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無敵陰陽士Dタイザン  作者: 岸辺 嗣雄@IKフィルコム
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第12話 海底二〇〇米(メートル)の約束①

「「海だー!!」」


 海パン姿の男たちが抑圧された感情を解き放つかの如く砂を蹴り、大海原へ向けて走り出す。その後ろから見め麗し2人の水着姿の少女たちがついて行く。晴明と康作、めぐる、そしてサキの4人は海水浴場へと来ていた。

 夏真っ盛りの最中、海で泳ぐにはもってこいの日和だった。


「はしゃぎすぎでしょアンタら。それと何か言うことないの?」

「「めぐる様! 今日というこの日のためにつきっきりで我々に勉強をお教えいただき、誠にありがとうございました!」」


 晴明、康作両名の声がハモる。2人の「水着がお似合いですよ!」や「今日のめぐるちゃんは一段とキラキラ輝く太陽よりも眩しいのぉ!」といったあからさまなヨイショにめぐるは肩をガクッと落としながら「調子がいいんだから……」と苦笑する。そんな彼らのやり取りを微笑ましく思ったサキは「クスッ」と笑う。

 つい先日、夕柳高校では期末試験があったのだが、これを乗り越えなければ夏休み中は楽しい楽しい(地獄の)補習期間が待っていた。無論、赤点を取れば強制参加。夏休みなど、あってないようなものである。

 案の定、晴明と康作は成績が芳《かんば》しくなかった。そのため1年生の時は2人とも夏季休暇返上での補習を受ける羽目になり、その後すぐ部活動の練習が本格化したため、満足に遊びに行くことなく夏休みが終わった。

 よって、今年こそは去年の二の舞にならぬよう、事前にめぐるに頼み込んで徹底的にテスト勉強をしてきた。その甲斐あってか、今回の2人は赤点回避どころかボーダーラインを少し上回るほどにはよい成績をとることができ、そこに関しては自ら指導した身としてめぐるも胸を張る。こうして夏を味わうに至るというわけだ。

 早速夏を満喫しようとした時、サキが何かに気付く。


「それにしてもこの海水浴場、妙に閑散としてますね。例年こうなんでしょうか?」

「言われてみれば確かに……。もう海開きしてるはずだよな」


 サキに言われて全員あたりを見回す。天気は快晴も快晴、気温も真夏日とこれだけ天候に恵まれているにもかかわらず、プライベートビーチかと疑う程、人気が全くないと言っても過言でないくらいにガランとした状態である。もしや遊泳禁止になっているのでは? とも勘ぐってみるものの、所々にポツンポツンと建てられている海の家は経営しているようなのでそれも考えられない。

 何やら様子がおかしいことに気づいた4人は近くの海の家に向かい、話を聞く事にした。店に入ると奥の方から健康そうな小麦色の肌をした白髪の店主らしき中年男性が無愛想に「……らっしゃい」、と挨拶する。

 どうも見た目と場所には到底似つかわしくない暗い表情である。


「あ、あの今日って別に海水浴場が閉まってるってわけじゃないっすよね?」


 晴明が恐る恐る質問すると、やはりぶっきらぼうな返事が返ってくる。


「見りゃ分かるだろう、やってるよ。今日はあんたらで3組目の客だがね」


 しまいには灰皿とライターを取り出してタバコをふかし始めた。何があればここまでやさぐれるのだろうか、めぐるが理由を尋ねる。


「今ってシーズン中のはずなのに、なんでこんなにも人がいないんですか?」

「なんだ、ねーちゃんたちはあの話を聞いてやってきた面倒な客じゃないのかい」

「あの話? なんじゃあそりゃ」


 意味深な発言に康作が首をかしげると店主はフゥ~、と煙を吐き、灰皿にタバコをグリグリ押し付けて火を消す。そしてようやく彼らの方に身体を向けて話を始める。


「怪獣騒ぎのせいだよ。コイツのせいで客足がサッパリになっちまった」

「怪獣……? ってのはどんなのなんだ」


 どうも頭の中には突然変異を果たした火を吐く恐竜のような姿が頭の中によぎるがそうではないらしく、店主も首を横に振る。聞いた話を思い出すように空中を見つめながら指折り数えながら怪獣たちを列挙する。


「俺もはっきりと見ちゃいないが、人によっちゃ海坊主だとかクラーケン、はたまた人食い巨大サメだとかいろいろと話が変わるんだけどな。とりあえずこの海には今、泳ぎに来た客や釣り人を襲っちまう化け物がいるんだよ」


 店主は「俺は何十年もここに住んでるが、こんなに人が来ないのも初めてだよ……」などと独り言ちながら2本目のタバコに火をつけ始めた。怪獣うんぬんの話を差し引いても、お客が少なくなればここまで腐るのも無理はない。晴明たちはそう思って彼に同情する。


