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無敵陰陽士Dタイザン  作者: 岸辺 嗣雄@IKフィルコム
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第12話 海底二〇〇米(メートル)の約束②

 海水がまるで隆起するかのように盛り上がったとき、一瞬誰もが安心したが、その姿がヘルガイストだと分かった途端にDタイザンがやられてしまったと絶望し、声を失う。

 沖から浜辺へ上陸したヘルガイストはなおもゆっくりと、しかし確実に破壊活動をつづけながら内陸へと進んでいく。もうとっくに周囲には人はいなくなってしまったがしかし、めぐるたちはまだ岩陰に避難し、晴明が戻ってくるのを待っていた。


「晴明のやつ、全然出てこんのう……。かれこれ10分は経っとるぞ」

「まさか、やられたんじゃないでしょうね……?」


 ここがいつ襲われるか分からない。サキは悲痛に声を漏らす。


「先輩! 私たちもそろそろ避難しないとまずいんじゃないんです?」

「……それもそうだけど! もーッ、晴明はいったいどこで道草食ってんのよ!」

「海の中じゃから、海藻をくっとるんじゃろな……」

「……ッ! バカ、ばんちょーのアホ!」


 モヤモヤした気分に水を差すようにくだらない冗談で返す康作の背中をポコッと叩きながら、めぐるはDタイザンが沈んだであろう場所、ヘルガイストが急上昇であがってきた沖の方を睨みつける。

 こんなところでやられるはずがない、と思いながらも半分Dタイザンは二度と上がってこないのではないかという不安が、ジワリと彼女の目尻を濡らす。


「晴明……」


 ☆☆☆☆☆



 ——きろ


 ——ぉ……きろ


 ——起きろッ!


「ハッ!」


 目を覚ました晴明は、いまだぼんやりする頭を振りながら状況を整理する。モニタ越しに映る景色は、一瞬、まるで夜にでもなったのかと思うほどに真っ暗であった。だが、時おりブクブクと下から上へと昇っていく泡が、ここが海の中であるいうことを思い出させる。

 晴明はいつのまにやらDタイザンごとヘルガイストに叩きつけられ、海底に沈んだまま気を失っていた。いつのまにやらDマリナーから変形解除している。自分がどれだけこうしていたのか……、それが何秒か何分か、はたまた何時間かはわからない。ほの暗い海の底では時間の経過も計りようがなかった。


「動けるか、Dタイザン……」


 確認するように各種スイッチ、レバーを引くが、相当ダメージが入っているのか、うんともすんとも言わない。だが意外にも、絶望的な状況に置かれている割に不思議と冷静でいられた。

 別に酸欠で思考が回っていないわけではない。と、言うのも、これだけ手ひどくやられたにもかかわらずコクピットには水一滴ほども浸水していない。改めて大したマシンだと思い知る。


「けど、ずっとこのままってわけにもいかないしな。さ、どうするDタイザン? 海底深くで俺とお前、二人で心中か?」


 などと自嘲気味に笑うと、突如として巨大な揺れに見舞われ、晴明は焦る。地震のような揺れでもない、海底噴火かとも思ったが、たかだか水深200メートルのこんな浅瀬にそんなものがあるとは思えない。まるで誰かが地球を握って揺さぶっているかのような、不規則な揺れ方であった。ヘルガイストの追撃かとも思ったが、その割にやり方が回りくどく思う。

 するとこれまで以上に大きな衝撃が起こり、地面が割れる。とにかくこの揺れが原因で機体にさらなる損傷を与えてしまっては元も子もない。一刻も早くDタイザンが起動することを願いながら手を尽くす。

 無慈悲にもいまだ動かぬDタイザン、ついには亀裂が真下にまで伸び、機体を傾ける。


「ま、まずいッ!」


 とっさの反射で目をつぶる晴明。態勢を低くして衝撃に備えようとする。

 だが思ってもみないことが起きた。先ほどまでDタイザンと晴明を襲っていた揺れが急に止む。いや、厳密にいえば周りはまだ揺れている中、Dタイザンだけが逃れていた。

 おそるおそる目を開けると、Dタイザンの制御ができないままひとりでに動き出す。


「なにが……起こっているんだ? うわっ!」


 全くもって状況が飲み込めないでいると、晴明の目に光が差し込んでくる。まるで白い闇、とでも形容できそうなほどの明るさに思わず顔を覆う。その光の中からDタイザンの何倍もの大きさがありそうなシルエットが姿を現す。それは透き通るような青白いうろこに覆われた蛇のような長い体を持ち、その先には険しくも美しいヒスイの色をした瞳、雄々しさを感じさせる鼻先から伸びる2本のヒゲ、鋭い牙や爪、いかにも神話の中から飛び出してきたかのような荘厳な龍の姿をしていた。


