時、敵は最後の力を振り絞ってレーザーを破壊する。
「ペンタグラムホールドが破られた!?」
「そんな!」
首なしは刀を捨て、両手を広げながら走り出し、Dタイザンに飛びかかる。避ける間もなく、晴明は蹴り上げようとするが、あげた右脚にヘルガイストが組み付く。
そのまま後ろへDタイザンが倒れ込むと、コクピット内にアラームが鳴り響く。モニタをサーモビューに切り替えると、ヘルガイストの内部から高熱源体を感知した。
「まさか、自爆か!?」
⦅ククク、これまでか……。阿倍野晴明、このヘルガイスト諸共地獄へ道連れにしようぞ⦆
ジャシーンの分身は役割を終えたかの如く、ヘルガイストから出て行き、地上の本体の元へと戻っていく。
晴明はどうにか振り解こうと抵抗するも虚しく、ヘルガイストが離れることはない。温度がますます上昇していくことに焦りを覚える。
「クッソ、この距離ならバリアを張っても無駄だ……。一か八か、やるしかないのか!」
そう言ってキーボードでコマンドを入力し、足元からせり上がってきた保護カバー付きのスイッチを叩きつけるように押す。
「右脚のパージだ!」
バシュウッ!
ヘルガイストに絡まれた右脚を太腿の付け根から切り離す。ゴトン、と転がる右脚は数秒も立たぬうちにジェット噴射し、ヘルガイストごと宙に舞う。Dタイザン本体も急いでバーニアを吹かして、もと来た洞穴に滑り込む。
穴の向こうがカッと閃光した瞬間、爆音と爆風がコクピット内の晴明たちを思い切り揺さぶる。
☆☆☆☆☆
少しの間気を失っていたが、頭を抑えながら起き上がる。辺りを見回すと最初にビークルは地下都市の所にまで飛ばされていることがわかった。
「っ痛ぇ……、邦作さんに叱られるかな……」
「まさか脚ごと切り離すなんて。随分と派手な事やったもんね……」
犠牲となった右脚を眺めつつ、二人は安堵のため息をつく。
気づけば地下都市は先ほどまでとは打って変わって、驚くほど漆黒の世界へと変わっていた。おそらく、先ほど戦ったヘルガイストの霊力で明るさを保っていたのだろう。だがそれ以上に驚きなのは、あれほどの大爆発を起こしたにも関わらず、Dビークルで潰した家屋以外、いやそれどころかこの洞窟さえも無事なのだ。
「おそらくこの地下全体に結界が張られているんだな……。という事は、あの社も無事ってわけだ……」
「せっかく敵の本拠地? をぶっ潰すチャンスだったのにね」
ガッカリするカケルの頭を晴明はワシャワシャと撫でる。
「いや、そうでも無い。ヘルガイストの親玉の根城に少しでも近づいたって見方もできるさ。よっしゃ、こんな辛気臭いところに居ても仕方ないから、地上に戻るとするか!」
「うん、そうだね! 宿題もやらなきゃだし!」
晴明はその発言には触れずペダルを踏んで、Dタイザンの辛うじて残った推力で来た道を戻る。
☆☆☆☆☆
地上へ戻って来てしばらく、晴明は窓際に肘をついて外をぼーっと眺めている。Dタイザンの右脚はスペアパーツがあった為に、予想よりも早く修理ができそうだった。(が、晴臣にも邦作にもコッテリしぼられた)
晴明の後ろにはローテーブルにいっぱいに本やノートを広げたカケルが自由研究の進行に追われている。地底都市の探索という興味深いテーマを失い、他に何か良いものがないか、とうんうん唸っていた彼ではあったが、晴明とともに体験した出来事を元に『町を守る阿倍野神社について』という題目で今は黙々と進めている。
事実、晴明の祖父らによる伝聞や、図書館にも置いてない様な土地柄について記載された資料などが神社には多く残っている為、思ったより進捗は良かった。
麦茶の入ったグラスの氷が溶けて、カランッとこ気味のいい音を鳴らしたとき、カケルは顔を上げて黄昏る晴明に話しかける。
「それにしても、なんだかしんみりしちゃったね……」
「そうだな……。小さいころは地下都市の存在っていえばお宝をめぐる物語! とか、地底人との交流! みたいな夢の詰まったものだったが、真実を解き明かすとなんとも後味の悪い話になっちまったな……」
「うん。だけど世の中の大半、事実なんてえてしてそんなもんなんだろうね」
「……ぷっ。本当に今どきの小学生は淡泊なんだな」
クールなカケルの物言いをきっかけに2人は顔を見合わせると、ツクツクボウシの声に負けないような大声で笑い出し、畳の上に大の字に横になる。
「兄ちゃん、あれ以来ずっと元気なかったから。やっと笑ったね。やっぱりあの社を完全に潰せなかったこと、悔やんでたの?」
「ん? ああ、いやそのこともあるんだが……」
「え? なんて?」
「いや、だからその――。……な?」
急にもごもごと歯切れ悪く口ごもる晴明にカケルは聞き返す。
何やら言いづらそうにしていることだけはわかる。やっとその口をはっきり開いた時、カケルに衝撃が走る。
「お前のねーちゃん、宿題終わったかなって……」
「え゛っ!? にーちゃん、まさか――」
「いやぁ、そのなんだ。色々あったしなぁ。アハ、アハハハ……めぐるによろしく言っておいてくれ! な!」
「あ、あはははは……はぁ……」
この年上の情けない姿を見て、来年からは……いや、これからはキチンと宿題をこなそう。晴明の活躍についてかなり盛り盛りに書いていた部分を消しゴムで消しながら、そう胸に誓うカケルであった。
第16話もお楽しみに!!
次回更新は2026年9月5日(土)17時30分を予定しております。
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