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ノルン  作者: 不知火桜
case2 幽霊退治
21/22

幽霊がいるとでも?

 利と秋津は被害者である晴林が入院している病院に着く。

「本当に犯人は幽霊だと思っているのか?」

 秋津は利に目を細めながら問う。

「まさか・・・・だが、もしかしたら・・・・」

「馬鹿なことを言うな。幽霊に手錠でも掛けるつもりか?」

「じゃあ、密室で被害者をボコボコにして誰にも見られないでどうやって逃げることができるか教えてくれ。」

「それは・・・・・」

 そこまで言われた秋津は口ごもる。ミステリー小説ならではの密室は事件の最大の謎である。これには利も皆目見当がついていない。だが、ミステリー小説でも必ず種明かしがある。完全密室での事件はありえない。

「被害者の虚偽であるという可能性は?」

 秋津は考えにひねり出したことを口にする。利も当然、その可能性は考えていたことである。そして一番シンプルな答えでもある。

「その可能性は考えたが、被害の態様から自分でしたようには思えない。それになぜ嘘をつく必要があったのか。まあ、それも含めての聴取だ。」

 利が話しているうちに目的の病室へと着き、利はドアをノックする。

「はーい。」

 返事を聞いた利はドアを横に引く。

「どうも。警視庁の利です。こちらは秋津です。少々、お時間よろしいですか。」

「あ、は、はい」

 晴林は利を見たあと秋津を見て緊張した表情をする。利と秋津は晴林が横になっているベッドの横にある椅子に腰をおろす。晴林は体のあちこちにガーゼやら包帯を巻いており、とても痛々しい。

「今回は災難でしたね。早速ですが、襲われた時の話を聞かせてもらえますか?」

「わかりました。・・・・洗面所で歯磨きをして寝る準備をしようとリビングに戻ったときに廊下の方から物音がしたので覗いたのですが、なにもなくて誰もいなかったのに振り返ったらいきなり後ろから殴られました。抵抗できず、しばらくすると止まっていなくなってました。体が痛くて動けなかったのでスマホのAIに呼び掛けて警察を呼びました。」

 そこまで聞いた秋津は質問をする。

「それで犯人に心当たりは?」

 晴林は秋津から目をそらしたり見たりしながら答える。

「え、えーと。電気を消していたので暗くて分からなかったです。ただ、ぼんやりですが、女性だと思います。」

「駆け付けた警察官に怨霊にやられたと言ったそうですね?幽霊が見えるんですか?」

 利は気になっていたことを聞いた。秋津に睨まれたが、利は秋津をちらりと見て「ふざけてるわけじゃないぞ。」と目で訴える。

「いえ、入居前に事故物件で女性が自殺したと聞いて居たのとたまに物音が聞こえることもあったのでとっさに幽霊だと思いました。」

「そうですか。では犯人には幽霊以外に心当たりはないということですね?」

「まあそうなりますね。でもそんなことはないので多分、私の錯乱かもしれないです。最近、疲れてストレスが溜まっていたので・・・・ご迷惑をおかけしてすみません。もう私は大丈夫ですので。」

 晴林は頭を下げながら捜査はしなくて良いことを伝えたが、利は首を横に振る。

「そういうわけにはいきません。その傷は明らかに何者かによる外傷です。安心してください。犯人は必ず逮捕します。」

 いくつかのやり取りをした利たちは病室を後にする。車を停めている駐車場に向かう道中、秋津は先ほどのことを口にする。

「やはり、なにかあるな。私と目を合わせて話せていなかった。挙動もおかしかった。」

 晴林の挙動はたしかに不自然ではあったが、それは秋津に対してのみだったことに利は気づいていた。

「まあ、美人が来たら緊張するよな。」

 利の言葉に秋津は顔を赤くしながらも睨みつける。

「そ、そうやって茶化しても無駄だぞ。」

「ま、それを差し引いても変だったな。なんですぐに幽霊にやられたと思ったんだ?」

「言っていたじゃないか?事故物件で怪奇現象という幻覚をみて錯乱していたと。錯乱にしろなにか隠しているにしろもっと言い訳があるだろうに。」

「そこだ。嘘ならもっとましなものがある。余程、とっさの事だったかもしれない。幽霊におびえて気が動転して言った可能性もある。だが、警官に怨霊という前に『あいつ』と言ったんだ。ひっかからないか?」