『――起きたか、人間よ』


 言葉が直接脳内に声が流れ込んでくる。いわゆるテレパシーのようなものを使って相手は話しかけてくる。つい先ほど、この声をどこかで聞いた。記憶を掘り起こしていると一致するものがある。先ほど目を覚ます瞬間にも似たような声を聞いた。

 晴明に起きるよう促していた声の主は、今目の前にいる竜によるもので間違いなさそうだ。


「あんたは誰だ?」

『――余の名はイナトセ、この海を守る者。人は余を神と呼ぶ』


 思わずパターンな質問をしてしまう晴明に対して、龍は真面目に答える。このイナトセと名乗る龍はおそらく海の家の店主が言っていた伝説の海神の事だろう。ヘルガイストが現れた時に同時に気を発したのも彼(?)で間違いなさそうだ。

 イナトセは既に険しい表情でありながら、そこからさらに眉間にしわを寄せて晴明に尋ねる。


『人間よ、貴様は何故余の邪魔をする?』

「邪魔だって、俺が?」

『あの異形のように、妙な力を貴様からも感じる。余の眠りを妨げ、海の平穏を乱そうとする彼奴《きゃつ》と同じような力を』


 イナトセが何か勘違いをしていることに気づいた晴明は必死に否定する。


「ま、待ってくれ。俺はあんたの眠りを妨げに来たわけでも、この海を荒らしに来たわけでもない! あんたの言う異形、つまりヘルガイストを倒そうとしているんだ!」

『異形を倒す、とな?』

「そうだ。俺は確かに常人にはない力を持っている。けれどそれはヘルガイストと戦うためのもので、決してあんたと敵対するためにここにいるんじゃない!」

『誠か……。ではその妙な機巧人形もいわゆる”力”か?』


 Dタイザンを指差す龍神。晴明はそれに頷き答える。


「あぁ、こいつは俺の相棒さ。化け物を倒す俺の力だ。……だけど、さっきやられた衝撃で動かなくなっちまった。――ヘルガイストの野郎に一矢報いなきゃ我慢ならねぇ」


 晴明は歯がゆそうに顔をゆがめる。イナトセはそんな彼の心を汲むように神妙な面持ちで、動かなくなったDタイザンをじっと見る。いや、Dタイザンではなく、その目は外からは見えないはずのコクピット越しに晴明を見つめている。

 無論、居心地は悪かったが、晴明は目線を逸らすことはなかった。

 しばらくの沈黙ののち、再び海神は口を開く。


『……よかろう。貴様の真意、しかと視《み》させてもらった。多少知性が足らなさそうなところはあるが、その眼差し、心意気。永らく眠っていた余の眼に曇りがなければ信頼に足る人物と見た』


 そう言うとイナトセは、『力を貸そう』と自らの右手をDタイザンにあてがい、ポゥと白く発光する。

 するとみるみるうちに外装に着いた傷が修復し、パワーダウンしていたマシンにも火が入り計器類が再び点灯する。


『人間……、いや、阿倍野晴明よ。Dタイザンには修復の他に霊力増強の術をかけておいた。この戦い、貴様にその全てを託す。この海原に再びの平穏をもたらすのだ』


 イナトセの言う通りに確かにDタイザンからは普段以上のパワーを感じる。その心意気を無下にするまいと、晴明は奥歯まで見える程笑ってみせると足元のペダルを思い切り踏み抜く。

 大量の気泡を吐き出しながらDタイザンが水面に向けて上昇する様子をイナトセは静かに見守る。



 ☆☆☆☆☆



 ヘルガイストの進撃は海に面する道路、及び鉄道の線路にまで到達していた。足元の自動車をものともせず進み続け、ヘルガイストを目の当たりにした運転手は一様に急ブレーキをかけ、玉突き事故があちらこちらで発生する。

 架線を引きちぎり、それが地面に接するとバチバチとスパークする。電車も通電しなくなり、不運にもヘルガイストの進路上で停車。あと数秒もしないうちに化け物の下敷きになる、という瞬間、フッと化け物が上空に吹き飛ばされる。


「は、ハァ……、間に合った!!」


 肩で息をしながら、操縦桿を強く握る晴明。

 実にすんでの所でDタイザンのショルダブラスターがヘルガイストを直撃し、最悪の事態を回避した。

 攻撃を受け、砂浜へ打ち上げられたヘルガイストは『ぶぉぉぉん!!』と、叫びながらDタイザンへ迫る。すさまじいスピードだが、今度はDタイザンの方がその速度を上回り回避し、すかさず両腰のランバス・ミサイルを波状的に浴びせる。ミサイル攻撃によりバランスを崩したヘルガイストはあおむけに倒れるものの、近付いたDタイザンに複数の足を束ねて蹴りを入れる。

