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ノルン  作者: 不知火桜
case2 幽霊退治
22/22

掘り返したい人 されたくない人

 執務室を出た利と秋津はオフィスに着くまでの間ずっと罵り合っていた。

「そもそも、その突拍子もない性格が問題だと言っているんだ。」

「駆琉は私のことが信用ならんと言いたいのか!?」

「そんなこと言ってないだろ。」

 そんな調子で戻ってきた二人に山田と上条は苦笑いしながら見ていた。

「楽しいおしゃべりはここまでだ。」

 利は無碍な会話をさっさと終わらせ、山田たちの方に向く。

「それで、電話で頼んだ分も含めてなにかわかったか?」

 利は本庁に戻る前に電話で上条に読川の会社を調べるように伝えていた。上条はタブレットを片手に説明を始める。

「読川が勤めていた『システムゲート』社はITを中心に事業を展開しています。最近は総務省関連の事業にも関わっているようです。企業規模も大きく成長していて注目度の高い企業です。こっちは今のところはそれだけですが、」

 話が止まった上条に秋津が腕を組みながら言う。

「ん?なにかあったのか?」

「話は変わるんですが、トキさんがマンションの防犯カメラを確認したところ、不審な人物を見つけたと言うので自分も確認しました。」

 今度は防犯カメラを確認したという山田が説明を引き継ぐ。

「事件発生の三時間前にマンションの方をずっと見ている男を見つけました。保存されている一週間の記録映像から該当する人物の検索をしたところ毎日、朝と夕に来ていることがわかりました。」

 再び上条が説明を続ける。

「それでその男なんですが、自分の知っている人物でした。」

「なんだと?」

 利は驚きの声を出してしまった。明らかに怪しい人物の身元が分かるなら話は早い。

「その人物は何者だったんだ?」

「彼は黒木義明くろき よしあき。高校時代の友人です。とても仲が良かったわけではないのですが、クラスでも明るく人気のある人でした。問題もありませんでした。」

 上条もなぜ、彼がそこにいたのかわからないようだ。

「その人物はどこにいるのかわからないのか?」

 利の質問に上条は首を横に振る。どうやら、そこまで上手く話は進まないらしい。どうしたものかと頭を抱えていたところ、山田が口を開く。

「全部ではないのですが、今ある防犯カメラを確認していますが、手掛かりはありません。もっと、カメラを集める必要があると思います。」

地道にリレー捜査で見つけていくしかないようだ。

「カメラで追っていくか。だが、今日はもう遅い。明日にしよう。」

 時計の針は20時に差し掛かっていた。藤木部長はああ言っていたが、私たちにも休息は必要だ。




 利たち四人は朝からできる限りのカメラ映像を集め、全員で画面とにらめっこをしていた。昼を過ぎたあたりで利はようやく手掛かりを見つけた。

「見つけたぞ。黒木が使っている車がわかった。検索にかけてくれ。」

 上条は車両の手配と照会を連絡する。しばらくすると、発見の報が届く。

「20分前に信濃町駅交差点を青山方面に向かっているのがカメラに捉えられていました。」

「すぐに出るぞ。」

 今なら捕まえることができるかもしれない。利たちはすぐに車に乗り、警視庁を出る。警邏中の警官やパトカーには発見した際は連絡と追跡をし、こちらの合流を待ってもらうようにお願いしている。車を走らせて数分、備え付けてある無線が鳴る。

≪警視101から警ら各班へ、対象車両を六本木にて発見、霞が関方面に移動中。現在、警視104と追跡中≫

 現在、パトカー二台が追跡を行っている。利たちの反対方面から来ている。おそらく、もうすぐ遭遇するだろう。

「いた。反対車線から来ている。」

 助手席に座る秋津が指を指す。利もそれを見つけ、無線を手に取る。

「特支1より警視101、104へ、バンカケ(職務質問)しろ。こちらは反対車線から回る。」

 直後にサイレン音が鳴る。奥からパトカーが二台、対象車両に追いつく。利たちもすぐに反転する。車両は路肩に止まっており、パトカーも後ろに二台、停まっている。利も車をその後ろにつけて降りる。前のほうに向かうと男が警官ともめているようだ。

「こっちは急いでいるんだ。」

 そんな男に利は歩み寄る。

「どうも、すみません。警視庁の利です。ご同行願います。」

 任意同行を求めたが、黒木と思われる人物は予想外の反応を見せる。

「私は金融庁の黒木だ。このことは警視庁に抗議させてもらう。」

 黒木は金融庁の人間だったようでとてもお怒りだ。すると後ろから秋津たちも現れる。

「黒木、悪いが付いてきてくれるか。」

 怪訝そうな顔をした黒木は利の後ろを覗き込むと驚いた表情へと変わる。

「上条か!? なんでこんなところにいるんだ?」

 黒木も上条のことがすぐにわかったようだ。

「上条、これはどういうことだ?説明してくれるんだろうな?」

「黒木、お前を疑いたくないんだが、あのマンションの前にいた理由を聞かせてくれ。」

 上条の言葉に黒木は一瞬止まったが、すぐになんのことかわかったようで声を小さくして言った。

「あんたらはなにか晴林についてわかったのか?」

 やはりこの男はなにかを知っているようで秋津は問いかける。

「晴林になにかあるんだな。」

 黒木はゆっくりと頷くが、周りを見渡して言った。

「場所を移そう。」



 本庁舎のオフィスに黒木を連れて戻った利たちは改めて事情を聴く。黒木は近くにあった椅子に腰をかけ、話を始める。

「俺は金融庁の証券取引等監視委員会の検査官だ。・・・・晴林はインサイダーの疑いがある。」

「インサイダーとは?」

 秋津はあまりその方面には詳しくないようで具体的な説明を求められた黒木は簡単に説明する。

「インサイダー取引は、未公表の会社の情報をもとに株の売り買いをして利益を受けることだ。株で不公平をつくらないために取り締まりの対象になっている。」

「それが晴林に関わっていると?」

 利の質問に黒木は頷く。

「システムゲート社の株を晴林は大量に購入しており、その直後に株が高騰、何倍にも膨らませている。晴林は株が上昇した原因となった総務省ネットワーク事業の情報を知っていたと思われる。」

