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無敵陰陽士Dタイザン  作者: 岸辺 嗣雄@IKフィルコム
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第13話 ネジ一本の懐古録②

「化物め、どこにいやがる……?」


 Dフライヤーはあっという間に夕柳の隣町に到着する。晴臣《はるおみ》は上空からキャノピー越しに町を見下ろし、何か異変がないかと探っていると、何か巨大なものがずりずりと民家を巻き込みながら引きずった様な跡が窪みとして数キロメートル、いや数十キロメートルは続いている。

 その悲惨な光景から目を滑らせて前を向くと眼前に急に大きな山が飛び込んでくる。


「うわッ!」


 と叫んで、必死に回避する。なぜこんな場所に山が? と思い、じっと見ていると、それがモゾモゾとうごめいていることが分かる。

 その瞬間、その正体に晴臣は気づく。


「ア、アイツが今回の騒動の主犯だったのか……。あの姿、まるでダイダラボッチじゃないか!?」


 晴臣の言う通り、悪霊の様相は本来であれば山や湖を作り、大地をならす、それこそ神に近しい力を持つと言われる妖怪のダイダラボッチである。しかしそのような存在がなぜ人里に現れ悪事を働くのか。甚だしく不可解に感じる部分であった。

 だが現在進行で町々を破壊している状況には違いない。


「しかし、Dタイザン初出撃で倒すにはもってこいの相手じゃねぇか」


 強がりを言いながらタラリと頬を伝う汗は武者震いからくるものだ。

 ペダルを踏みこみ、Dフライヤーはグンっとスピードを上げて、妖怪に突っ込んでいく。

 近づいてわかるその大きさ。相対的に自機が小さく感じ、まるで人の周りを飛ぶコバエになった様な気分だ。

 妖怪はDフライヤーの存在に気づき、かつ鬱陶しく感じたのか、人が虫を払うかの様に自らの手を伸ばして思いっきり振りかぶる。

 ブウンッ!

 まるで風力発電に使用する風車の如く、遠目では一見ゆっくりに感じる腕の動きも、これほどの近づきもすれば先端の速度は新幹線の速度をも超える。

 そのため辛うじて避けるDフライヤーではあったが、同時に襲いくる風圧が機体を、そして晴臣の脳みそを大きく揺らす。

 その一瞬の揺れが晴臣に脳震とうを起こさせる。

 フッ、と意識が途絶え操縦桿を掴んでいた手が緩むとDフライヤーは失速し、市街地へなだらかに降下していく。

 けたたましく対地接近警報装置が鳴り響き、そのブザ音で目を覚ます。

 瞬間的な失神ではあったが、地面まで100メートルもないところまで来ており、慌てて操縦桿を引くと、あわや大惨事といった手前で急上昇する。


「っぶねぇ~……。俺が悪霊になっちまうところだった……。お返しだ、ランバス・ミサイル!」


 脂汗をぬぐった晴臣はマシンをクイックターンさせ、町に被害を及ぼさぬ様、下方からダイダラボッチの頭部を照準に捉え、ミサイルを放つ。

 牽制的なものではあったが、何発かは命中し、外れた数発も上空で四散。その爆風が相手の体表を爆発で削り取った。すなわちDタイザンの攻撃は悪霊相手に有効であると言う証明だ。

 晴臣自身が持つ対悪霊用の力がDタイザンのあらゆる武装に付与され、相手にダメージを与えられる。化け物相手にマシンの攻撃が通じることが分かったことは収穫であった。


「いつまでもこんなところで破壊活動はさせねぇぞ……。Dタイザン、ディフォーム! からの、ショルダ・ブラスタァァァ!!」


 まさかの反撃が来るとは予想しておらず、虚を突かれたダイダラボッチはその動きを止める。その隙をついて、掛け声とともに空中でロボ形態のDタイザンにマシンは姿を変えて肩部のキャノンを見舞う。だが一方的にやられっぱなしのダイダラボッチではない。先ほど同様、再び腕を振るうと、今度は命中してDタイザンを叩きつける。