「昔は海神様がいて、ここいらの海の平和を守ってくれているって伝説があったはずなんだがなぁ。どうもしらけた世の中になっちまったよ……。で、何か注文するの」


 急に振られた4人は慌ててそれぞれかき氷を頼み、店を後にする。



 ☆☆☆☆☆



 砂浜にパラソルを刺し、レジャーシートを敷いてかき氷を食べる彼らは先ほどの店主の話を思いだしていた。海に現れる怪獣。これまでの事からこの騒ぎについて思い当たる節は十分すぎるほどにある。


「さっきの話ってやっぱりヘルガイストの仕業なんじゃない?」

「やっぱりそう思ったか」


 晴明はかき氷ストローの尻をガシガシと噛みながら海を眺める。波の音だけを聞いていると、何事もない穏やかな海にも思えるが、話を聞く限り奇妙な出来事が起こっているのは事実だそうだ。遊泳者が多かった海開きの日には、それまで晴れ渡っていた天候が急に不自然なほど崩れ、海は大荒れ、泳いでいる人たちも急に足を何かに引っ張られるような感覚を味わったのだという。

 今の時代、そんなことが起こり続ければすぐに情報は広まり、憶測が飛び交う。この海水浴場に誰も近づかなくなるのにそう時間はかからなかった。


「じゃがあのおっさん、この海には海神様がおるとも言うとったの」

「そういえばそうでしたね。地元の漁師さんに伝わる伝説――、とかって……」

「海を汚す人間をその海神様が戒《いまし》めるために怒っているとか。『ええい、人間ども! 海を荒らすでなーい!』的な感じで」


 めぐるの考えに晴明はうーんと考え込む。が、すぐに否定する。


「ない話じゃないが、氏神様がその土地に住んでいる人間を困らせちゃ本末転倒だろ」

「それもそっか……」


 怪獣についての話によってますます辛気臭い顔になっていく彼らだったが、かき氷を食べ終わった康作はおもむろに立ち上がってパラソルの外から一歩踏み出し、太陽の光に照らされながら振り返る。


「ワシらがこんなこといくら話していても無駄じゃ! 海に来たんじゃ、泳がにゃ意味がなかろう!」


 それだけ言うと「青春は待ってはくれん! うぉぉぉぉ!!」と雄たけびをあげながら康作は海に向かって真っすぐ走っていく。その言葉に3人ともハッとなる。たしかに人の数が少なく異様な雰囲気ではあるが、ここが夏の海であることには違いない。遊ばなければもったいないというものである。

 それに人が少ないということも悪いことばかりではない、彼らにとってはほぼ貸し切りのような状態であるのだ。


「アイツの言うとおりだ。何のために赤点回避したのかわからねぇ! 行くぞ2人とも、康作に続けぇ!」

「そうね、せっかく水着を買ったのに一度も泳がないなんてバカバカしいものね!」

「わ、待ってください! 私も行きます!」


 後を追う3人は既に待ち構えていた康作に海水をバシャッとかけられ一気にずぶ濡れになる。最初は多少やけくそ気味ではあったものの、遊んでいくうちに次第に先ほどまでの話など忘れて純粋に楽しみだす。

 補習により来られなかった昨年の分を取り戻すかのように晴明たちはひたすら海を、夏を喰らいつくすのだった。



 ☆☆☆☆☆



 ビーチバレーに沖のブイまで競泳などなど、なんだかんだとしばらく楽しんでいた彼らであったが、いつの間にやら雲が太陽をすっぽりと覆い、あたりが薄暗くなっていた。おまけに風が出てきたからか、波が少しばかり高くなり、海が荒れ始め、冷たい空気が素肌に刺さる。


「あんなにいい天気だったのに!」

「海は天気が変わりやすいからのぉ」

「それ山じゃね?」

「それより、この状況。さっきの海の家の人の言ってた通りになってませんか……?」


 急激な天候の変化。予報が外れたにしてはあまりにも唐突過ぎる変化に加え、晴明は微弱ながらもピリリとヘルガイストの気配を感じ取る。砂浜からではなく、沖の方から伝わるそれは海の家の店主が言っていた怪獣の正体に違いないと確信した。

 だが少しばかりの違和感を覚える。その違和感を拭うように神経を研ぎ澄ませてみると、邪悪な気配を発しているのと同じ場所からヘルガイストと戦い、対抗しようとする力も同時に感じ取ることができた。


(力はそれほど強くはないが、ヘルガイストに対抗できるだけの力を持っている……?)