「ん~、よくわからん。」

 幽霊だよ言えばいいものの『あいつ』だと言った。知っているやつに使う言葉でもあるが幽霊をあいつ呼びしただけかもしれない。ただ、利は前者の方であると思った。ピンと来ていない秋津を見て利は哀れむような眼をする。

「そうだな、お前はまだ、ひよっこだもんな。」

「な、なんだと!?」

「さ、戻るぞ。」



 本庁に戻った利はオフィスに入るとすでに山田たちが待っていた。

「なにか収穫はあったか?」

 利の問いに山田が手を挙げる。

「部屋に不審なものはありませんでした。強いて言うならエロ本の趣味が悪いことくらいですね。」

 山田は大学生の趣味が気に食わなかったようだ。横の上条は乾いた笑いをしながら手帳を広げる。

「住民の聞き込みでも不審な人物の目撃はありませんでした。不審なこともなかったようです。あと例の自殺についても調べました。自殺した女性は20代会社員で名前は読川佐代里よみかわ さより。当日の朝から無断欠勤しており、同僚が確認のために自宅を訪れた際にドアに鍵がかかっていなかったらしくて中を覗くと首を吊って死亡している状態で発見。それが半年前の出来事でした。その件は事件性がなく、女性も精神的に不安定であったという話もあり、自殺ということで終わりました。」

 上条の報告を聞いた利は手掛かりが少ないことに頭を抱えながら冗談を口にしてみる。

「やっぱり、犯人は幽霊か・・・・・」

 秋津は今度は睨まなかったが呆れた顔をしていた。

「まだ、それを言うか。幽霊なんていない。」

「なんだ?怖いのか?」

「怖くなどない。ただ、幽霊なんていてもらっては困る。」

 困る?その言葉にひっかかりを感じた利は尋ねる。

「なんで困るんだ?」

「そんな銃弾が通らないやつをどうやって倒せばいいんだ。」

 秋津の斜め上の思考に利はなにも言えなかった。そんな中、山田は秋津に言う。

「勇ましいことを言うんだね。」

「それはそうだろ。軍人は考えることが違う。」

「「え?」」

 利の言葉に山田と上条は驚いて利を見たあと秋津を見る。

「え?軍人だったの?」

 山田の問いに特に隠すことでもなかったので正直に秋津は答える。

「前線を離れてしばらく経つが、一応、帝国軍人ではある。防衛省からの出向という形で警視庁にいる。」

「トキさん知らなかったの?」

 上条は来たばかりではあったが、山田も知らなかったことに驚いていた。

「だってちゃんと話したの最近のことだし。」

「それなのに『凛ちゃん』とか呼んであんなことを言ってたの?」

「あんなこと?」

 秋津は上条が言ったことを聞き逃さなかったが、利はそれを遮る。

「とにかく、今は事件だ。山田と上条はもう一度、防犯カメラを確認しろ。私たちは読川の元勤務先に向かう。」

「なぜ、読川なんだ?」

 秋津は当然に疑問に思う。利はそれに答える。

「なにかとは言えないが、気になることがある。」

 利と秋津は再び出かける準備をする。出る直前、上条が引き留める。

「そういえば、大家さんが水漏れの点検のために業者を呼びたいが、いつまでかかるのか聞かれました。」

「そんなことわかるわけないだろ。大家には私から話しておく。」

 事件の捜査が始まったばかりなのに余計なことをしないで欲しいと利は思った。



 利と秋津は情報にあった読川の勤務先である会社へと来ていた。入ってすぐのエントランスにある受付で用件を伝える。アポなしではあったが、すぐに了承を得た。エレベーターを使って会社のフロアに着くと会議室に案内された。少し待っていると男が入ってきた。