「がぁッ! 畜生ォ!」

『ギュルォォォォォォ!!』


 双方が互いの攻撃を受け、地面に伏せる。だが今度は気を失うことなく、晴臣は即座に体勢を立て直す。

 立ち上がったDタイザンは初めて化け物と対峙する形となるわけだが、改めて敵の大きさに圧倒される。


「つつ……、やってくれたな……。しかし、いくらDタイザンもでかいとはいえ、相手も相当な大きさだな……」


 30メートルほどはあるDタイザンの2倍、3倍では済まない大きさに、どちらかと言うと相手の方が大山《たいざん》だな、などとくだらないことを考えて晴臣は苦笑する。

 一方で大柄なダイダラボッチは次の動きまでに時間がかかった。そこに晴臣はつけ込む。初戦闘にしては、晴臣にはDタイザンの操縦桿がものすごくなじんでいた。


「これだけで終わると思うなよ! ランバス・ミサイル連続攻撃だ!」


 腰部のポッドから発射された無数の小型ミサイルが化物の体を狙って、次々と爆発する。ダメージを与えることのほかに目くらましの役割も担うミサイル攻撃はさらにダイダラボッチの動きを鈍らせる。

 が、相手もバカではないようで次第にDタイザンの攻撃パターンを読み、ミサイル攻撃を払いのける。そのうち大した相手ではないと見切ったのか、晴臣を無視して再び町を破壊すべく前進を再開する。

 せめて足止めを、とダイダラボッチの前に立ちふさがり動きを止めようとするが、そのたびに鞭のように振るわれる腕で機体が弾かれる。Dタイザンの最大出力をあげれば止め得られない筈はないのだが、押し返す際に噴射するバーニアの火が後方の住宅へ危害を加えてしまう。

 それは、町を傷つないと言う条件を負いながらも、かつ決定打に欠ける現在のDタイザンには絶対的に不利な状況である。

 先程から相手の攻撃を全て受けているのに、こちらの攻撃が通らなくなってきていることに焦りと苛立ちを覚える。


「んの野郎……。せめて、せめて動きさえ止められれば……」


 晴臣の操縦桿を握る手がジワリと汗で滲む。現状では格闘戦にもつれ込まさせたくともあの長い腕に対応できるほどの武器を備えてはいなかった。


(長物でも頼んでおくんだったな……)


 そう考えている間にギシ……ギシ……と、Dタイザンの関節がついに悲鳴を上げ、駆動系もオーバーヒートしだして煙をあげる。

 晴臣も(限界だ!)と、力を籠めるために止めていた息をブハッ、と吐きだした瞬間、よろけたDタイザンをダイダラボッチはその長い腕に絡め取り、機体をキリキリと締め上げる。

 コクピット内がスパークし、晴臣は頬に火傷を負った。

 なんとか振り解こうとするが、もがけばもがくほど絡められた腕が深く入って行き、操縦桿はロックがかかったかのように硬く、動かなくなる。


「こいつめェ!」


 せめて動かせる足をバタつかせて、つま先のバルカン砲を敵の懐に向けて撃つが、全くと言っていいほど歯が立たない。

 もうダメだ……。あきらめかけたその時、コクピット内スピーカーからザザザ……、とノイズ音が聞こえたかと思うと、邦作の声が響く。


『やっと繋がった、晴臣! 大丈夫か!?』


 先ほどから声がしないと思っていたら悪霊のせいか、Dタイザンに異常が起きていたのかは分からないが、どうやら回線不良を起こしていたらしく邦作の声が晴臣に届いていなかった。


「ほ、邦作か……。正直ピンチだ、今のDタイザンじゃこいつは抑えられねぇ……」


 現在に至る状況を説明し、身動きが取れないでいることを告げると邦作は力強く答える。


『大丈夫じゃ! 今、Dタイザンに出来立てのシステムを転送した! 相手の動きをわずかな時間固定させよる技、その名も「ペンタグラムホールド」を!』

「ペンタグラムホールド……?」

『そうじゃ、コイツを使えば形勢逆転。最後に必殺のエクスペル・バーンを浴びせてやれェ!』


 晴臣が小型のモニタを確認すると、簡易的なDタイザンの全身像が映し出され、その胸の部分を示した先にペンタグラムホールドの文字が表示されている。行ける、そう確信した晴臣は力を振り絞り「ペンタグラムホールド!」と技を発動させる。

 Dタイザンの胸元に描かれた星をなぞるように光の線が五芒星を刻むと、レーザーとなって撃ち出される。

 刹那、先ほどまで破壊の限りを尽くしていた悪霊の動きがピタッと止まり、Dタイザンの機体は解放される。


『やれ、晴臣! せいぜいとどめられる時間は1分もない!』

「了解だ、タイザン・アミュレット!」


 事前のレクチャー通り、Dタイザンの腹部から引き出された巨大な札を右手の人差し指と中指の2本で挟み、だいだらぼっちへ突き付けるように前に掲げる。晴臣は目を瞑って念を込めるようにして詠唱を行い、唱え終えるとパッと開眼して喉が千切れるくらいに叫ぶ。