 晴明は衝撃に「ぐッ……」とうなりつつも間合いを取った。砂は足を取られやすいが、その分踏ん張りも効く。

 少しの隙を見せたのを好機ととらえたのかヘルガイストは即座に立ち上がり、その技出しのスピードを活かして大腕を振りかぶる。「二度と同じ手は食うものか!」と、操縦桿をめいいっぱいに手前に引き、ジェットを噴射する。ビュッと伸びてきた触手を間一髪でかわす。


「このままだとまだ周りに被害を出してしまう……。海でやられたケリは海でつけてやるぞ! 喰らえ!」


 ヘルガイストを蹴上げて海へ追いやる。無論、そうなれば相手に有利に働くことは承知の上であったがこちらもDマリナーに変形して海へもぐる。

 海中で待ち構えていたヘルガイストから、またもや無数の銛《もり》攻撃が連続して迫りくる。だが、タイザン・トーピードの弾幕を張り応戦。ついには撃ち尽くしたのか、攻撃は止み、ヘルガイストはDマリナーめがけて突進してくる。

 待ってましたとばかりに晴明はマシンをDタイザンへと変形させ、トゥートップ・バルカンで相手の眼を狙い、視覚を奪う。

 前が見えなくなったヘルガイストは、自らの平衡感覚を失い、思わず海上に飛び出してしまう。Dタイザンも飛び上がり、もだえ苦しむ敵の姿をモニタに抑えた晴明は叫ぶ。


「今だ! チェーン・シャクジョウ!」


 Dタイザンが手を伸ばした先にシャクジョウが現れ、槍投げの構えをとる。

 ヘルガイストの姿を照準のど真ん中に収め、「行けぇぇぇぇぇッ!!」と、渾身の力で投げつける。見事シャクジョウが悪霊を突き刺し、足をバタつかせるものの、追撃のペンタグラム・ホールドで完全に相手の動きを封じてしまった。


「タイザン・アミュレット! 行くぞ、ヘルガイスト! 海底に叩きつけられた分のお返しだ、お前は空へ打ち上げてやる!!」


 手に持ったタイザンアミュレットをビシッと、シャクジョウに刺さりながらもがくヘルガイストの方へ向ける。


「ドーマンセーマン、現世の恨みごとヘルガイストを燃やし尽くしてしまえ! 必殺、エクスペル・バーン!」


 真夏の暑さをさらに熱くさせる程の業火がアミュレットから放たれ、悪霊を巻き込んで一気に空中へ上昇させる。暗雲を突き破って、太陽のまばゆい光が射した時、ドォォォン! と音を立て、ヘルガイストは消滅。爆発の勢いで荒れ気味だった海水浴場の上空にはまるで絵にかいたような入道雲と透き通る青、それに照らされ地上には白い砂浜がキラキラと輝く。

 避難していた人々も歓喜の声をあげながら、Dタイザンが上陸してくる姿を眺める。


「花火大会にゃ、ちょっと時間が早すぎたかな……?」



 ☆☆☆☆☆



「しかし、すっかりワシらはやられたと思いようたわ」


 康作は浮き輪に身体を預けながら晴明に話しかける。

 晴明はそんな言葉にフッと笑って答える。


「そう簡単にやられるかよ……、と言いたいところだが今回はマジでピンチだったな。Dタイザンも壊れちまうし」

「え? でも、ちゃんと動いてたじゃない。むしろ出てきた後の方が動きが洗練されてたというか……。ねぇ?」


 めぐるの言葉にサキも同意し、晴明は大きく頷く。


「そう、沈む前と後じゃDタイザンのパワーに大きな変化があったんだ。この場に残る海神様伝説は本物でさ、――」


 Dタイザンが沈んだときのことを晴明は話し出す。イナトセの存在やその使命、彼の持つ神秘的な力、そして彼とかわした約束の事を。

 話し終えてから晴明は、自分でもその出来事が実は気を失っている間に見た夢だったのではないかとも思う。夢か現《うつつ》か、それを証明する材料は何もない。だがイナトセの言葉だけは彼の耳の奥にはジンと残っていた。


「俺はアンタとの約束を……。この海に、いやこの町に平穏をもたらせる日が来るのかな?」


 そうポツリと漏らした時、晴明の目の前に小さな水泡が5、6個上がり、海面でパッパッととはじけた。

 何でもないようなものだったが、彼にはそれがイナトセからの感謝と激励のメッセージだと感じ取った。

 それに応えるように晴明は口の中で(ありがとよ)と言う。

 もうすぐ正午を迎える。康作は「腹が減った。浜まで競争じゃ!」と、焚きつけ、晴明も「おうよ!」とそれに乗る。

 男2人がバシャバシャと音を立てながら泳ぎ始める。めぐるもサキも苦笑いしながらその後を追って泳いでいく。

 気が付けば、海水浴場には以前のような活気が戻ってきていた。

第13話もお楽しみに!!

次回更新は2026年8月1日(土)17時30分を予定しております。

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