「お待たせしました。課長の新藤です。読川くんのことで話を伺いたいと?」

「警視庁の利です。こちらは秋津です。すでに話されたと思いますが、読川さんが自殺する直前の事をもう一度、伺いたいです。」

「ええ、読川君は半年前から様子が変わった気がして欠勤する一週間前から心ここにあらずのような感じでした。個人面談も実施しましたし、休職も提案したのですが、・・・・・・・私がもっと真摯に対応していればあんなことに——」

 新藤は言葉を詰まらせてしまう。後悔があるのだろう。

「では、やはり自殺だと?」

 利の質問に新藤は困惑した表情する。

「ええ、自殺だと警察が判断したのですよね?」

「そうなんですが、・・・・他の社員の方にお話を伺いたいです。」

 利は読川についてのことを伺いたいと考えていた。ところが、新藤は難色を示す。

「こちらにも業務がありますのでこれ以上は・・・・・」

「お時間はあまりとらせませんので―」

 利が協力を再度、お願いしようとしたところ、隣の秋津が突然立ち上がる。

「すぐに終わらせますので」

 立ち上がった秋津はそのまま、会議室を出ていく。新藤は慌ててそれを呼び止める。

「待ってください!困ります!」

 秋津は無視をしてデスクに座っている社員に話しかけていく。

「読川について何か知っていることはあるか?」

 話しかけられた社員はとても困惑していた。そこに新藤が間に入る。

「なんなのですか!?あなたは!?」

 そうして半ば追い出されるかのように利と秋津は会社を出ていく。

「あの男、なにか隠してる。」

「そんなことよりお前は馬鹿か。」

 利に罵倒された秋津は理由が分からないのか驚いた表情をしつつ、額に青筋を浮かべる。

「馬鹿とはなんだ!? 私は捜査をしただけで―」

「あくまで任意なんだよ。これで二度と話を聞けなくなった。」

 利は大きくため息をつく。もしかしたら、捜査がしづらくなる。その利の予感は的中することになる。


 本庁に再び戻ってすぐに刑事部長に呼び出された二人は、執務室で刑事部長である藤木の前に立たされていた。藤木は明らかに機嫌が悪そうである。

「なんで呼び出されたかわかるわよね?」

 そう言うと藤木は煙草を取り出し、火をつける。

「藤木部長、庁舎内は喫煙室を除いてはすべて禁煙です。」

 勇敢にもそのようなことを述べる秋津だが、無視される。

「あなたたちが行った会社から抗議が届いたわ。加えて総務省からも非公式に苦情が来てる。」

「総務省が?」

 会社からの抗議は分かるが、突然、出てきた総務省に利は疑問を述べる。

「あの会社は総務省が推進する公共ネットワークの構築事業に携わっているの。それより、なにか掴んだの?」

 煙草を灰皿に押し付けた藤木は前のめりなり聞く。利は真っすぐ向いた状態で答える。

「いえ、なにも聞けませんでした。隣にいるこいつのせいです。」

「黙りなさい。部下の責任は上司の責任、ペアの責任は連帯。」

「それだと、その責任は刑事部長になりますが、」

「使い捨ての兵隊の責任をどうして私がとらないといけないのかしら?」

「お言葉ですが、現代において兵を使い捨てるのは本来、推奨されない戦術であり―」

「ここは陸軍じゃないの。警察組織は兵隊を何度でも再利用できるのよ。」

 反論を秋津は述べようとしたが、横暴な刑事部長様のトンデモ理論により黙らされられる。

「とにかく、犯人を見つけるか幽霊を退治するまで死ぬ気で捜査するのよ。」

 それだけが言いたかったのか手で払われる。


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