「ドーマンセーマン、現世の恨みごと此《こ》の悪霊を燃やし尽くしてしまえ! 必殺、エクスペル・バーン!」


 アミュレットからまっすぐ火炎が放たれて、あの山のように大きかった悪霊の姿をあっという間に包み込む。ホールドの有効時間が切れたのか、『……ギィィィアァァァ!!』と悲痛な絶叫をあげだした。が、その声もだんだんと小さくなっていき、やがて炎とともに完全に消え去る。


『やったようじゃな……、お疲れさん』

「お、おう……」


 シートに深く腰を掛け、もはや今の晴臣には興奮と疲れの混じった自らの呼吸音以外はまるで聞こえなかった。



 ☆☆☆☆☆



 落ち着きを取り戻し、現場を後にしようとするDタイザンと晴臣だったが、彼の背中を先ほどの化け物から感じた以上の吐き気とめまいが起こってしまいそうなほどの禍々《まがまが》しい気配が襲い掛かる。


 ――な、なんだこの殺気は……ッ!?


 振り返ったその先には赤黒い煙がやがて嵐雲のように大きく渦を巻き、なにか形作られて行く。晴臣は突然のことにたたただ固まってみることしかできないでいた。

 その渦はやがて、吊り上がった両目、今にも裂けてしまいそうな口、頭部には尖った角のようなものまでとまるで悪魔のような姿となってDタイザンの前に立ちはだかる。

 そしてゆっくり息を吐いたかと思うと口を動かし、何やら話始める。


『作戦も次の段階へ移っていたというのにな……。誰だ……? 我が傑作の「ヘルガイスト」をいとも簡単に消し去ってしまったのは……』


 そういうと、悪魔はゆらりとあたりを見回し、自分の胸元にいる小さな存在(Dタイザン)に気が付く。


『貴様か……、我が愛しの子を葬《ほうむ》ったのは……』


 その視線にゾクッとする晴臣。一瞬戦いの姿勢を取るが、体力的にも機体のスペック的にも到底敵うとは思えなかった。だが逃げるような選択肢はない。そうしなければ自分だけではなく、この世界そのものが破滅を迎えそうな予感がしたからだ。その様子を見た悪魔はただでさえ避けそうな口角をさらに上げてにやりとほくそ笑む。