「なるほど、あの課長、なにか隠していると思っていたが、そういうことなのか。」

 秋津は納得といった顔をしている。ただ、山田と上条はピンと来ていないようだ。利は気になることがいくつかあり質問をする。

「晴林はどうやってその情報を手に入れたんだ?大学生だぞ?」

「まだ、捜査中だ。匿名の内部告発で調べたら晴林が出てきただけだ。捨て駒にされたんだろ。」

 黒木曰く、晴林は実行役で会社に黒幕がいるのだろう。利が考えていると今度は黒木が質問をしてくる。

「そっちは晴林の暴行事件を調べているのは分かったが、犯人はわかったのか?」

「いや、まだだ。ただ、今の話を聞いて自殺した読川とのほんの少しだが、関係性がでてきた。彼女については?」

「時期にしても、怪しいと考えている。彼女は何か知っていたのではないかと思う。」

 黒木も利と同様に読川の関係性を考えていた。

「読川の資料、持ってきてくれ」

 利が呼びかけると山田がデスクに向かい、書類を取って黒木に渡した。

「これだけか?」

 黒木は捜査資料の薄さに驚いている。

「こんなものだ。自殺として処理されているからな。」

 黒木は少ない内容の資料を読み終えると気になった点を述べる。

「遺書はなかったのか?」

「遺書はなかった。もしかして他殺を疑っているのか?」

 利も疑問には思っていたが、遺書の存在を気にするとは思っていなかった。しかし、状況からして他殺を疑う余地がないため利も自殺と考えている。ただ、秋津はそうではないみたいだ。

「私は殺しだと思うぞ。読川はあの課長か晴林だろう。よし、今から二人に話を聞きに行こう。」

「ちょっと待て。あの会社にはもう近づけない。それに晴林に警戒を与えることになる。」

 利に止められた秋津は渋々、席に戻った。

「利警部、お互いに捜査の内容は違うが、なにか掴んだら情報提供をしないか?」

「そうだな。調べるやつは同じだからな。」

 利は特に断る理由がなかったため承諾する。話がひと段落着いたことで黒木は職場に戻るようだ。帰る前に黒木は上条に話しかけていた。

「上条、まさか刑事になっていたんだな。」

「黒木も官僚とは偉くなったんだな。」

「いや、そんな大したものではない。」

 旧友と久しぶりに会って、お互い嬉しそうなのがわかる。

「そういえば、黒木の妹は元気にしているか?高校生だったか?」

「もう大学生だよ。上条もあの彼女はどうしたんだ?」

 黒木の質問に上条は明らかに気まずそうな顔をしてその表情から黒木は察した。

「まさか、別れたのか?」

「高校生の恋愛なんてそんなものだろ。」

「いや、でもあの彼女とは仲が良かったじゃないか?」

「そうなんだが、・・・・それよりも戻らなくていいのか?」

「まずい、今度、詳しく聞かせろよ。」

 時計を見て慌てて出ていく黒木は上条に一言残して出て行った。それと同時にデスクの電話が鳴る。受話器を手にした利は応答する。

『私よ。今すぐ執務室に来なさい。あなた一人だけでいいわ。』

 電話先である藤木は利だけを呼びつけて一方的切った。

「悪いが藤木部長に呼ばれた。行ってくる。」


 刑事部長室に入った利は昨日のように机の前に立っていた。だが、目の前に座る藤木の機嫌は悪そうに見えるが昨日程ではない。進捗を聞かれた利は先ほどの事を説明した。

「それで結局、犯人の目星はついてないわけね。」

「その通りですね。」

 藤木は椅子に深く座り、足を組んで利に向かって言う。

「私はネガティブな返事は聞きたくないのよ。あなたが次、ここに来るとき言うことは『犯人を逮捕しました』よ。いいわね?」

「はい、わかりました。」

 それ以外言うことのできない利は返事をする。ただ、藤木はその返事で心をよくするわけではなく鼻で笑う。

「話は変わるけど、お客さんは使えているの?」

 藤木が呼び出した理由は秋津の事を聞きたかったかららしい。

「あいつは突っ走りがちですが、いい感じに現場をかき乱してくれるので相手方の反応が見ることができます。警察官として育っていないので苦労する点はありますが、逆にその点が良いと考えます。」

 利の評価に満足したのかタバコに火をつける藤木

「そう。私が苦労した甲斐があるってわけね。」

 秋津が正式に警視庁に出向することができたのは藤木が動いた結果ではあるが、藤木と秋津の上司が知り合いであり、頼まれたという理由がある。藤木は警視庁刑事部部長ではあるが、以前は警察庁公安部にいたという経歴を持つ。だからなのか、藤木は霞が関では顔が広い。利はそんな藤木にお願いをする。

「部長、一つお願いしたいことがあります。」

「私に頼み事とは高くつくわよ。」

 藤木は不敵な笑みを浮かべた。


投降頻度しばらく落ちます

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