「――うわぁーッ」

「「「「ッ!!」」」」


 海水浴客の叫び声が聞こえたかと思うと沖の方で海水が隆起するかのごとく盛り上がり、正体不明の化物が姿を現す。話の通りにクラーケンや海坊主のような見た目のそいつは、晴明たちのいるところからの距離を考えると凄まじい大きさをほこる。

 間違いなくそいつこそヘルガイストであった。それを目当てに来た客もいるからか、臆することなくスマホで写真を撮り始める。海の家の店員たちは早々に避難し、ライフセーバーたちはお客たちに必死にその場を離れるように指示するが、写真を撮ることに夢中な連中は聞き入れようとしない。晴明たちは少し離れて様子を伺っていると、怪獣が頭の上から何かを放つ。その軌道を目で追っていると、数秒もしないうちに浜辺へと着弾。大量の砂を巻き上げるほどの爆発を起こす。

 さすがに危険だと理解したのか、撮影していた連中も蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「晴明! このままじゃ……!」

「あぁ、かなりマズい。被害が出る一方だ。召喚《サモン》! Dタイザン!」


 札を掲げて叫ぶ晴明の声にこたえるように、駐車場に止めてあったDビークルは自動制御で砂を巻き上げながら人々を横切り浜を走ってくる。ビークルと並走する晴明は、地面を大きく蹴ってマシンに乗り込むと、スコープ越しに怪獣、いやヘルガイストを覗く。照準を合わせて引き金を引くと、ヘルガイストへ向けてショルダ・ブラスターが火を噴く。一発目はハズレ、二発目も惜しくも避けられる。晴明は苛立ち気味に「クソッ!」と悪態をついて、三発目を発射する。

 ズドン、と言う大きな音を立ててヘルガイストに命中するが、致命傷には至らない。しかしながら化け物はよろめき倒れそうになる。それを好機ととらえて、容赦なくミサイル攻撃を浴びせ続けるDタイザン。

 化け物は、反撃をかけてくるが同時に沖へと逃げだす。


「ヘルガイストが逃げて行きよる」

「逃すかよ!」


 海底に潜り込む敵の姿を追うように、Dタイザンはビークル形態のままザブザブと海の中へ入水する。浅瀬まではしばらく走行していたが、タイヤが海底の砂を巻き込み出したところで水中用へとモードチェンジを行う。


「Dマリナー、ディフォーム!」


 潜水艇となったDタイザンは後部のスクリューによる回転で前進する。投光器の光とソナーを頼りに、暗い海中も何のそのと言わんばかりにヘルガイストの位置を探りさらに深く潜っていく。

 レーダーが何かを捉えたのか、急にアラートを鳴らし始め危険を知らせる。

 ガシャン! と音がしたかと思うとDマリナーの投光器が粉々に砕け散っていた。光源がなくなり、あたりは一気に暗闇に包まれる。

 晴明は周囲を警戒し、次発に備えて操縦桿をめいいっぱい引くと、機体の真横を何かがかすめていく。モニタの彩度をあげて確認すると、それは三叉の銛《もり》のような鋭利な武器であった。

かなりの威力を持つと見た晴明はなんとか回避運動を行うが、無数に迫り来る銛を全て避け切ることはできず、うち1本がDマリナーの下部に突き刺さった。


『アラーム、2系統損傷。アラーム、2系統損傷。チェーン・シャクジョウ、ショルダ・ブラスター使用不可。繰り返す……』

「チィッ! 気密チェック……コクピットへの水漏れはなし、か……。まだいけるな、Dタイザン!」


 Dタイザンのコンピュータは戦闘に支障はないとの結論を出す。銛の刺さった部分から空気が漏れ、ボゴボゴと泡が噴き出ているが幸い致命傷には至っていない。

こちらも反撃を、と晴明はトゥートップ・バルカンを撃ち込みながら、その曳光弾《えいこうだん》で敵を探る。どうやらこの作戦は成功のようで、小さな光にヘルガイストの機影がキラリと反射して、居場所を知らせる。Dマリナーの前をゆらりと影が通り過ぎんとしたところに、魚雷を放つ。


「タイザン・トーピード!」


 魚雷はヘルガイストを猛スピードで追尾する。相手もかなりの速度が出ているようだが、魚雷の速度はそれをさらに上回る。

追いついた魚雷がヘルガイストのボディに触れた瞬間、大きな爆発を起こす。水中でも威力の落ちない魚雷の爆発は凄まじく、後に続く数発も誘爆し、海中は白い泡に包まれた。木っ端みじんに、とまではいかないにしてもかなりのダメージを与えたはずだ。そう確信する晴明であったが視界を遮《さえぎ》る泡が晴れ、敵の姿を確認するもどこにも姿は見当たらない。


「いないッ……!? 奴はどこだ?」


急いでレーダーに反応がないかを調べていると、突如ドンッという衝撃が後ろから伝わる。いつの間にかヘルガイストに背後を取られており、Dマリナーの機体はがっしりと掴まれていた。


(しまった!)


と思う時にはすでに遅く、脱出を試みる前にヘルガイストが思い切りマシンを叩きつける。その衝撃で晴明は気を失い、Dマリナーは沈黙。ヘルガイストは動かなくなった機体を離し、海底へ沈んでいくのを見届けると、ヒレのような足で水をかき、再び海岸へ向かう。

第12話後半もお楽しみに!!


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