『そんなボロボロの姿でこの我に戦いを挑もうというのか……。面白い、気に入った。貴様、名を名乗れ……』

「お、俺の名前は阿倍野晴臣……! こいつは俺の相棒、Dタイザンだ! 貴様のような悪霊を討つべく戦いを始めた!」

『阿倍野、とDタイザンか……。ククク、覚えておこう』


 晴臣の生真面目さを痛く気に入った悪魔は実に愉快そうに笑って見せる。

 そうして自身もその例に答えんと、名乗りを上げる。


『我が名は「《《ジャシーン》》」。貴様ら人間どもが悪霊と銘打つ存在、「ヘルガイスト」の生みの親にして――』


 一言一言の重みに晴臣は一滴の汗を流す。ジャシーンは一呼吸置くと先ほどとは打って変わってシンと冷たく低い声で、


『この世とあの世を統べ、司《つかさど》る神となる存在だ……』


 それだけ述べるとまた愉快そうな声色に戻り、


『また戦えることを楽しみにしているぞDタイザン、そして阿倍野晴臣……』


 再び渦を巻くようにして消え去って行った。

 青い空の下Dタイザンは最後まで、相手が見逃してくれるまで動くことができないでいた……。



 ☆☆☆☆☆



 戦いのあと、晴臣はDタイザンの戦いの事や悪霊《ヘルガイスト》の事、そしてジャシーンの事を邦作に話した。

 存在が敵の親玉に知られたからにはおそらく一筋縄では行かないだろう。おそらく今回のりもよほど強力なヘルガイストを繰り出してくるに違いない。

 となると問題はDタイザンである。

 今回は初の戦闘だっただけにやはり課題点が多く上げられた。そのうえ強大な力を持つ上位存在がいることを知った今、Dタイザンの改良は急務のものとなる。


「まだまだ改良の余地はありそうだな」

「常にDタイザンに乗っているときとは限らんしな。いつどこにいても呼びだせるシステムを付け加えんとな。それに武器の種類も豊富に揃えにゃおえん」

「だったらよ、錫杖型の武器はどうだ? なんか陰陽師っぽくて! こう、チェーンとかで伸びるんだわ!」


 興奮しながらDタイザンの改良案を相談し合っていると、倉庫内の脇の方でカツーンといった中音が響く。

 2人が「えっ?」と振り返ると、視線の先には1本のビスネジがコロコロと転がり、しばらくすると先っぽを起点に円を描いたかと思うとピタリと止まる。

 一瞬の静寂が辺りを包み込み、2人がDタイザンに向かって走り出したのは同時だった。


「「……」」

「どこだ! どこのネジだこれ!」

「わ、分からん! とにかくそれらしいものは全部探さにゃならん!」

「機体をくまなくチェックしろ! 項目を作って数回は洗いなおすんだ!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てながら夕方から翌朝2人がDタイザンの下で疲れ果てて気を失い、泥のように眠るまでありとあらゆる箇所のビスが外れていないかを探したが、遂に該当箇所は見つからないままとなってしまった……。



 ☆☆☆☆☆



「いまだにコレがどこのネジかがわからんのじゃ」

「って事はコイツは何十年とネジが一個抜けたまま戦って来たってことですか……」


 晴明は唖然を通り越してゾッとする。あの時もあの時も、もしかしたらと思い返してはいつDタイザンが分解してもおかしくない場面があったわけだ。

 背中に冷たいものを感じながら自分の磨いたDタイザンを眺めていると、「ただいまぁ〜」と呑気な年寄りの声が聞こえてきた。

 晴臣が帰宅したのだ。


「おう、邦作。お前来とったんか」


 晴明と邦作が並んで座っているのを物珍しそうにみた彼の発言にずっこけそうになる。


「お前が用がある言うて呼んだんじゃろが。ったくいつまで待たせるつもりじゃ、すっかり老け込んだわ。このままポックリ逝ったらどうする」

「バーカ、お前がそんなことで死ぬタマかい。で、用っちゅうのを思い出したわ。ラジオが壊れてしもてな。直してくれ」

「お前はいつもいつも……」

「タダとは言わん。報酬は、そうだな……いい酒《モノ》が手に入ったから、今晩グッといかんか?」

「――ん、壊れる前よりもいい音質に変えてやろう」


 晴明は邦作も大概祖父の友人だよなと笑いながら2人のやりとりを眺める。


「そうじゃ、晴明くん。また整備中にわからんことがあればいつでも言うてくれ。すぐ駆けつけちゃる」

「ありがとうございます」


 晴明が礼をいうと、邦作はニカッと笑って答える。晴臣も一瞬、振り向いて晴明に何か言いたげな顔をしていたが、遂に何も言わずに家の中へ消えていく。

 晴明はなんだ? とも思ったが、さして気にせず掃除道具を片付け始める。



 ☆☆☆☆☆



 ラジオから流れる歌謡曲をアテに二人の老人が話し込む。


「しかし、ここのところのヘルガイストはますます力を強めとるな……。ジャシーンの奴、まさか俺の封印を解いたのか……?」

「さぁな、今のお前さんじゃあジャシーンの気配すら感じ取れんのじゃろう? 晴明君には話しとるんか?」

「一応、奴の存在は晴明には話しているが、ただ確証が取れんし。しかし万が一依代(よりしろ)を得て暴れているとしたら厄介だなと……」


 最悪の事態を想定してか、晴臣の顔は曇る。邦作はグラスの中の酒をグイっと煽り、おかわりを求めるように前につき出して言う。


「任せるしか無かろう。あの子はお前よりよっぽどDタイザンの扱いがうまいと見える。さらに雑に扱わんしな」

「ウルサイわ。そんなこと言うとこれ以上やらんぞ!」


 口を尖らせながら酒瓶を抱く晴臣に邦作は笑って謝る。


「しかし、確かに晴明は俺よりよっぽどDタイザンとの相性、それに機転の利かせ方はあると思う。よしんばジャシーンが復活したとしても、俺にはできなかった奴の完全消滅を果たすことはできるかもしれんな」

「無力な老人は見守るだけじゃて。足手まといになるくらいなら、無責任に若い連中に押し付けよう」

「できるのは助言くらいか……」


 そうポツリとつぶやきながら、双方の空になったグラスに酌を交わす。

第14話もお楽しみに!!

次回更新は2026年8月15日(土)17時30分を予定しております。

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